27歳女性取締役を擁立して増収増益、「なんもしない人募集」で500人の応募獲得――。理念経営会社の戦略人事論に迫る
株式会社イメジン(東京都中野区/代表取締役CEO:松木友範)は「会社のあり方を再定義する」を理念とし、働く場所、就労形態、就労日数、給与額などを社員自身が決められるというユニークな企業だ。自由がある半面、自分の意志や判断で自分の人生を前進させる責任感が求められる。
そして、イメジンの取締役は2020年に経営参画した27歳の女性だ。
多様な社員を包含して成長を続けるイメジン。代表の松木友範氏と、取締役の田宮千香氏に、イメジンが目指す方向性や今後の展望について話を伺った。
「会社のあり方を再定義」。株式会社イメジンとは?
株式会社イメジンは、「B to B」の領域で営業・販促・開発支援を展開する企業。直近3年で成長スピードが加速している同社の理念や制度は、国内のベンチャー企業の中で異彩を放つ。
「会社と人の関わり方を変えることで会社のあり方を再定義する」というビジョンの下、社員のより良い生活やキャリア、そして人生に会社が貢献することを第一に掲げている。
会社は社員に命令をしない。職務内容、勤務場所、勤務時間は、個々の状況に合わせて自分で決める。
多様な社員を包含しながら成長し続ける「会社のあり方」について、代表取締役CEOの松木友範氏と取締役COOの田宮千香氏に話を聞いた。
※同社HPより
「会社との関わり方は自分で決める」イメジンのCEOが語る起業の動機
――まず、代表の松木さんにお話を伺います。イメジンの創業のきっかけについてお聞かせください。
松木友範氏(以下、松木氏):創業の動機は二つあります。私は、大学卒業後に政府系の金融機関に6年間在籍しました。
広島で法人営業を担当していたときに、さまざまな規模の企業の方々と会う機会があり、会社の経営に携わる人たちの想いや情熱に触れることができました。
しかし、外部からは企業の想いが見えにくく、残念に感じていたのです。それならば、「外に伝える」という部分を、ITの仕組みでお手伝いできないかと考えたのが1つのきっかけでした。
もう1つの動機は、多種多様なバックグラウンドを持った人が、遺憾なくその個性や経験をもって活躍できる社会をつくりたいと思ったことです。
というのも、私自身、国内外を転々とするいわゆる転勤族の家庭で育ち、変わり者だったこともあってコミュニティーにうまくなじめず、生きづらさを感じる環境で育ちました。
やがて大学を卒業して、社会に出てふと周りを見渡すと、私と同じく生きづらさを抱えている人がたくさんいます。たとえ「エリート」と呼ばれる集団の中にいても、幸せとは限らないということが見えてきました。
ですから、そうこう考えているうちに、「仕事のあり方、会社のあり方を変えていくことが、真の自分のやりたいことだ」という思いに至りました。そこで「自分で会社を起こせば、楽しく生きていけるんじゃないか」と考え、2年間の留学を経て2015年に起業したのです。
――イメジンでは、就業場所、就業日数・時間、給与まで全て社員からの提示を基に決めていると伺いました。
松木氏:その通りです。働き方や給与は社員が決める。何かあれば会社から要請・要望はするけれど、従うかどうかは本人次第というスタイルを取っています。つまり「会社は命令をしない」というわけです。
――昨今、自社の給与テーブルや個々の社員の給与を社内外に公表している海外企業が見られますが、イメジンでも給与を社内公表されているそうですね。
松木氏:当社の理念として中心に置いているのが「自分のやりたいことや会社との関わり方は自分自身で決める」ということです。
良い判断をするためには、しかるべき情報が必要です。社員がさまざまなことを判断・決心するため、自己決定の権利に基づいて、機密情報以外の必要な情報にアクセスできるようにしています。
給与を社内公開することで、他の社員の給与水準を見てショックを受けることがあるかもしれませんし、人によって満足度には濃淡があるとは思います。
――会社のあり方を深く考えている印象を受けましたが、設立に当たり参考にした組織はありますか?
