【社労士監修】求人票記載ミスで応募が集まらない?!間違いやすい残業代記載とは(固定残業代事例付き)
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求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に対する苦情や不満で最も多いのは「賃金に関すること(固定残業代を含む)」
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固定残業代制を採用する企業も、労使間の合意によって設定された固定残業時間を超えて残業した場合には、超過分の割増賃金を別途支払う義務がある
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求人票の残業代記載ミスは法令違反とみなされたり、採用機会を逃す可能性があるため、正確な記載が必要
法令に違反していないにもかかわらず、求人票内の誤解を与える記載によって、法令違反企業だと勘違いをされて採用の機会を逃す可能性もあります。そのため、人事・採用担当者は求人票を正しく作成することが重要です。また、求人票の記載事項の中でも、求職者の関心が高く、記載を間違いやすいのが残業代です。
今回は求人票の残業代の書き方について基礎知識を解説しながら、間違いやすいNG記載例を、正しい記載例とともにご紹介します。正しい知識を身に付け、採用の成功につなげましょう。
求人において「賃金に関すること(固定残業代を含む)」の不満は多い
2016年に厚生労働省が発表した資料によると、「求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に対する苦情や不満」で最も多かったものは、ハローワーク・民間職業紹介機関ともに、「賃金に関すること(固定残業代を含む)」でした。
■参照:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク『固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。』
2022年10月に施行された改正職業安定法で、「求人を行う際に情報を的確に表示すること」を企業に義務付けましたが、賃金の中でも、残業代は気づかないうちに誤った内容を記載してしまいやすい項目です。しかし、記載ミスによる代償は大きく、求職者が「この企業はきちんと残業代が支払われないブラック企業なのでは…」と不審に思い応募をためらっている可能性や、求職者に誤解を与えたまま選考・入社が進み、入社後にトラブルとなる可能性もあります。採用を成功させるためにも、求職者にとってわかりやすく、かつ正しい表記をすることはとても重要になります。
ここからは、求人票の中でも特に勘違いや、誤った記載となりやすい残業代(固定残業代制)をメインに解説していきます。
理解しておくべき「残業代」の基礎知識
まずは残業代の原理原則を正しく理解することが重要です。
残業代は原則「1日8時間・1週40時間」を超えた労働時間に支払う
労働基準法では、労働時間の限度と休日について以下のように定めています。
●労働時間の限度:1日8時間・1週40時間
●休日:毎週少なくとも1回、もしくは4週間を通じて4日以上
このため、企業は従業員の労働時間がこれを超えた(残業が発生した)場合、割増賃金(残業手当など)を支払わなくてはなりません。これが残業代の基本の考え方です。
<参考>割増賃金率
割増賃金の種類 | 支払う条件 | 割増率 |
---|---|---|
残業手当(時間外手当) | 1日8時間・週40時間を超えたとき | 25%以上 |
時間外労働が1カ月45時間・1年360時間を超えたとき | 25%以上 | |
時間外労働が月60時間を超えたとき | 50%以上 | |
休日手当 | 法定休日に勤務させたとき | 35%以上 |
深夜手当 | 22時から翌5時までの間に勤務させたとき | 25%以上 |
■関連記事:【社労士監修】残業手当の正しい計算方法とは?企業が注意したいポイントを簡単に解説
固定残業代制で間違いやすいポイント解説
次に、固定残業代制について、間違いやすいポイントを解説します。
固定残業代制を採用していても「超過分」の割増賃金は支払う
あらかじめ残業時間を定めて一定の残業手当を支給する「固定残業代制」を採用している企業の場合も、労使間の合意によって設定された固定残業時間を超えて残業した場合には、超過分の割増賃金を別途支払う義務があります。
「残業代が固定されているから超過分を支払わなくてもよい」という誤った認識をしていると、法令違反に当たる可能性や求人票の記載も誤表記となる恐れがあるため、注意が必要です。
なお、固定残業代は残業の有無にかかわらず固定で支払うものであるため、残業が「発生しなかった」「設定した時間より短時間だった」場合であっても支給します。
「休日手当」「深夜手当」は固定残業代に足し合わせて支給する
固定残業制を採用している場合、固定残業代をどのように設定しているかにもよりますが、例えば単純に「固定残業代は残業(時間外労働分)のみに充当する」というような設計をしている企業で、従業員が「休日出勤(週40時間を超える状態で法定休日に勤務)」「深夜労働(時間外労働時間が深夜時間帯(22時~翌5時)に及ぶ勤務)」をした場合は、固定残業代に加え、それぞれの割増率に応じた割増賃金を支払わなければなりません。
固定残業代の休日手当や深夜手当の計算方法
●固定残業代の計算方法
固定残業代 = 1時間あたりの賃金 ×割増率25%以上(1.25)× 固定残業みなし時間
●休日出勤が発生した場合
休日手当=固定残業代+{1時間あたりの賃金 × 割増率35%以上(1.35)×休日出勤時間 }
●深夜労働が発生した場合
深夜手当=固定残業代+{1時間あたりの賃金 × 割増率25%以上(1.25) ×深夜労働時間}
例として、休日労働が深夜に及んだ場合には、休日・深夜手当の割増率は「休日手当35%+深夜手当25%=60%(休日手当1.35+深夜手当0.25=1.60)」となり、固定残業代に加え60%以上の割増賃金が発生します。計算ミスや支給漏れのないよう注意しましょう。
