エンゲージメントサーベイとは?具体的な質問項目や実施方法を解説

d’s JOURNAL編集部

従業員エンゲージメントを可視化するための調査を「エンゲージメントサーベイ」といいます。雇用の流動性が高まる中、エンゲージメントサーベイによって得られたデータを人事施策に活用する動きも見受けられます。

「企業と従業員とのつながりを強化したい」「調査結果を基に人事施策を見直したい」との考えから、エンゲージメントサーベイの実施を検討している人事・採用担当者もいるのではないでしょうか。

この記事では、エンゲージメントサーベイの概要や目的、実施方法、活用方法などについて解説します。

エンゲージメントサーベイとは

エンゲージメントサーベイとは、従業員エンゲージメントを可視化するための調査のこと。従業員エンゲージメントは、企業のために自ら貢献しようという意識を持っている状態を意味し、企業と従業員との信頼度やつながりの強さを指標としています。すなわち、エンゲージメントサーベイによって、従業員が「会社に対してどのくらい愛着や関心を持っているか」「仕事に対してどのくらいやりがいや意義を感じているか」を測定できます

エンゲージメントサーベイの調査による従業員のデータは、従業員と企業の関係性の改善や、従業員が働きやすいと感じる環境づくりなどに活用されています。実施頻度は、「数カ月に1回」から「年1回」程度が一般的です。

(参考:『従業員エンゲージメントとは|効果的な取り組みと事例・向上のメリットを解説』)

エンゲージメントサーベイを実施する目的

エンゲージメントサーベイを実施する主な目的は、下記の3つです。

●企業の組織課題を把握する
●従業員が企業に求めている期待を把握する
●人事施策の検討や見直しに活用する

それぞれについて見ていきましょう。

企業の組織課題を把握する

エンゲージメントサーベイは、企業の組織課題を把握するために行います。ビジョンの浸透度合いや上司と部下、従業員同士の関係性などを数値化・グラフ化して可視化することで、本来は見えづらい組織課題の早期発見につながります。例えば、売上や利益率などから「組織が成長傾向にある」場合であっても、実際は「中堅・若手社員の愛社精神が低い」ということが明らかになるケースもあるでしょう。

なお、エンゲージメントサーベイで適切にデータを収集するには、従業員に対して十分な説明を行い、回答しやすい環境を整えることが重要です。従業員の率直な意見を集められるよう、場合によっては匿名での調査を実施してもよいでしょう。

従業員が企業に求めている期待を把握する

従業員が企業に求めている期待を把握することも、エンゲージメントサーベイの目的の一つです。定期的に実施することで、数値の変化を確認できます。従業員のモチベーションや企業に対する印象などの推移を注意深く見守ることで、従業員が組織に抱いている期待と現状のギャップに気づきやすくなるでしょう。モチベーションの低下や職場での人間関係の悪化などの兆しに対して、早い段階で対策を打つことも可能になります。

なお、「成長実感を得られているか」といった自己成長に関する問いへのモチベーションが低下している場合、離職につながる恐れがあるため、注意が必要です。

人事施策の検討や見直しに活用する

人事施策の検討・見直しに活用することも、エンゲージメントサーベイの目的です。例えば、職場でのコミュニケーションに関して課題がある場合、「1on1ミーティングの実施」「社内イベントの開催」などの人事施策を講じることができます。また、従業員のワークライフバランスに関して課題があれば、「在宅勤務制度やフレックスタイム制度の導入」「有給休暇の取得推進」などを検討するとよいでしょう。

人事施策の見直しによって新設された制度などを求職者にアピールすることで、人材が集まりやすくなると期待できます。求人への応募者が増えることにより、自社の理念に共感し、熱意を持った人材を採用できる可能性も高まるでしょう。

エンゲージメントサーベイの効果

エンゲージメントサーベイを行うことでどのような効果が得られるのでしょうか。主な4つの効果について解説します。

従業員エンゲージメントの向上または維持が期待できる

エンゲージメントサーベイを実施することで、従業員エンゲージメントの向上や維持が期待できます。定期的なエンゲージメントサーベイにより従業員の回答の変化を可視化すれば、低下傾向が見られた際にすぐに適切な対応ができるでしょう。

