5年でキャリア採用を倍増させた野村総合研究所。これからの人材・採用戦略、2030年に向けての人的資本経営とは?

株式会社野村総合研究所

執行役員 経営企画・人事・人材開発担当(取材当時)
柳澤 花芽(やなぎさわ・かが)

プロフィール

独自の成長を続ける株式会社野村総合研究所(東京都千代田区/代表取締役会長 兼 社長 此本 臣吾)。「コンサルティング」と「ITソリューション」という二つの機能を持つ同社の大きな強みは「人的資本」だという。

野村総合研究所の人材戦略や採用の動向、今後の展望について、人事開発担当者(取材当時)の柳澤花芽氏に取材を行った。

(聞き手:パーソルイノベーション株式会社 取締役執行役員 大浦征也)


野村総合研究所のこれまでの歩み

売上、収益ともに右肩上がりの成長を続ける野村総合研究所は、目標達成に向けて提言を行う「ナビゲーション」と、解決策を講じる「ソリューション」を相乗的に機能させて提供している。

2030年に向けた最新の長期計画では売上収益1兆円超を目指し、人員の採用枠を拡大する同社の人材戦略に迫った。

――これから野村総合研究所の「過去」「現在」「未来」について伺っていきたいと思います。最初に、これまでの歩みについてお聞かせください。

柳澤花芽氏(以下、柳澤氏):野村総合研究所(以下、NRI)は、旧野村総合研究所と野村コンピュータシステムの2社が1988年に合併して誕生した会社です。

「旧野村総合研究所」は1965年、日本初の本格的な民間総合シンクタンクとして誕生しました。「野村コンピュータシステム」は1966年に設立され、日本で初めて商用コンピュータのビジネス利用を実現してきた企業です。

――1980年代当時、シンクタンクとコンピュータシステムの組み合わせは異例だったのでは?

柳澤氏:当時は、「シンクタンクとコンピュータシステムを統合する意味がよくわからない」という反応もあったと聞いています。双方とも野村證券から分離独立して1960年代に設立された企業ですが、「適当に再編されたのでは?」という声さえあったようです。

しかし、当時の社長だった田淵節也(たぶち・せつや)は、「再編の答えは、30年後にわかる」と語ったといいます。

「来たるべき高度情報社会を見通したとき、システム機能を持たないシンクタンクはありえないし、シンクタンク機能を持たないシステム企業もありえない」というのが、当時の経営陣の考えでした。あれから30年以上たった今、田淵の言っていた「答え」が腑(ふ)に落ちている社員は多いと思います。

――まさに「先見の明」ですね。現在、コンサルティングとITソリューションという二つの機能を持つNRIですが、収益ベースはどのような比率でしょうか。

柳澤氏:現在、売上収益のおよそ9割はITソリューションの分野です。お客さまにとって非常に重要度の高いシステムの開発を担当しています。

お客さま自身、目指したい姿があるものの、具体的にどんなシステムが必要なのか、業務、さらにはビジネスモデルをどう変えなければならないのかなど、課題が漠然としている段階から参加させていただくことが多くなっています。その後、システムの仕様に落とし込み、設計、運用までの一連の流れを担います。

信頼関係を築き、長く、継続的にご愛顧くださるお客さまが多いのが特徴です。

――ITソリューションの事業では、どのような分野の顧客が多いのでしょうか。

柳澤氏:以前は金融系のお客さまの割合が突出して高かったのですが、近年は流通業、製造業、サービス業などのお客さま向けのDX案件も増えています。

いずれも、システムコンサルティング、開発、保守・運用サービスなどのソリューションを提供しています。

――「シンクタンク」としてはどのような業務を担っていますか?

柳澤氏:シンクタンクとしてスタートした事業も、その領域を広げています。未来予測や社会提言などの社会・経済の研究にはじまり、企業や官公庁に対して、経営コンサルティング、業務コンサルティング、システムコンサルティングの提供を行っています。


