ブラザー工業×KBSからの提言。リーダーの成長の7割は経験から。人材活躍度最大化のカギは、部門間連携のための人材開発グランドデザインと経験設計

慶應義塾大学大学院経営管理研究科

特任教授 岩本 隆 氏

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年6月より、慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。
(一社)ICT CONNECT 21理事、(一社)日本CHRO協会理事、(一社)日本パブリックアフェアーズ協会理事、(一社)SDGs Innovation HUB理事、「HRテクノロジー大賞」審査委員長、「Digital HR Competition」審査委員などを兼任。

ブラザー工業株式会社

経営企画部 プロジェクト・マネジャー
小椋 浩一 氏

新卒入社以来、ブラザー工業株式会社一筋。
配属は経営企画。その後ローテーションで人事に異動。以降その2つのキャリアを軸に、人材組織活性化(チームブラザー)、CSR/経営理念(グローバル憲章)浸透、M&A、新規事業推進などを経験した。海外は、マレーシア工場に財務担当として3年半赴任。
昨年、事業部支援のタレントマネジメント推進で、HRテクノロジー大賞奨励賞(2019年度)を受賞した。現在は、本社経営企画部に戻り、全社「人財開発グランドデザイン」をテーマにかかげ、体系的計画的「経験設計」についての全社的巻き込みを図っている。

HRテクノロジー・マネジメントの最新動向/慶應義塾大学大学院 岩本隆 特任教授
タレント(HR)マネジメントの推進事例/ブラザー工業 小椋浩一氏

デジタルデータを活用し新しいビジネスを創造したり、既存事業の生産効率を高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、いまやしっかりと浸透している。人事の領域もしかり。ピープルアナリティクス(※)やHRテックなど、人材に関するデータを利活用することで、より良い人事施策を進める潮流も一般的となった。一方で、このような昨今の人事トレンドを活用できてない企業も見られる。そこで、HRテックの第一人者である岩本隆特任教授ならびに、実際にピープルアナリティクスをタレントマネジメントに活用し、第4回HRテクノロジー大賞の奨励賞を受賞したブラザー工業の事例から学ぶ。

(※)ピープルアナリティクスとは…社員や組織に関するデータを収集・分析して、よりよい組織づくりに生かす組織開発手法のこと

HRテクノロジー・マネジメントの最新動向/慶應義塾大学大学院 岩本隆 特任教授

HRテクノロジーとは、人事領域におけるICTシステムです。米国では2000年前後から一般的に使われるようになりました。2010年代に入ると、第四次産業革命を象徴するビッグデータとアナリティクス、IoTやAI(人工知能)、クラウドなどの技術の台頭により、他の領域と同じく急成長。ソリューションやツールが汎用化し価格が下がったこともあり、一気に広まりました。なお日本においては2015年から使われています。

HRテックを活用するポイントは、他の領域でICTを進めるのと基本的に変わりません。まずは、数値、音声、画像、映像、行動、テキストなど、どのような「データ」をインプットするのか。その入力したデータを、統計分析、機械学習、ディープラーニング、AIなどを駆使して、どのような手法で「分析」するのか。そして最終的に「何を(目的)」アウトプットするのか。このような流れで進めます。
 


 

大企業が派遣争いしているのが現在のトレンド

この3つのレイヤーそれぞれで、HRテックを開発するプレイヤー(企業)が出現し、新しいHRテクノロジーが開発・応用されており、結果としてHRテック全体としてのマーケットも大きくなっています

なかでも「予測分析」に関するテクノロジーは多くのツールが開発され、分野によっては解決策まで提示できるツールもあります。人間を予測分析することは、最もむずかしい研究テーマでもありますから、今後も進化を続け、新しいツールが開発・登場してくると考えています。
 


 
一方、グローバルで見てみますと、HRテクノロジーに関するツールは「HCM(Human Capital Management)アプリケーション」と呼ばれ、特に、クラウドに関するツールが多くあります。盛り上がりの当初、2000年ごろはベンチャーの活躍が多く見られましたが、次第に大企業も参入するようになり、2010年代に入ると、SAPやIBMといった大企業が、次々とHRベンチャーを買収。2016年12月には MicrosoftがLinkedInを約262億米ドルで買収するなど、HRテックのマーケットを大企業同士で覇権争いをする、あるいは大企業同士が合併するなどの動きも見られました。

