【社労士監修・2020最新版】管理監督者について企業が注意すべき9つの決まり

社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】

プロフィール

労働条件の決定や労務管理について、経営者と一体的な立場にある従業員を意味する「管理監督者」。管理監督者に対しては、労働基準法の「労働時間」や「休憩」「休日」といった規定が適用されません。本来、管理監督者には十分な権限や待遇が付与されますが、そうした実態がないにもかかわらず管理監督者として見なされるケースが頻発しています。今回は、管理監督者の定義や管理監督者として認められるための条件、管理監督者の9つの決まりなどを紹介します。

管理監督者とは

管理監督者とは、労働時間の決定やその他の労務管理について、経営者と一体的な立場にある従業員のこと。管理監督者については、労働基準法第41条で以下のように定義されています。

労働基準法第41条

この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

一般の従業員とは異なり、管理監督者は「労働時間」や「休憩」「休日」といった労働基準法の制限を受けません。このことから、管理監督者が残業や休日出勤をした場合にも、残業代や休日出勤手当を支払う必要はないとされています。なお、管理監督者の配置を義務付ける条文はないため、管理監督者の配置は必須ではありません。

管理職と管理監督者は違う

企業によっては、「管理職」と「管理監督者」を混同している所もあるようですが、「管理職」と「管理監督者」は必ずしも一致しません。管理職とは、社内で部下を管理する立場にいる従業員を総称した呼び名のこと。「係長職以上の従業員」や「課長職以上の従業員」など、どの従業員を管理職とするのかは企業によって異なります。一方、管理監督者については、先ほど述べたように労働基準法で明確に定義されています。管理職の全てが管理監督者となるのではなく、管理職の一部が管理監督者に該当すると理解するとよいでしょう。なお、管理監督者と認められる条件については、後ほど詳しく説明します。
管理職と管理監督者は違う

管理監督者と認められるには?

管理監督者と認められる条件については、厚生労働省が発表した『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』で規定されており、以下の4つの条件を満たす必要があります。

管理監督者と認められる条件

●労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
●労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
●現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
●賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

(参考:厚生労働省『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』)

管理監督者に該当するかは、「役職名」ではなく、上記の4つの条件を満たしているかどうかで判断されます。管理監督者と認められない管理職に対しては、残業代や休日出勤手当を支払う必要があるため、「自社では誰が管理監督者に該当するのか」を把握することが重要です。厚生労働省の資料を基に、管理監督者と認められる条件の詳細を見ていきましょう。

①職務内容:重要な職務内容を有する

職務内容に関しては、経営者と一体的な立場として、重要な職務内容を有する必要があります。厚生労働省の資料では、以下の通り記載されています。

労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していなければ、管理監督者とは言えません。

(参考:厚生労働省『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』)

「経営者と一体的な立場として、重要な職務内容を有している」と見なされるためには、「経営会議に参加し、発言できる」「経営方針や取引方針の決定に影響を与えることができる」「経営方針に基づき、部門の方針を決定できる」など、企業運営に関する意思決定に関与できることが重要です。また、部門全体を統括する立場にあることも重要とされています。そのため、企業運営の意思決定の場に参加できず、単に任された一部の業務のみを管理している管理職は、管理監督者には該当しません。

②責任と権限:重要な責任と権限を有する

責任と権限については、経営者と一体的な立場として、重要な責任と権限を有している必要があります。厚生労働省の資料では、以下の通り記載されています。

労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあるというためには、経営者から重要な責任と権限を委ねられている必要があります。
「課長」「リーダー」といった肩書があっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達したりするに過ぎないような者は、管理監督者とは言えません。

(参考:厚生労働省『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』)

「経営者と一体的な立場として、重要な責任と権限を有している」と認められるためには、「従業員の採用」や「部下の人事評価」「部下の賃金や労働条件」「予算管理や費用管理」を決めることができるなど、人事権を持ち、部下の労務管理や企業の内部運営に関する責任と権限があることが重要です。「部下がいない場合」や「人事権や部下の労務管理を人事部が担っている場合」「予算や費用を決める権限がない場合」には、管理監督者に該当しません。

③勤務形態:労働時間等の規制になじまない勤務形態である

勤務形態については、経営者と一体的な立場で職務を遂行しているのを前提として、労働時間等の規制になじまないものであることが必要です。厚生労働省の資料では、以下の通り記載されています。

