【弁護士監修】勤務間インターバル制度とは?法律の内容や助成金をわかりやすく解説

石井・髙畑法律事務所

石井 宏之弁護士(いしい ひろゆき)【寄稿・監修】

プロフィール

健やかにイキイキと仕事をするために大事なのは、十分な休息です。この休息時間を確保するための施策として、政府は「勤務間インターバル」制度を、事業主の努力義務として規定しました(2019年4月1日施行開始)。
勤務間インターバル制度は、既にEUでは広く浸透している制度ですが、日本ではほとんど馴染みがありません。多くの企業が同制度の実態や、運用面の問題についてまだ分からない部分が多いのではないでしょうか。本記事で詳細を確認していきましょう。

「勤務間インターバル」とは?ー働き方改革関連法案成立で決定した内容について

勤務間インターバルとは?

勤務間インターバルとは

勤務間インターバル制度とは、労働者の休息時間を確保するために制定されました。インターバル(interval)とは、合間・休息のこと。ある日の勤務終了後から、次の勤務開始までに一定時間以上のインターバルを設けることで、労働者の休息時間を確保し、長時間労働を抑制することを目的としています。例えば、始業時間が午前8時の企業で午後9時(21時)に仕事が終わった場合、仮にインターバル時間を11時間に設定していたとすると、翌日の始業時間は午前8時以降でなければなりません。

平成30年(2018年)6月、労働時間等設定改善法が改正され、同法2条1項には以下のように規定されました。

事業主は、その雇用する労働者の労働時間の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない

努力義務の内容と罰則があるのかどうか

勤務間インターバル制度導入は、あくまでも【努力義務】です。努力義務とは、法律上「~に務めなければならない」とあるため、企業に強制するものではありません。また導入しなかったからといって罰則を受けるものでもありません。しかし、大切な従業員の心身を守り定着させるという意味では、当然そうすべきであり検討したい制度です。企業は制度導入のメリットとデメリットをよく精査した上で、導入の可否を検討すべきと言えます。

「勤務間インターバル」制度導入による企業のメリット

政府が制度導入を推進する目的は、「労働者の心身の健康を守る」ことです。その結果、企業にどのようなメリットが生じるのでしょうか。

メリット①労働者が十分な休息を確保でき、結果として業務が効率化され、残業代の縮小につながる
メリット②労働者は十分な休息によって働くモチベーションを維持することができ、結果生産性向上へとつながる
メリット③労働者が十分な休息を取り、心身への負担が軽減すれば、労働者の退職率の低下につながる

つまり、企業としては、労働生産性の向上による残業代の抑制効果はもちろんのこと、人材の定着率向上による教育コストの削減、その結果による採用力向上(採用コスト削減)などを期待できる施策となります。また、勤務間インターバルは、政府が推奨する新しい制度ですので、普及に向けて助成金が準備されているのもメリットの一つと言えるでしょう。

「勤務間インターバル」制度導入の課題

インターバル制度を成立させるためには、そもそも人員が足りないという場合もあるでしょうし、どのような規定をどのような手順で定める必要があるのか?また、経費負担はどのようにすべきかなど、細かな点をあげればキリがありません。

この点、政府は2019年春頃までには、勤務間インターバル制度を導入する際の手順書を作成公表する計画があるそうです(2018年12月現在)。また、「翌日の出勤時間が遅くなるなら、ゆっくり残業して帰ろう」という労働者が出てくると、(深夜)残業時間が増加する恐れがあります。これを回避するためには他の制度を併用し、残業自体を少なくするための仕組みが必要でしょう。

もちろん、24時間営業のコンビニや、飲食店など、不規則勤務となりがちな業種においては、今すぐの導入は難しい企業も多いでしょう。このような企業は、導入前にまずは不規則勤務を改善する方法を考える必要がありますが、人件費などのコストがかかることが懸念されます。

「勤務間インターバル」制度導入にあたっての注意事項

勤務間インターバルの導入によって、経営者や人事担当者が注意すべき点について説明していきます。
「勤務間インターバル」制度導入にあたっての注意事項

適切なインターバル時間は何時間?

