「失われた30年を5年で取り戻す」――。AKKODiSコンサルティングが描く人財戦略、リスキリングの価値、そして日本経済の未来について

AKKODiSコンサルティング株式会社

取締役 兼 COO
北原 秀文(きたはら・ひでぶみ)

プロフィール

経済停滞が長く続く日本国内には、「失われた30年」という言葉が重く立ちこめている。過去を振り返り、その原因を糾弾する声が数多くあるものの、「解決する」という前向きな声がなかなか生まれてこない状況は、今後も続くであろう停滞の根深さを物語る。

成熟した国家ならではの課題が山積する日本は、いつしか「課題先進国」と呼ばれるようになっている。そんな中、「日本を、課題解決先進国に。」というビジョンを掲げるのが、AKKODiS(アコーディス)コンサルティング株式会社(本社所在地:東京都港区、代表取締役社長:川崎 健一郎)だ。今回は同社の取締役 兼 COOである北原 秀文氏に話を伺った。

(聞き手:パーソルキャリア株式会社 代表取締役社長 瀬野尾 裕)


キャリアパスに合わせて「オーダーメイド」のリスキリング機会を提供

――AKKODiSコンサルティングは2023年4月にModis株式会社から社名を変更し、新たなスタートを切りました。どんなビジネスを展開しているのか簡単にご紹介をお願いします。

北原 秀文氏(以下、北原氏):AKKODiSコンサルティングは、Consulting(コンサルティング)、Solution(ソリューション)、Academy(アカデミー)、Talent(タレント)の4つのサービスラインを展開し、お客さまのイノベーションを支援する「エンドツーエンド」のコンサルティングサービスを担っています。

現場での課題収集および分析から、組織全体の課題解決策の提案、システム構築・運用・保守までを包括し、お客さまと伴走しながらビジネストランスフォーメーションを支援しています。

――課題収集から解決の実行までを実施する御社が、「アカデミー(教育)」のサービスを展開している点が興味深いと感じました。この点、もう少し詳しくお聞かせください。

北原氏:「アカデミー」の領域では、人財育成・教育を担っています。新卒・未経験・経験者・企業向けなど、あらゆる対象、あらゆるキャリアパスに合わせて何千通りもの研修プログラムを用意しています。

場所や時間にとらわれない点で、インターネットを活用したeラーニングにも良い点はありますが、当社の場合には完全オーダーメイドの実践型の研修を強みとしています。

――個人の持っているスキル、今後取得したいスキルを掛け合わせた多数の研修プログラムを提供しているんですね。

北原氏:例えば、飲食店をやっていた人財がITエンジニアに、営業からエンジニアに、エンジニアからコンサルタントができるエンジニアに……というように、さまざまなキャリアパスを実現するための最適な研修プログラムを用意しています。

今でこそ「リスキリング(Reskilling)」という言葉がよく使われるようになりましたが、当社の場合はリスキリングに関する取り組みを先駆けて行ってきました。実際に当社の教育研修を提供した企業や個人のお客さまからは極めて高い評価を得ています。

――個々のキャリアパスに応じたオーダーメイドの研修に注力している背景は?

北原氏:日本では、研修という言葉に固定概念があると思います。「やらされている」「つまらない」というような。しかし、これまでのような紋切り型の研修では、変化に取り残されてしまいます。

例えば、最近しきりとAIの話題が出ていますが、「この部分はAIに任せて、この部分は省力化」という流れが加速したときに、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの新興国などの海外人財は、特化したスキルを磨いてやってくるでしょう。

現在、日本ではAIと言えばどうしても「奪われる仕事」にフォーカスされがちで、「使い倒す」という視点が欠けているのではないでしょうか。不安ばかり先行して、取り組みが遅行することは避けなければなりません。

その際、プログラミング言語に限らず、ロジカルシンキングやコミュニケーションなど、個人に応じたスキル修得で可能性が広がっていくと思いますので、それを追究しながら人財育成を戦略的に行っていかなくてはなりません。それを実行できるのが当社の強みです。

――「同じ職位の社員が同じ研修を受ける」のではなく、多様な研修プログラムで組織としての可能性も広がりそうですね。

北原氏:例えば、私が以前に所属していたソフトバンクでは、人員過多になった部門の社員を解雇するのではなく、新しいビジネスにシフトした事例がありました。

それぞれの社員がリスキリングの研修を受け、キャリアシフトをしたところ、「PoC」(アイデアが実現可能か実証すること)が活発化し、そこから新たな事業が芽生えたケースが見られたのです。