管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応が要請され、労務管理においても一般労働者と異なる立場にある必要があります。労働時間について厳格な管理をされているような場合は、管理監督者とは言えません。

(参考:厚生労働省『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』)

「労働時間等の規制になじまない勤務形態」と見なされるためには、「始業時刻や終業時刻が、就業規則で定められた所定労働時間に拘束されない」「自身の業務量や労働時間を、ある程度自由に調整できる」といったように、労働時間や業務量について企業から拘束されていないことが重要です。「就業規則に規定されている所定労働時間での勤務が義務付けられている場合」や「業務量・労働時間を、上司の許可を得た上で決定している場合」には、管理監督者に該当しません。

④待遇:地位にふさわしい待遇である

待遇に関しては、管理監督者としての地位にふさわしいものである必要があります。厚生労働省の資料では、以下の通り記載されています。

管理監督者は、その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較して相応の待遇がなされていなければなりません。

(参考:厚生労働省『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』)

管理監督者は、従業員でありながら経営者と一体的な立場で重要な職務を担っている存在であるため、それにふさわしい待遇を受けるのが当然だとされています。従って、一般の従業員よりも、給与や賞与などが好待遇である必要があります。管理職であっても、「一般の従業員と給与がほとんど変わらない」「残業代がなくなった分、給与の総額が下がった」といった場合には、管理監督者として認められることは少ないと考えられます。なお、雇用形態に関しては「正社員でなければならない」「契約社員は該当しない」といった制限はありません。しかし、管理監督者としての職務の重要性や業務量を考えると、フルタイム以外の従業員を管理監督者とするのは非現実的だとされています。

厚生労働省の『令和元年賃金構造基本統計調査 結果の概況』によると、多くの企業で管理監督者に該当すると考えられる「部長級」の毎月の賃金は、男性が66万6,800円、女性が61万5,800円となっています。非役職者と比べると30万円以上、係長級と比べると20万円以上、課長級と比べると10万円以上高い結果となりました。こちらのデータを参考に、管理監督者の賃金を決定するとよいでしょう。

役職別に見た賃金

役職 男性 女性
部長級 66万6,800円 61万5,800円
課長級 53万2,000円 47万5,600円
係長級 40万5,400円 35万1,500円
非役職者 31万4,000円 26万1,000円

(参考:厚生労働省『令和元年賃金構造基本統計調査 結果の概況 役職別』)

管理監督者の9つの特徴

管理監督者を設置する際には、管理監督者の特徴を理解しておくことが重要です。管理監督者の9つの特徴を表にまとめました。

管理監督者の特徴

項目 特徴
残業代 基本残業代は支払われないが、企業によっては支給するところもある
休日出勤手当 基本休日出勤手当は支払われないが、企業によっては、支給するところもある
有給休暇 付与される
深夜残業手当 支払われる
安全配慮義務 義務あり
雇用契約書 従業員とのトラブル防止のため、取り交わすのが望ましい
労働者代表 労働者代表にはなれない
労働組合 労働組合法上の「監督的地位にある労働者」に当たる場合は入れない
36協定 対象外

それぞれの特徴について、見ていきましょう。

①残業代は支払われない

残業代とは、所定労働時間または法定労働時間を超えて働いた場合に支払われる賃金のこと。正式には、「残業手当」と言います。管理監督者には、労働基準法第37条の割増賃金についての規定が適用されないため、残業手当を支払う必要がありません。万が一、管理監督者に当たるかどうか判断がつかない場合には、一定時間分の残業があると見なして定額の残業代を支給する「固定残業代(みなし残業代)」を適用するという方法もあります。なお、後ほど説明しますが、管理監督者であっても深夜に残業が発生した場合には手当を支給する必要がありますので、注意しましょう。なお、企業によっては、管理監督者にも残業代を支払っている所もあるようです。
(参考:『【社労士監修】残業手当の正しい計算方法とは?企業が注意したいポイントを簡単に解説』『【弁護士監修】固定残業代とは?人事がおさえるべき考え方や算出方法・注意点について』)