政府としては、勤務間インターバルを導入する場合の最低時間のようなものは設けていません。基本的には労使間で自由に交渉すべきものです。ただし、助成金の支給対象となるのが最低でも9時間以上のインターバル時間を確保することになっています。これに習って“9時間以上”を目安にするのが良いでしょう。なお、EUではインターバル時間を最低でも11時間以上とする義務が課せられています。しかし、企業の実態とあまりにかけ離れた時間設定を行い、結果守れないようであれば意味がありません。まずは無理のない適切な時間設定を行うべきです。

賃金への影響度合いは?

原則、賃金へは大きな影響はないと考えられています。仮に通常勤務時間が短縮した分の賃金を減額することとなっても、その分の時間外勤務手当がありますので、労働者にとってはそれほど影響がないと言えるでしょう。

どんな雇用形態でも適用される?管理職の場合は?

勤務間インターバルは、いずれの雇用形態であっても適用可能です。実際に既に導入している企業では、全社員が導入しているケース、管理職のみ除外されているケース、一定の職種のみに適用しているケース…など様々なパターンがあります。
しかしながら、制度導入により管理職がいなくなる時間帯ができてしまうと、その間、メンバーの業務が滞ってしまう…など支障をきたす場合もあるでしょう。そこで、管理職には勤務間インターバルを適用しないとすることも可能です。しかしその一方で、“名ばかり管理職”から不満が出ることが予想される上、一部の労働者の労働時間ばかりが増加してしまうという弊害もあります。非管理職に対して適用するのか、管理職も含めて適用するのか、管理職は非管理職の労働者とは別の制度を適用するのか、慎重に協議する必要があります。
いずれにせよ勤務間インターバル制度の導入にあたっては説明会を実施するなど適切な情報発信を行い、企業としての意図を労働者に理解してもらうことが必要となります。

残業代は支給されるのか?

当然、残業代は支給する必要があります。法定労働時間は、原則として1日に8時間と定められており、超過した場合には残業手当が支給されることになります。勤務間インターバルを導入しても残業の考え方は同じです。
仮に、インターバル時間のために勤務開始時間を1時間遅らせることになった場合、EU加盟国の勤務間インターバル制度のルールをそのまま採用すれば、通常の終業時刻から1時間分は基本給の時間給(割増なし)で計算し、8時間を超えた部分に残業手当の割増が適用されることになります。

実効性確保のための施策は?

仮に勤務間インターバル制度を導入しても、厳格な運用を行わないと絵に描いた餅になってしまい意味がありません。まずはタイムカードやパソコンのログを整備し、労働者の出退勤時間をきっちりと把握する…、つまり現状の実態の把握が重要になります。その後、就労規定を見直すことを検討していくことをオススメします。
また、そもそも勤務間インターバルが問題となるのは、労働者が「出社時間を遅らせたいから…」と、過度な残業を行う場合です。企業は従業員に対して、残業におけるルールや申請方法を見直すことで、そもそも勤務間インターバル制度が問題となり得るケースを減らすことができるでしょう。

「勤務間インターバル」導入にあたり、就業規則はどう変える?

勤務間インターバルを導入した場合の就業規則の記載方法について確認していきます。厚生労働省は、勤務間インターバルについての就業規則の記載例として、以下紹介しています。

インターバルのために翌日の勤務開始時間を遅らせたときに、
①遅らせた部分を勤務扱いとする場合
“第1項 いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、〇時間の継続した休息時間を与える。”
“第2項 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす。”

②勤務開始時間を繰り下げる場合
“第1項 いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、▲時間の継続した休息時間を与える。”
“第2項 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、翌日の始業時間は、前項の休息時間の満了時刻まで繰り下げる。”