結果論ではありますが、この経験を目の当たりにして、リスキリングの重要性を実感しました。

特定のスキル修得に必要であれば、半年でも1年でもリスキリングに時間を投じ、「エンジニア」から「AIがわかるエンジニア」「コンサルティングができるエンジニア」などというように、ステージアップしたキャリアシフトができるようになればいいですよね。

――そういう流れができたら、組織も社会も活性化しそうですね。中長期的にキャリアを見つめることができることで、学びのモチベーションにもつながりそうです。


「AKKODiS」として新たなスタート。人事・採用面での課題とは

――続いて、御社の人事・採用について伺います。人事・採用面では何か変化がありましたか?

北原氏:2023年4月1日に新たな会社名でスタートするに当たり、人事制度をジョブ型雇用に刷新するなど、目まぐるしい変化がありました。今後も、変えるべきところは迅速に変えていきます。

また当社で活躍していただくコンサルタントを2024年までに相当数採用する予定です。いわば第二創業期に入ったと言っても過言ではない当社ですから、これまでの採用戦略の中ではご縁がなかったような方にも活躍いただけるような採用戦略と環境整備を始めています。

さらに、迅速かつ効果的な採用を実現する手法として「ダイレクトハイアリング」の強化を行っており、配属先である各部門にて採用の決裁権を高める制度・環境整備を行っています。

うまく運用することによって、採用部門の負担を軽減することができますし、採用の質そのものの向上にもつながると考えています。より自社にマッチした人財獲得の一助になるでしょう。

一方で、採用ブランディングの一環としてSNSやコミュニケーションイベントを通じて、当社のカルチャーやビジョンを直接知っていただく機会も作っています。採用候補者の方たちとさまざまな面で接点を持ち、広く当社の働く環境や制度、目指す世界観を認知してもらえるように努めています。

――現在、感じている採用面の課題についてはいかがでしょうか。

北原氏:当社では、経験者採用で入社した社員が数多く活躍しています。しかし中には、環境の変化の早さに戸惑う人がいるのも事実です。

大きな組織から転職してきた人の中には、「外資系のコンサルティング企業だから、これまでよりも気楽に働ける」というイメージを抱く人もいるようですが、実際には激しい変化に適応しながら、主体性が求められる職場です。その点は、入社前にカルチャーギャップを埋めておく必要があると思います。

例えば、会社説明会や面接時の接点を活かして、当社が目指すビジョンやパーパスなどを伝えていくこと。そうすることで入社後のカルチャーギャップや現場とのミスマッチが生まれにくくなりますので、オンボーディングや定着の面でもさまざまなメリットをもたらしてくれるでしょう。

先のダイレクトハイアリングや採用ブランディングと併せて、これまで以上に当社のことを知ってもらうための接点を強化することが重要だと捉えています。

――どんな人に適した職場だと思われますか?

北原氏:変化を楽しめる方にとっては、間違いなく楽しい職場だと思います。

指示されたことを実施するのではなく、自分ごととして臨機応変に動くことができる方は、持っているバリューを存分に発揮できる職場です。


「失われた30年を5年で取り戻す」というビジョンに込めた思い

――AKKODiSコンサルティングは「失われた30年を5年で取り戻す」、「日本を、課題解決先進国に。」というビジョンを掲げています。その背景についても伺いたいと思います。

北原氏:バブル崩壊以降、日本経済が停滞して30年以上が経過しました。現在、日本では株価が上昇傾向にありますが、個人の実感を伴っているとは言い難く、変わらず「失われた30年」が続いています。

当社は「日本を、課題解決先進国に。」という大きなビジョンを掲げていますが、相応の覚悟をもって、日本の問題そのものを経営ビジョンとしました。

現在の日本は、変わらないといけない崖っぷちに立ちながら、なんとなくやり過ごせてしまっているがゆえに、変わらないでいるという状態だと思います。残念ながら、「そのままでいるのが心地良い」という人が一定数いて、組織内で変化を起こそうとすれば、「出る杭は打たれる」ということさえあります。

