【よくわかる】労働安全衛生法とは?違反しないために企業は何をするべき?重要点を解説

社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)

プロフィール

職場における労働者の安全と健康の確保や、快適な職場環境の形成を目的とした「労働安全衛生法」。

事業者にさまざまなことが義務づけられており、義務を怠った場合には罰則が科される可能性があります。労働安全衛生法に関連し、「新制度の創設」や「法改正」といった動きもあるため、最新の情報を確認することが重要です。

この記事では、労働安全衛生法の概要や企業が守るべき重要項目などについて解説します。

労働安全衛生法(安衛法)とは

労働安全衛生法とは、1972年に制定された、「職場における労働者の安全と健康の確保」「快適な職場環境の形成促進」を目的とする法律です。「労働災害の防止のための危害防止基準の確立」や「責任体制の明確化」「自主的活動の促進」などの総合的・計画的な推進により、目的の達成を図っています。

労働者の安全・健康を確保するため、労働安全衛生法に従い、さまざまな措置を講じる義務が企業にはあります。英語では「Industrial Safety and Health Act」と表記します。厚生労働省のHPでは、安全衛生法改正概要を英文で確認できます。以下では、労働基準法との関係や、労働安全衛生法における労働者・事業者の定義などについてご紹介します。
(参考:厚生労働省『安全衛生法改正概要』)

労働基準法との関連性

労働安全衛生に関連した条文は、もともと1947年に制定された「労働基準法」の第5章に定められていました。1960年代の高度成長期に入ると、大規模工事の実施や労働環境の変化により、労働災害が急増。毎年、6,000人以上が労働災害により死亡し、社会問題となりました。そうした状況を受け、1969年から当時の労働省や専門家が中心となり、労働安全衛生に関する法令の整備に着手。労働基準法から分離独立する形で、第68回通常国会に法案を提出しました。そして1972年に可決成立したのが、「労働安全衛生法」です。

労働基準法との関連性

労働者の定義

労働安全衛生法第2条第2項では、対象となる労働者を労働基準法第9条に規定された労働者としています。

労働安全衛生法第2条第2項

労働者 労働基準法第9条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。

労働基準法第9条

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

すなわち、事業者が使用し、労働の対価として賃金を支払っている労働者が対象となります。なお、労働安全衛生法第2条第2項により、「同居の親族のみを使用している事業主に使用される労働者」や「家事使用人」は労働者に含まれません

対象となる事業者

労働安全衛生法第2条第3項では、対象となる事業者を、以下の通りに規定しています。

労働安全衛生法第2条第3項

事業者 事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。

何らかの事業を行い、その事業のために「労働者」を使用している事業者が、労働安全衛生法の対象となります。「ほぼ全ての企業に対し、労働安全衛生法が適用される」と理解するとよいでしょう。なお、後ほど詳しくご紹介しますが、労働者が「50人以上」の事業所(A営業所、B支店など)に対しては、労働安全衛生法に基づき「衛生管理者の選任」や「衛生委員会の設置」などが義務づけられています。

労働安全衛生法が適用除外になるケース

「同居の親族のみを使用している事業主に使用される労働者」や「家事使用人」以外の労働者も、労働安全衛生法の適用から除外されることがあります。労働安全衛生法が適用除外になるケースについて、下の表にまとめました。

労働安全衛生法の適用除外

適用除外となる労働者・ケース 適用除外の範囲
船員 適用から除外
鉱山 一部、労働安全衛生法の対象
国会職員、裁判所職員、防衛庁職員 一部、労働安全衛生法の対象
非現業(公権力の行使を有する)の一般職である
国家公務員
一部、労働安全衛生法の対象
非現業(公権力の行使を有する)の地方公務員 一部、労働安全衛生法の適用除外となる法令など

労働安全衛生法の適用から、一部除外される公務員もいます。一方、「市営バスの運転手」や「公共施設の清掃作業員」といった現業(公権力の行使を有しない)の公務員は、労働安全衛生法の適用対象となるため、注意しましょう。

労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則との関係性

労働安全衛生法と関係が深いものとして、「労働安全衛生法施行令」と「労働安全衛生規則」があります。労働安全衛生法と労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則の関係性を、下の図に示しました。

労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則との関係性

「法律」とは、国の最高法規である「憲法」をベースに、国会で制定された決まりのこと。「政令」は法律を基に内閣が定めた命令を、「省令」は各省の大臣が発した命令を意味します。
上記のピラミッド図に当てはめると、労働安全衛生法は「法律」に、労働安全衛生法施行令は「政令」に、労働安全衛生規則は「省令」に該当します。「法律」である労働安全衛生法の規定内容を実行に移すため、細かなルールを規定したものが、「政令」としての労働安全衛生法施行令です。「政令」である労働安全衛生法施行令をさらに細かく落とし込み、厚生労働大臣(旧労働大臣)が発令したものが「省令」としての労働安全衛生規則だと理解するとよいでしょう。

