リテンションとは?離職リスクを低下させるための具体的な施策を紹介

d’s JOURNAL編集部

リテンションは、「維持や保持」という意味を持つ英語です。人事領域においては、「人材の流出を防ぎ、自社で継続的に活躍してもらうための方法」を指しており、持続可能な組織づくりを行ううえで欠かせない観点といえます。

この記事では、リテンションの定義や目的・重要性について解説します。また、主な施策としてどのようなものがあるのか、具体的な種類もあわせて見ていきましょう。

リテンションとは

リテンションとは、保持や維持を意味する英語であり、ビジネスシーンでは「人材の確保」や「顧客の維持」を意味する言葉として用いられています。ここでは、リテンションの具体的な定義と目的について見ていきましょう。

人事領域におけるリテンションの定義

リテンションという言葉が使われるのは、主に人事領域とマーケティング領域の2つであり、細かな意味合いには違いがあります。

人事領域においては、人材の確保という意味で用いられており、特に「優秀な人材を企業内に留め、継続して活躍し続けてもらうための取り組み」のことを指します。

一方、マーケティング領域においては、「既存顧客と継続的な関係を維持していくためのマーケティング活動」を指すことが多いです。こちらは、リテンションマーケティングとも呼ばれ、顧客との良好な関係づくりによって安定的な利益を獲得することを目的に行われる施策です。

この記事では、前者の「人事領域におけるリテンション」をテーマに、目的や必要な施策などを詳しく解説します。

リテンションの目的

リテンションの目的は、「優秀な人材の社内確保」にあります。自社に所属する人材を流出させないために、会社や組織が主体となって働きかけを行い、長期継続的に活躍してもらうのが主な目的です。

いったん人材の流出が起これば、新たに人材を雇い入れるコストや、育成するためのコストが必要となり、自社にとっては大きな損失につながります。また、基幹業務の停滞・企業機密の漏えい・既存顧客の流出といったリスクも生じてしまいます。

こうした事態を防ぐために、日ごろからリテンションマネジメントを行い、自社の従業員にとって働きやすい環境を整えることが重要となるのです。

リテンションが注目される理由

リテンションの重要性が高まっている背景には、少子高齢化や団塊世代の大量退職による深刻な人手不足があります。日本では生産年齢人口の減少が続いており、売り手市場化が長引いていることから、人材の確保が主要な経営課題となっている企業も少なくありません。

また、終身雇用制度の崩壊にともなう転職市場の活性化により、従来よりも人材の流動化が起こりやすくなっている点も大きく影響しています。

優秀な人材が必ずしも自社に残り続けてくれるとは限らないため、利益損失を防ぐためにリテンションの重要性が注目されるようになっているのです。

リテンション施策の種類

人事領域におけるリテンション施策は、大きく「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」の2種類に分けられます。ここでは、それぞれの具体的な内容について解説します。

金銭的報酬

金銭的報酬には、「個人の能力に応じた給与システム」「インセンティブ」「ストックオプション」「福利厚生の充実」などがあげられます。優秀な人材の流出を避けるためには、個人の能力に応じた柔軟な給与システムを設け、モチベーションの低下を防ぐことが大切です。

また、成果に応じたインセンティブの設定、ストックオプション制度の導入、福利厚生の充実なども、金銭的な対価による代表的なリテンション施策といえます。しかし、金銭的報酬には限界があり、仕事に対する価値観が多様化している現代では、必ずしも有効な施策になるとは限りません。

多用な人材を自社で確保し続けるには、後述する非金銭的報酬と組み合わせて、施策の効果を高める工夫が求められます。

非金銭的報酬

非金銭的報酬には、「充実した就業環境の整備」「ワークライフバランスの実現」「スキルアップのサポート」「キャリア形成のサポート」などがあげられます。充実した就業環境の整備としては、「リモートワークの導入」「フレックスタイム制の導入」などが代表的な例です。

また、休暇を取りやすい社風や子育てとの両立サポートなど、ワークライフバランスの実現も重要な施策です。それ以外には、資格や特殊スキルの取得のサポート、従業員一人ひとりに合わせたキャリアサポートなども、有効な非金銭的報酬に含まれます。

非金銭的報酬は定量化が難しい分、自社ならではの特徴や魅力を生み出しやすいため、適切な施策を実行できれば人材の定着につながる可能性は高くなります。

リテンション強化で得られる3つのメリット


離職率の低下による採用コストの引き下げ

従業員の離職が続けば、当然ながら企業にはさまざまなデメリットが発生します。特に、採用コストと育成コストの負担増は、企業の規模を問わず、大きな損失につながる問題です。

具体的な費用としては、人材紹介会社などへの高額な手数料、離職や採用にかかわる事務的コスト、引き継ぎなどで発生するコストや労力のロス、人材育成コストなどの多岐にわたる項目があります。