特に近年は、働き方の多様化やテレワークの普及によって、対面でのコミュニケーションが減っています。管理する側にとっては従業員一人ひとりの特性や業務状況が見えづらく、従業員にとってはコミュニケーション不足によって不安や孤独感を抱えやすい状況と言えるでしょう。こうした状況を解消するための第一歩としても、エンゲージメントサーベイは効果的です。

生産性の向上につながる

エンゲージメントサーベイのデータを人事施策に活用することで、従業員エンゲージメントの向上が期待できます。

エンゲージメントが高まると、従業員が意欲的に働けるようになると考えられています。また、「働きがい」を感じている従業員は自主性が高く、自分の役割以外の業務も積極的に行う傾向にあります。従業員の仕事への意欲が高まったり、同僚のサポートにまわる従業員が増えたりすることにより、組織全体の生産性の向上が期待できるでしょう。

離職を防ぎ定着率を向上させる

離職の予兆に気づかず、ある日突然従業員が退職してしまったという苦い経験を持つ人事・採用担当者も少なくないでしょう。エンゲージメントサーベイを実施すれば従業員のモチベーションや職場環境への不満が数値化されるため、離職する可能性がある従業員を早期に発見できます。サーベイの結果を基に対話の機会を設けたり、職場環境を改善したりすることで、離職を防げる可能性が高まるでしょう。

また、エンゲージメントが高まると、一緒に働く同僚への愛着も育まれるため、意欲的に仕事に取り組めるようになると考えられます。その結果、定着率の向上も期待できるでしょう。

ハラスメントなどトラブルの未然防止につながる

エンゲージメントサーベイの質問項目や回答方法を工夫すれば、企業や組織で発生するハラスメントなどの人事トラブルを未然に防ぐこともできます。直接訴えることが難しい悩みやトラブルを抱えている場合でも、匿名性を担保したサーベイでなら打ち明けられるという従業員もいるでしょう。

人事トラブルに関するサーベイを実施する際は、アンケートの匿名性をしっかり伝えた上で、自由に記入できるフリーコメント欄を設けることが重要です。サーベイの調査結果を踏まえて対応を取る際は、守秘義務を徹底しましょう。

その他のサーベイ手法の違い

エンゲージメントサーベイの他にも、従業員の状態や状況を知るためのサーベイ手法はいくつかあります。エンゲージメントサーベイとその他のサーベイ手法の違いを表にまとめました。

エンゲージメントサーベイとその他の手法との違い

手法 概要 頻度
エンゲージメントサーベイ 企業と従業員の信頼度やつながりの強さがどの程度かを把握するための調査 数カ月に1回から年1回
ストレスチェック 「うつ」などのメンタルヘルス不調の未然防止に向け、従業員のストレス状態を把握するための調査 毎年1回
モラールサーベイ 従業員の意識やモチベーションについて把握・分析するための調査 数カ月に1回から年1回
パルスサーベイ 従業員の意識や状態をリアルタイムで把握するための調査 毎日、週1回、月1回

それぞれの手法の特徴を見ていきましょう。

ストレスチェックとの違い

ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票に従業員が回答し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるかを把握するための調査のこと。労働安全衛生法により、常時50人以上の従業員を抱えている事業所における毎年1回の実施が義務づけられています。

ストレスチェックの目的は、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防ぐことにあります。高いストレスを感じていると判断された従業員に対しては、本人の希望に応じて、医師による面接指導を実施しなければなりません。

表にある通り、エンゲージメントサーベイとは、概要・頻度ともに大きく異なります。

(参考:厚生労働省「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」)
(参考:『ストレスチェックの義務化で企業が対応すべきこととは?実施手順や注意点を解説』『ストレス耐性とは?従業員のストレス耐性を高めるためのポイントと注意点』)

モラールサーベイとの違い

モラールサーベイとは、従業員が自分の仕事や同僚との関係性、待遇などにどのような感情・認識を持っているかを把握するための勤労調査のこと。自由な自己表現が行える状態で、面接もしくは質問形式によって調べるのが特徴です。一般的に、数カ月に1回から年に1回実施されます。

