SMARTの法則とは?上手に活用するための4つのポイントや具体例を解説
d’s JOURNAL編集部
会社や組織の生産性を向上させるためには、単に労働力の増加を目指すのではなく、適切な目標設定を行うことが重要です。目標の質が高ければ、各従業員は自分の役割をハッキリと認識し、充実したモチベーションで仕事に取り組めるようになります。
この記事では、目標の質をチェックするための指標として、「SMARTの法則」と呼ばれる判定基準をご紹介します。
SMARTの法則とは
SMARTの法則は、目標設定の有効性を確かめるための考え方の一つです。ここではまず、SMARTの法則の基本的な意味や特徴について見ていきましょう。
SMARTの法則の概要
SMARTの法則とは、設定された目標の有効性を確かめる手段の一種です。SMARTはそれぞれ各指標の頭文字になっており、次の5つの要素に従って目標を検討すれば、効果的かつ現実性の高いゴールを設定できるという考え方です。
・Specific(具体性)
・Measurable(計量性)
・Achievable(達成可能性)
・Relevant(関連性)
・Time-bound(期限)
SMARTの法則は、1981年にコンサルタントのジョージ・T・ドランが論文を通して提唱したものであり、決して新しい概念ではありません。そのため、ビジネスシーンでは「時代遅れ」という評価を受ける面もありますが、目標設定における有効性は確かであることから、現代でも定番として用いられ続けています。
FASTの法則との違い
目標設定の考え方には、SMARTの法則以外にもさまざまな種類があります。代表的なものとしてあげられるのが「FASTの法則」です。
FASTの法則とは、マネジメントの専門家であるドナルド・サルとチャールズ・サルがマネジメント誌の「MITスローンマネジメントレビュー」で定義した法則であり、以下の4つの要素で目標の有効性をチェックする考え方です。
・Frequent(頻繁に)
・Ambitious(野心的な)
・Specific(具体的な)
・Transparent(透明性のある)
SMARTの法則との違いは、目標の位置づけや捉え方にあります。SMARTの法則は、実現可能な近い目標を設定することを目的としているのに対し、FASTの法則はより挑戦的な目標の設定に有効とされています。
それぞれにメリット・デメリットがあるので、時と場合に応じてふさわしい方法を選ぶことが大切です。
SMARTの法則による5つの目標設定基準
SMARTの法則では、設定した目標の有効性を測るために、「S」「M」「A」「R」「T」の指標の順にチェックしていきます。ここでは、各項目の具体的な内容について解説します。
Specific(具体性)
「S」は「Specific(具体性)」の頭文字であり、目標には具体性がなければならないことを示しています。目標が具体的なものであれば、人によって解釈が分かれることがなく、スムーズにゴールへの道筋を共有できます。
また、目標が明確に定まることで、従業員それぞれの貢献意欲が引き出されるため、組織全体のモチベーションも向上していくでしょう。たとえば、来年度の目標の一つとして「自社イベントの集客を成功させる」というゴールを設定した場合、成功の解釈は人によって大きく異なります。
そのため、情報共有やデータの捉え方にブレが生じ、チームとしての統制を保つのが難しくなります。Specificの観点に沿って、「〇〇のイベントに10,000人の来場者を募る」と具体化するほうが、チームとしての団結を図りやすくなるでしょう。
Measurable(計量性)
「Measurable」とは、設定した目標が「測定できるものか」「数値化できるものか」という意味を示しています。目標を達成するためには、誰が見ても評価が明らかになるように、客観的な指標を用いて実現できたかどうかを測れなければなりません。
たとえば、社内のコミュニケーション活性化の場合、「部下との面談に力を入れる」という目標を掲げたところで、後から進捗度や達成率を確認することは難しいといえます。本人の主観的な判断が入り混じってしまうため、正確な判定は行えません。
Measurableの要素を意識して、たとえば「週1回のペースで30分の1on1を行う」といった目標に修正すれば、誰が見ても達成率は明らかになります。達成率を正確に把握できれば、データをもとにPDCAを効率的に回せるようになるため、取り組みの質が自然と向上していきます。
また、従業員も「自分が何をどれだけ頑張ればよいか」を把握できるため、目標に対して主体的に取り組んでくれるようになるでしょう。
Achievable(達成可能性)
「Achievable」は、「その目標が達成可能なものであるか」確認すべきであることを示しています。仕事の目標を設定する際には、理想を追い求めるあまり、どうしても非現実的なゴールを見据えてしまいがちです。