リテンション施策の導入によって離職率が低下すれば、これらの人材に関するコストを引き下げることが可能となります。

社内のスキル管理やノウハウの蓄積

離職によって頻繁に従業員が交代すれば、それまで培ってきたノウハウやネットワークが流出しやすくなってしまうというデメリットも生じます。

特に規模の小さな職場、組織では、重要なスキルや経験、細かなノウハウが、組織全体ではなく特定の従業員個人に蓄積されているというケースもめずらしくありません。

そうした状態では、離職するメンバーが1人であっても、組織に大きなダメージをもたらしてしまう可能性もあるでしょう。リテンション強化によって人材の流出を防げば、こうしたデメリットの解消にもつながります。

(参照:『ナレッジマネジメントとは?意味や目的、実践のポイントを解説』)

安定的な長期事業戦略が実行できる

前述のように、売り手市場が続く現代のビジネス環境では、人材不足が企業の経営状況を悪化させる原因にもなりかねません。リテンション強化を行い、必要な人材が安定的に確保できている状態を保てれば、企業経営そのものも安定させることが可能です。

さらに、優秀な人材は周囲の従業員にもよい影響をもたらします。部下や後輩のお手本として活躍してもらうことで、後に続く従業員もキャリア形成を描きやすくなるなど、自社に対する魅力を感じてもらえる可能性が高まります。

リテンションを強化する7つの施策


具体的なリテンション強化の施策には、さまざまな選択肢があります。複数の方法を組み合わせることもできるので、自社の実情や従業員の性質に応じて、最適なものを見つけることが大切です。

ここでは、7つの代表的な施策についてご紹介します。

従業員のスキルアップ支援

スキルアップ支援は、従業員に対して、自社での働き方に手ごたえを感じてもらうのが目的です。特に優秀な人材は自身のキャリアについて高い意識を持っているため、スキルアップ支援を充実させ、成長の実感を得てもらうことが重要となります。

具体的には、「キャリアパスに関する相談窓口の設置」「専門的スキルの向上に関するサポート体制の充実」などの施策があげられます。

従業員のスキルアップに力を入れれば、仕事に対する意欲が高まりやすくなるだけでなく、組織全体のパフォーマンスも向上していくのがメリットです。

従業員のキャリアアップ支援

スキルアップ支援に加えて、キャリアアップ支援も組み合わせることで、さらに大きな効果が期待できるようになります。具体的な施策としては、「社内公募制度の確立」や「社内FA制度の構築」などがあげられます。

従業員のモチベーションや強みに応じて、さまざまな活躍の機会を用意してあげることで、高い能力を持った従業員にも確かな帰属意識を持ってもらえるようになるでしょう。

また、「研修やセミナーの実施」「面談によるキャリアマップの形成」など、キャリアについてじっくりと見直せる機会を設けるのも効果的です。

給与体系や人事評価制度の見直し

給与体系や人事評価制度の改善は、従業員のモチベーションを直接的に左右する重要なテーマです。現状の体制を見直し、問題点や改善できそうなポイントがないかを探りながら、必要に応じた修正を行いましょう。

また、現在のシステムに加えて、新たな仕組みを導入するのも一つの方法です。具体的には、「企業業績への貢献度に応じた報酬の仕組みをつくる」「サンクスカードなどを活用して360度評価システムをつくる」といったものがあげられます。

人事評価制度の改善も同時に行うことで、従業員にとって働きがいのある職場環境を整えやすくなるでしょう。

他部門への異動・人材交流

非金銭的報酬を用いたリテンション施策には、従業員に多様なチャンスを用意するといった考え方も重要です。たとえば、能力や希望のキャリアに応じて定期的な異動を行い、新たなチャレンジの場を提供するといった方法です。

さまざまな業務内容や環境に触れてもらうことで、自社で活躍するイメージを幅広く描いてもらえるため、従業員の帰属意識を高めやすくなります。また、普段とは異なる刺激を与えるという意味では、他部門と人事交流ができる機会を設けるのも効果的です。

社内コミュニケーションの強化

社内の人間関係は、従業員の定着率と大きくかかわるポイントです。そのため、社内コミュニケーションを活性化させることも、有効なリテンション施策の一つといえるでしょう。

コミュニケーションを充実させることで、「組織の連帯感が強まる」「上司から部下へのフィードバックが行いやすくなる」「立場や業務の垣根を越えて柔軟に意見交換ができる」といったメリットが生まれます。

その結果、組織全体の実力が高まり、従業員個人の意欲向上にもつながっていくのです。

ワークライフバランスの実現

自社を長く働いてもらえる企業へ発展させるためには、理想的なワークライフバランスの実現も重要なテーマとなります。具体的な検討課題としては、「時短勤務の導入」や「フレックス制度の導入」「リモートワークやテレワークの実施」「各種休業制度の拡充」などがあげられます。