松木氏:民主的な会社のあり方について思考し、「会社は誰のものなのか」ということをものすごく考えました。創業当時はさまざまな本を読みあさり、近代から現代にいたるまであらゆる組織体、特に政府や行政の組織構造などについて調べました。アメリカやカナダなど、海外の民主体制の確立についてもたくさんの書籍を完読しましたね。
結果、「会社は誰のものなのか」という問いに対し、私自身が出した答えは「ステークホルダー(利害関係者)」でした。ステークホルダーは経営者、従業員、株主、取引先など、さまざまな人によって構成されていますが、特に人生の大部分を仕事にコミットしている従業員こそが、ステークホルダーとして大きな比率を占めていると思っています。
サステナブルな組織について考えたとき、従業員にきちんと還元されるような無理のない仕組みにする必要があると考えました。
「何もしない人を募集」というユニークな人材採用。会社と従業員の豊かな関わり方を実現
――イメジンは採用方法もユニークな方法で展開しています。少し前にビジネスSNSの「Wantedly」で、「イメジンのなんもしない人募集」という採用情報が話題になりました。
松木氏:会社と人との関わり方は雇用、副業だけじゃなくて、ふんわりとした捉え方があってもいいのかなと思っていました。そこでWantedlyでは「なんもしない人募集」と銘打って募集したところ、約500人の応募がありました。
ですが、給与を支払う限りは、社内コミュニケーションツールに入ったり、オンライン会議に参加したりするなどして「何か」をやってもらっています。完全に何もしないわけではありません(笑)。具体的には、「社内のSlack(スラック)に入ってもらう」「Messenger(メッセンジャー)に参加してもらう」という感じで、関わり方のグラデーションをつくっています。
――以前、イメジンの社員が発信されていたnoteの『うつヌケハック』の読者から採用を募っているケースもありました。
松木氏:当社では、一時期うつ病経験のある人が一定数在籍していた時期がありました。「一般企業で働くのが難しい」という人でも、自分を第一に置いた上で会社との関わり方を決められるイメジンなら働ける、という方もいます。能力、スキルは皆それぞれで、「各自、得意なことをやればいい」という具合です。
当社にいたら、その人にとって良いことがあるか、役に立てるか、が採用の1つの軸になっていますね。
理念実現と企業成長を両立するために
――会社運営において、「このサービスでこの覇権を取る」といったゴールを定めている企業が多いと思いますが、イメジンの経営には、強い理念を感じます。
松木氏:理念先行ではありますが、人事系・組織開発系の人には「ウィルベース」と言われます。「ちゃんと会社を大きくする」「社会にインパクトをつくる」を重視していますね。
理念が強いと、会社の規模や成長については、「こぢんまり」とか、「自分たちのペースで」となりがちですが、私はどちらかというと企業としての成長も大切にしたい。目標としては、3~5年後くらいに数十億円の売上を立て、10年、20年くらいのスパンで日本を代表する会社になりたい、という想いがあります。
現在は「コトよりヒト」という考え方を守ったまま、資本主義と折り合いをつけた形で、ちゃんと成果を出している状態を目指します。ビジネス支援を一巡してテーマが見つかったら、文化的なことにも領域を広げていきたいですね。
――お話を伺っていると、人類の歩みの中から会社経営の本質を見いだそうという気概を感じます。
松木氏:大それた話ですけど、本気でやっています。抽象的・哲学的なところと、実学的なところを本気でやっていきたいです。
今の成長ぶりを踏まえれば上場は手の届くところにあると思います。
――ESG、アフターコロナ、働き方改革など、日本の組織にはさまざまな課題がありますが、イメジンの代表として何か目指すところがあれば、教えてください。
松木氏:当社が行っている「自分で決める」ということは、見る人にとっては優しさの要素に見えるし、別の人にとっては厳しいことです。
犯罪や倫理に欠けることを除いては、社内に「これをやってはいけない」ということはありませんし、その逆で「これをやっていればいい」という免罪符もありません。
しかし、「自分の人生を自分で決めている」という実感があれば、人生は着実に変わっていくと思います。