日本では、リクルートホールディングスやパーソルホールディングスが同分野の代表的な企業であり、例えばリクルートホールディングスの売上高は年々アップ。2020年は4,249億円となっています。グローバルの指標は、日本企業を含まずに約3兆円と言われていますから、日本のHRテック企業も間違いなく、世界トップクラスの規模と言えます。

「ISO 30414」を参考にHRを定量化する

標準化の動きも活発です。ISOは2011年にHRマネジメントに関する技術委員会、TC 260を発足。同委員会には日本を含め2020年10月時点で31カ国(2020年12月時点では32ヵ国)が参加し、HRマネジメントのさまざまな領域における標準化を進めています。

ただし日本の立ち位置はオブザーバーであり、米国、英国、パキスタン、フランス、ドイツ、スウェーデン、スイス、オーストリア、ノルウェー、オランダ、ポルトガルの11カ国中心で進めています。実際、これまで13のレポートが発表され、有料ですが購入することができます。

中でも2018年12月に出版された「ISO 30414」が、現在世界中で大きな関心を集めています。同レポートは、ダイバーシティ、採用・異動・離職、スキルとケイパビリティといった、HRマネジメントにおけるポイントを11の領域に大別。そこから大企業では内部向けに58項目、外部(投資家など)向けに23項目を。そして中小企業においては同じく32項目、10項目をそれぞれ定量化しています。これはHRマネジメントに関して情報開示するための、初の国際規格ガイドラインとなりました。
 


 
「ISO 30414」の基本的な考え方は、人材に係る費用は経費ではなく「資産」である、ということです。つまり、投資であると――。そのためいずれはリターンがある、と考えます。一橋大学の伊藤邦雄元教授が座長を務められた、経産省のプロジェクトが発行している各種レポートの人材版(2020年9月30日開示)でも、ISO 30414については取り上げていますから、ISO 30414とあわせて、人材版伊藤レポートもぜひ読んでおくことをおすすめします。

人材版伊藤レポートでのポイントとも重なりますが、これからの人事は、経営者に各種施策を説明する際に、上記で説明したような思考を取り入れることがポイントです。具体的には、採用や研修に係る経費から予測される将来のリターン(利益)をしっかりと数字として定量化し、経営層に戦略として説明することです。

また人材版伊藤レポートでは、取締役会や経営会議などで人材戦略の会議を今よりも多くすべきであり、その根拠となるためのデータの定量化を整備すべきだとも書かれています。ただしデータの定量化を行う議論をすることが目的ではなく、あくまで個々の人材の自律型成長ならびに活躍であり、その結果として持続的な企業価値向上の実現を目指すことが重要です。

人材版伊藤レポート:
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/20200930_report.html

このようなHR情報の開示においては、欧州ではすでに義務化されていて、米国でも2020年11月9日から義務化されました。そのためISO 30414に準拠したHRレポートを、従来のIR資料とは別に作成する企業が増えているのもトレンドです。まさにこれからピープルアナリティクスを始めようと考えている企業は、ISO 30414の58の項目をデータ化するところから着手するといいでしょう。

参考までに、いくつかのHRレポートを紹介しておきます。

ドイツ銀行:「Human Resources Report 2019」
https://www.db.com/ir/en/download/Deutsche_Bank_Human_Resources_Report_2019.pdf

アリアンツ:「PEOPLE FACT BOOK 2019」
https://www.allianz.com/content/dam/onemarketing/azcom/Allianz_com/about-us/hr-fact-book/PEOPLE-FACT-BOOK-2019-EN.pdf

「人材活躍度」を高めることで企業は変革する

人事戦略の観点から、企業の変革を促進させるために最も重要なことは、「人材活躍度」を最大化することだと人材版伊藤レポートでも結論づけられています。つまり金太郎飴的な従業員ではなく、個性を持った一人一人の従業員が活躍できる、企業ならびに経営の在り方です。

では、このような環境を実現させるためにはどうしたらいいのか。改めて、人材版伊藤レポートも含めた経産省の取り組みが参考になります。実際にそのような環境が実現している企業を調査分析し、得た情報を公開するのです。