ただし、ワークライフバランスに対する希望は、従業員それぞれ異なると考えておくことも大切です。妊娠・出産、育児といった目に見える変化とともに、個人や家庭の事情も丁寧にくみ取れるような時間をつくり、一人ひとりに合った働き方を提示できるのが理想といえるでしょう。

なお、フレックスタイム制については以下の記事で詳しく解説されているので、気になる方は参考にしてみてください。
(参照:『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介』)

職場の環境整備

リテンション強化を検討するうえで、意外に見落としてしまいがちなのが、職場の環境整備です。従業員が気持ちよく働ける職場を保つためには、基本的な衛生環境やオフィスの整理整頓を行うことも大切です。

具体的なポイントとしては、いわゆる「職場の5S活動」に該当するものがあげられます。5Sとは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の頭文字であり、快適な職場環境を整えるための改善活動を表しています。

必要なものと不要なものを区別する「整理」、必要なものを使いやすい場所に配置する「整頓」、掃除と点検によって快適な環境をつくる「清掃」、衛生的な環境を保つ「清潔」、ルールや規律の習慣化を示す「しつけ」を意識することで、働きやすく健康的な職場環境を保てるようになるでしょう。そのため、リテンション強化の第一歩として、5Sに着目することも重要です。

従業員の離職リスクを把握する方法


繰り返しにはなりますが、リテンションの目的は優秀な人材の流出を防ぎ、自社で継続的に活躍してもらうことにあります。そうした意味では、従業員が離職を考え始めたときに、そのサインにできるだけ早く目を向け、適切に対処していくことも大切です。

ここでは、従業員の離職リスクをできるだけ早い段階でつかむために、具体的に何をすべきかについて見ていきましょう。なお、離職の原因について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
(参照:『離職の主な原因8種類をまとめて紹介!企業が取るべき対策もあわせて解説』)

コミュニケーションが薄くなっていないかをチェックする

従業員が離職を考え始めた兆候の一つに、コミュニケーションの希薄化があげられます。特に、従業員同士で以前よりも接点が少なくなってしまっている場合には、要注意のサインとして認識しておくとよいでしょう。

また、「従業員間でネガティブなコミュニケーションが起こっていないか」「モチベーションの低下に関する発言が見られないか」などもこまめにチェックすることが大切です。それ以外のポイントとしては、「挨拶の仕方」や「身だしなみ」などについて、以前と変わった点がないかどうかも一つのサインとなります。

こうした兆候が見られた場合には、手遅れになってしまう前に対策を行うことが大切です。1on1ミーティングなどの機会を設け、従業員が抱えている悩み事を丁寧に聞き、必要に応じて改善の提案をすることで、離職を考え直してもらえる可能性も大いにあります。

勤怠状況ログの分析

離職を考え始めているサインとして、「遅刻や欠勤が増えている」というものがあげられます。勤怠状況の悪化は、その従業員のモチベーションが低下していることを表すサインにもなるため、日ごろから丁寧に管理しておくことが大切です。

しっかりと勤怠管理が行われていれば、休日出勤や残業が多くなっている従業員の存在も見逃さずに対処できるようになります。特に優秀な人材には、自然と業務が集中してしまう傾向もあるため、過度な負担が発生していないかどうかはこまめに確認しておきましょう。

過去の離職者との類似点を見つける

離職のサインを見逃さないためには、過去の離職者が自社を離れてしまった原因を分析することも大切です。そのうえで、類似した状況が発生していないかどうかを確認することで、新たな従業員の離職を予防できるようになります。

たとえば、「離職者と類似した職場環境にいる」「離職者と同じポジションや職種に就いている」といった従業員がいる場合、特に注意を払う必要があります。定期的にミーティングの場を設け、過度なストレスやプレッシャーがかかっていないかを確認したり、周りの従業員へ負担を分散させたりする工夫が重要です。

まとめ

リテンションは社内に優秀な人材を定着させ、企業経営を持続的に発展させていくための重要なテーマです。具体的なアプローチには、金銭的報酬と非金銭的報酬の2種類があり、どちらも組み合わせて実行するのがポイントとなります。

まずは、自社で働く従業員の声に耳を傾け、社内の仕組みに改善できる点はないかを探ってみましょう。一つずつ問題を解消していくなかで、人材が流出しにくい安定的な組織を築いていけるのです。

また、リテンション強化に向けた取り組みは、社内のコミュニケーションを充実させたり、従業員のモチベーションを向上させたりする効果があります。結果として、組織の生産性そのものを強化することにもつながるため、積極的に取り組んでいくとよいでしょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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