以前、サンフランシスコに留学していたとき、年齢・性別にかかわらず、人が明るいと感じました。そこで暮らす人たちは、仕事は「人生を楽しむため」と捉えていました。翻って東京では、誰もがその明るさを持っているわけではありません。
何が違うのか、と考えたときに、やりたいわけでもない仕事を腑(ふ)に落ちない状態でやっているような、モヤっとした雰囲気が日本には漂っている感じがするのです。
その雰囲気を変えられたら――、というのが当社の目指すところです。
当社では「自分で決める」ことを大切にしていますが、学校教育の現場では「あれをやれ」「これをやれ」「これをやるな」が多く、「あなたは何をやりたいか」を問われて考える機会があまりありません。
私は社会に提言できるような立場ではありませんが、もし提言できるとしたら、こうした教育を変えてほしいという思いもあります。
取締役COOとして田宮氏を登用した背景
――現在は、経営層には松木代表のほかに、取締役の田宮千香さんがいます。異なる業界にいた田宮さんを取締役に登用した経緯について教えてください。
松木氏:いくつか理由があります。
そもそも当社の組織・人事に関する考え方として、会社に関わるスタンスは自由で、理念にコミットするかどうかも自身が決めていきます。
2年前に田宮に会ったとき、本気になって一緒に働いてもらえることが最初の段階で伝わってきました。
当社では「社員憲章」という決まりを制定しており、社員が役員としての仕事を望めば、役員登用トラックに入ります。働き方を自律的に決めていくわけですが、役員になると会社を推進していく役割を担うことになります。
そんな中、田宮には経営層として会社に関わろうとする熱意とコミットメント感があり、彼女がやりたいと思っていたことと、当社がやろうとしていたことと一致していたことが大きかったですね。
異業種からの転職。27歳取締役COOの田宮氏がイメジンに求めるもの
――続いて、取締役を担っている田宮さんに伺います。イメジンの取締役に就任するまでの経緯を教えてください。
田宮千香氏(以下、田宮氏):地方の大学を卒業後、メーカーで物流システムの設計を担い、プロジェクトと現場の両軸を担っていました。
私の家族が小さな会社を営んでいたことから、以前から「経営者になりたい」という漠然した思いがありました。2年半ほど勤めたあとに転職しようか、起業しようかと考えていたときに、大学の先輩が、代表の松木との縁をつないでくれました。
イメジンの理念である「300年理念」の話や、どんな社会をつくっていきたいか、という話を松木とした後、「役員になってみてはどうか」と言われたのが就任のきっかけです。
会社の業態は営業支援という事業でしたが、これまで経験していた職業種とはまったく異なる畑だったので、思い切って飛び込んでみたいと思いました。
――それまで田宮さんが感じていた日本企業の組織づくりの課題は何かありましたか?
田宮氏:戦後を代表する政治学者の故・丸山眞男氏が、国家構造について指摘した「抑圧移譲」という言葉があるのですが、これは上の立場からの押し付け・抑圧・命令は、より下の立場の人へと流れていくということを指しています。
私が社会に出た時にこの言葉を思い出し、時代は違っても共通点があり、結果的に誰もが疲弊していくと感じました。
「隣にいる仲間をもっと幸せにするためには、この『移譲』をどこかで断ち切らなければならない――」。そんなことを考えているときに、代表の松木と出会い、「生きやすい社会をつくるために本気でやっている」という言葉を聞いて、その理念に共鳴しました。
――田宮さんは、組織の中でどんな仕事を担っていますか?
田宮氏:私は、営業面、採用面、サービスデリバリーの統括を担っているほか、「katarite(カタリテ)」<https://katarite.biz/>というサービス紹介サイトの事業を担っています。
直近2年で、当社は売上ベースで2.5倍に増えました。場所も時間も選ばず活躍している社員は約30人と増加しており、事業が拡大しています。
――会社の拡大とともに変化はありましたか?
田宮氏:組織づくりの言葉としてよく聞かれる「30人の壁」という言葉があります。
現在、当社の社員は約30人まで増加しましたが、この規模で完全リモートになるとコミュニケーションの難しさを感じることもあります。
リモートにもメリットは多々ありますが、対面の場合にはあいさつ、雑談を経て深い相談につながることもあるので、人数が増えていくこれからの課題だと思います。
――働く上でどんなところに難しさを感じていますか?