労働安全衛生法に違反した場合は罰則がある

労働安全衛生法に違反した場合、「懲役」または「罰金」の罰則が科される可能性があります。罰則の対象となるケースや、労働安全衛生法違反が争点となった事件についてご紹介します。

罰則の対象となる代表的なケース

労働安全衛生法違反により、罰則の対象となる代表的なケースを下の表にまとめました。

罰則の対象となるケース(例)

違反内容 具体例 違反する条文 罰則
作業主任者選任義務違反 ●一定の危険作業を行う際、作業主任者を選任しなかった場合
●作業主任者を選任したものの、作業者の監視を怠っていた場合
労働安全衛生法第14条 「6カ月以上の懲役」
または
「50万円以下の罰金」
安全衛生教育実施違反 ●労働者を雇い入れる際、安全衛生教育を行わなかった場合 労働安全衛生法第59条第1項 「50万円以下の罰金」
無資格運転 ●クレーン運転をはじめとする特定の業務を、無資格者に行わせた場合 労働安全衛生法第61条第1項 「6カ月以上の懲役」
または
「50万円以下の罰金」
労災報告義務違反
(虚偽報告)
●労災が発生した際、「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出しなかった場合
●「労働者死傷病報告」を、虚偽の内容で報告した場合
労働安全衛生法第100条第1項 「50万円以下の罰金」

上記の表はあくまで一例です。労働安全衛生法にはさまざまな規定があるため、法律違反とならないよう注意しましょう。

労働安全衛生法違反が争点となった事件

労働安全衛生法違反が争点となった事件の一例をご紹介します。

工場の爆発による作業員死傷事件

石油化学製造工場において爆発が起き、作業員が死傷した事件。労働安全衛生法違反および業務上過失致死傷が問われました。会社に対して罰金50万円、現場の統率者であった製造部製造課課長に対して禁固2年執行猶予3年の判決が出ています。

労働安全衛生法で企業・事業者が守るべき11の重要事項

企業・事業者には、労働者の事故防止・健康確保のために措置を講じなければならない「安全配慮義務」があります。安全配慮義務を果たすために、事業者がさまざまなことに注意する必要がありますが、今回はその一部をご紹介します。

1.スタッフの配置(第3章:安全衛生管理体制)

労働安全衛生法の第3章では、職場の安全衛生を確保するため、さまざまなスタッフを配置することを義務づけています。配置が義務づけられている主なスタッフについて、表にまとめました。

配置が義務づけられている主なスタッフ

名称 役割 備考
総括安全衛生管理者 事業場の安全・衛生に関する業務の統括管理 何人以上の事業場で選任する必要があるかは、業種区分によって異なる
安全管理者 安全衛生業務のうち、安全に係る技術的事項の管理 常時50人以上の労働者を使用する一定の業種の事業場に対し、選任が義務づけられている
衛生管理者 安全衛生業務のうち、衛生に係る技術的事項の管理 常時50人以上の労働者を使用する事業場に対し、選任が義務づけられている
産業医 労働者の健康管理について、専門的な立場から指導・助言を行う役割を担う医師 常時50人以上の労働者を使用する事業場に対し、選任が義務づけられている
作業主任者 作業の直接指揮や使用する機械の点検、安全装置の使用状況の監視など 政令で定められた特定の作業を行う際、免許取得者や技能講習修了者の中から、選任することが義務づけられている
統括安全衛生責任者 複数の関係請負人の労働者が混在する場所での、労働災害防止に関する指揮・統括管理 特定の業種・場所で、選任が義務づけられている
安全衛生推進者(衛生推進者) 労働者の安全や健康確保などに係る業務(「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること」「労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること」など) 常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場で、選任が義務づけられている

50人以上の労働者がいる事業場では、業種を問わず「衛生管理者」「産業医」を、一定の業種では「安全管理者」を選任する必要があると覚えておくとよいでしょう。この他、労働安全衛生法では、1つの場所で行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせている「元方事業者」や、建設業、造船業の元方事業者である「特定元方事業者」に関する規定もあります。

2.労働者への安全衛生教育を実施(第59条・第60条)

