役割が多様化する「社内SE」のハイクラス人材採用を解き明かす~前編(アプリ担当・インフラ担当)

パーソルキャリア株式会社

増田菜々(ますだ・なな)

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吉川晶(よしかわ・あき)

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  • 社内SE(アプリ担当・インフラ担当)の転職市場動向がわかる
  • どのように採用要件を定義するべきか。具体的なターゲット設計のポイントがわかる
  • 採用成功企業が押さえている選考プロセスの特徴がわかる

近年、社内システムのIT化やDX推進を担う「社内SE」ポジションの人材獲得競争が激化しています。dodaにおけるIT系職種の転職求人倍率は約10倍の水準となっており、他職種に比べても圧倒的に高い水準の中、社内SEの新規求人も2019~2022年にかけて大幅増。特に年収600万円以上のハイクラス人材の求人においてニーズが高まっており、多くの企業で即戦力が求められています。

本記事では、社内SEの中でも、常に一定の需要があるアプリ担当・インフラ担当と、近年急速に需要が高まっているIT企画の2職種に注目。前編ではアプリ担当・インフラ担当の採用に焦点を当て、IT領域のキャリアアドバイザーとして活躍するパーソルキャリアの増田氏、吉川氏に市場の概況や採用ノウハウを聞きました。

採用部門のニーズは数カ月単位で変わっていくこともしばしば。それらが人事には伝わっていない

——いわゆる「社内SE」の募集職種はどういったものがありますか。

吉川氏:大きくアプリ系とインフラ系で担当が分かれています。直近では、アプリ系では新たにシステムを導入したり、既存のシステムを更新したりといったミッションが多いですね。一方のインフラ系では、オンプレミスからクラウドへのシステム移行や、現在のネットワークサーバーの運用・保守に関する採用ニーズが多い印象です。

——そうした採用ニーズがある中で、アプリ担当・インフラ担当に対する期待もかなり高まっているとか。

吉川氏:ともにコロナ禍以降、ハイクラス人材の求人ニーズが増えている状況です。

ただ、直近の採用傾向では「よりスキルの高い人材を求めている」「人事部門側では書類合格でも、情報システム部門側では不合格となるケースが増えている」という声を企業の人事・採用担当者から聞く機会も増えています。情報システム部門と人事の間で、採用候補者像の擦り合わせがうまくいっていないケースが多いのかもしれません。

増田氏:企業としては、情報システム担当人材へのニーズがより具体化してきた面もあると思います。これまでは「DXやIT活用を進めていこう」と漠然と考えていた企業も、「DXやIT活用によって何をどう改善していくのか」といったレベルまで明確にした上で採用に臨むケースが増えてきました。そうした情報システム部門の考えが、人事・採用担当者まで伝わりづらい側面も多いのではないでしょうか。

吉川氏:実際に私たちが情報システム部門へヒアリングをさせていただくと、事前に聞いていた求める人物像と大きく変わっていることもありますよね。

増田氏:はい。ただでさえ技術トレンドの移り変わりが激しいことに加えて、情報システム部門のニーズも数カ月単位で変わっていくことが多いので、キャッチアップに苦労している人事・採用担当者の方も多いと感じています。

採用要件定義の軸となる「スキル」と「志向性」

——採用目的や求める人物像をつかむのが難しい中で、おふたりが関わる際にはどのようにして採用要件の定義を進めているのでしょうか。

増田氏:一つの求人案件について伺う前に、DXやIT活用によって何を実現したいのか、中長期の計画から聞かせていただくことが多いです。中長期の目標に対して企業の現在地がどこにあるのかを明らかにすることで、私たちとしても採用候補者を見つけやすくなるからです。

吉川氏:特にハイクラス人材は企業の中長期目標に注目し、自分の経験・スキルを活かして貢献できるかどうかを見ています。だからこそ私たちも、情報システム部門のトップにヒアリングできるよう努めています。

——具体的な採用候補者像を設定するためのポイントについても教えてください。

増田氏:二つの軸を定めることで、採用したい候補者像が明確になります

一つは採用候補者の経験領域に応じたスキルの軸です。アプリ担当であれば、たとえばSAPや会計、生産管理システムなど、関わってきたシステムの種類によってスキルが異なります。インフラ担当であれば、グループウェアのようなLANで動くような単システムなのか、複数業務につながっているERPなのか、外部公開されているECのようなWEBサービスなのかなどによって経験に大きな違いがあります。

任せたいミッションから、どんなスキルが必要か、以下の観点で整理できるとよいでしょう。

・業界知識、業務知識はどの程度か
・PJT規模はどの程度か
例:グローバル・国内、PJTの人数は10人なのか100人なのか
・担当工程はどこか
例:戦略、グランドデザイン、要件定義、設計、開発/構築、運用
・テクニカルスキルの有無
例:アプリ(SAP、AWS、Azure等)、インフラ(クラウド、オンプレ等)

ハイクラス人材は、これまで培ってきた経験をどう還元できるかという視点から求人を選んでいくため、上記のように求める経験やスキルが具体的に整理されていないと、応募を判断することができません。

——スキル軸のほかに考えたいポイントはありますか?

