テレワークこそマネージャーの真価の発揮どころ。変わる勇気を持って、イノベーティブな組織を目指せ

広島修道大学商学部

博士(商学)・中園 宏幸氏

プロフィール

突然のコロナ禍に伴う緊急事態宣言発令により、半ば強制的に導入されたテレワークが、1年半を経てほぼ定着しつつあります。

もっとも導入レベルはまだら模様であり、テレワーク拡大に動く企業もあれば、一方で縮小や廃止を選択するケースも見られます。ただ、外部環境に大きな変化があり、それに伴って内部も変わらざるを得ないときは、企業にとってはまたとない変革のチャンスです。

「これまで変わらなければと意識しながら、実践できていなかった企業は、今こそ変わるべきだ。テレワーク導入は、イノベーションの起爆剤となり得る」と、広島修道大学商学部の中園宏幸准教授は力説します。

企業変革のカギを握るのは、テレワーク下でその存在価値に疑問符の付いたミドルマネジメントです。テレワークを好機に変え、イノベーティブな組織に生まれ変わるには、何が必要なのでしょうか。マネジメントに求められる発想の転換などについて、お話を伺いました。

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テレワーク導入から定着へ、その過程で芽生えた気づき

――緊急事態宣言発令直後から組織調査を手掛けてこられましたが、その結果はどのようなものだったのでしょうか。

中園氏:2020年4月に質問表による緊急アンケート調査を行い、第2回の調査を半年後の9月から翌2021年1月にかけて行いました。第2回調査の結果からは、テレワーク定着に向けた動きが明らかになっています

具体的にはテレワークを導入し、今後の定着を考えている企業が全体の6割強、現状より拡大もしくは積極的な活用を考えている企業が2割残りが縮小や廃止を考えている企業でした。私の知る限りでは、他の調査でもだいたい似たような結果が出ているようです。

――テレワークをやめる企業もそれなりにあるわけですね。どうして、このような違いが生まれるのでしょうか。

中園氏:テレワークといえば、主にIT系の企業が取り入れていると思われがちです。ある意味正しいのですが、IT系が全てテレワークに移行しているかと言えば、決してそうでもない。たとえば緊急事態宣言解除後に、早々とテレワークを解除したIT大手もあります。

業種業態によってテレワークの向き不向きは一定程度あるのでしょうが、そもそもの企業文化にも左右されるといえるでしょう。ただ一般論としては、企業規模の大きな所ほど、テレワークを導入する傾向が強いと言えそうです。

――テレワークという制度自体は、コロナ禍の前からありました。

中園氏:そのとおりです。とは言え男性の育児休暇制度同様に、制度そのものはあるけれども、実際にどれだけ運用されているかはよくわかっていませんでした。これまでの調査では「テレワーク制度の有無」について尋ねていたものの、実際の運用にまで踏み込んで調べていなかったからです。

ただ無理やりとは言え、いきなり導入してみると意外に使える制度であることがわかってきた。これに伴い、マネジメント全体としての新しい在り方を模索しているのが現状だと思います。

テレワークでこそ、マネージャーの真価が問われる

――テレワークによりマネジメントに変化の兆しが出ているのですか。

中園氏:もとより、テレワークを導入すれば、それで万事解決などというわけではありません。パソコンを導入しさえすれば、それ以外に何もしなくても生産性が上がるわけではないのと同じです。

単にテレワークさえ導入すれば、それだけで自動的に生産性が向上したりするはずがない。パソコン導入で生産性を高めるためには、それなりの教育投資などが必要だったのと同じく、テレワークでも生産性を高めるためには相応の投資が必要です。

ただし、一度でもテレワークを経験した人は、それ以降の生産性が向上しているとの調査結果も出ています。実際にやってみて、どうすれば良くなるかを考えたり、何らかの投資が行われたりした結果と考えられます。

――生産性が高まる理由は、何でしょう。

中園氏:大きな理由として考えられるのは、テレワークを行っているメンバーの変化です。コロナ禍以前に行われていたテレワークは、主に社内のメインストリームではない人たちの仕事でした。ところが、緊急事態宣言に伴うテレワークでは、社内でメイン業務に携わっている人たちも取り組まざるを得なくなった。