また私としては次の3項目がうまく連携することで、個々の人材が活躍できる企業が構築できると考えています。まずは企業について、従業員が高いエンゲージメントを感じる企業文化になれるように努力します。
 


 
次はマネジメントです。異なるタイプのダイバーシティ人材を、どのようにインクルードしていくのか。日本ではダイバーシティというと女性や国籍だけと捉えがちですが、実際には指標はもっと多く、ワークスタイル、思考特性などに細分化されていて、25あるとも言われています。この多様な人材のマネジメントを整備します。

そして3つ目は、ますます進むテクノロジーの進化に対し、従業員一人一人が新しいスキルを身につけることです。

このように人材活躍度の最大化のためには、上記に挙げた3つの項目を連動させながらうまく整備していくことが重要なのです。

タレント(HR)マネジメントの推進事例/ブラザー工業 小椋浩一氏

本日の内容は大卒の新入社員に対するジェネラリスト・幹部候補の育成や輩出に限った内容です。その中でも、特にスピードアップについての取り組みを紹介しています。そのため、スペシャリトやプロフェッショナルを育成する施策やコースもありますが、今回は割愛させていただきます。

まずお伝えしたいのは、全社視点で取り組むことを重視している、ということです。実際、私たちは2016年~2018年までの中期経営計画で、事業の変革、業務の変革とともに、人材の変革を掲げ、以来これを全社一丸となって進めています。

なぜ全社視点が必要なのか。一部分だけ変革しても他の部門が旧態依然のシステムでは、変革の価値が薄まるからです。このような理由もあり、私はいま経営企画部所属ですが、人事部署と行ったり来たりしながら、まさに会社全体でのグランドデザインとして、新たな人事制度を策定しています。そのためトップの意向をヒアリングしている一方で、事業部にどっぷり入り、現場で事業部メンバーと机を並べて、細かな制度を構築しているような事例も重ねています。

「役員候補を45歳以下で常時●●名以上プールする」

まずは、全社共通のゴール(目標)を掲げました。その上で、その候補となりうるハイパフォーマーな人材はどのようなキャリアを歩んでいるのか。教育はどうなのか。それ以前の採用段階ではどうだったのか。ゴールからバックキャスティングすることで、タレントマネジメント全体をグランドデザイン(変革)していきます。
 


 
そのため、「採用」「配属」「教育①(配属~4年目)」「教育②(4~8年目)」「パフォーマンス別経験設計」といった連続したプロセスを見える化した上で、全体ストーリーの一貫性の観点から、各プロセスをさらに深掘りしていきました。

たとえば、リーダーが育つために必要と言われる実務経験とは何か。あるいはそれ以前に、新人研修や職場の導入教育で、すでにリーダーの素地が養われるのか。このあたりを改めて精査し、定義し直していきました。すると初期育成の大切さや、それに適した職場やキーポジションの存在が浮かび上がってきたのです。

それにしたがって、事務系職種においては3つのコースを設定しました。事業軸での経験設計を行う「事業企画系コース」と、財務経験を軸とした「財務系コース」、全社軸での「全社企画系」コースです。これは分割というよりは集約で、「成長のスピードアップ」を促進するためのキャリア構築の効率性から発想した、部門間連携の枠組みです。したがって、経験設計やタレントレビューなどは、それぞれのコース毎の関係部門と一緒に議論を進めています。
 


 

「タレントパレット」を活用しタレントを見える化

視野の広いリーダー(ジェネラリスト)への成長のために、ローテーション制度による幅広い経験づくりは必須です。実際、当社は一定等級以上への昇格要件として、「最低でも2部門以上の経験」が求められるルールがあります。従来から「ローテーション会議」において議論が行われてきましたが、どうしても目先の都合に引っ張られてしまうため、部門間連携の枠組みを再構築するこの機会に、会議名も「タレントマネジメント会議」と改称し、全社ワンストーリーでの体系的計画的「経験設計」に取り組んでいます。