労働安全衛生法第59条および第60条では、労働者への安全衛生教育の実施を定めています。一般の労働者に対しては、「雇い入れ時」や「作業内容の変更時」に安全衛生教育を実施する必要があります。「危険・有害業務」に新たに従事する労働者には特別教育を、現に従事している労働者に対しては安全衛生教育を実施しなければなりません。それに加えて、新任の職長や指導・監督者への安全衛生教育の実施も義務づけられています。労働安全衛生関係の「免許」や「資格」「技能講習」は多岐にわたるため、その内容を理解しておくことが重要です。
(参考:厚生労働省『労働安全衛生関係の免許・資格・技能講習・特別教育など』)

3.労働災害防止の措置(第4章:労働者の危険又は健康障害を防止するための措置)

労働安全衛生法第4章では、労働災害防止に向け、事業者が講じるべき措置について規定しています。例として、「機械、器具その他の設備」や「爆発性の物、発火性の物、引火性の物」などによる危険の防止措置があります。この他、「原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体」や「放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧」などによる健康被害の防止措置も義務づけられています。労働災害を防止するための具体的措置については、労働安全衛生規則に規定があります。

脚立・足場の使用条件

脚立や足場は、所定の条件を満たすものを使用する必要があります。脚立は、「丈夫な構造であること」「腐食、損傷がないこと」といった条件を満たした物のみを使用できます。足場については、「著しい損傷・変形・腐食のあるものを使用してはならない」「丈夫な構造のものでなければならない」といったことが決められています。
(参考:厚生労働省『墜落・転落災害の防止のため安全衛生規則(抜粋)』)

高所作業には安全帯を着用

「高さ2メートル以上の高所作業で、作業床を設置するのが困難な場合」には、労働者が墜落するのを防ぐため、安全帯の着用が義務づけられています。なお、安全帯を着用するよう促された場合、労働者はそれに従う必要があります。
(参考:厚生労働省『労働安全衛生法令における墜落防止措置と安全帯の使用に係る主な規定』)

作業場でのヘルメット着用や服装のルール

「荷物のつり上げ・つり下げ」や「組み立て作業」「掘削作業」などでは、ヘルメットの着用が義務づけられています。また、危険防止の観点から、服装に関するルールもあります。一例として、「作業服を正しく着用する」「履物は、安全靴や安全地下足袋など作業に適したものを着用する」といったことが挙げられます。
(参考:厚生労働省『外国人労働者に対する安全衛生教育教材作成事業(建設業)共通「建設現場全般」安全衛生のポイント』)

4.危険な場所での作業や危険物の取扱い時の届出(第88条)

労働安全衛生法第88条には、「計画の届出」に関する規定があります。「危険若しくは有害な作業を必要とする機械」や「危険な場所において使用する物」「危険・健康障害を防止するための物」を設置・移転などする場合、労働基準監督署長への届出が、事業者の義務です。届出の様式は、厚生労働省のHPに掲載されています。
(参考:厚生労働省『安全衛生関係主要様式』)

5.リスクアセスメントの実施(第28条の2)

リスクアセスメントとは、「事業場における危険性や有害性の特定」や「リスクの見積り」「リスク低減措置の決定」といった一連の手順のこと。リスクアセスメントに関する規定は、労働安全衛生法第28条第2項にあります。製造業・建設業の事業者に対して、リスクアセスメントやそれに関連した措置の実施を努力義務としています。

6.危険な業務に対する就業制限(第61条)

労働安全衛生法第61条では、クレーン運転をはじめとする危険な業務に対する「就業制限」を定めています。就業制限とは、免許保有者や技能講習修了者などの資格を有する労働者しか、特定の業務に就けないという制限のこと。就業制限が発生する業務や必要な資格については、労働安全衛生法施行令や労働安全衛生規則に詳細が定められています。

7.危険物・有害物の取扱・表示義務(第57条)

労働安全衛生法第57条では、危険物や有害物の取り扱い・表示義務について定めています。危険物には「爆発性の物」や「発火性の物」などが、有害物には健康被害が生じる可能性がある「化学物質」や「化学物質を含む製剤」が該当します。これらの危険物・有害物を取い扱う際は、容器や包装に「名称」や「人体に及ぼす作用」「貯蔵・取り扱い上の注意」などを記載しなければなりません。

8.定期自主検査の実施(第45条)

定期自主検査とは、事業者が定期的に実施する検査で、労働安全衛生法第45条に規定があります。事業者は、ボイラーをはじめとする機械の定期的な自主点検や、結果の記録・保管を行わなければいけません。対象となる機械については、労働安全衛生法施行令で定められています。

9.労働者の健康保持(第7章:健康の保持増進のための措置)