この他、企業によって適用する労働者と適用しない労働者がいる場合は、制度が適用される条件や、勤務間インターバルの申請方法などの記載も必要となります。

「勤務間インターバル」の日本での普及率と導入事例

厚生労働省が公表した『平成29年就労条件総合調査』によると、勤務間インターバルを導入している企業は1.4%であったのに対して、導入の予定はなく、検討もしていない企業は92.9%もありました。
導入してない企業がここまで!
導入を検討していない企業としては、繁忙期に勤務時間が足りなくなることや、業種によっては夜間の対応が必須なものがあるなどが理由ですが、中でも「当該制度を知らなかった」が40.2%と約半数近くを占めています。

制度自体を知らない人の割合

勤務間インターバルの導入事例をまとめた『勤務間インターバル制度導入事例(厚生労働省発表)』が公表されています。こちらも参考にしてください。

「勤務間インターバル」の海外の状況

勤務間インターバルはEUでは既に法制化され、「11時間のインターバルが義務化」されています。すでに15年以上もの実績があります。EU加盟国一律ではなく、各国で特例に違いがあるため、細かい部分の取り扱いが異なります。多くの運用方法事例が存在するため、EU加盟国各国ではどのように導入していて、自社に合いそうな運用方法はないか、模索してもいいかもしれません。

「勤務間インターバル」導入時にもらえる助成金と手続き方法 ※平成30年分は締切(次年度分は更新予定)

勤務間インターバル制度を導入すると助成金がもらえます。厚生労働省のホームページ『時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)』に詳細が記載されていますので、導入する企業は条件や手続について必ず確認しましょう。
(平成30年分は既に締め切っております。年度ごとに改定されることが想定されますので、常に最新の情報をチェックすると良いでしょう。あまり大きな変更は見受けられないと思いますので、平成30年度分を下に記載いたします。参考にしてください)

支給対象となる事業主

支給対象は、次の(1)~(3)すべてに該当している事業主になります。

(1)労働者災害補償保険の適用事業主であること
(2)次のいずれかに該当する事業主であること

業種 A.資本または出資額 B.常時雇用する労働者
小売業(飲食店を含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

(3)次のア~ウのいずれかに該当する事業場を有する事業主であること

ア.勤務間インターバルを導入していない事業場
イ.既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入しており、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
ウ.既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場

支給対象となる取り組み内容

いずれか1つ以上を実施していることが条件になります。

(1) 労務管理担当者に対する研修
(2) 労働者に対する研修、周知・啓発
(3) 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など)によるコンサルティング
(4) 就業規則・労使協定等の作成・変更
(5) 人材確保に向けた取組み
(6) 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
(7) 労務管理用機器の導入・更新
(8) デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
(9) テレワーク用通信機器の導入・更新
(10)労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新

※研修には、業務研修も含みます。
※原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません。

支給額

上記対象となる取り組みに要した経費の一部を、成果目標の達成状況に応じて支給されます。基本的に、上記対象となる取り組みに要した経費の合計額の4分の3(ただし下記表より超える場合は、下記上限額)。もしくは、常時勤務している労働者数が30名以下かつ、支給対象の取り組み6~10を実施し、その所要額が30万円超となる場合の補助率は5分の4となります。

休息時間 新規導入の取り組み 範囲拡大か時間延長の取り組み
9時間以上11時間未満 40万円 20万円
11時間以上 50万円 25万円

【まとめ】

人口が減り、人材の確保が難しくなってきている昨今、健康経営やワークライフバランスは声高に叫ばれています。勤務間インタ―バル制度を導入することで、従業員の心身の健康を守ることはもちろん、労働へのモチベーションが保たれることで人材の確保につながるという効果が期待できます。
しかし一方で、労働者にとって新しい概念の制度であるがゆえ、戸惑いが生じる可能性があります。導入にあたっては、事後のトラブルを回避するためにも労働者への説明を十分にしておくべきでしょう。業務スタイルを踏まえつつ、企業にとってのメリット・デメリットを十分に考慮した上で、検討することが重要でしょう。

 

(監修協力/unite株式会社、編集/d’s JOURNAL編集部)

【Word版】就業規則変更に関する同意書

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