独自の成長を遂げるNRIの「採用」とは

――続いてNRIの「採用」について伺いたいと思います。資料を拝見すると、キャリア採用の割合が目立って増えていますね。

柳澤氏:新卒採用の数は安定的に拡大し、キャリア採用は直近5年で急拡大しており、倍増したと言っても過言ではありません。その理由は二つあります。

一つはビジネスの成長スピードに合わせて、即戦力人材が必要になったこと。

二つめは昨今のITソリューションの事業において、お客さまのビジネスモデルや経営の領域に関わる仕事が多くなり、特化した専門性が必要となっていることです。

それぞれの業界にはそれぞれの「当たり前」があり、さらに個々の企業における「暗黙知」があります。その業界に精通したエキスパートが必要ということで、2018年ごろから積極的にキャリア採用を行ってきました。キャリア採用にて入社した社員は、これまでの経験を活かして当社の期待に応えるようにしっかりと活躍してくれています。

――業態を踏まえると、専門的な知識のみならず、社会の動きにもアンテナを張る必要があると思います。NRIのこれまでの成長には個々の活躍が不可欠だったと思いますが、社員の学びやリスキリングについてはどのように取り組んでおられますか。

柳澤氏:DXは業務のデジタル化からビジネスモデル変革の段階に入っております。さらにその先も見据えているため、学びを深め、常に知識やスキルをアップデートしていく必要があります。

世の中では「リスキリング」という言葉もよく聞かれますが、NRI社内では、これまで培ったスキルを捨てるのではなく、それもフルに活用しつつ新たなスキルをプラスするという考え方、「+DX」というコンセプトで、社員の自主的な選択による学びを促進しています。

IT系の社員も、コンサルタント系の社員も、それぞれの領域における最新情報やスキルの獲得にとても貪欲です。さらに、インプットした情報や獲得したスキルを「シェアしたい」という気持ちも強く、社内で自主的な勉強会を開催して共有する場面がよく見られます。

もちろん、社内には資格取得や語学力向上の費用負担などの仕組みもあるのですが、それ以前に、学びに対するモチベーションが高く、自発的に学び合うカルチャーが根付いていることがNRIの強みでしょう。

――自発的・主体的に学ぶカルチャーはどのように形成されたのでしょうか。

柳澤氏:好奇心が強く、新しいことにチャレンジすることが好きな人が集まっている組織ではあります。仕事の仕方を見ていると、「同じタスク」「同じ作業」をやっているようでも、「もっと良くならないか」「もっとお客さまのためにできることはないか」と少しずつ工夫をし、課題に向き合っている社員が多くいます。

そうした先輩社員の姿勢を後から入ってきた若手社員が倣い、受け継がれているように思います。

NRIでは挑戦的な仕事の割り当てを積極的に行っており、若いうちから責任のある役割を担うことも多いです。経験の浅い社員を周囲が積極的に支援する風土と、お客さまに対して高い品質のソリューションを提供できるように、マネジメントする仕組みがそれを可能にしています。

また、インターンシップやOB・OG訪問ではNRIの社員に魅力を感じて入社を志望する人が多く、「人が人を呼ぶ」という好循環も続いています。

――素晴らしい循環ですね。社員に向けて日常的に出しているメッセージはありますか?

柳澤氏:人材開発という領域からは、「プロフェッショナルであれ」「専門性を持て」と伝え、「挑戦」という言葉をよく使っています。

また、企業理念の中にある「お客さまとともに栄える」という言葉は社内によく浸透しており、意識を会社の外に向けて広い視野を持ち、良い意味でのプライドを持っている社員は多いと思います。

例えば、社内のシステム開発会議では、「このクオリティーで次のステップにはいけるのか」という点を厳しく精査されます。お客さまの大切な課題に取り組ませていただいているという意識があり、会議でも高いクオリティーが求められるため、学びを誘発している側面もあるようです。

――人事制度で何か特筆すべき点は?

柳澤氏:NRIの層の厚いスペシャリスト(プロフェッショナル人材)は、当社の強みでもあります。そのため、新たな人事制度ではマネジメントではない「エキスパート」のキャリアパスを明確化しました。専門分野を持ったスペシャリストの育成を推進し、活躍するためのフィールドが多数用意されています。

――「出世して管理職になる」という道だけではなく、「スペシャリスト」として専門性を深めるキャリアパスもあるわけですね。

柳澤氏:そうですね。また、新制度は「役割等級制」を採用しています。これは役割の大きさで職階が決まるというもので優秀な若手を抜擢登用できるようになりました。

――最近は「ダイバーシティー」などのキーワードもありますが、NRIではどのような施策を取り入れていますか?

