【弁護士監修】服務規律とは?従業員が違反した場合の正しい対応や規程事例を解説

第一東京弁護士会労働法制委員会、日本CSR普及協会(雇用労働専門委員)、経営法曹会議等に所属。経営者側労働法を多く取り扱い、労働審判・労働訴訟等の係争案件、団体交渉(組合・労働委員会)、労災(行政・被災者対応)、労務DD対応を得意とする。
経営課題を抽出し、依頼者のニーズを踏まえたベストプラクティスの提案を心掛ける。
主著に『労働行政対応の法律実務』(中央経済社 共著)、『「働き方改革実行計画」を読む』(月刊人事労務実務のQ&A 2017年7月号 日本労務研究会 共著)など。

服務規律とは労働者が守るべき義務やルールのこと
服務規律の記載例、トラブルを避けるためにはどのように定めればいい?
服務規律に従業員が違反した場合、企業の正しい対応例
服務規律違反の判例

企業内で守るべき、ルールや行動規範を記載した「服務規律」。「服務規律を見直したい」「服務規律に違反している従業員に対し、トラブルにならないよう正しく対処したい」といったケースもあるでしょう。そこで今回は、服務規律に記載しておくべき項目や、違反時の正しい対処について判例を交えてご紹介します。

服務規律とは労働者が守るべき義務やルールのこと

服務規律(ふくむきりつ)とは、業務遂行にあたり「従業員が遵守すべき義務やルール」のこと。組織の一員として、あるべき姿や取るべき行動を規定した「行動規範」の一部とも言えるでしょう。服務規律の作成は義務ではありませんが、組織のコンプライアンスを遵守するために重要なものです。英語では、「company regulations」と訳します。

企業における服務規律の意味・目的・内容

服務規律は、企業秩序の維持を図ることを目的としています。事業内容や企業文化に応じて、記載内容を企業が独自に定めることができますが、労働基準法や自社の就業規則と矛盾しない形で定める必要があります。記載項目は多岐に渡りますが、基本的には以下の3つに大別できます。

●労務提供そのものや、提供の在り方
無断職場離脱の禁止、業務上の指揮命令に従うこと、セクハラ・パワハラの禁止、遅刻・早退・欠勤 等

●企業施設の管理方法や職場環境の維持
無許可での施設利用の禁止、喫煙の禁止 等

●業務外活動
会社の秘密保持、副業(兼業)の可否、会社に対する誹謗・中傷の禁止 等

就業規則との違い

「就業規則」は、企業と従業員との約束事を明文化した、職場におけるルールブックです。就業規則の記載事項には、「休日」や「就業時間」などの必ず明記しなければならない「絶対的必要記載事項」の他、「賞与」や「表彰・制裁」といった、記載が義務とされていない「相対的必要記載事項」があります。服務規律は「相対的必要記載事項」の一つとして就業規則内で規定されることも多く、就業規則の一部と言えます。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

服務規律の記載例、トラブルを避けるためにはどのように定めればいい?

労使間のトラブルを避けるため、服務規律には、さまざまなケースを網羅的にカバーできる内容を記載することが大切です。服務規律の定め方と、各項目の記載例を解説します。

服務規律は「就業規則」または「服務規程・誓約書」で規定する

服務規律は、就業規則内に条文として明記するのが一般的ですが、「服務規程」や「誓約書」などとして、就業規則とは別に定めることもできます。就業規則とは別に定めた場合であっても、上記のとおり服務規律は「相対的必要記載事項」となりますので、服務規程の変更は、労働基準法上の就業規則の変更手続きが必要となります。具体的には、「従業員代表から意見書をもらう」「労働基準監督署へ就業規則の変更を届け出る」などの事務手続きが必要となるので、注意が必要です。

服務規程のテンプレートは、こちらからダウンロードできます。

服務規律の記載例

代表的な項目の記載例をご紹介します。

基本原則

・従業員は、会社の一員としての自覚と責任感を持って、誠実に業務を遂行すること。また、社会的なルール・マナーを守ることを心掛けなければならない。
・従業員は、本規則を遵守しなければならない。また、従業員が本規程に抵触した場合、懲戒処分の対象とする。
・従業員は、業務上の指揮命令に従い、同僚と相互協力しながら業務運営を円滑に行うとともに、職場の秩序維持に努めること。
・従業員は、お互いの人権および人格を尊重し、適切な職場環境の構築に努めること。