労働安全衛生法第7章に規定されているのが、労働者の健康保持のために事業者が講じるべき措置です。労働者が健康的に働けるよう、企業には「作業環境測定」や「健康診断」「病者の就業禁止」などが義務づけられています。作業環境測定や健康診断については、後ほどご紹介します。

10.安全衛生委員会の設置:第19条

安全衛生委員会とは、安全に関する事項を協議する「安全委員会」と、衛生に関する事項を協議する「衛生委員会」の両方の役割を兼ねた組織です。安全委員会と衛生委員会の両方の設置が必要とされる労働者数50人以上の一定の業種の事業場では、個別に設置する代わりに、安全衛生委員会を設置できます。

11.快適な職場環境の形成(第7章の2:快適な職場環境の形成のための措置)

労働安全衛生法第7章の2では、事業者に対し、快適な職場環境の形成のための措置を努力義務として定めています。事業者は「作業環境を快適な状態に維持管理するための措置」や「労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置」などを実施するよう努力する必要があります。具体的な措置については、労働安全衛生法に基づき制定された「事務所衛生基準規則」などで示されています。

作業環境測定の実施(第65条)

作業環境測定とは、作業環境の実態を把握し、必要な対策のための情報を得ることを目的とした測定のことで、労働安全衛生法第65条に規定されています。事業者は作業環境測定を行い、結果を記録する必要があります。作業環境測定の対象となる作業場の詳細は、労働安全衛生法施行令で確認できます。

照度基準を守る

作業内容によって、必要とされる照度基準が異なります。照度基準について、下の表にまとめました。

照度基準

作業の区分 照度基準
精密な作業 300ルクス以上
普通の作業 150ルクス以上
粗な作業 70ルクス以上

事業者には、照明設備の照度を6カ月に1回定期的に点検する義務があります。

騒音・振動の防止

室内で働く労働者に影響を及ぼす可能性がある騒音・振動の防止も、事業者の義務です。「隔壁を設ける」といった措置の実施により、騒音・振動の伝播を防止する必要があります。

休憩の設備や休養室などの設置

労働者が有効利用できる「休憩の設備」の設置が、事業者の努力義務となっています。労働者に夜間睡眠してもらう場合や、作業中に仮眠の機会を設けている場合には、男女別の睡眠・仮眠場所を設ける必要があります。また、業種を問わず「常時50人以上」または「常時女性30人以上」の労働者を使用している場合、労働者が横になれる休養室・休養所を、男女別に設けなくてはなりません。

二酸化炭素濃度や室温などの作業環境測定や、換気の実施

中央管理方式の空気調和設備(空気を浄化し、温度・湿度・流量を調節して供給できる設備)を設けている建築物の室内で、事務所用に使っているものについては、「一酸化炭素・二酸化炭素の含有率」「室温および外気温」「相対湿度」の3点について測定する「作業環境測定」を行う義務があります。具体的な基準は、事務所衛生基準規則に規定されています。測定記録は3年間の保管が必要です。また、一酸化炭素・二酸化炭素の含有率が基準値以下になるように、換気を実施しなくてはいけません。

トイレを男女別に設置

トイレは、男女別に設置する必要があります。また、男女の労働者数に応じて、設置が必要な便器の数が決まっています。

清掃・大掃除の実施

事業者には、職場の日常的な清掃のほか、6カ月に1回定期的に大掃除をすることが義務づけられています。また、事務所の清潔に注意し、ゴミ・廃棄物が所定の場所以外に捨てられることがないように注意する必要があります。

労働安全衛生法に基づく健康診断は企業の義務(第66条)

企業には、労働安全衛生法第66条に基づき、医師による健康診断を実施する義務があります。

労働安全衛生法第66条(一部抜粋)

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。

事業者に義務づけられている通常の健康診断である「一般健康診断」は、以下の5つに分けられます。

一般健康診断

健康診断の種類 対象者 実施時期
雇入時の健康診断 常時使用する労働者 ●雇入れの際
定期健康診断 常時使用する労働者
※特定業務従事者は除外
●1年以内に1回
特定業務従事者の健康診断 労働安全衛生規則第13条第1項第3号に掲げる業務に常時従事する労働者(特定業務従事者) ●特定業務への配置替えの際
●6カ月以内に1回
海外派遣労働者の健康診断/th>

海外に6カ月以上派遣する労働者

●海外に6カ月以上派遣する際
●帰国後に、国内業務に就いてもらう際

給食従業員の検便 事業に附属する食堂又は炊事場における給食の業務に従事する労働者 ●雇入れの際
●配置替えの際

(参考:厚生労働省『労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~』)

