ストレッチ業界トップシェア「Dr.stretch」を展開するnobitel。「ウェルネス×DX」を成長戦略に、年間1万人応募、500人採用に成功

株式会社nobitel

人事部 執行役員
内田 寿代(うちだ・ひさよ)

プロフィール

株式会社nobitel(本社:東京都新宿区/代表取締役:黒川将大)は、ヘルスケアに特化したビジネスを展開するストレッチ業界のリーディングカンパニーだ。2021年にDX戦略を打ち出した同社は、IT人材の採用を積極的に行い、ユーザー体験のさらなる向上を目指す。今回は、ストレッチの専門店でトップシェアを誇る同社の採用戦略や母集団形成、今後の展望について話をうかがった。

創業30年。第三創業期に入った「nobitel」の歩み

――まず、株式会社nobitelが展開しているビジネスとこれまでの歩みについてお聞かせください。

内田寿代氏(以下、内田氏):株式会社nobitel(ノビテル)は、ストレッチ専門店「Dr.stretch(ドクターストレッチ)」や、テニスポータルサイト「tennis365.net」、世界自然遺産に登録された奄美大島最南端のウェルネスリゾート「THE SCENE」やリトリート&ネイチャースポーツの旅・ホテル予約サイト「ウェルトリ」の運営など、健康やスポーツの分野を中心に幅広いサービスを運営しています。

nobitelのルーツは、1993年に代表取締役の黒川が立ち上げた自動車販売事業にあります。しかし黒川は、「テクノロジーが進化すると、人は空いた時間に健康を求めるようになる」と考え、2000年代にリラクゼーション事業をスタート。その後、主軸となる事業をヘルスケア分野に転換し、成長を続けてきました。

2021年には「ウェルネス×DX」を成長戦略の柱として、第3創業期をスタートさせました。nobitel事業にひもづくITプロダクトの開発・運用を担うCTO室をつくり、担当する役員やエンジニアを増員し、DXを推進しています。


成長戦略に欠かせないIT人材の採用。取り組みと課題は?

――DX推進のために「IT人材」の採用にも注力されていると思いますが、新たに整えた体制やシステムは?

内田氏:「ウェルネス×DX」を成長戦略の柱に掲げるに当たり、DX推進を担うCTO(Chief Technical Officer)という役割を設けました。CTOを中心にIT系の役員3人が就任(※取材日時点の情報)し、IT化を推進するメンバーが増えたことは大きな変化です。

――トップを固めてからチーム作りを進めていった、ということですね。

内田氏:そうですね。3年の間に、エンジニアのみだと20名、デザイナーなどの技術者を含めれば50名ほど増えました。それに伴い、リモートワークの規定や仕組みの見直しも重ねてきました。

現在、CTO室のエンジニアが、事業のシステム開発や運用に携わり、さまざまなサービスを推進しています。

――IT人材は採用現場で獲得の競争率が高くなっています。御社の採用アプローチではどのような工夫をされていますか? 

内田氏:たしかにIT人材は今、引く手あまたですよね。「一緒に働いてほしい」と思える人材に、入社を決断してもらうためには、候補者一人一人ときちんと向き合うことが大切だと考えています。

事業部のメンバーを中心に社内のスタッフとのコミュニケーションの機会を設けて、会社の風土を知ってもらったり、働くイメージを持ってもらったりするような工夫をしています。


IT人材やトレーナーの「母集団形成」と「採用」

――「IT人材」の採用に続いて、ストレッチ専門店をはじめとした現場の人材採用についてうかがいます。Dr.stretchは、ストレッチ業界のトップシェアを誇り、「新たな市場を作った」とも言われています。急速な成長とサービスの品質保持を両立をさせるため、何か取り組みはされていますか?

内田氏:「Dr.stretch」は2010年に1号店を出店して以来、13年間で国内外200店舗以上の規模となりました。新しい業態を打ち出したからには、一気にシェアを伸ばさないとトップを取ることはできない、と考えたのです。

急ピッチで人員を拡大するために、「採用」と「研修」には注力しています。

――急速に拡大をした13年間だったと思いますが、教育の質はどうやって維持してきたのでしょうか。

内田氏:例えばトレーナーの場合、新たに出店するエリアには店舗を作る前に「研修所」を作り、教育体制を整えるという方法をとっています。お客さまに接する「トレーナー」として働く前に、1~2カ月の間、この研修所でさまざまなことを学ぶのです。

トレーナーの技術力や接客スキルは、サービスのクオリティーやお客さまの満足度に直結します。店舗拡大のスピードを上げながらも、トレーナーの教育を徹底しています。

――どのようなチャネルで求人訴求を行っていますか?

内田氏:主に求人広告や、学校営業などを通じて採用活動を行っています。「トレーナー」として働くスタッフの多くはスポーツの経験者ですので、トレーナー系の専門学校やスポーツに打ち込んできた大学生など、スポーツ経験者をターゲットとした求人に力を入れています

一方、IT人材については、少しトレーナーなどと入口は違いますが、当社や展開するサービスを認知してもらうところまではほとんど同様の手法で展開しています。

その上で「ウェルネス×DX」という成長戦略について事業の面白さや将来性などといった情報を、自社HPや求人メディアなどさまざまなチャネルで発信するようにしています。

――求める人材像を明確にしておくことで、入社後のカルチャーフィットにもつながりそうですね。

内田氏:「アスリートの第二の人生」といったら大げさですが、「スポ―ツに恩返しをしたい」「ケガで苦しんでほしくない」「自分の経験を活かしたい」といった各々の想いを持ってキャリアをスタートさせる社員が多いです。