②休日出勤手当は支払われない

休日出勤手当とは、休日に出勤してもらったり、業務を行ってもらったりした従業員に対して支払う賃金のこと。管理監督者には、労働基準法第37条の休日出勤した場合の割増賃金についての規定が適用されないため、休日出勤手当を支給する必要はありません。なお、労働基準法で規定された「休日」の制限を受けない管理監督者には、そもそも「半休」や「代休」「振休」という考え方がそぐわないため、「半休」や「代休」「振休」を取得できないとされています。なお、企業によっては、管理監督者にも休日出勤手当を支払っている所もあるようです。
(参考:『【社労士監修】休日出勤手当の正しい計算方法と法律違反にならない運用方法』)

③有給休暇は付与される

有給休暇とは、企業が従業員に対して給与を支給する休暇日のこと。労働基準法第39条の有給休暇についての規定は、管理監督者にも適用されるため、管理監督者にも有給休暇を付与する必要があります。また、年10日以上の有給休暇がある管理監督者についても、一般の従業員と同様、2019年から開始された「年5日以上の有給休暇取得義務化」の対象となります。
(参考:『【弁護士監修】有給休暇は2019年4月に取得義務化へ~買い取りルールや計算方法~』『有給取得率の計算方法と、国別・業種別平均取得率は?』)

④深夜残業手当は支払われる

深夜残業手当とは、従業員に22時から翌5時まで、深夜の時間帯に働いてもらった場合に支払う手当のこと。労働基準法第37条の深夜労働の場合の割増賃金に関する規定は管理監督者にも適用されるため、一般の従業員と同様、深夜残業手当を支払う必要があります。
(参考:『【社労士監修】残業手当の正しい計算方法とは?企業が注意したいポイントを簡単に解説』)

⑤安全配慮義務はある

安全配慮義務とは、従業員が生命・身体の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮を企業が行う義務のこと。安全配慮義務について定めた労働契約法第5条は、管理監督者にも適用されるため、企業には、管理監督者への安全配慮義務があります。管理監督者の健康が長時間労働によって害されないよう、安全配慮義務の観点から、労働時間の管理を行いましょう。

⑥雇用契約書は取り交わすのが望ましい

雇用契約書とは、企業と従業員の間で雇用契約の内容についての合意を証明する書類のこと。雇用契約は口頭でも成立しますが、従業員とのトラブルを避けるため、雇用契約書として書面で交付するのが望ましいとされています。管理監督者は、経営者と一体的な立場にはありますが、一従業員であることに変わりはないため、一般の従業員と同様に、労働条件を明示する必要があります。管理監督者との間でも、雇用契約書を取り交わしておきましょう。
(参考:『【弁護士監修・雛型付】雇用契約書を簡単作成!各項目の書き方と困ったときの対処法』)

⑦労働者代表にはなれない

労働者代表とは、労働組合がない場合に、従業員の過半数を代表して選出される人のこと。労働者代表について規定した労働基準法施行規則第6条の2では、管理監督者を対象から除外しているため、管理監督者は労働者代表にはなれません。管理監督者を労働者代表としないよう、注意しましょう。

⑧労働組合には入れないことも

労働組合とは、職場環境や待遇の改善などを目的に、従業員が集結する連帯組織のこと。労働組合法第2条では、「役員」や「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者(人事権をもつ上級管理者)」「労働関係の計画・方針に関する機密事項に接する監督的地位にあるためにその職責が組合員としての誠意と責任とに直接てい触する労働者(労務人事の管理者)」などを非組合員と定義しています。
一方、厚生労働省は『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』で、労働基準法の「管理監督者」と労働組合法の「監督的地位にある労働者」は同じではないという見解を示しています。実際には、労働基準法上の「管理監督者」が、労働組合法上の「監督的地位にある労働者」を兼ねていることも多いため、労働組合に加入できない管理監督者もいると考えられます。
(参考:厚生労働省『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』)

⑨36協定は対象外

36協定とは、従業員に法定時間を超えて働いてもらう場合や、休日出勤をお願いする場合に必要な協定のこと。正式には、「時間外労働・休日労働に関する協定」と言います。管理監督者に対しては、労働基準法の「労働時間」に関する規定が適用されないため、36協定は対象外となります。その一方で、管理監督者も「深夜残業手当」や「安全配慮義務」の適用対象になっているため、健康を害するような深夜残業や長時間労働は避けるのが望ましいでしょう。
(参考:『【弁護士監修】36協定は違反すると罰則も。時間外労働の上限や特別条項を正しく理解』)

