スキルマップとは?導入するメリットと作成方法、活用例を紹介【テンプレ有】

d’s JOURNAL編集部

人材育成や人材配置などの計画を立てる際には、従業員それぞれのスキルやポテンシャルを適切に把握しておく必要があります。このときに役立つのは、個人のスキルをデータ化して管理する「スキルマップ」です。

この記事では、スキルマップの概要と導入する主なメリット、作成方法、活用例などをまとめてご紹介します。

スキルマップとは

スキルマップとは

「スキルマップ」とは、各従業員の能力やスキルを客観的な基準によって数値化し、可視化した評価のことです。業務を担当するうえで必要なスキル・能力に関する項目が複数にわたって設けられ、それぞれについて数字で評価が記載されるため、各メンバーの業務遂行能力が一覧でわかる仕組みとなっています。

海外の企業ではスキルマトリックスとも呼ばれており、国内企業でも力量表や力量管理表といった名称で扱われることがあります。それぞれのスキルについては、数字による段階評価を行うケースだけでなく、「〇△×」などの記号で評価する場合もあり、企業にとって取り扱いはバラバラです。

スキルマップの目的

スキルマップはどのような目的で作成されるものなのでしょうか。ここでは、スキルマップの役割を3つに分けてみていきましょう。

能力の可視化

スキルマップの直接的な目的は、従業員それぞれが持つ能力の見える化にあります。個人の能力を客観的な指標で評価し、誰でも簡単に現状を把握できるようになることで、人材管理の効率を上げるのが主な役割です。

各メンバーがどのような能力を持っているのか、そのスキルを業務のどのような場面に活かせるのかなどは、スキルマップが作成されていれば簡単に把握できます。また、組織やグループのなかに、必要なスキルを持った人材が何人いるのか、不足している人員はどのくらいなのかなども端的に理解することができます。

さらに、明確な評価基準を設ければ、主観によるブレを防ぐことも可能です。

効果的な人材育成の実現

スキルマップがあれば、個人の従業員がそれぞれどのようなスキルを持っているのか、現在地を客観的に把握することができます。それぞれの強みを端的に把握できるため、適材適所な人材配置が可能になるのがメリットです。

そのうえで、求められるレベルに達していないスキルがあれば、個人の実情に応じて最適な訓練の機会を設けることもできます。適したタイミングで適した内容の教育を行うことで、個人のスキルアップがスムーズに行え、組織全体の人材育成も効率化されていくでしょう。

また、スキルマップでは、部署単位や会社全体のスキルの状態を把握することも可能です。部署ごとにスキルの習熟度に共通の傾向がみられるようであれば、まとめて弱点となっているスキルの研修機会を設定するなどのアプローチも行えます。

組織全体のスキルが向上すれば、生産性の向上や業績の拡大につながるため、企業を成長させるきっかけともなるのです。

従業員のモチベーション向上

スキルマップを作成するもう一つの目的は、従業員それぞれのモチベーション向上にあります。それぞれの能力が明確に提示されるため、従業員全体に公開されれば、自然と競争心が芽生えていきます。

また、スキルマップはそのまま人事評価にも用いられるため、自身のキャリアアップのために何をすればよいかが明確になるのも大きな効果です。得意な分野を伸ばすべきか、弱点を補強すべきかをハッキリと示せば、向上心を引き出しやすくなるでしょう。

さらに、スキルマップには、それぞれの努力にきちんとスポットライトが当たっている実感を与えやすいという効果もあります。上司や評価担当者が自身のスキルを客観的にみてくれていると感じれば、それぞれがやりがいを持って業務やスキルアップに努められるようになるはずです。

従業員のモチベーション向上について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

【1分で解説】モチベーションアップには何が必要?従業員のモチベーションを上げる5つの方法

スキルマップが注目される背景

スキルマップの概念そのものは、決して新しいものではありません。製造業などでは古くから用いられており、人材配置などに活用されていました。

そのうえで、近年ではその他の業界でもスキルマップへの注目度が高まっています。その理由として考えられるのが、DXに代表される急速なビジネス環境の変化です。

IT技術の進歩やDXの推進などにより、企業を取り巻く環境は目まぐるしい変化を続けています。特に、現代は先行きが不透明で将来の予測が困難とされる「VUCA時代」に突入しており、これまで通用していた技術や商品が突如として競争力を失ってしまうケースもめずらしくありません。