組織管理においては、あえて到達が難しいような高い目標を掲げることで、全体の意識を強制的に引き上げるといった発想も考え方の一つではあります。しかし、明らかに達成不可能な目標を掲げても、従業員の前向きなモチベーションを引き出すことはできません。
努力しても結果につながらないという無力感が生まれ、主体的な行動を引き出せなくなったり、業務効率が悪化したりするケースもあります。SMARTの法則では、組織としての成功体験を重ねていくことも、目標設定における重要な観点として位置づけられています。
達成可能な目標を着実にクリアしていくことで、従業員の自信や前向きな意欲を引き出せるという考え方が、良質な目標設定の基本といえるでしょう。
Relevant(関連性)
「Relevant」とは関連性のことであり、対象の目標が「ほかの重要な目標と関連していること」の重要性を示しています。設定した目標をクリアすることで、その先に何があるのか、どんな成果をもたらすのかが明らかであれば、よりモチベーションを向上させやすくなるのがメリットです。
個人レベルの目標で考えれば、立てた目標を達成することで、組織や会社全体の利益にもつながるという状態が理想です。たとえば、資格の取得を目指すのであれば、それによって現在の業務や組織での動きにどのような利益をもたらすのかを明らかにしておくほうが、前向きな意欲を保ちやすくなるでしょう。
一方、会社や組織側から従業員個人の目標を設定するのであれば、目標達成によってボーナスアップや昇給といった明確な利益が約束されているほうがモチベーションは高まります。このように、その他の重要な目標と関連性を持たせることで、達成率も向上させやすくなるのです。
Time-bound(明確な期限)
目標設定を行う際には、「Time-bound(明確な期限)」を明確にすることも重要です。これまでご紹介した具体性や関連性などの要素を満たしていても、「いつまでに」という時間的な条件がなければ、モチベーションを維持することは難しくなります。
ダラダラと取り組みが先延ばしになり、目標そのものが形骸化してしまう可能性もあるでしょう。目標をきちんと組織の推進力に変えるためには、ゴールの明確な期限を決め、逆算しながら計画を立てられるようにすることが大切なのです。
そのうえで、「Time-bound」の要素を組み込む際にも、「Achievable」の考え方が重要となります。期限を決めるといっても、実現不可能なほど短期間なものであれば、目標の現実味がなくなってしまいます。
そうなれば、目標に対する意識そのものが低下してしまうリスクもあるため、期間の設定も慎重に行うことが大切です。最適なゴールラインを設定するためにも、まずは現状の組織力や生産性をきちんと把握しましょう。
SMARTの法則に沿って目標を立てるメリット
SMARTの法則に沿って目標を立てることには、実際にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは3つのポイントに分けて解説します。
評価基準を明確にできる
SMARTの法則に沿って立てられた目標は、具体的で数値化されており、誰が見ても到達度がわかるような客観性を持ちます。そのため、従業員の評価基準が明確になるのが大きなメリットです。
個人や組織の目標達成度は、人事評価における重要な判断基準となります。しかし、ゴールがあいまいな状態であれば、評価者によって達成度の判断が異なり、どうしても主観や好き嫌いが結果に反映されてしまいます。
SMARTの法則で設定された目標であれば、あらかじめゴールが数値化されているため、上司や管理職も評価に迷う心配がありません。また、評価される従業員側も、自身の達成度を明確に把握できているため、結果を素直に受け入れやすくなります。
従業員のモチベーションを高められる
組織やチームの目標がSMARTの法則に沿って設定されていれば、所属している従業員も自身の役割を認識しやすくなります。たとえば、チーム全体で「月50件の新規アポイントメントの獲得」といった具体的な目標を掲げれば、所属する人員やそれぞれの力量を踏まえて、各従業員も自分なりの目標を設定できるようになります。
目標を自ら設定することで、仕事に対する主体性が確立され、モチベーションも向上しやすくなるでしょう。また、個人の目標と組織の目標に明確な関連性が生まれるため、意思疎通や課題の共有もスムーズに行えるようになります。
従業員のモチベーションについて、さらに詳しく調べたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
(参考:『モチベーションマネジメントとは?従業員の意欲を引き出すポイントを紹介』 )
将来のキャリアプランを描きやすくなる
SMARTの法則は、個人の目標設定にもよい影響をもたらします。具体性や達成可能性などを意識した目標設定のやり方が習慣化すれば、将来のビジョンを具体的に考える力が身に付き、より精度の高いキャリアプランを描けるようになるのです。