基本事項では、服務規律を遵守しなければならない旨や、社会通念にのっとった正しい行いを心掛けることなどを記載します。
(参考:厚生労働省『第3章 服務規律』)

身だしなみ(服装、髪、入れ墨など)

・身だしなみ(衣服、髪型、化粧、爪、アクセサリー等)は、常に清潔を保ち、他人に不快感を与えないものであること。また、職場の雰囲気にふさわしくない身だしなみは慎むこと。

制服がある場合や、頭髪の色・長さなどに関する具体的な規定がある場合は、それらを盛り込みましょう。

勤務態度(環境整備、喫煙・飲酒、携帯電話の使用などについて)

・職場の整理整頓に努め、気持ちよく勤務ができるように、常に職場の清潔を保つこと。
・勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
・会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
・喫煙は会社が指定した場所のみで行うこと。
・酒気を帯びて就業または自動車の運転をしないこと。また、勤務中に飲酒しないこと。
・勤務中は職務に専念し、正当な理由なく私用で携帯電話他、通信機器での通話・メール等通信を行わないこと。
・その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。

職場環境の維持に関わる規定として、勤務態度に関する項目を盛り込むのが一般的です。

遅刻、早退、欠勤など

・労働者は遅刻、早退もしくは欠勤、または勤務時間中に私用で事業場から外出する際は、事前に上長に対し申し出、承認を得ること。ただし、やむを得ない理由で事前の申し出ができなかった場合は、事後に速やかに届け出をし、承認を得ること。
・前項の場合は、原則として不就労分に対応する賃金は控除する。
・傷病のために継続して●日以上欠勤するときは、医師の診断書を提出しなければならない。

遅刻・早退、欠勤等による「不就労」は生じる可能性が高いため、必ず記載しましょう。

秘密保持・個人情報の保護

・従業員は、在職中および退職後において、業務上知り得た会社、取引先等の機密および、会社の不利益となる事項を他に漏洩してはならない。
・従業員は、会社および取引先等に関する情報の管理に十分注意を払い、自らの業務に関係のない情報を不当に取得してはならない。
・従業員は、職場または職種を異動、あるいは退職する場合、自らが管理していた会社および取引先等に関するデータ・情報書類等を、速やかに会社に返却しなければならない。

2017年5月に全面施行された「個人情報保護法」により、企業には個人情報の適正な管理が義務付けられています。個人情報を適切に扱わなければならない旨を記載しましょう。
(参考:個人情報保護委員会『はじめての個人情報保護法~シンプルレッスン~』)

ハラスメント

・性的言動により他の労働者に不快感・不利益を与えることや、就業環境を害することをしてはならない。(セクシュアル・ハラスメントの禁止)
・職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にした、業務の適正な範囲を超える言動により、他の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えることや、就業環境を害することをしてはならない。(パワー・ハラスメントの禁止)
・妊娠・出産等に関する言動および妊娠・出産・育児・介護等に関する制度または措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
・その他、あらゆるハラスメント行為により、相手に精神的・身体的苦痛を与えることや、職場の秩序を乱すような行為をしてはならない。

職場におけるハラスメント対策の強化として、2020年6月に労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行されました。併せて、セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)や、マタニティ・ハラスメント(マタハラ)などの対策も強化されています。服務規律には、あらゆるハラスメントを禁止する項目を盛り込んでおきましょう。

(参考:厚生労働省『女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等 の一部を改正する法律(令和元年6月5日日公布)の概要』)
(参考:『労働施策総合推進法の改正でパワハラ防止が義務化に。企業が取るべき4つの対応』)

副業

・会社に在職したまま他の企業または団体等に勤務する場合、および営利を目的とする事業を営む場合は、あらかじめ所属長を通じて申請の上、社長の許可を得なくてはならない。
・社員が会社の業務に属する事項について著作や講演を行う場合、または特許その他の出願をする場合は前項の規定を準用する。