こうした環境下において、企業や組織にあっては変化を柔軟に受け入れ、速やかに対応していく必要性が大きくなっています。そして、変化に負けないためには、現状を正確に把握したうえで、素早く戦略の転換を行わなければなりません。

そこで、スキルマップによるシステマチックな従業員評価が重要になってくるのです。たとえば、IT分野におけるスキルを把握しておけば、新たなデジタルツールやシステムを導入した際に、従業員のレベルに応じた配置や教育が可能となります。

このように、企業や組織が競争力を失わないために、スキルマップは重要な羅針盤となるのです。

スキルマップが導入されやすい業界

スキルマップはさまざまな企業で活用することが可能ですが、ここでは特に相性がよいとされる業界・業種についてご紹介します。

メーカー

前述のように、製造業は古くからスキルマップが導入されてきた業界であり、製造部門や技術部門などで広く活用されています。高度な技術力や専門性が求められる業種であり、求められるスキルを整理しやすいことから、スキルマップによる徹底的な管理が重要とされるのです。

社内のスキル管理が行われていれば、取引先からの要請にも応えやすく、法律や社会的な要請の変化にも対応しやすくなります。なお、製造業においては、加工や組み立てといった各業務フローに合わせて必要なスキルが洗い出され、スキルマップに落とし込まれていくケースが多いです。

IT業界・建築業界

IT業界や建築業界は、近年スキルマップの導入が進んでいる分野の一つとされています。製造業と同じように、業務の遂行には専門性と技術力が求められることから、スキルマップとの親和性が高いのです。

特にIT業界では最先端のシステムやツールを導入する機会が多く、定期的なスキルのアップデータが求められる点も、スキルマップが重要とされる理由の一つです。IT業界においては、後述する公的機関によるスキル評価基準が整備されていることもあり、比較的に導入もしやすいといえます。

スキルマップを作成する基本のステップ


スキルマップを作成する際には、手順を意識して取り組むことが大切です。ここでは、基本となるプロセスを6つに分けてご紹介します。

スキルマップを導入する目的を明確にする

スキルマップを有効活用するためには、導入する目的を明確にすることが大切です。たとえば、人事評価をスムーズに行うことに重点を置くのであれば、現時点における各自の業務遂行能力を中心に評価項目を設定していく必要があります。

それに対して、将来を見据えた人材育成を目的とするのであれば、現時点での能力とともにそれぞれの適性やポテンシャルなどにも目を向けなければなりません。そのため、スタートの段階である程度の導入目的を検討し、運用の方向性を定めておくとよいでしょう。

業務の洗い出しと整理を行う

続いて、スキルマップを導入する部門ごとに、具体的な業務の洗い出しを行いましょう。職務上で発生する業務を種類別に分類し、難易度などに応じて階層分けしておくと、スムーズに評価項目を設定しやすくなります。

スキルマップの項目を決める

全体的な業務の洗い出しが完了したら、それに応じてスキルマップの項目を設定していきます。各スキルの分類は、大きな業務項目から細かな作業項目へと枝分かれさせていくのがコツです。

たとえば、カスタマーサポートを行う部門でオペレーターの業務をスキルマップに落とし込む場合、大きな業務項目でみれば必要なスキルは「電話対応力」と表現できます。そこからさらに細かな作業項目へ分類していき、「状況把握能力」や「問題解決能力」といったスキルに枝分かれさせていくと、スムーズに評価項目を決めやすくなるでしょう。

また、製造業やIT関連業であれば、技術や製品の種類によって分類するのも一つの方法です。

評価基準を設定する

スキルマップの項目が定まったら、それぞれの評価基準を設定していきます。評価の方法には、前述のようにさまざまなパターンがありますが、1~4の4段階で設定するのが一般的であり、利便性も高いです。

もっとも高いレベルを4と設定し、そこから業務の種類に応じた難易度分けを行って、1~4までの階層に分類していきましょう。

テストを行う

スキルマップが完成したら、すぐに本格的な導入を始めるのではなく、対象者を絞り込んでテストを行うことが大切です。トライアルを行い、効果測定や意見交換をするなかで、作成の過程で見落としていた部分に気がつくことも少なくありません。