なお、「有機溶剤」や「特定化学物質」といった有害な物質を扱う業務を行っている労働者に対しては、一般健康診断とは異なる特殊健康診断の実施が義務づけられています。

ここでは、一般健康診断のうち、主要な「雇入時の健康診断」「定期健康診断」「特定業務従事者の健康診断」についてご紹介します。

雇入時の健康診断

雇入時の健康診断とは、文字通り、労働者を雇い入れる際に行う健康診断のこと。「常時使用する労働者」が対象です。 労働安全衛生規則第43条で定められた以下の11項目について、健康診断を行います。

雇入時の健康診断の項目

1.既往歴及び業務歴の調査
2.自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3.身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
4.胸部エックス線検査
5.血圧の測定
6.貧血検査(血色素量及び赤血球数)
7.肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
8.血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
9.血糖検査
10.尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
11.心電図検査

(参考:厚生労働省『労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~』)

定期健康診断

定期健康診断とは、1年以内に1回、定期的に行う健康診断のこと。後ほどご紹介する「特定業務従事者」を除いた「常時使用する労働者」が対象です。労働安全衛生規則第44条で定められた以下の11項目について、健康診断を実施します。

定期健康診断の項目

1.既往歴及び業務歴の調査
2.自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3.身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
4.胸部エックス線検査及び喀痰検査
5.血圧の測定
6.貧血検査(血色素量及び赤血球数)
7.肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
8.血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
9.血糖検査
10.尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
11.心電図検査

(参考:厚生労働省『労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~』)

なお、上記「3」のうち身長と腹囲、「4」「6~9」および「11」については、厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師が必要でないと認めた際には省略できます。

特定業務従事者の健康診断

特定業務従事者の健康診断とは、労働安全衛生規則第13条第1項第3号で定められた業務に常時従事する労働者(特定業務従事者)を対象とした健康診断のこと。この条文で掲げられている業務は、以下の通りです。

労働安全衛生規則第13条第1項第3号で掲げる業務

イ.多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ.多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ.ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ.土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ.異常気圧下における業務
ヘ.さく岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
ト.重量物の取扱い等重激な業務
チ.ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ.坑内における業務
ヌ.深夜業を含む業務
ル.水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ.鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに 準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ.病原体によって汚染のおそれが著しい業務
カ.その他厚生労働大臣が定める業務

「危険を伴う作業に従事する労働者」や「深夜労働をしている労働者」が、特定業務従事者に該当します。検査項目は、先ほどご紹介した「定期健康診断」と同じです。ただし、実施頻度は6カ月以内に1回と、定期健康診断よりも頻繁に実施する必要があります。なお、胸部エックス線検査については、1年以内ごとに1回の実施で構いません。

2015年よりストレスチェックの実施が義務化

2014年6月の労働安全衛生法改正により、新たに創設されたのが、「ストレスチェック制度」です。ストレスチェック制度とは、「ストレスチェックの実施」や「その結果に基づく医師による面接指導」などの取り組みのこと。ストレスチェック制度は、うつ病をはじめとする労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを主な目的としています。2015年12月1日より、労働者数50人以上の事業場に対し、ストレスチェックの実施が義務づけられました。なお、労働者数50人未満の事業場の場合、ストレスチェックの実施は努力義務となっています。厚生労働省の『改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について』に基づき、ストレスチェック制度に関わる人や制度の流れを、順を追ってご紹介します。

ストレスチェック制度に関わる人

ストレスチェック制度には多くの人々が関わります。制度を導入するためには、まず誰がストレスチェック制度に関わるのかを理解することが重要です。ストレスチェック制度に関わる人々を下の表にまとめました。

ストレスチェック制度に関わる人

種類 主な役割 どういう人が該当するか
事業者 ストレスチェック制度の実施責任 ●労働者数50人未満の事業場
ストレスチェック制度担当者 ストレスチェック制度の実施計画の策定 ●衛生管理者
●メンタルヘルス推進担当者 など
実施者 ストレスチェックの実施 ●医師
●保健師
●厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師や精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師
実施事務従事者 実施者の補助 ●産業保健スタッフ
●事務職員
労働者 ストレスチェックの対象者 ●「期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む)」および「週労働時間数が、通常の労働者の週の所定労働時間数の4分の3以上」の両方の要件を満たす労働者

以上を踏まえた上で、ストレスチェックのフローを見ていきましょう。

ストレスチェックのフロー

(参考:厚生労働省『改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について』p45)

フロー①:事前準備

まずは事業者が、ストレスチェック制度に関する基本方針を決定します。事業者が基本方針を表明したら、次に衛生委員会において調査・審議を行いましょう。衛生委員会では、ストレスチェック制度の「実施方法」や「実施状況」などを審議します。衛生委員会での審議が終了したら、事業者は実施規程を制定しましょう。詳細が決まったら、事業者は労働者に周知します。