近年、副業を解禁する企業が増加しています。副業を容認する場合には、事前申請や会社の許可が必要な旨を記載するとよいでしょう。

在宅勤務など、テレワークの場合

働き方改革や新型コロナウイルス感染症の影響などから、在宅勤務をはじめとしたテレワークを推進する企業が増えています。オフィスとは異なる場所で働くテレワークについては、別途項目を設け記載するとよいでしょう。

・テレワーク勤務者は、次に定める事項を遵守しなければならない。
(1)テレワーク勤務の際に所定の手続きに従って持ち出した会社の情報および作成した成果物を第三者が閲覧、コピー等しないように最大の注意を払うこと。
(2)テレワーク勤務中は、業務に専念すること。
(3)第1号に定める情報および成果物は、紛失・毀損しないよう丁寧に扱い、セキュリティ・ガイドラインに沿って確実な方法で保管・管理を行うこと。
(4)在宅勤務中は自宅以外の場所で業務を行わないこと。
(5)移動時や外出時の隙間時間に勤務を行うモバイル勤務者は、会社が指定する場所以外で、パソコンを作動させたり、重要資料を見たりしてはならない。
(6)モバイル勤務者は、公衆無線LANスポットなどの、漏洩リスクの高いネットワークへの接続を行ってはならない。
(7)テレワーク勤務を実施する際は、会社情報の取り扱いに関し、セキュリティ・ガイドラインおよび関連規程類を遵守すること。

在宅勤務中の勤務態度や情報漏洩などのセキュリティリスクを考慮した規定を盛り込んでおくことが重要です。
(参考:厚生労働省『テレワークモデル就業規則』)
(参考:『【弁護士監修】在宅勤務の導入方法と押さえておきたい4つのポイント◆導入シート付』『「テレワーク」とは。働き方改革に向けて知っておきたいメリット・デメリットや実態』)

定めた規程は社員に周知

企業には、作成した服務規程や就業規則を、従業員に対して周知する義務があります(労働基準法第106条第1項)。これは、従業員が必要に応じて内容を確認できるようにすることを目的としています。規程を変更した場合にも、同様に周知が必要です。

周知の方法は、以下の3通りが考えられます。

① 各職場への掲示または備え付けなどを行い、常時確認できる状態にする
② 一人一人に、書面で交付する
③ デジタルデータとして記録し、モニター画面などで確認できるようにする

労使間の認識のずれやトラブルを回避するためにも、上記のいずれか、または複数の方法により、従業員に周知して理解を得ておきましょう。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

服務規律に従業員が違反した場合、企業の正しい対応例

従業員が服務規律に違反した場合、企業はどう対応すればよいのでしょうか。対応例をご紹介します。

従業員が服務規律に違反した場合は、懲戒処分の対象に

懲戒処分とは、「従業員が果たすべき義務や規律に違反したことに対し、制裁として行われる不利益措置」のこと。従業員の服務規律違反は懲戒処分の対象となります。従業員には、服務規律に違反した場合には懲戒処分の対象になることがあると、周知しておきましょう。服務規律違反を理由に懲戒処分を適用するには、以下の要件を満たしていることが必要です。

・就業規則に規定されている懲戒事由に服務規律違反が含まれていること
・懲戒事由に該当する事実が存在すること
・懲戒処分が相当であること(以下の要素などを考慮して総合的に判断されます)
・懲戒事由と懲戒処分とのバランスが取れていること
・懲戒処分に該当する行為について、処分の内容が過去の例や他の労働者と平等であること
・同一の事実に対して処分が重複していないこと
・懲戒処分の手続きが遵守されていること

注意点①:服務規律違反に関する事項は必ず規定しておく

服務規律違反に対する規定がない場合、懲戒処分の適用が難しくなります。以下のように、服務規律違反に対して懲戒処分が適用されるという旨を、必ず服務規律の中に盛り込みましょう。

・従業員が本規程に抵触した場合、懲戒処分の対象とする。

注意点②:従業員が違反した際、事実確認を行う

懲戒処分に先立ち、従業員が服務規律に違反したかどうかの事実確認をすることが重要です。事実確認は、「関係者への聞き取り」「証拠品の収集」「周囲への聞き取り」「当事者への聞き取り」というフローで行います。当事者や関係者へのヒアリングの際は、「中立的な立場で先入観を持たないこと」を意識しましょう。