そのうえで、より精度の高い検証を行うためには、評価する側とされる側の双方から意見を求めることが大切です。評価を行う管理職者だけでなく、評価を受ける従業員の意見にも目を向けることで、評価項目や難易度設定の妥当性を見極めやすくなります。

マニュアルをつくって運用をスタートする

トライアルによってスキルマップの改善を行ったら、マニュアルを作成し、本格的に運用を始めましょう。マニュアルについては、スキルマップの活用方法や見方とともに、導入に至った経緯や目的も記載しておくのがおすすめです。

何のために作成されたのかが明記されていれば、運用業務を引き継ぐ際に、取り組みが形骸化してしまうのを予防できます。また、運用を始める前には、取り組みの内容と目的を全従業員へ丁寧に共有することが大切です。

スキルマップの効果は対象の部門やチームの事情によっても異なるため、導入後も管理職と従業員からのヒアリングを行い、問題点がないかを細かくチェックしましょう。そのうえで、必要があれば内容や基準をブラッシュアップし、その都度マニュアルの改訂も行うことが大切です。

スキルマップの項目例


スキルマップの項目は、対象となる業種・職種によっても異なります。ここでは、具体的なケースとしていくつかの業界に焦点を当て、項目の設定例をみていきましょう。

エンジニア職の場合

エンジニア職においては、特にプロジェクトを立ち上げる際にスキルマップが活用されます。メンバーの選定や技術水準の管理を行ううえでは、従業員のスキル把握が欠かせないプロセスとなるためです。

エンジニアに求められる主なスキル例としては、次のようなものがあります。

・プログラミング言語の習熟度
・データベースの取り扱い
・マネジメント能力
・リーダー能力

また、エンジニアのような技術職では、評価基準を次の4段階に分けることも多いです。

・レベル1:補助が必要
・レベル2:指導を受けながらできる
・レベル3:1人でできる
・レベル4:指導ができる

このようにそれぞれの習熟度を分類しておけば、人材育成を踏まえた組織づくりが行いやすくなり、チーム全体の成長スピードを向上させることが可能となります。

営業職の場合

営業職の場合は、定量化しにくいスキルも多いため、各項目の設定には十分な検討が必要となります。主なスキル例としては、次のようなものがあります。

・顧客把握力
・交渉力
・自律性
・商品知識
・計画能力
・積極性
・コミュニケーション能力

ただし、営業に求められる能力は、企業の戦略やビジョン、取り扱う商材によっても異なります。スキルマップの項目を決める際には、現場の意見にも耳を傾け、柔軟に検討することが重要です。

事務職の場合

事務職の場合は、業務がある程度のルーティン化される面もあるため、比較的にスキルマップを作成しやすいといえます。たとえば、経理部門であれば、次のようなスキルが基本となります。

・出納業務
・会計業務
・財務諸表の作成・分析
・資産運用に関する知識
・税金関連の知識
・資格に関するレベル

ただし、個々の従業員がどの範囲までの業務を担うのかは、企業の規模や人員によっても異なります。自社の実情を反映させたスキルマップを完成させるためにも、業務の洗い出しを丁寧に行うとよいでしょう。

テンプレートの活用がおすすめ

スキルマップの作成については、公的機関が用意しているテンプレートを用いるのもおすすめです。ここでは、3つのテンプレートをご紹介します。

厚生労働省のテンプレート

厚生労働省の「キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード」では、職種別・業種別にテンプレートをダウンロードすることができます。具体的な種類は次の通りです。

事務系職種
・人事・人材開発・労務管理・生産管理・ロジスティクス
・経営戦略、情報システム、営業・マーケティング・広告
・企業法務・総務・広報、経理・資金財務、経営管理分析・国際経営管理、貿易

業種別
・エステティック業
・警備業
・葬祭業
・ディスプレイ業
・外食産業
・フィットネス産業
・卸売業
・在宅介護業
・スーパーマーケット業
・電気通信工事業
・ホテル業
・ビルメンテナンス業
・アパレル業
・ねじ製造業・旅館業
・ウェブ・コンテンツ制作業