また会議の生産性向上に取り組む観点から、HRテックの活用とともに、先進企業の新しい取り組み事例を積極的に導入しています。たとえば以前は、縦軸=職種等級、横軸=年齢といういわゆるメンバーシップ型の人材レビューをエクセルベースで行っていました。が、そのデータだけでは、その先にある各個人が今の仕事と職場でパフォーマンスが出せているのか、どのような可能性(タレント)を持っているのか、などの点については共有しきれず、部門を超えた連携には非効率でした。また人材の変革のために、年功序列型の人事を打破したい、という関係者の想いもありました。
 


 
そこでまず議論の枠組みを、上の図の右側にあるような、縦軸=パフォーマンス横軸=ポテンシャルという形、いわゆる「9ブロック」と呼ばれるジョブ型のレビュー方式に変更しました。同時に、プラスアルファコンサルティング社のタレントマネジメントシステム『タレントパレット』を導入して、エクセル作業に置き換えました。ちなみに同社は、もともとデジタルマーケティングを専門とされていた企業であり、その顧客管理技術を人事管理にも応用しているため、いわゆる「ビッグデータ」といわれる全体分析と同時に、「1to1マーケティング」といった個別アプローチにも対応できるのが特徴です。

同ツールを活用して作成した「9ブロック」は、名前のとおり3×3=9つのブロックに分かれており、それぞれのブロックに顔写真でタレントが一覧表示されることで、個人の状態が一目瞭然です。この見やすさは、部門を超えた議論に非常に重宝されています。今の部下でしたら名前を見れば把握できますが、過去の部下や他部門の部下、さらには結婚などで姓が変わった場合などは、これまでいちいち確認の時間が必要だった――。ということも、やってみてあらためて気づくことができた問題点でした。

なお、パフォーマンス評価については、現時点の上司へのヒアリングから「パフォーマンスを出せているかどうか」を判定したものですが、それはあくまで、「今の上司で今の職場で今の仕事での能力発揮度」でしかありません。今はハイパフォーマーであっても、仕事が変わった場合にはどうか、については、やってみなければ分かりません。逆に、今は能力を発揮しきれていないとしても、別の仕事で「化ける」可能性もあるはずです。つまり、パフォーマンス評価とは、個人にレッテルを貼り、全能力を決めつけるものではなく、あらゆるタレントを見逃さず、常に成長の可能性を探りつづけるための正しい現状把握である、という観点で行うことが重要だと考えています。以下、ポテンシャル判定も同様です。
 


 
ポテンシャルは「深さ」と「広さ」、およびその中間である「両方」に分けています。この分類は、先進企業を数多くヒアリングすることで見えてきたことでもあります。具体的にはポテンシャルが「広い」のであれば、本日のスコープであるジェネラリストに成長する可能性が高く、一方、「深い」のであればスペシャリストに成長する可能性が高い、という判断につながります。

9ブロック活用のメリットはたくさんありました。前述の、各人材のタレントならびに現在の状況(パフォーマンス)がひと目で分かり、部門間での共有もスムーズに進められるほか、ハイパフォーマーの育成には、部門任せだけではなく、ローテーションによる可能性=適性探索も有効だという観点の発見と共有です。

たとえば、現時点では残念ながらハイパフォーマーに該当しないけれども、他部門から見ればもっと活躍できる可能性がある、つまり他部門にローテーションすることで、ハイパフォーマーに成長する、という部門を超えた連携価値です。つまり論点として、現状ハイパフォーマーと評価されていない人材ほど、ローテーションを検討する価値が高いのではないか、という提案であり、その考え方による部門間の合意形成にもつながっています。これも、現在のジョブに限定したパフォーマンス評価、という共有指標があってはじめてできるようになった議論です。

ローテーション会議では往々にしてハイパフォーマーの取り合いになりがちです。しかし9ブロックを導入してからは、逆に部門間で連携して一人ひとりを育成していこう、という機運も高まりました。そのためローテーション会議も「タレントマネジメント会議」に生まれ変わったことで、建設的な論点が増えました。これは私個人の感想ですが、こういった新たな成長の枠組みにより、新たなチャンスを得た従業員が成長することで、いつか全社員がハイパフォーマーになれるのではないか、という夢も不可能ではないと考えています。

一方、課題抽出も進みはじめました。たとえばある事業企画系には「深い」タイプのハイパフォーマーが少ない、という事実。つまり専門人材の不足です。他にも、総合職最高等級特有のパフォーマンスのばらつきの大きさなど、9ブロックにしたことで多くの気づきを得ています。ただし、これらの指標はあくまで、タレントマネジメント=成長促進の議論のためだけのものであり、給与や処遇には反映しません。