たとえば、漠然と「管理職に昇進したい」といった目標を掲げていた従業員も、SMARTの法則による考え方が身に付けば、目標の立て方が大きく変化していきます。「〇〇までに△△の資格を取得する」「〇〇までに××のスキルを身に付ける」「1週間で〇〇人の後輩とコミュニケーションを図る」など、具体性のある目標を一つずつ設定できるようになるため、成長の度合いが大きく向上していくでしょう。
SMARTの法則を上手に活用するポイント
SMARTの法則を目標設定に活かすためには、いくつかおさえておきたいポイントがあります。ここでは、4つの項目に分けて見ていきましょう。
すべての基準を満たす必要はない
SMARTの法則では、必ずしも5つの判断基準のすべてを満たそうとする必要はありません。無理に法則に当てはめようとして目標に違和感を生じさせるよりも、必要に応じてどの基準を取り入れるのかを見極めるほうが、有効なゴールを設定しやすくなります。
また、すでに運用している目標管理の手法がある場合は、時と場合に応じて適したほうを選択することが大切です。目標管理の方法にはさまざまな種類があり、それぞれ導入の目的は異なるため、SMARTの法則と干渉してしまうケースも少なくありません。
両者の間で矛盾が発生した場合は、目標を設定する目的を改めて確認し、よりふさわしいと考えられる手法を見極めましょう。
成長目標と行動目標をそれぞれ設定する
目標設定を行う際は、「成果目標」と「行動目標」の2つの軸で考えることも大切です。成果目標とは、「自分が最終的に達成したいと考えている目標」のことであり、行動目標は「具体的な行動によってほぼ確実に達成できる目標」のことです。
営業職における目標を例にあげると、「年間で10社の新規取引先を獲得する」というゴールが成果目標にあたり、そのために必要な「毎月30社に直接訪問する」「毎月100社に電話営業をかける」といったゴールが行動目標となります。SMARTの法則では、特に成果目標だけでなく行動目標にまで落とし込んで考えることが大切です。
目標設定シートを活用する
目標設定シートとは、SMARTの法則をより的確に運用するためのツールです。作成の方法にはさまざまなパターンがありますが、次の例のように目標ごとにシートをつくるほうが管理はしやすいといえます。
ここでは、マーケティング部門における目標設定シートの活用例をご紹介します。
おおまかな目標 | SNSの運用による集客を増やす |
---|---|
Specific(具体的な) | X(旧Twitter)からの問い合わせ件数を3%増やす |
Measurable(測定可能な) | ・自社サービスの魅力に関する投稿を毎日2回投稿する
・毎週1本は動画を投稿する |
Achievable(実現可能な) | マーケティング部門における過去のデータと照らし合わせて無理がないと判断できる |
Relevant(関連性のある) | SNSによる新たな集客ルートの確立が、マーケティング部門全体の今季目標達成につながる |
Time-bound(期限が明確な) | 半年間で3%の増加を目指す |
SMARTを用いて設定した明確な目標 | 半年間でX(旧Twitter)からの問い合わせ件数を3%増やす |
この場合、成果目標は「X(旧Twitter)からの問い合わせ件数を3%増やす」であり、そのための行動目標が「自社サービスの魅力に関する投稿を毎日2回投稿する」「毎週1本は動画を投稿する」ということになります。行動目標が適切であるかどうかは、過去のデータや競合・市場などを分析して見極めることも大切です。
目標設定シートについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
(参考:『目標管理シートの書き方や職種別の記入例・活用ポイントを解説【テンプレ有り】』 )
市場動向に応じて活用する
目標について考えるうえでは、市場の動きにしっかりとアンテナを張ることも重要です。現代は先行き不透明で予測が難しい「VUCA」の時代といわれており、1年先の未来さえ見通すのが困難な状況にあります。
変化していく経済環境に対応していくには、周囲の状況に合わせて目標も柔軟に見直し、素早く方針の修正を行わなければなりません。SMARTの法則による目標設定を習慣化しておけば、方針の修正や方向転換もスムーズに行えるので、ときには大胆にプランを見直すことも重要です。
SMARTの法則の具体的な事例
SMARTの法則は目標設定の方法であるため、ビジネスのあらゆる分野で活用することができます。ここでは、一つの例として採用活動、人事評価、キャリア開発の3つの分野で目標設定を行うケースを取り上げ、SMARTの法則の具体的な活用方法をご紹介します。
採用活動に関する目標設定
採用活動においては、各プロセスにおいて具体的な数値目標を立てる必要があります。そのため、SMARTの法則を活用できるシーンが多いといえるでしょう。
具体的な活用の場としては、「採用する人員計画の策定」「各採用段階における必要な分母数」「採用後の人事評価」などがあげられます。たとえば、採用人数や必要な母集団の数を設定するのに用いたり、採用後の平均在職期間や本人の満足度などを明確化するのに活用したりすることが可能です。