フロー②:ストレスチェックの実施

事業者は、常時使用する労働者に対し、1年に1回はストレスチェックを実施する必要があります。対象となる労働者は、用意された調査票に回答します。実際にストレスチェックを行うのは、医師や保健師をはじめとする実施者です。「調査票の回収」や「データ入力」といった作業は、実施事務従事者が担います。労働安全衛生法第105条に基づき、実施者および実施事務従事者には「守秘義務」があるため、ストレスチェックで知り得た労働者の秘密を漏らさないように注意しましょう。

労働安全衛生法第105条(一部抜粋)

健康診断、面接指導、検査又は面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない

調査項目

調査項目は、「職場における労働者の心理的な負担の原因」「労働者の心理的な負担による心身の自覚症状」「職場における他の労働者による当該労働者への支援」の3つの領域に分けられます。3つの領域に関する項目に関してストレスチェックを実施し、労働者のストレスの程度を点数化。評価結果を踏まえて、高ストレス者を確認します。

調査票

ストレスチェックを行う際は、先ほどご紹介した3つの領域に関する調査項目を含んだ調査票を用意することが必要です。厚生労働省は『職業性ストレス簡易調査票(57項目)』を用いることを事業者に推奨しています。事業者が独自に作成することも可能ですが、精度の高い調査を確実に行うためにも、こちらを利用するのが望ましいでしょう。

フロー③:労働者本人への結果通知

調査結果が出たら、実施者は速やかに検査を受けた労働者に対してストレスチェック結果を通知します。その際、事業者は「封書」や「メール」などの労働者本人しか把握できない方法で通知するよう、実施者に求めなければなりません。なお、労働者本人の同意なく、事業者がストレスチェック結果を受け取ることはできません。本人の同意があった場合のみ、事業者に結果が通知されます。結果を受け取った事業主は、検査結果に基づいた記録を作成し、それを5年間保存する必要があります。

通知内容

ストレスチェック結果の通知内容は、以下の3つの要素全てを含んだものであることが必要です。

通知内容の3つの要素

●個人ごとのストレスの特徴や傾向を数値、図表などで示したもの
●個人ごとのストレスの程度を示したものであって、高ストレスに該当するかどうかを示した結果
面接指導の要否

事業者は、調査結果の他にも、以下の3つについても通知するよう、実施者に促すことが望ましいとされています。

ストレスチェック結果の他に通知するのが望ましい事項

●労働者によるセルフケアに関する助言・指導
●面接指導の対象者にあっては、事業者への面接指導の申出窓口及び申出方法
●面接指導の申出窓口以外のストレスチェック結果について相談できる窓口に関する情報提供

フロー④:労働者本人からの面接指導の申し出

医師による面接指導を希望する労働者は、ストレスチェック結果を受け取ってから1カ月以内をめどに、面接指導の申し出を行います。一定の要件に該当する労働者から申し出があった場合、医師による面接指導を実施するのが企業の義務です。面接指導の申し出を理由に、労働者に対して「解雇」「退職勧奨」「配置転換」といった不利益な取り扱いをすることは禁止されていますので、注意しましょう。

対象者の要件と確認方法

医師による面接指導の対象となるのは、「検査の結果、心理的な負担の程度が高い者であって、労働安全衛生法第66条の10第3項に規定する面接指導を受ける必要があると当該検査を行った医師等が認めた」労働者です。
事業者は、労働者から面接指導の申し出があった際、その労働者が面接指導の対象者かどうかを確認します。「労働者本人からのストレスチェック結果の提出」または「要件に該当する労働者かどうかの、実施者への確認」のどちらかの方法で、対象者かどうかを把握しましょう。対象者であることが確認できたら、事業主は医師に対して、面接指導の実施を依頼します。

フロー⑤:医師による面接指導の実施

事業者は、要件に該当する労働者から申し出があった場合、医師による面接指導を実施することが義務づけられています。申し出からおおむね1カ月以内に、医師による面接指導を実施しましょう。面接指導では、医師が労働者に「勤務の状況」や「心理的な負担の状況」「心身の状況」を確認します。事業者は、面接指導の結果に基づいた記録を作成し、それを5年間保存する必要があります。

フロー⑥:医師からの意見聴取

事業者は、労働者にとって必要な措置を考えるため、面接指導を行った医師の意見を聴取する必要があります。面接指導の実施からおおむね1カ月以内をめどに、医師から意見を聞きましょう。