このように、幅広い職種・業種にわたって「キャリアマップ」と「職業能力評価シート」が用意されているので、汎用性が高いのが魅力です。各キャリアマップは、それぞれレベル1~4までに階層分けされており、各ステップに到達するまでの目安年数も示されています。

テンプレートを直接活用することは考えていなかったとしても、スキルマップを作成するうえで参考になるポイントが多いため、一度は目を通してみるとよいでしょう。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のテンプレート

IT分野のスキルマップを作成する場合は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が用意している「情報システムユーザースキル標準(UISS)と関連資料のダウンロード」を参考にするのがおすすめです。情報システムに関するスキル標準を客観的に示したものであり、「使いやすさ」と「わかりやすさ」を重視して作成されているため、導入しやすいのが特徴です。

当サイト『d’s JOURNAL』のテンプレート

当サイト『d’s JOURNAL』でも、スキルマップの作成に役立つテンプレートを無料でダウンロードできます。人材育成に役立つ「人材スキルマップ管理表」や、人材育成のプロセスの可視化・管理に使える「DX対応職種別 人材育成スキルマップ管理表」のダウンロードが可能です。

それぞれのテンプレートを活用することで、スキルマップの作成を効率よく進めてみましょう。気になる方は以下のリンクから、無料テンプレートをダウンロードしてみてください。

スキルマップの活用方法

スキルマップを作成するメリットについては、すでに前述した通り、「能力の可視化」や「人材育成効率の向上」「従業員のモチベーション向上」にあります。そのうえで、具体的にはどのような活用例が考えられるのでしょうか。

ここでは、スキルマップの代表的な活用方法をみていきましょう。

従業員育成に用いる

スキルマップでは、従業員一人ひとりについて客観的な現状把握を行い、伸ばすべきスキルを見極めることができます。不足しているスキルがある従業員については、同じような弱点を持つ従業員をまとめて、適切なタイミングで研修を行うなどのフォローが可能です。

さらに、特筆すべき長所がある従業員に対しては、積極的に能力を発揮できる分野へのキャリア形成をアドバイスすることもできます。このように、スキルマップは従業員育成のさまざまな場面で有効活用できます。

また、教育担当者を設定する際には、双方のスキルマップを照らし合わせて、相性のよい組み合わせを探るといった使い方も一つの方法です。

採用計画に用いる

スキルマップは、組織全体の現状を把握するのにも活用できます。従業員個人の縦軸ではなく、各スキルのレベルを横軸でみれば、組織の強みや弱点を客観的に見極めることができるのです。

不足しているスキルやポジションが明らかになれば、そのまま採用計画に活かすこともできます。たとえば、新規プロジェクトを立ち上げる際には、どのようなスキルを持った人員がどのくらい足りていないかを計算できるため、採用目標をスムーズに決めることが可能です。

反対に、スキルマップから採用ペルソナを固めれば、「採用担当の主観によって同じようなタイプの人員ばかりが集まってしまう」という事態を防ぐこともできます。

評価制度の策定に用いる

スキルマップは、人事評価制度の策定にそのまま活用することができます。通常の場合であれば、評価を担当するのは特定の管理職者であり、結果にはどうしても個人の主観が入り込んでしまう余地があります。

その結果、適切な評価が行われず、従業員間で不公平感が生まれたり、上司への不信感が芽生えたりしてしまうこともあるでしょう。スキルマップを評価に用いれば、客観的かつ公平な評価が行いやすくなるため、評価者の負担が大幅に軽減されます。

さらに、従業員からみても自身への評価に納得感が得られるため、きちんと結果を受け入れたうえでさらなる成長に活かすことができるのです。

まとめ

スキルマップには、従業員それぞれの能力を見える化し、適切な評価や人員配置を実現させる効果があります。また、従業員自身も自分の現状を把握できるため、さらなる成長へのモチベーションにつながるケースも多いでしょう。

スキルマップを作成するうえでは、業種・職種によっても必要とされる項目が異なるため、まずは厚生労働省やIPAのテンプレートを参考にしてみるのがおすすめです。

そのうえで、必要があれば自社の実情に合わせて内容をカスタマイズし、テスト運用なども行いながら精度を高めていきましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

人材スキルマップ管理表

資料をダウンロード