採用戦略を立てる5つのフロー|企業事例やフレームワークも解説
d’s JOURNAL編集部
企業が自社にマッチした人材を効率的に採用するために立案する、「採用戦略」。
「採用戦略を立てることにはどのようなメリットがあるのか」「採用戦略を立てる流れを知りたい」と考える人事・採用担当者もいるのではないでしょうか。
この記事では、採用戦略を立てるための5つのフローや便利なフレームワーク、企業事例などをご紹介します。
採用戦略とは
採用戦略とは、企業が自社の求める人材を計画的・効果的に獲得するために立てる戦略のこと。労働人口の減少により採用市場の競争が激化する昨今、求職者の応募を待つのみの受け身の姿勢や場当たり的な施策では、応募者が集まらなかったり、一過性の成果となってしまったりすることも考えられます。
企業が安定して成長を続けるためには、経営資源の一つである「人」を計画的に採用することが重要です。そのためには、将来を見据えた採用計画を立て、具体的な戦略を練る必要があります。
そこで、採用戦略では、会社経営にとって重要な計画である中期経営計画や事業計画を基に、「どのような採用方針の下採用活動を進めるか」という軸を決めていきます。
採用戦略を立てる3つのメリット
採用戦略を立てることで、企業は「採用効率の向上が期待できる」「早期退職やミスマッチを防止できる」「応募が来ない状況を防げる」というメリットを得られます。それぞれについて具体的に見ていきましょう。
採用効率の向上が期待できる
採用戦略を立てればそれに基づいて適切な採用手法を選択できるため、採用効率の向上が期待できます。自社の状況やターゲット層にそぐわない手法を選択して「コストをかけたのに成果が出ない」「採用手法を変更しすぎてコストがかさんだ」となる事態を防げるでしょう。また、効果の検証も行えるため、不要なコストの削減にもつながります。
早期退職やミスマッチを防止できる
早期退職やミスマッチを未然に防げることも、採用戦略を立てるメリットです。戦略を立てる過程では、自社の強みや弱み、自社で活躍できる人材の特徴などを確認できます。
自社に親和性の高い人材を明確に定義することは、マッチング精度の向上につながるため、ミスマッチを防ぎ、早期退職のリスクを減らすことができるでしょう。
応募が来ない状況を防げる
採用戦略を立てた場合、市場の動向や求職者のニーズを踏まえながら、自社の強みを効果的に伝えられるため、応募者の増加が期待できます。
母集団の人数が増えれば、その分、求める人材に出会える可能性も高まるでしょう。また、応募者の母数や目標採用人数をあらかじめ計画しておくことで、最終的な目標に達するまでの細かな調整を行うことも可能です。
採用戦略を立てる5つのフロー
効果的な採用戦略を立てる流れを、5つのフローに分けてご紹介します。
①採用戦略の立案チームを編成する
まずは、採用戦略を立案するチームを編成します。採用戦略は企業全体に関わる課題であるため、採用・人事担当者だけでなく、「会社全体を理解している経営陣」や「各部署の状況を把握している部門の責任者」なども含めて編成しましょう。
なお、採用戦略を効果的に進めるためには、立案チームに十分なリソースがあることが大切です。社内の体制を確認し、必要なリソースが確保できない場合や、より専門的・効果的な採用戦略を立案したい場合には、一部の業務をアウトソーシング化することも視野に入れましょう。
②採用したい人材像を明確にする
続いて、事業計画や各部署の人材状況を考慮して、採用ターゲットやペルソナを設定します。各部署にはどのような人材が必要なのか、採用要件を書き出していきましょう。経歴やスキル、勤務条件、価値観など、人物像を具体的に定義することでターゲット人材の置かれている状況やニーズをイメージしやすくなり、より最適な採用手法やアプローチ方法を選択できるようになります。
また、人物像の解像度を高めることで選考時の確認事項が明確になるため、面接官の主観的な評価によるミスマッチを防止できるでしょう。
採用したい人物像を明確化する際に重要なのは、採用後の人事戦略と連動させることです。現時点だけでなく、今後どのような人材が必要であるかを検討し、自社との親和性の高さや入社後の教育体制を考慮しつつ人物像を定めていきましょう。
(参考:『採用決定力が高い企業は実践している。ターゲット・ペルソナ設定ノウハウ【実践シート付】』)
③採用スケジュールを設定する
採用の流れを具体化することで、効率的な採用活動が実施できます。各部署が募集する職種や採用目標人数を設定し、いつまでに何を行うのか、採用スケジュールを立てましょう。
具体的には「選考のフロー」や「説明会の日程、内容」「面接担当者の決定」「採用決定者のフォロー体制」などを定めていきます。