意見聴取の内容

意見聴取の際は、「就業区分やその内容に関する医師の判断」「職場環境の改善に関する意見」を確認します。就業区分は「通常勤務」「就業制限」「要休業」の3つがあり、必要な措置が異なります。

就業区分や必要な措置の内容

就業区分 内容 必要な措置の内容
通常勤務 通常通りの勤務でよい
就業制限 勤務に制限を加える必要がある ●労働時間の短縮
●時間外労働の制限
●作業の転換
●就業場所の変更 など
メンタルヘルス不調の防止のため
要休業 勤務を休む(一定期間勤務させない)必要がある/p> ●休暇
●休職
療養のため

フロー⑦:就業上の措置の実施

事業者には、医師の意見を踏まえ、必要に応じて就業上の措置を行う義務があります。措置を決定する際には、話し合いの場で労働者本人の意見をしっかり聞き、措置に対する本人の了解を得られるように努めましょう。また、就業上の措置の実施が、労働者に対する不当な取り扱いにならないよう注意が必要です。労働者の実情を考慮した上で、「就業場所の変更」や「作業の転換」「労働時間の短縮」といった措置を実施しましょう。就業上の措置を円滑に行えるよう、関係する部署や管理監督者との連携を図ることも重要です。

2019年労働安全衛生法の改正ポイント

近年、実労働時間が法定労働時間を大幅に上回る「長時間労働」が社会問題となっています。長時間労働の是正に向けた取り組みの一環として、2019年4月1日に改正労働安全衛生法が施行されました。
(参考:『長時間労働の目安は月平均80時間超の時間外労働。すぐ導入できる対策アイデア9選』)

法改正のポイントは、以下の5点です。

2019年労働安全衛生法の改正ポイント

●労働時間の把握
●医師による面接指導
●産業医・産業保健機能の強化
●法令等の周知の方法等
●心身の状態に関する情報の取扱い

厚生労働省と東京労働局の資料を基に、5つの改正ポイントについてご紹介します。
(参考:厚生労働省『労働基準法・労働安全衛生法等の改正について』/東京労働局『改正労働安全衛生法のポイント』)

労働時間の状況の把握(第66条の8の3)

従来、労働時間の把握については、厚生労働省が『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』で示すにとどまっていました。2019年の法改正により、労働時間の状況の把握を法律として明文化。労働安全衛生法第66条の8の3で、以下の通り規定しています。

労働安全衛生法第66条の8の3(一部抜粋)

事業者は、面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。

具体的には、「タイムカードによる記録」や「パソコンの使用記録」など、客観的な方法で労働時間を把握します。労働時間の状況の記録は、3年間保存する必要があります。在宅勤務をはじめとする「テレワーク」の場合には、「出勤退勤メール」や「Web勤怠管理システム」などで、労働時間を把握するとよいでしょう。
(参考:『「テレワーク」とは。働き方改革に向けて知っておきたいメリット・デメリットや実態』『【弁護士監修】在宅勤務の導入方法と押さえておきたい4つのポイント◆導入シート付』)

全ての労働者が対象に

従来のガイドラインと改正労働安全衛生法とでは、労働時間の把握が必要な労働者の範囲が異なります。ガイドラインは、基本的に「割増賃金の支払い対象者」を想定したものだったため、「裁量労働制の適用者」や「管理監督者」は対象外でした。しかし、法改正では健康管理の観点から、「裁量労働制の適用者」や「管理監督者」を含む全ての労働者が対象となりました。
(参考:『【すぐ理解・弁護士監修】裁量労働制とは?導入方法は?正しく運用するための基礎知識』『【社労士監修・2020最新版】管理監督者について企業が注意すべき9つの決まり』)

医師による面接指導

長時間労働といった要因により、健康リスクが高い状況にある従業員を見逃さないため、法改正では医師による面接指導が強化されました。主な改正点を下の表にまとめました。

医師による面接指導の主な改正点

改正点 改正内容
医師による面接指導の対象となる労働者の要件 「週の実労働時間が40時間を超えた時間」が1カ月当たり80時間超の労働者から申し出があった場合、医師による面接指導の実施を事業者に義務づけ
労働時間に関する情報の通知 「週の実労働時間が40時間を超えた時間」が1カ月当たり80時間超の労働者に対し、労働時間に関する情報の通知を事業者に義務づけ
研究開発業務従事労働者への面接指導 「週の実労働時間が40時間を超えた時間」が1カ月当たり80時間超の研究開発業務従事労働者に対し、本人の申し出なしに、医師による面接指導の実施を事業者に義務づけ
高度プロフェッショナル制度適用者への面接指導 「健康管理時間の超過時間」が月100時間超の高度プロフェッショナル制度対象適用者に対し、本人の申し出なしに、医師による面接指導の実施を事業者に義務づけ