特に採用後の目標は数値化されにくく、採用活動の有効性を判断するのは難しい面があります。入社後の満足度や周囲への貢献度などを具体的な数値として目標設定できれば、採用された人材の成長を定期的に観測できるため、採用活動の見直しに役立てられます。
人事評価に関する目標設定
人事評価においても、SMARTの法則を用いて目標に具体性・計量性を持たせることで、より活動の質が向上していきます。特に人事評価は定量化するのが難しい指標も多く、取り組みと結果の関連性があいまいになりやすい面があります。
そのため、意識的に目標の質を見直し、具体性を持たせることが重要です。たとえば、人事異動であれば、「配置に関する従業員の満足度」「配属先の上司・同僚の満足度」などが計量性を持たせられる指標としてあげられます。
また、個人だけでなく部門やプロジェクトチームを対象とすれば、「KPI達成率」や「残業時間数」「離職率」「有給休暇取得率」などもSMARTの法則を活用できます。
人事評価制度について、さらに詳しく調べたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
(参考:『人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】』 )
キャリア開発に関する目標設定
キャリア開発や人材育成も、目標の具体性が重要な分野の一つです。従業員のキャリアや成長については、定性的な要素が大きいため、なかなか数値化して計測することができません。
企業としてはおおまかな方針を示していても、なかなか具体的な取り組みとして落とし込まれておらず、従業員の理解を得られないというケースは多いでしょう。企業側が積極的に働きかけるためには、SMARTの法則を用いて具体的な目標を立て、一定の軸を形成することが重要です。
たとえば、「研修実施回数」や「参加率」「平均研修時間数」「従業員の満足度」などの行動目標は比較的に数値化しやすく、取り組みの度合いも計測やすいといえます。また、成果目標についても「特定の資格取得率」「特定試験における平均スコア」「プログラムに参加した従業員の人事評価結果」などを対象にすれば、SMARTの法則によって質の高いゴールを設定することが可能です。
SMARTの法則の応用型とは
SMARTの法則は古くから用いられている定番の概念であることから、近年ではシーンに合わせてさまざまな発展型が生まれています。ここでは、代表的な応用型を3つご紹介します。
SMARRT
「SMARRT」とは、SMARTの5つの要素に「Realistic」(現実的)という指標を付け加えた考え方です。「Realistic」はSMARTの「Achievable」(達成可能性)と同じような意味で用いられますが、こちらはより実現可能性や合理性を重視する点に特徴があります。
SMARTER
「SMARTTER」とは、SMARTの5つの要素に「Evaluated」(評価される)と「Recognized」(承認される)あるいは「Rewarding」(報酬を与える)という2つが加わった考え方です。各取り組みについて上司からきちんと評価される仕組みが整えられているか、あるいは報酬の獲得に結び付いているかという観点であり、どちらも目標達成を後押しする要素といえます。
単に有効な目標を掲げるだけでなく、従業員の積極的な取り組みを評価し、促進するための仕組みも含めて考えるのがSMARTERの特徴です。
SMARTTA
「SMARTTA」とは、SMARTの法則に「Trackable」(追跡可能な)と「Agreed」(合意された)という2つの要素が加わった考え方です。「追跡可能である状態」とは、個々人が目標に対する取り組みの経過を把握できるという意味であり、「自分が今どのレベルに達しているのか」「次のステップに踏み出すにはどうすべきか」などを確認するために重要なポイントです。
また、「合意された状態」とは、関係者全員がその目標にきちんと納得できている状態を指します。これら2つの要素は、設定した目標が形骸化せず、きちんと機能するために重要なポイントといえます。
まとめ
SMARTの法則は、質の高い目標設定を行うための基本的なフレームワークです。5つの要素に沿って目標を見直すことで、具体性や計量性、実現可能性のあるゴールが示され、組織全体のモチベーションを引き出しやすくなります。
SMARTの法則は目標設定の手法であるため、ビジネスや組織運営においてはさまざまなシーンで活用することができます。近年ではSMARTERやSMARTTAといった新しい応用型も生まれているので、チームの状態に合わせて適切な方法を導入してみましょう。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
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