スケジュールを設定する際には、「選考日程の直前に採用スケジュールを公開しない」「説明会の開催日が競合他社と同日にならないようにする」など、求職者に配慮することが大切です。
④自社の強みを把握する
自社への応募や入社につなげるためには、他社との差別化やブランディングが重要です。自社の強みを把握しておくことで採用戦略に軸ができ、施策に統一性と一貫性が生まれます。
フレームワークを用いながら「求職者のニーズ」や「自社の魅力、課題」「競合他社の強み、弱み」などを分析、把握していきましょう。アピールポイントを明確にして採用活動を行うことで、自社にマッチした人材からの応募が期待できます。
⑤採用手法を設定する
求める人物像と自社のアピールポイントが明確になったら、採用手法を決定しましょう。採用手法には、求人・転職サイトや人材紹介、リファラル採用、ソーシャルリクルーティングなどさまざまな種類があります。
それぞれに特徴があり、採用ターゲットによって有効な手法やチャネルも異なるため、市場のトレンドや競合他社の動向を把握しながら、自社の採用課題や採用計画に適した採用手法を検討することが重要です。
また、各採用手法には一長一短があるため、それぞれのメリット・デメリットを踏まえた上で、複数の手法を組み合わせることをおすすめします。
(参考:『採用手法一覧と各手法を解説|選び方のコツや最新のトレンドも紹介』)
採用戦略に有効なフレームワーク
採用戦略を立てる際、フレームワークを活用することで、自社のアピールポイントを把握することが可能です。代表的な「3C分析」と「SWOT分析」について詳しくご紹介します。
3C分析
3C分析は「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの項目を用いて分析を行うフレームワークです。採用戦略の立案において、「顧客」とは「求職者」や「採用市場」を指します。
求職者のニーズや市場の動きと、競合他社の特徴や強み・弱みを分析した上で、自社の立ち位置や魅力を訴求していきましょう。3C分析をすることで、他社にはないアピールポイントを把握でき、適切な採用手法を選択しやすくなる効果が期待されます。
SWOT分析
SWOT分析とは、「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの観点から自社を深く分析・理解する方法のこと。それぞれの項目を言語化・視覚化することで、伸ばすべき魅力や具体的な強みを把握したり、採用課題や何をすべきかを明確にしたりできるのが特徴です。
また、4項目を掛け合わせて分析することで、より具体的な強み・弱みが理解でき、競合他社に負けない環境を構築できるようになります。例として、「機会」と「弱み」を掛け合わせて「自社の弱みを克服して、機会を掴むための戦略を立てる」、「脅威」と「強み」を掛け合わせて「自社の強みを利用して、脅威を回避する施策を考える」といったことが可能です。
採用戦略を実行する際の注意事項
採用戦略を実施する際には、いくつかの注意点も存在します。留意すべきポイントを見ていきましょう。
採用戦略を社内で共有する
採用戦略は、実際の採用活動を行う人事・採用担当者だけでなく、会社全体で取り組むべき重要な事項です。採用戦略を効果的に進めていくには社内での連携が不可欠であるため、あらかじめ社内全体に共有し、「自社がどのような採用計画を立てているのか」共通認識を持っておく必要があります。
それにより関係部署の協力体制が生まれると、採用戦略をスムーズに実行でき、「必要な人材を採用し最適な人員配置を行う」というゴールを達成しやすくなるでしょう。
実行しつつPDCAを回していく
採用戦略は中長期的に進めていくため、すぐに望んだ成果が出るとは限りません。一方で、計画が予定通りに進んでいるかを確認する必要があるため、運用をしながら定期的に効果検証を行い、改善していくことも重要です。半期や年度ごとに結果を確認し、「得られた成果」や「成果に結びつかなかった事項とその理由」「改善策」などを挙げていきましょう。
なお、採用した社員が早期退職してしまっては成功とは言えません。応募者や採用数だけでなく、入社後の定着率なども含めて把握することが大切です。改善意識を持ちながらPDCAのサイクルを回し、効果的・効率的な採用ノウハウを蓄積させましょう。
採用担当者のスキル向上も重要
優れた戦略を立案しても、実行する担当者がスキル不足の場合には、計画通りの運用ができないことも考えられるでしょう。そのため、採用担当者のスキルを高めたり、戦略を実行できる体制を整えたりする必要があります。