■関連記事:【社労士監修】休日出勤手当の正しい計算方法と法律違反にならない運用方法
固定残業代制で求人票に記載しなければならない3つの項目
固定残業代制を導入している企業の場合、職業安定法に基づく指針により、求人票に記載しなければならない3つの項目が定められています。ここまで解説した内容を理解した上で、求人票には以下の3点を全て明示し、求職者に正しい内容を伝えましょう。
固定残業代制を採用している企業が求人票に明示すべき事項
①固定残業代を除いた基本給の額
②固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③固定残業時間を超える時間外労働、 休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
■参照:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク『固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。』
【例外あり】「管理監督者」や「裁量労働制」「事業場外みなし労働時間制」の場合
例外となる理由は異なりますが、労働基準法の定める労働時間の限度や休日が適用されない「管理監督者」は、深夜割増賃金以外の割増賃金の支給は不要です。
また、裁量労働制や事業場外みなし労働時間制といった「みなし労働時間制」では、所定労働時間を8時間とみなした場合の所定労働日については「時間外労働という概念が発生しない」ために、時間外手当を支払う義務もないと考えることができます。ただし、「8時間を超えるみなし労働時間」「事業場内労働が発生している場合」「所定休日に労働があり週40時間を超える部分」については別途時間外手当が発生しますし、また深夜手当・休日手当等についても別途支払いが必要になります。
■関連記事:
・【社労士監修・2020最新版】管理監督者について企業が注意すべき9つの決まり
・【初心者向け】裁量労働制とは?導入方法は?正しく運用するための基礎知識ー弁護士監修
求人票における残業代(固定残業代制)で間違いやすい記載例
ここからは、固定残業代の記載でありがちなNG記載例を、正しい記載例とともにご紹介します。
【ケース①】固定残業代の記載事項が不足している
NG記載例
例1)固定残業代を採用しています。
例2)固定残業代は月35時間分を支給しています。
例3)固定残業代は月35時間分(50,000円)を支給しています。
固定残業代制を採用している場合、企業は求人票に「基本給」とは別に、「固定残業代として支払う金額・設定した固定残業時間」「超過時間分を追加で支給する旨」を明記しなければなりません。正しい記載例のように、漏れなく記載する必要があります。
正しい記載例
残業の有無にかかわらず、固定残業代として月35時間分(50,000円)を支給し、これを超える場合は追加で支給します。
【ケース②】休日出勤や深夜労働の割増分が、固定残業代に含めて記載されている
NG記載例
固定残業代は深夜労働も含めて月35時間分(74,000円~103,600円)を支給しています。超過分は別途支給します。
手当の種類により、割増率は異なります。残業・休日出勤・深夜労働それぞれが固定金額支給となっている場合は、それぞれについて「金額・時間」「超過分の追加支給」の記載が必要です。
正しい記載例
・固定残業代74,000円
内訳:時間外労働月25時間該当分:50,000円。超過した時間の時間外手当は別途支給します。
・深夜残業月10時間該当分:24,000円。超過した時間の深夜手当は別途支給します。
【ケース③】固定残業代を「一律●円」と記載している
NG記載例
基本給にかかわらず、固定残業代を一律50,000円支給します。
残業代は原則として基本給をもとに計算します。基本給に幅があるにもかかわらず固定残業代を一律にするのは、最低賃金を下回ったりトラブルを招いたりする可能性があるため、不適切だと言えるでしょう。
正しい記載例
・基本給200,000円~300,000円
・残業の有無にかかわらず、35時間分の残業手当として55,000円~82,000円を支給します。
・35時間を超える残業についての割増賃金は追加で支給します。
【番外編】固定残業代を時間単価に換算すると、最低賃金を下回る
企業には、国が定めた最低賃金以上の賃金(基本給)を従業員に支払う義務があります。固定残業代を時間単価に換算した際に最低賃金額を下回らないよう、注意が必要です。なお、最低賃金は毎年10月に更新され、都道府県ごとに金額が異なります。
■参照:厚生労働省『地域別最低賃金全国一覧』
固定残業代の時間単価の計算方法
時間換算額(基本給)=固定残業代÷固定残業時間÷割増分
注意例
固定残業代は、月40時間該当分、49,000円を支給します。超過した時間の残業手当は追加支給します。
▼計算式
49,000円÷40時間÷1.25=980円
上記の記載例の場合、時間換算額は980円となります。2023年10月発表の最低賃金と比較すると、勤務する地域が例えば「東京都」「神奈川県」「大阪府」などである場合、固定残業代の時間単価が最低賃金を下回ってしまいます。
企業は基本給や賃金総額を決定してから固定残業代を算出するため、本来はあまり起こり得ないケースではありますが、計算や記載時に過去の最低賃金額を使用してしまっていることもあるかもしれません。
固定残業代の時間換算額は求職者も計算できるため、求人票の作成前に最新の最低賃金額を確認し、金額に相違ないかや金額記載時に変更もれがないかをチェックしてください。
まとめ
残業代は、求職者の収入に直結する切実な情報です。求人票の記載内容の正確さが企業の信用に関わるため、誠実に記載することが安定した採用にもつながるでしょう。今回ご紹介した事例を参考にしながら、自社の求人票の記載内容を見直してみてはいかがでしょうか。
【関連記事】
『【弁護士監修】求人票に最低限必要な項目と記載してはいけない項目』
(企画・編集/田村裕美(d’s JOURNAL編集部)、制作協力/株式会社mojiwows)
<決定版>求人票の書き方大全【テンプレート一式】
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