このような状況を変えるためには、誰かが旗を振り、同じ志を持つパートナーを集め、先陣を切っていく必要があると考えています。それならば、AKKODiSが旗振り役を務めたい。上から目線ではなく、共に伴走していきたい。そんな想いでビジョンを設定しました。

5年という期限を設けることで、ある意味自分たちを苦しめることになりますが、期限を設けることで、逆算してやらなければいけないことが明確になってきます。

これまでも、さまざまな企業が日本の課題解決に向けた取り組みを行ってきたはずで、それらが本当に貢献できていたのなら、現在の「失われた30年」というこの言葉は存在しなかったはずです。現状を見てみると、これまでのやり方では「課題先進国の日本」は変えられないと危惧しています。

また、見栄えのよい戦略を作ることができても、それを実行できなければ意味はありません。ですから、お客さまの課題解決まで伴走し、イノベーションを起こせる状態にする「伴走型コンサルティング」という言葉を使っています。

そのためには、こうした私たちのビジョンや想いに共感してくれて、その実現に向けて共に走っていく人財を必要としている、ということなのです。

――ビジョンに込められた危機感が伝わってきました。北原さん自身の日本の課題に対する認識はどのように形成されたのでしょうか。

北原氏:私の課題認識のきっかけは、かつてアメリカで経験したことにあります。2000年ごろは、まだスマートフォンが世界に普及しておらず、日本では「ガラケー」と呼ばれる旧来の携帯が主流でした。インターネットの使い方は限定的で、「日本のガラケーはカメラつき、カラー液晶で世界ナンバーワン」と言う声さえありました。

一方、同時期のアメリカでは、既にインターネットが日常生活の中に溶け込んでいました。

留学先のアメリカのアパートでインターネットを引いて、パソコンで動画を視聴する習慣を目の当たりにしたときには、大きなカルチャーショックを受けたことを記憶しています。同時にインターネットが日常を変えつつあることを体感し、「このままでは、日本は世界に取り残されてしまう」という危機感も覚えたのです。

そうした経験もあり、日本のインターネットの環境を変えようとしていたソフトバンクBB株式会社(現・ソフトバンク株式会社)に入社しました。それが2005年のことです。

当時のソフトバンクと言えば、まだ今のような規模ではありませんでしたが、日本の通信インフラを作ることを目指し、安くて速いインターネット環境の拡大に取り組んでいました。その中で、孫 正義さんの「やり切る覚悟」を間近に見てきたことが、現在の使命感につながっていると思います。

――AKKODiSは「イノベーション立国日本プログラム」を立ち上げました。どんなプログラムなのでしょうか。

北原氏:日本の社会課題解決に向けて、それぞれの強みを持ったパートナーを結集し、特定の課題に対して多方面から挑戦してみようというプロジェクトです。2023年の6月に始動したところです。

まずはいくつかの社会課題を定義し、「As is(現状)」を把握し、それに対してどういう状態が健全なのか、「To be(あるべき形)」を考えます。そのギャップを埋めるために、どういう戦略・戦術が必要なのか。そこに集まったパートナーの強みをどう活かし、どう解決に導くことができるのか。

約4カ月を「Phase1(立ち上げ期)」と位置付け、日本の課題について徹底的に洗い出し、10月以降は、社会課題の解決をリードし、具体的な解決策を提案する活動を開始する予定です。

現在までに約30社のパートナーがプログラム参画に手を挙げてくださっています。

――1社では変えられなくても、仲間を集めることで推進力を高めていくのですね。

北原氏:それぞれのパートナーが課題を持ち帰り、新たなビジネスに、ひいては日本の課題解決につながっていくことを目指します。世界の国々が日本と同じ社会課題に直面したときに、日本で蓄積された課題解決の事例を役立てることができると考えています。

そのためにも当社のコンサルタントが大きなカギとなるのは間違いありません。

――ありがとうございました。

【取材後記】

「失われた30年」を嘆くばかりでは変わらない。AKKODiSは共鳴する仲間を集め、解決に向け戦略の速やかな実行を目指す。同社の特色は、教育・研修の領域にも注力している点だ。「リスキリングが何に役立つのかわからない」という個人の悩みや、「このスキルを持った人材が集まらない」という組織側の悩みを包括し、解決に導く研修ブログラムは画期的だと言える。同社が旗振り役を務め、さまざまなアプローチで「失われた30年」に挑むプロジェクト、その軌跡を今後も注視したい。

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

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