管理監督者にまつわるトラブルと指摘されている問題点

管理監督者にまつわるトラブルとして、しばしば発生するのが「名ばかり管理職」問題です。名ばかり管理職とは、管理監督者としての条件を満たさないにもかかわらず、企業独自の基準であたかも管理監督者のような扱いを受ける従業員のこと。名ばかり管理職に該当する従業員は管理監督者でないため、一般の従業員と同様、残業手当や休日出勤手当の支給対象となります。しかし、実質的に管理監督者ではない管理職に残業代や休日出勤手当が支給されないケースが散見され、「名ばかり管理職」問題は、社会問題となっています。従業員が名ばかり管理職であると訴え、訴訟に発展することもあります。管理監督者を巡って起こった裁判とその判決についてご紹介します。

時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の請求が認められなかった事例

事件の概要

●原告:人事第二課長の看護師
●被告:病院
●概要:人事第二課長として、主に看護婦の募集業務に従事していた原告が、管理監督者ではないとして、時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金を請求した。

判決の概要

●判決:原告には、時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の請求権は発生しない。(管理監督者と認定)
●理由:原告は、看護師の採否・配置の決定を任されており、経営者と一体的な立場にあった。労働時間については、タイムカードを打刻していたものの、実際の労働時間は自身の裁量で決めることができていた。また、時間外手当が支給されない代わりに、責任手当・特別調整手当が支給されていた。これらから管理監督者に該当すると判断でき、時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の請求権は発生しない。

時間外労働に対する割増賃金の支払い義務が認められた事例

事件の概要

●原告:ファミリーレストランの店長
●被告:会社
●概要:ファミリーレストランの店長が、管理監督者ではないとして、時間外労働に対する割増賃金の支払いを求めた。

判決の概要

●判決:被告には、時間外労働に対する割増賃金の支払い義務がある。(管理監督者とは認定されず)
●概要:原告は店長として、コックやウエイターなどの従業員を統括し、採用にも一部関与し、店長手当も支給されていた。しかし、労働条件は経営者が決定していた。労働時間については、店舗の営業時間に拘束されており、出退勤の時間を自由に決めることはできなかった。また、店長としての職務の他、調理や接客、掃除などさまざまな業務を担っていた。こうした状況から、経営者と一体的な立場にあるとは言えず、管理監督者とは認められない。そのため被告には時間外労働に対する割増賃金の支払い義務がある。

時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払い義務が認められた事例

事件の概要

●原告:書籍の訪問販売を行う支店の販売主任
●被告:会社
●概要:書籍の訪問販売を行う支店の販売主任だった原告が、管理監督者ではないとして、時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払いを求めた。

判決の概要

●判決:被告には、時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払い義務がある。(管理監督者とは認定されず)
●概要:原告は過去に営業所長を経験していた頃、支店長会議に出席したこともあったが、支店の営業方針を決定する権限はなかった。支店の具体的な販売計画に関し、支店販売係長に対する指揮命令権限を有していたとも言えない。また、タイムカードで厳格に勤怠管理がされており、労働時間を自身の裁量で決めることはできなかった。そうしたことから、管理監督者に当たるとは認められない。そのため、被告には時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払い義務がある。

2019年4月の働き方改革関連法案による変更点

2019年4月に施行された働き方改革関連法案では、管理監督者に関連した項目も変更になりました。働き方改革関連法案による変更点についてご紹介します。

労働時間の把握が義務に

働き方改革関連法案の施行により義務化されたのが、管理監督者の労働時間の把握です。2017年1月に厚生労働省が発表した『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』では、「ガイドラインが適用されない労働者(管理監督者や裁量労働時間制の対象者)についても、健康確保を図るため労働時間を把握するのが望ましい」という旨を記載するにとどまっていました。しかし、働き方改革関連法案の一環として改正された労働安全衛生法により、法律として明文化。管理監督者の労働時間把握が義務となりました。改正労働安全衛生法第66条の8の3では、以下の通り規定されています。

改正労働安全衛生法第66条の8の3(抜粋)

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。

厚生労働省の出した通達『平成30年12月28日基発1228第16号』では、改正労働安全衛生法第66条の8の3において労働時間の把握の対象となる労働者について、「管理監督者を含めた全ての労働者が対象になる」という解釈がなされています。なお、管理監督者の労働時間を把握したからといって、残業代を支払う必要はありません。
(参考:厚生労働省『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』『平成30年12月28日基発1228第16号』)