懲戒処分の種類・内容

懲戒処分を検討する場合、その内容を検討します。処分内容は、違反の程度によって「戒告」「譴責(けんせき)」「減給」「出勤停止」「降格」「諭旨解雇」「懲戒解雇」の7種類に分けられます。

懲戒処分

(参考:『【弁護士監修】懲戒処分とは?種類と基準―どんなときに、どんな処分をすればいいのか―』)

懲戒処分の有効性の判断基準

懲戒処分の有効性は、以下の2点から判断されます。

・問題となる従業員の行為が、規程上の懲戒事由に該当するか
・懲戒処分の内容が相当か(重過ぎないか、または過去の事例に照らし合わせて妥当か、重複していないか、手続きが相当か等)

問題となった行為が、規程上の懲戒事由に該当するかどうかは、「服務規律に記載があり、その違反が懲戒事由として定められているか」で判断します。懲戒事由に該当する場合は懲戒の種類を検討していきますが、このとき大切なのは、「問題の行為と処分の程度が適当か」です。社内での過去の事例や、裁判例などに照らし合わせて、妥当な処分を決めましょう。
(参考:『【弁護士監修】懲戒処分とは?種類と基準―どんなときに、どんな処分をすればいいのか―』)

就業時間外で従業員が服務規律違反した場合

服務規律は、原則として就業中に関する遵守事項を規定したものですが、就業時間外に違反があった場合も、処分の対象となることがあります。就業時間外の違反を処分対象とするかは、その行為が企業の信用低下や不利益を与える可能性があるかどうか、などから判断します。

派遣社員が派遣先で服務規律違反した場合

派遣社員の場合、派遣元の服務規律が適用されるため、派遣先企業の規程に基づいて処分することはできません。しかし、派遣社員は実際の労務提供を派遣先で行っているため、派遣社員にはあらかじめ自社の規則を遵守してほしい旨を伝え、理解を得ておくことが大切です。

派遣社員が服務規律違反を行った場合は、口頭で注意喚起を行うとともに、派遣元に事実を伝えた上、派遣元で適切な処分を行うように要請します。それでも事態が改善しない場合は、「代わりの派遣社員の要請」や「派遣契約の解除」を検討しましょう。

(参考:厚労省『労働条件に関する総合情報サイト:裁判例』)

服務規律違反の判例

服務規律違反に関する、過去の判例をご紹介します。

「解雇」処分が無効とされた例

採用後22年間にわたり、秘書業務や翻訳業務等に従事していたXは、業務用パソコンから私用メールを送受信したなど計9項目の言動により、無期限の出勤停止になりました。概ねその3カ月後、会社側はXに「解雇」を通告。これに対し、裁判では就業規則所定の解雇事由に該当する行為もあるが、約22年間の非違行為もなく良好な勤務実績を考慮すると、「解雇が客観的合理性・社会的相当性を備えているとは評価し難い」として、解雇処分を無効としました。

「解雇」処分が有効とされた例

Z専門学校は、同校に勤務するYが、就業時間内に職場のパソコンを利用して出会い系サイトに登録し、大量の私用メールを送受信したことを理由に、「懲戒解雇」処分としました。これに対し地裁では、「懲戒解雇事由に一応は該当するものの、その内容や程度、影響等からすると解雇権の濫用に当たる」という判断に。しかし高裁では、「Yの行為は著しく軽率かつ不謹慎で、学校の品位や名誉を傷つけるものであること」「職務専念義務に違反すること」などから、懲戒解雇は適法と判断されました。

まとめ

服務規律は、企業の事業や文化・風土に即したものであることが重要です。従業員に内容を正しく理解してもらえるように、簡潔かつ具体的に規定しましょう。従業員が服務規律に違反した際に、適切な処分を行うためには、服務規律の中に違反時の対応をあらかじめ規定しておくことが必要です。過去の判例や個々の事情などと照らし合わせながら、適切な判断を行いましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/弁護士 藥師寺正典、編集/d’s JOURNAL編集部)