当然彼らは、テレワーク導入による生産性向上を真剣に考えます。すると自然な流れとして、テレワーカーたちへのマネジメントの在り方にまで考えが及ぶようになるでしょう。テレワークにおける生産性向上が、新たな課題として認識されるようになったのです。

――マネジメントとテレワークと言えば、テレワーク導入に伴い、中間管理職の方々の存在意義が問われ始めているとも聞きます。

中園氏:これはかなり重要な問題だと認識しています。つまり、中間管理職の方々はここでいったん、これまで自分のやってきた仕事の意味を振り返るべきです。その上で、これからどうしていくのかを考える必要があります。

たとえば、テレワークにより部下とのコミュニケーションを取りにくくなっていると言われますが、そこでまず問うべきなのは「では、これまでは十全なコミュニケーションが取れていたのか」ということです。

オフィスに一緒にいて話をしているから、なんとなくコミュニケーションができている気分になっていただけではないのか。それで本当にマネジメントに必要なコミュニケーションを取れていたのか。本来の自分の仕事は何なのか。ある意味で、自分の仕事の棚卸しが求められているのです。

――中間管理職が果たすべき役割はあるのですね。

中園氏:もちろんです。チームのスタッフに仕事を割り振ったり、一人一人のモチベーションを高めたりするのが重要な役割です。モチベーションアップに必要なのは達成感・連帯感・公平感であり、テレワーク時に問題となりがちなのが連帯感です。たとえ離ればなれで仕事をしていても、連帯感を維持する。

これこそは中間管理職が果たすべき重要な役割であり、こればかりはZoomなどのオンラインツールを駆使しても難しい。なぜならZoomでは「発言」はできるけれども、コミュニケーションの潤滑油とも言うべき「雑談」が生まれないからです。

Slackなどのチャットツールを活用して、何とか補っているケースもありますが、雑談は本来ならリアルな場で行うのが一番でしょう。

変える勇気が組織を変えていく

――生産性向上のためには、スタッフのモチベーションやストレスなどのマネジメントも重要だと思います。

中園氏:それは達成感、連帯感、公平感をどう設計するかにかかっています。そこで注目されているのが、従来言われていたMBO(Management by Objective)に変わる新しい手法、OKR(Objectives and Key Results)です。

目標と主要な結果を重視すること。つまり具体的には、意欲的な目標を立てて、それの達成状況を定量的に評価することです。

わかりやすい例で説明するなら、少し太り気味で体重75kgぐらいある人が「体重を65kgまで落とす」と意欲的な目標を設定する。そのためのKey Resultsとしては「週5回30分以上運動する」「週に6日は食事の総カロリー数を1600キロカロリーに抑える」などと定量的に設定する。すると、1週間の達成度をパーセンテージで評価できます。

話をわかりやすくするため個人の例で説明しましたが、組織運用においては当然、組織目標と関連したOKRを設定することになります。

――OKRは最近のマネジメントで採用されている手法なのでしょうか。

中園氏:Googleやインテルで採用されたのが最初で、取り入れる企業が増えつつある状況です。ただ、目標設定が難しい。設定するのはマネージャーの仕事ですが、特に意欲的な目標となると、マネージャー視点とスタッフ視点の間にギャップが生じる恐れがあります。

だからこそきめ細かくヒアリングやメンタリングを行いながら、設定しなければなりません。ただし、MBOとは決定的な違いがあり、OKRは人事評価に直結させないのが原則です。評価うんぬんではなく、高い目標にモチベーションを感じてがんばってほしい。そんな意図を込めて設定されるのがOKRです。

人事評価ではなく、自分のやっている仕事が、組織全体にどのようにつながっているのかを自覚できればモチベーションに直結する。そこで大切になってくるのが、ミドルマネージャーとスタッフのコミュニケーションです。