労働時間の把握方法

厚生労働省の『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』や『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』によると、管理監督者を含む従業員の労働時間は、「タイムカードによる記録」や「パソコンの使用時間の記録」などによる客観的な方法による把握を原則としています。しかし、客観的な方法による労働時間の把握が難しい場合には、「適正な申告を阻害しない」措置を講じた上で、自己申告された内容に基づき労働時間を把握することも可能です。なお、企業は労働時間の状況を記録したものを、3年間保存する必要があります。
(参考:厚生労働省『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』)

管理監督者を設置する場合の就業規則の定め方

労働基準法では、「具体的にどういう職位にある人を管理監督者とするのか」については規定されていません。そのため、企業は「どの職位にある人」を管理監督者と見なすのかを、就業規則で定義する必要があります。管理監督者を設置する場合、以下のように就業規則に記載するとよいでしょう。

就業規則の記載例

第●条(管理監督者の定義)

1.管理監督者とは、従業員を監督・管理する立場にある次の者を指す。
(1)職位名
(2)職位名
2.管理監督者については、第▲章に定める労働時間、休憩及び休日の規定は適用しない。
3.管理監督者に対しては、第■章や賃金規程に定める管理職手当を支給する。

「本部長」や「部長」といった職位名だけではなく、「労働時間、休憩および休日の規定が適用されない」ことについても、明記することが重要です。また、管理職手当を支給する場合には、その旨も記載しておくとよいでしょう。

あまりに出勤しない管理監督者を解雇・減給・欠勤控除することは可能?

管理監督者は労働基準法の「労働時間」や「休日」の制限は受けませんが、あまりに出勤する機会が少ないと「部下の管理監督業務に支障を来す」「従業員の士気が下がる」といった可能性があります。これらの理由から、ほとんど出勤しない管理監督者に対しては、何らかの処分を検討する必要があるでしょう。あまりに出勤しない管理監督者を「解雇」「減給」「欠勤控除」できるかについてご紹介します。

解雇は可能

過去の判例では、勤務日数の3分の1しか出社しなかった管理監督者を「改悛の見込みなし」として会社が下した懲戒処分を、裁判所は有効だと認めています。そのため、出勤日数があまりに少ない管理監督者を解雇することは可能と考えられます。

減給は就業規則の内容によっては可能

減給については、就業規則の内容によっては可能だとされています。「就業規則に、懲戒処分として減給する可能性があることが記載されているか」「出勤日数が少ないことが、懲戒処分としての減給の条件となっているか」などを確認しましょう。なお、懲戒処分としての減給の限度額は法律で決められているため、注意が必要です。

欠勤控除は可能

欠勤控除とは、もともと支払う予定だった賃金から、欠勤した分の賃金を差し引いて給与を支払うこと。従業員が何らかの理由により労働しなかった場合、企業には賃金の支払い義務が発生しないという「ノーワークノーペイの原則」に基づいたものです。ノーワークノーペイの原則は、管理監督者にも適用されるため、出勤しなかった日数分だけ、欠勤控除することができます。なお、遅刻や早退については、そもそも管理監督者にそぐわない概念であるため、遅刻・早退した時間分だけ欠勤控除することはできません。「丸1日出勤しなかったのか」あるいは「数時間だけでも出勤したのか」によって、欠勤控除できるかどうかが決まってくるため、注意しましょう。
(参考:『欠勤控除とは?人事が知っておくべき基本知識~算出に含む手当一覧付~』『【社労士監修】ノーワークノーペイの原則。こんなときどうする?を法律を交えて解説』)

まとめ

経営者と一体的な立場にある管理監督者には、労働基準法の「労働時間」や「休憩」「休日」に関する規定が適用されません。管理監督者であると認められるためには、「職務内容」や「権限・責任」「勤務形態」「待遇」が管理監督者としてふさわしい状態にあることが必要です。名ばかり管理職とならないよう、「管理監督者としての条件を満たしているか」「残業代や休日出勤手当、深夜残業手当などの適用有無を正しく理解しているか」といったことを確認した上で、管理監督者を設置しましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)

【Word版】労働条件通知書 兼 雇用契約書

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