実際のタレントマネジメントにおける課題解決

さらに現場における具体的な取り組みについてもご紹介します。育成構造づくりの参考としたのは「ロミンガーの法則」です。いわゆる、リーダーの成長には「経験」が7割、上司からの「薫陶」が2割、「教育」が1割である、という考え方です。

本来であれば7割の「経験」について真っ先に取り掛かりたいところですが、実際の現場の議論では「難易度が高い」というイメージから優先順位をつけなおし、まずは取り掛かりやすい1割の「教育」ならびに2割の「薫陶」から改革をはじめました。具体的には、全社的に行う新入社員研修が終わって各事業部へ配属された後の、各事業部で行われる新人配属後研修の見直しです。

新入社員の成長のスピードアップを図るという観点から現状を見ると、阻害要因も見えてきました。まずはネット検索でも分からないような、会社独自の専門用語を知らないこと。それでは、日常の議論についていけません。さらに、そのようなワードも含め、分からないことがあったときに誰に聞けばいいのか自体を知らないこと。もちろん身近な先輩や上司にとりあえず聞くことはできますが、事業とはたくさんの仕事と部門の集合体です。それらをまたぐ情報収集については急にハードルが上がります。

したがって、まずはこのような課題から解決していくという点に絞った構造に変えました。講師には若手のキーマンを抜擢することで、分からないことを聞く相手としては年が近くて聞きやすく、さらに講師への抜擢自体が、同時にその上の若手世代の成長促進にもつながる機会となったのです。

さらに要望を受けてワンランク上の「アドバンス講座」も新設しました。同講座ではさらに上位のキーマンが登壇。成果だけでなく、現状課題はじめ日々の業務でのリアルな悩みや、どのような資料を作成しているかなどの現実感や具体性も含めて伝えています。また同講座には多くの関係部門からの申し込みがあり、ディスカッションタイムも取っていることで、部門を超えたキーマン同士の交流、という新たなコミュニケーションも生まれています。

次に2割の「薫陶」においては、変革リーダー養成プログラムという形で部門長や役員が登壇し、これまでの自身の経験を若手メンバーに伝えます。単なる昔ばなしではなく、受講者自身が今抱えている課題に置き換えて「自分ごと」として考えられるように、具体的にどのような前提条件のときに、どのような思考で、実際に何を行ったのか、といった「引き出し」の提供を目的としています。同講座の受講者アンケートからは、失敗経験やいまだに残った宿題、といった「生々しい話までオフレコで聞ける」という点が特に好評であることが分かります。

そして残りの7割である「経験」からの成長については、「部門頼み」「上司頼み」「OJT頼み」だけでは限界があるとの課題合意から、体系的計画的な「経験設計によるタレントマネジメント」を推進すべく、前述のツールを活用して人材の現状を共有し、質の高い経験やキーポジション、その人材要件を議論するなど、部門間で連携して議論できる体制を整備しました。

このように、人材開発グランドデザインという新たなワンストーリーに基づいた部門間連携づくりと、その支援のためのHRテックの導入などを手掛かりに、私たちは未来のリーダーの成長を促進すべく、さまざまな取り組みへのチャレンジをしています。

なお、本件はまだ検討の緒についたばかり、というのが実際のところで、全社レベルの運用にも至っておらず、成功事例といった確立されたものではございません。が、同様の課題に取り組まれている同志の方々に、ささやかながらヒントになり、エールになれば、幸いです。

【取材後記】

ピープルアナリティクスの概念とあり方はご理解いただけたであろうか。岩本氏からは、企業・組織の人材活躍度を高めて、金太郎飴的な人材を減らす取り組みとその考え方を教示いただいた。また一方、小椋氏からは人材開発グランドデザインという新たなワンストーリーに基づいた部門間連携づくりについて提示いただいた。いずれにしても私たちは未来のリーダー育成のための土壌を用意するべきだ。それが自社だけでなく、ひいては社会全体の発展にもつながってゆくのだから――。

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取材・文/鈴政武尊・杉山忠義、編集/鈴政武尊