――お話を伺っていると、実はテレワークこそミドルマネージャーの真価が問われているように思えてきます。

中園氏:だからこそ、意識改革が求められるのです。マネージャーがまず勇気を出して変革に取り組めるかどうか。テレワークでは、目の前に部下たちがいません。だからマネージャーは不安に陥りがちで、そうなるとスタッフをより強くコントロールしようとする。

それで問題が起こるから、マネージャー不要論が出てくるわけです。けれども、そこはマネージャーがまず意識を変えるべきです。どうすれば、みんなのモチベーションを高められるのか。これまでとは違うやり方を導入する、絶好のチャンスではないですか。

自らが新しいマネジメントスタイルを習得する良い機会であり、スタッフにとっても変わる機会だと導いてあげればいい。そこでリアルとバーチャルの組み合わせが必要になるのだと思います。

イノベーション志向の組織をめざせ

――企業の中には完全にテレワークにシフトして、オフィスを全廃するところもありますが。

中園氏:それは行き過ぎではないでしょうか。リモートとリアルの理想的な比率については、企業ごとに異なるでしょう。ただ、一定程度はリアルな場が必要であるのは間違いないと思います。NTTがリモートワークを基本として、転勤や単身赴任をなくしていく方針を明らかにしました。それでもオフィスをなくすわけではなく、全国に260拠点以上のサテライトオフィスを設ける計画です。

――転勤や単身赴任をなくすのは、大胆な方向転換ですね。

中園氏:先を見据えた戦略だと評価します。仮に10年後、2030年の環境を考えてみると、どうなるでしょう。いわゆるZ世代以降の人たちがどんどん社会に出てきます。彼らはいわゆるスマホネイティブ世代であり、情報共有のやり方が今とは大きく異なっている可能性が高い。

つまりリモートだけでも十分に仕事をこなせるかもしれません。もっとも、連帯感を確保するためには、どこかで対面の必要があるとは思いますが。

――日本企業は今後、テレワークとどう向き合っていけばよいのでしょうか。イノベーションを起こすために必要な組織の在り方も踏まえて考えを聞かせてください。

中園氏:やはりテレワークと対面の使い分けが必要だと思います。業務の効率化の視点からはテレワークをどんどん進めていく。一方で、探索的な議論を行う場としては、対面が必要になる。暗黙知を得るためには、対面での議論が欠かせませんから。

ただ大前提として、企業自らが変わろうとする意識を持つ必要があります。イノベーションは変化の中でこそ起こりやすいのです。逆に言えば、変化に抵抗している状態では、イノベーションなど起こるはずがない。その意味では、今回のテレワーク導入は、外圧によるとは言え、企業にとっては変革のきっかけとなり得るのです。

――変わらないと進化もしないのですね。

中園氏:進化とは未来を見据えた変化です。当初はどうなるのか、先が見通せなかったにもかかわらず、とにかくテレワークを導入しなければならなかった。その結果、多くの企業が何らかの形で変わってきているはずです。今こそは絶好のチャンスと考えるべきでしょう。

これまで変わりたくても変われなかった日本企業、イノベーションの重要性が言われながらイノベーティブになれなかった日本企業に、変革のタイミングが訪れた。必要なのは変わる勇気です。トップマネジメントからミドル層、全従業員が変わる勇気を持てば、きっと次のステップに進めるはずです。

【取材後記】

日本企業にずっと求められてきたイノベーション、それを起こす絶好のチャンスが訪れています。強制的に導入されたテレワークにより、社内は非常事態に陥ったはずで、そうした状況に追い込まれたときこそ、それを追い風として利用すべきです。企業に限らず、人も同じで「ピンチはチャンス」になり得るし、そうすべきなのでしょう。そして変革のキーパーソンとなるのが、テレワークにより存在価値が危ぶまれた中間管理職です。逆に考えれば、それ以外に誰が変革の旗手になれるのでしょう。最近はやりのバックキャスティングで考えるなら、異次元のコミュニケーション感覚を持つZ世代以下の人たちが続々と入社してくる2030年を想定した変化を、早く起こす必要があるのではないでしょうか。

取材・文/竹林 篤実、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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