田宮氏:イメジンには「何をしたいか」「どんなことをしたいのか」を自分で決めて、自分で動くというスタンスがあります。昇給を希望したら、自分で具体的な金額を提示して、どんな仕事をするのかを決めて示す。
希望の働き方があれば、自分で就業日数や時間を決める、というのが当社のカルチャーです。自分で決めることができれば、不満を口にする必要がありません。だから、自分で「決心する」ことが大切なのです。
でも、この考え方は、優しいようでいて厳しいんですよ。
「自分で自由に決めていい」「休みも取れる」というのは、一見従業員にとって優しそうに聞こえますが、自分で決められない人にとっては苦痛になることもあります。
こうした理念の解釈を社員全員にわかりやすく伝えていくことの難しさを日々感じています。
――お話を伺っていると、従業員は組織に所属しながらも個人経営者であるような印象を受けます。取締役として、田宮さんが今後目指すところをお聞かせください。
田宮氏:まだまだ小さい会社ですが、上場を目指したいと思います。
いわゆる事業、サービス内容、社員が優秀かどうかなど、既存の評価軸で人を評価しない会社が成長し、社会にインパクトを与えられることを示す存在になりたいです。
ロールモデルになれば真似する会社がでてくるかもしれないし、「自分の働き方を自律的に決める」という風潮が、じんわりと社会に広がっていってほしいと思います。
――大切にしていることは?
田宮氏:イメジンが定義・評価する「実力主義」というものがあります。「実際の能力で仕事の成果を評価する」という意味ではなく、自分の人生で求める目標に対して、「現在の実力はどのくらいか」という考え方です。
例えば、当社の社員には「お金を稼ぎたい」と言う人がいて、「家族とのんびり過ごしたい」「パートとして、小遣いを稼ぎたい」と言う人もいる。
その目標に対して、現在の自分の実力が近ければそこに達成する確度も上がりますから満足度も必然的に上がる。そんな目標に向けて現在の実力を近づけていく人を増やしたいと思っています。
今のメンバーはそうした理念に共鳴する人がいれば、働き方を気に入ってくれた人もいますね。
――田宮さんが考えるイメジンの一番良いところは?
田宮氏:イメジンに来て感じたのは、会社に「デトックス効果がある」ということです。
自由にやってよい、自分で決めてよいと言われていますが、実は私自身がその壁にぶつかったことがあります。仕事を頑張り過ぎて疲れがたまったときに、休むことに不安を感じてしまったんです。完全にワーカホリックの症状です。ですから休暇の取得をなかなか決心できなかったのです。
でも今は「疲れていても働くという思い込み」をデトックス(解毒)することができて、疲れたな、と思ったら、自分で休みを決めて休めるようになりました。
同じように、自由であるがゆえに、個々がぶち当たるものがあると思います。他の人を見ていても「あ、デトックスする直前だな」という様子が垣間見えることがあります。
――「女性活躍」という言葉が聞かれますが、多様な人が活躍するために大切なことは何だと思いますか?
田宮氏:私は地方の大学出身で、メーカーにいましたが、どこにでもやる気がある人材はいると思います。
私の場合、今後のキャリアプランを考えていたときに、松木との縁があってイメジンと巡り合いました。「ここで働いたら楽しいことがありそう」と感じたから、思い切って飛び込みました。
私には運良くそういう機会がありましたが、やる気があっても機会がなく埋もれている人はたくさんいます。そうした人材を埋もれさせないことが企業にとって大切ですし、個人にとっても積極的にご縁を大事にして動くべきだと思います。
【取材後記】
「タテ型社会」という言葉は、日本型の組織を示す言葉としてしばしばネガティブな文脈で使われているが、構成員(従業員)にとっては「安住」というメリットもある。組織から与えられた仕事を情緒で結ばれた内輪の仲間と達成していくことは、「家庭」のような居心地の良さにつながることがあるからだ。一方、そうした組織は変化に弱く、個々の創意工夫の余地が失われる、という側面もある。世界が激しい変化の最中にある今、さまざまな「個」を包含するイメジンのような理念が必要なのかもしれない。
取材・文/鈴政武尊・北川和子、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部
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