「面接指導の対象となる労働者の要件」である時間外・休日労働時間(週の実労働時間が40時間を超えた時間)は、従来の「月100時間超」から、「月80時間超」へ変更になりました。また「研究開発業務従事労働者」と「高度プロフェッショナル制度適用者」の場合、一定以上の時間働いていれば、「本人の申し出なし」に医師による面接指導の指導を行う必要があります。
(参考:厚生労働省『長時間労働者への医師による面接指導制度について』)

産業医・産業保健機能の強化(第13条)

法改正により、産業医の役割も強化されました。産業医の発言力を強める法改正により、産業保健機能の強化が図られています。法改正により必要となったのは、以下のような手順です。

産業医・産業保健機能の強化

産業医が長時間労働を行っている労働者の健康管理を適切に行えるよう、事業者は必要な情報を産業医に提供する必要があります。産業医は、労働者の健康を確保するために必要と判断した場合、「労働時間の削減」といった措置を行うよう、事業者に勧告を行います。事業者は産業医の勧告を尊重し、勧告内容を衛生委員会に報告しなければなりません。また、労働安全衛生法第13条第3項により、産業医の「独立性」「中立性」の強化も図られています。

労働安全衛生法第13条第3項

産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。

産業医の役割について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご確認ください

法令等の周知の方法等(第101条第2項)

労働安全衛生法第101条第2項では、産業医の業務内容の周知についての規定が定められました。

労働安全衛生法第101条第2項

産業医を選任した事業者は、その事業場における産業医の業務の内容その他の産業医の業務に関する事項で厚生労働省令で定めるものを、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させなければならない。

産業医を選任した場合、「産業医の業務の具体的内容」や「産業医に対する健康相談の申出の方法」 「産業医による労働者の心身の状態に関する情報の取扱い方法」について、労働者に周知する必要があります。「書面での掲示」や「社内の電子掲示板への掲載」といった方法で、周知しましょう。

労働者の心身の状態に関する情報の取扱い(第104条)

労働安全衛生法第104条では、「労働者の心身の状態に関する情報の取扱い」についての規定が定められました。

労働安全衛生法第104条

事業者は、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置の実施に関し、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

あくまで「労働者の健康確保」に必要な範囲でのみ、「労働者の心身の状態に関する情報」を取り扱うことができます。それ以外の目的で、情報を保管・使用することはできませんので注意しましょう。

【2020年公布】労働安全衛生規則の一部を改正する省令のポイント

2020年には、労働安全衛生規則の一部を改正する省令が複数公布されました。省令のポイントは、下の表の通りです。

2020年に公布された省令のポイント

省令名 労働安全衛生規則の主な改正内容 公布日 施行日
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令 「健康管理手帳」の様式変更 2020年3月3日 2020年7月1日
労働安全衛生規則及び電離放射線障害防止規則の
一部を改正する省令
関連した法律の法改正に伴う、労働安全衛生規則の記載内容の一部変更 2020年3月31日 2020年4月1日
粉じん障害防止規則及び労働安全衛生規則の
一部を改正する省令
「ずい道等の掘削等作業主任者の職務」の項目追加 2020年6月15日 2021年4月1日

(参考:安全衛生情報センター『法令改正概要一覧 令和2年』)

今後も、このような細かな改正が行われる可能性があるため、最新の情報を適宜確認しましょう。

新型コロナウイルスに感染した場合は就業禁止に

新型コロナウイルス感染症は、適切な措置を講じなければ国民の生命および健康に重大な影響を及ぼす可能性がある「指定感染症」として定められています。そのため、新型コロナウイルスに感染し、都道府県知事から「就業制限」や「入院」の勧告を受けた従業員に対しては、就業させないようにする必要があります。労働安全衛生法第68条では、「病者の就業禁止」に関する規定が定められていますが、新型コロナウイルスに感染した場合には「感染症法」が適用となります。就業禁止の根拠となる法律が、労働安全衛生法ではないことを認識しておくとよいでしょう。
(参考:厚生労働省『新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)』)

まとめ

労働安全衛生法では、職場や労働者の安全衛生のため、事業者に「スタッフの配置」や「安全衛生教育の実施」などを義務づけています。労働安全衛生法に違反した場合、罰則が科される可能性があるため注意が必要です。

「ストレスチェック制度」や「2019年の法改正」の内容などもよく理解した上で、必要な措置を講じ、より安全な職場環境を目指しましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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