柳澤氏:昔は、個々人の能力とやる気を考慮して仕事を割り当てていくケースが大半でした。ある意味平等で、私自身も「女性だから」という理由でやりたい仕事をさせてもらえないといったことは全くありませんでした。

ただ、個々のライフステージや事情よっては、新たな挑戦を望みながらも、自信を持って手を挙げられない、あるいは誘われても断ってしまう人がいます。そのため、最近は一人一人の背景に寄り添って働きやすい環境をつくり、それぞれが働きがいをもって従事できる制度や仕組みを整えています。

具体的には、マネジメント層の男女割合、男女採用比率の課題を解消すべく、女性活躍のための施策を実施したり、障がい者の活躍支援をしたりするなど、多様な人材が活躍できるような取り組みを幅広く実施しています。

また、去年の秋は全社員に「充実のワーク・イン・ライフ」という話をしました。

「ワーク・ライフ・バランス」からは、ワークとライフが別個のもの、相反するものであるかのような印象を受けますが、生活・人生を豊かにする上で、仕事は大切な要素です。より良い環境で仕事をするために、社員の要望を前向きに検討したいと考え、2023年度は声を聞くために各現場を回っていきたいと思います。


野村総合研究所の長期経営ビジョンと人事戦略

――NRIが描く「未来」についてお聞かせください。

柳澤氏:NRIは設立以来、「未来社会創発企業」として先を見据えた事業を展開しています。

長期経営ビジョン「Group Vision 2030」では「事業×地域の拡大」を目標に掲げ、売上収益は1兆円超、海外売上は2500億円超、営業利益は20%以上へ伸ばすことを数値目標にしています。

お客さまのDX戦略に深く関わるNRIは、社内でも業務デジタル化からビジネスモデル変革、そして社会課題の解決を目指します。DXでは3つの段階を想定しており、それぞれ「DX1.0」「DX2.0」「DX3.0」と定義しています。

「DX1.0」・・・既存ビジネスの業務プロセス変革に寄与するDX
「DX2.0」・・・デジタルで新しいビジネスモデルそのものを生み出すDX
「DX3.0」・・・社会課題を解決し、パラダイム変革を実現するDX

2022年度までの中期計画の中では「DX1.0」から「DX2.0」にチャレンジし、着実に成果が出始めています。2023年度からの次の中期計画においては、さらに、その先の「DX3.0」を見据えています。

――長期経営ビジョンでは、さらなる成長も見込まれています。人事の戦略・施策として、今後注力したいこと、課題などがあればご提示ください。

柳澤氏:一つには、DXをリードできる人材をもっと増やしていかなければならないと感じています。

「DX2.0」「DX3.0」ではお客さまに言われたことだけをやる、あるいは顕在化している課題を解くのではなく、課題を発見し、こちらから働きかけてお客さまの新しいビジネスモデルやエコシステムを実現させ、さらにはさまざまなパートナーとの共創を通じた社会課題解決を仕掛けていく必要も生じます。

私たちは「お客さまとともに栄える」という言葉を使っていますが、長期経営計画の中には社会課題をも包摂しており、お客さまとその先にある社会という広い視野が必要です。

また、今後はオーストラリアだけでなく北米においてもITサービスを展開していく計画です。グローバルを舞台に活躍できる人材として必要なスキルや資質を見定めた上で、足りないところを補強していかなければなりません。

――最後に、人事・人材開発ご担当者として、今後の展望をお聞かせください。

柳澤氏:ビジネス環境やお客さまの求めるものは、常に変化しています。

NRIはこれまでも変化してきましたが、お客さまのニーズや環境変化に応じてこれからもビジネスモデルを変えていかなければなりません。人事や人材戦略においても、10年後を見据えた取り組みを重ねていきたいと思います。

――ありがとうございました。

(聞き手:パーソルイノベーション株式会社 取締役執行役員 大浦征也)

【取材後記】
1988年に野村総合研究所が設立された際、当時の田淵社長は「いずれ、ビジネス、経営、システムITが融合しなければならない時代が来る。その答えは30年後にわかる」と述べていたという。その選択の正否については言及する必要もないほど明確だが、長期にわたる底堅い成長を支えてきたのがNRIの「人的資本」である。

同社の過去のジャーナルでは「人的資本経営」について、以下のように記述されている。

「教育」や「投資」以前に、「一個人の多面性を生かす」という前提が重要なのだと気付かされた取材となった。

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

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