また、ストレッチや健康であり続けることの重要性を理解しているということもポイントです。

――現在、どのくらいの応募があるのでしょうか。

内田氏:毎年およそ1万人の応募があり、その中から約500人をトレーナーやIT関連職種として採用しています。

――母集団形成がうまくいっている印象を受けます。nobitelに入社する動機にはどんな要素があるのでしょうか。

内田氏:スポーツ経験者にとって、例えばトレーナーは親和性の高い職種であることが主な要素だと思いますが、スポーツの経験が活かせる以外に、夢のあるキャリアパスも用意されています。

当社の職種の一つ「グランドトレーナー」の中には、Jリーグの横浜FCやFC東京のチームにトレーナーとして同行している社員がいますし、フィールドホッケー、格闘技、バスケットチームなど、さまざまなスポーツの現場でアスリートを間近でサポートする機会を得た人もいます。

こうした未来あるキャリアパスのモデルケースや制度を整えておくことで、長く、そして高いモチベーションを持って活躍してもらえる人材に成長してくれますし、それがオンボーディングや定着、会社へのエンゲージメントなどさまざまな要素で好影響を与えてくれます。

IT人材もトレーナーも当社のビジネスモデルや将来性については、顕在・潜在問わずさまざまな求職者の方から大変興味を寄せていただいている状態です。それが母集団形成につながっているのかもしれませんね。

――整った研修システムがあり、スキルを身に付けた先にはプロスポーツの世界で働く道もあるんですね。今後、採用のアプローチをしたい対象は?

内田氏:当社には、さまざまなスポーツを経験したトレーナーやIT人材がいますが、今後はダンス経験者を増やしていきたいと考えています。ダンスも10代の経験人口が高いスポーツの一つです。ダンスを頑張ってきた人たちが経験を活かせる場所となるよう、当社の仕事を知ってもらう取り組みを進めています。


昇格は立候補制!?ユニークな人事評価・昇給制度

――nobitelには異なる職種の社員が在籍していますが、社員の評価はどのように実施されているのでしょうか。

内田氏:IT人材を含めたバックオフィス社員は、年に1度の人事評価を行います。事業部ごとに、業務に沿ったKPI目標や必要スキルを設定し、目標の達成率やスキルレベルなどにより昇格・昇給が決まります。

一方、トレーナーの昇格については「立候補制」です。トップダウンの人事ではなく、立候補者を募って「みんなで決める」という制度を運用しています。自分の意志と実力さえあれば立候補可能で、自分たちで選ぶことで納得できる、というメリットもあります。

給与については、個人実績に対してのインセンティブ形式をとっています。

――職種によって評価・昇格の制度を分けているのですね。

内田氏:バックオフィスのメンバーにもさまざまな事業部がありますが、当社のカルチャーに関する共通の評価軸はあります。しかし、事業部ごとに必要なスキルが異なりますから、給与体系や昇格の制度も各事業部や職種によって適切に定められています。


社員のモチベーション・組織力を保つための「部活動」

――採用後のカルチャーフィットや定着率については、どのような取り組みをされていますか。

内田氏:役職・部署にかかわらず、どの社員も半年に1度、会社の方向性やカルチャーを再認識する機会を持ちます。お客さまからいただくお金の価値、社内の人間関係の作り方、大事にしている考え方、行動の基準など、会社のビジョンやミッションに関する認識の話です。

また、部署を超えた「部活動」も活発に行われています。

コロナ禍には活動が制限された時期もありましたが、現在はかなり戻ってきました。野球、サッカー、バスケ、ダンスなどさまざまな部活があり、社員も役員も参加してコミュニケーションが生まれていますね。

――メンバーのコミュニケーションが活発な印象を受けます。

内田氏:そうですね。先日のサッカー部の活動日には、50人ほどの社員が集まったと聞きました。このような機会は交流を通じて会社をより深く知るきっかけになっていると思います。人事としては取り組みの効果測定も必要だと感じています。


事業拡大とともに変化する人材活用の取り組みについて

――「第3創業期」に入ったnobitelは、ストレッチ事業の拡大とITサービスの充実に注力されていくと思いますが、一緒に働く人にどんなことを求めていますか。

内田氏:主体的に動けること、そしてどんな職種でもそうだと思いますが、「吸収力」があることが大切です。特にトレーナー職については、昇格が立候補制ですので、人から言われて上がってくるのではなく、自分から手を挙げるという主体性が求められます。

――最後に今後の展望についてお聞かせください。

内田氏:前出の通りnobitelは、現社名へと変え、ウェルネスとDXを成長戦略の柱として掲げました。

当社の強みは、お客さまに実店舗まで足を運んでいただき、接客やストレッチのスキルを身に付けたトレーナーが、お客さまの健康を直接サポートする点です。

ITで健康的な体験をより便利で身近にすることは可能だと思いますが、この点だけは、どれだけテクノロジーが進化してもロボットが代替できない領域だと自負しています。

今後は従来のサービスとITを組み合わせて、お客さまにとって最適なサービス・商品の活用につなげ、ヘルスケア産業におけるトップシェアを目指してきたいと思います。

【取材後記】

今回取材をした内田氏は、同社のリラクゼーション事業が始まったばかりの2003年にセラピストとしてキャリアをスタートし、現在は人事部の執行役員を務めている。nobitelは社員の「やりたい」「こんなことをしたい」という思いに寄り添う職場だという。目指すものがある人にとって、夢のあるキャリアパスが描ける職場だと言える。このように採用ターゲットを明確かつ目的をもって定めることで、自社にカルチャーフィットする人材を採用できることがうかがえた。今回の事例を採用戦略見直しなどの参考にされてみてはいかがだろうか。

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

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