特に重要となるのが、面接です。面接官には、自社の採用要件に合っているかを判断する「見極め」に加え、自社の強みをアピールして動機付けをする「魅力付け」を行うことが求められます。応募者に自社を選んでもらうためにも、面接のスキルアップは欠かせないと言えるでしょう。
また、自身が面接を行わない場合は、面接の担当者に「採用の目的」や「スカウトした理由」「質問事項」「見定めるポイント」などを共有し、認識の統一を図っておくことも大切です。
(参考:『面接官を初めてやる人が知っておきたい質問例7つと面接ノウハウ【面接評価シート付】』)
採用戦略の企業事例
実際にどのような採用戦略を実施しているのか、3つの企業の事例をご紹介します。
キャリア・第二新卒採用への移行|トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では、2019年から採用改革を実行し、キャリア・第二新卒の採用を強化。巨大過ぎる組織ゆえに「トヨタで働くイメージが湧きにくい」という採用課題を解決すべく、従来行っていなかった職場情報の発信を行うとともに、オウンドメディアと連携した採用ブランディングを積極的に実行しています。
キャリアアップのための情報提供サイトや企業カルチャー発信サイトなどを活用して「トヨタの今」を多岐にわたって発信した結果、キャリア採用比率が上昇。また、キャリア・第二新卒採用者が孤独を感じないよう、四半期に1回のペースで研修を実施したり、同期入社で車座イベントを開催したりするなど、採用後のサポートにも注力しています。
(参考:『なぜトヨタは新卒採用一辺倒からキャリア・第二新卒採用に注力したのか。大変革した人事・採用戦略とは』)
ポジション別に採用手法を選択|ソフトバンク株式会社
常時約100ポジションを募集しているソフトバンク株式会社では、「求める人材は転職顕在層/潜在層のどちらに属すのか」「どの部分に時間・コストをかけるのか」を明確にした上で、そのポジションに最適な採用手法を決定しています。
自社採用では、主に「スカウト型採用」「リファラル採用」「採用イベント」を実施。カジュアル面談や自社を紹介する際には、企業理解を深めてもらうことを目的に、「良いことばかりではなく実情を正しく話す」ことに重点を置いています。求める人材を獲得するために「その日のうちに内定を出す1day選考会」を実施するなど、スピード感のある取り組みにも挑戦中です。
また、リクルーターは、手法ごとではなく、組織ごとに担当を決定。同じリクルーターが全ての施策に関わることで、最適な採用手法を選択するための感覚を磨くとともに、求める要件に変更があった場合にも柔軟に対応できるようにしています。
(参考:『事業拡大に必要な人材確保。自社採用に力を入れるソフトバンクの採用戦略』)
組織風土改革による採用強化|アクセンチュア株式会社
アクセンチュア株式会社は、離職率や労働時間の課題への打開策として、2015年より組織風土改革『Project PRIDE』に取り組んでいます。
挨拶・ビジネスマナーの徹底的な見直しや世界中のアクセンチュア社員共通の価値観である「6つのコアバリュー」の浸透に着手した後、ワークスタイルの改革・改善を実施。こうした取り組みを候補者に伝えたことで、アクセンチュアに対する候補者のイメージが改善し、採用力が飛躍的に向上しました。また、コンサルティングに必要なスキルを習得できるよう細かな研修を設定し、採用後に安心して業務に打ち込める環境を整えています。
採用戦略では、データアナリティクスを重視し、採用候補者、面接、各種テスト、広告などの効果とスピードを全て数値化。同時にリクルーティング業務ではKPIを設定し、一定の範囲に収まるよう管理しています。海外にも支社がある同社では、採用業務はそれぞれ専門性を持ったチームで連携して行い、効果の最大化を図っているそうです。
これらの結果、「新卒就職人気企業ランキングで、圏外から総合13位にランクアップ」「実施前と比較し、離職率が半減」などの効果が出ています。
(参考:『アクセンチュアの働き方改革。デジタル時代における採用戦略とは【セミナーレポート】』)
まとめ
採用戦略は採用活動の土台となる部分であるため、全社を巻き込んだ立案チームを編成して作成を進めていくことが重要です。フレームワークを活用し、採用戦略を立てていくことで、より精度の高い採用施策を打てるようになり、「採用効率の向上」や「早期退職やミスマッチの防止」といった効果も期待できるでしょう。
今回ご紹介したフローを参考にしながら、自社の強みを活かした採用戦略を立て、自社に必要な人材の計画的・効果的確保につなげてみてはいかがでしょうか。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)
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