増田氏:もう一つは採用候補者の志向性の軸ですね。アプリ担当・インフラ担当の中でも、マネジメント志向があって大きなプロジェクトのリーダーや管理職ポジションを目指している人と、技術そのものに強い関心を持って突き詰めていきたいプロフェッショナルを目指している人では、それぞれ求めていることが異なります。

前者の場合は業務システム全体を見るプロジェクトマネジメント、あるいはIT企画のポジションなどを目指している方が多いですね。後者ではシステムを活用する事業部門での業務改善などの専門性に磨きをかけていきたいと考える方も多いです。

ほかにも、企業が採用したい方の特徴に多いのが、リモートワークできる環境かどうかです。採用候補者側の目線で言えば、性別問わず子育てがしやすいかどうか、同僚に同じような環境で働く方がいるのか、子育てについて職場の理解があるかなどを見ている方も多いです。ハイクラス人材ほど転職先を選べる立場の方が多いので、働き方を具体的に示せるかで企業間の差が出るようにも感じます。

吉川氏:近年ではマネジメントだけでなく、スペシャリストでも高い年収を提示して採用する企業が増えていますね。実際に私が関わった中では、現場志向の50代の方が金融機関からオファーを受け、専門社員として一般社員よりも高い年収で転職支援した例があります。ジョブ型雇用を取り入れる企業も増えているので、今後はこうしたケースがさらに増えていくのではないでしょうか。

ハイクラス人材の採用成功企業は、自社の課題や任せたいミッションを具体的に発信している

 

——こうした採用候補者が魅力を感じてくれる求人票を作るためには、どんな情報を記載するべきでしょうか。

増田氏:情報に具体性を持たせることが重要です。仕事内容として「社内アプリケーションをお任せします」とだけ伝えるのでなく、その背景では自社が何に困っていて、どんな問題を解決したいと考えているのかまで記載するべきです。理想的なのは、過去に動かしてきたプロジェクトのテーマや規模感、導入してきたシステムやツール、運用方法なども明確になっていること。そうした具体性のある求人票なら、採用候補者も自分がどのように貢献できるかをイメージしやすいでしょう。

吉川氏:採用候補者の多くはIT投資がなされている企業を選ぶ傾向にあります。たとえばモダンな技術環境を使用している、最新のシステムを導入しているなどの場合は、企業がITを積極活用して変革をしていきたい方針を感じることができ、好印象となっています。反対に、コストがかかる部分ではありますが、レガシーな環境であったり、古いシステムを使い続けていたりする場合は、変革に疎いと捉えられることも多いです。

新しい技術に触れていたい方などがレガシーな技術で仕事をする環境に入ってもミスマッチになってしまいます。技術環境で強みを訴求できるようなら、情報システム部門からヒアリングをして求人票に記載すべきです。加えて、中堅・中小企業の場合は特に、会社自体にどんな強みがあるのかも明確に伝えるべきですね。どんなビジョンを描き、何を強みとしている企業なのかは押さえておくべきだと思います。

——選考プロセスの工夫についても教えてください。採用がうまくいっている企業の選考には、どのような特徴がありますか?

増田氏:採用がうまくいっている企業の多くは、一次面接の段階で採用候補者の心をつかんでいます。ポイントは一次面接から情報システム部門の責任者が関わること。入社後の上長となる立場の人が採用候補者と向き合い、「IT部門は社内でどのように期待を寄せられているのか」「新たに入社する人にはどんなことを期待しているのか」を直接伝えているのです。

ハイクラス人材は、企業との最初の接点で企業を見極めているといっても過言ではありません。この段階で有益な情報を得られなければ、次の選考に進んでもらえなくなることも多いんですよ。

吉川氏:最近では一次面接の前段階でカジュアル面談を行う企業も増えていて、採用候補者からは「企業のことを深く理解できる」と好評です。カジュアル面談にも情報システム部門の責任者が加わり、自社の課題やビジョンを語りながら採用候補者とディスカッションできるといいですね。

採用候補者は選考において、複数の企業との接点を持つことになります。その中でも、自身の目指すキャリアの方向性と企業の方向性が合致していることが実感できれば、選ばれる1社になれるはずです。

取材後記

企業規模にかかわらず高い競争率となっている社内SE採用。苦戦しがちな中堅・中小企業についても、増田さんと吉川さんは「中堅・中小だからこそ多様な経験を積めることが強みになる」と語っていました。大手企業では経験できない幅広い役割を経験し、IT活用の全体像を見る視点が得られる。そんな魅力から入社を決断する採用候補者も少なくないそうです。

後編の記事では、近年採用ニーズが高まり続けている「IT企画」の採用ノウハウについても聞きます。
企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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