エンゲージメントサーベイと質問項目が似てくることもありますが、モチベーションに特化している点がエンゲージメントサーベイとの違いと言えます。

パルスサーベイとの違い

パルスサーベイとは、1〜5分程度で回答できる簡単な質問を、「毎日」「週1回」「月1回」などの短期スパンで行う調査のこと。「パルス」とは脈拍を意味する言葉で、脈を打つように短期間かつ定期的に行うことから、このように呼ばれています。1回当たりの従業員の負担が少なく、タイムリーな現状把握に向いているのが特徴です。

エンゲージメントサーベイよりも実施頻度が頻繁である点が違いと言えます。

(参考:『パルスサーベイとは?基本的な捉え方と実施のポイントを解説』)

エンゲージメントサーベイの手法

エンゲージメントサーベイの具体的な手法としては、「Q12(キュートゥエルブ)」「ワーク・エンゲイジメント尺度」「一般性セルフ・エフィカシー(自己効力感)尺度」の3つがあります。それぞれについて、特徴や具体的な質問例を見ていきましょう。

Q12(キュートゥエルブ)

Q12とは、アメリカのギャラップ社が実施しているエンゲージメントサーベイです。12問の質問に回答するだけで、「働きがい」の度合いを簡単に測ることができます。「働きがい」とは、前向きな気持ちで業務に向き合い、自分が役立っていることを実感できている状態を指します。下記の12問について、1〜5点の5段階で回答します。

Q12によるエンゲージメント調査項目

1.私は仕事上で、自分が何を期待されているかがわかっている
2.私は自分がきちんと仕事をするために必要なリソースや設備を持っている
3.私は仕事上で、自分の最も得意なことをする機会が毎日ある
4.この1週間で、良い仕事をしていることを褒められたり、認められたりした
5.上司あるいは職場の誰かが、自分を一人の人間として気遣ってくれていると感じる
6.仕事上で、自分の成長を後押ししてくれる人がいる
7.仕事上で、自分の意見が取り入れられているように思われる
8.会社が掲げているミッションや目的は、自分の仕事が重要なものであると感じさせてくれる
9.私の同僚は、質の高い仕事をするよう真剣に取り組んでいる
10.仕事上で最高の友人と呼べる人がいる
11.この半年の間に、職場の誰かが私の仕事の成長度合について話してくれたことがある
12.私はこの1年の間に、仕事上で学び、成長する機会を持った

(参考:ギャラップ社「Q12®を使って従業員エンゲージメントを測る」)
(参考:『エンゲージメント向上は生産性UPや離職防止に効果あり。概念や測定法、高め方を解説』)

ワーク・エンゲイジメント尺度

ワーク・エンゲイジメント尺度とは、オランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ(Schaufeli)教授らが提唱した概念です。ワーク・エンゲイジメントが高いとは、「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」「仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)」「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」の3つが揃った状態として定義されています。測定方法は、「活力」「熱意」「没頭」に関する17項目の質問を用いて、「0=全くない」から「6=いつも感じる」の中から回答することで測定します。

ワーク・エンゲイジメント尺度における質問項目の例

活力:仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
熱意:自分の仕事に誇りを感じる
没頭:仕事をしていると、つい夢中になってしまう など

(参考:厚生労働省「第3章「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて」)
(参考:慶應義塾大学 総合政策学部 島津明人研究室「ワーク・エンゲイジメント(UWES)」)

一般性セルフ・エフィカシー(自己効力感)尺度

一般性セルフ・エフィカシー(自己効力感)尺度とは、何らかの行動をきちんと遂行できるかどうかという予期について、一般的な傾向を測定するために開発された質問のこと。セルフ・エフィカシーという概念は、アメリカ・スタンフォード大学教授のバンデューラ(Bandura)博士によって提唱されました。一般性セルフ・エフィカシー(自己効力感)尺度のスコアが高いほど「自己効力感が高く、活動的」であり、スコアが低いほど「自己効力感が低く、パフォーマンスが低下」している可能性があります。

臨床のみならず、教育や産業、予防医学などの幅広いシーンで認識され、利用されるようになってきている調査です。一般性セルフ・エフィカシーが高い人は、ストレスフルな状況に遭遇しても身体的・精神的な健康を損なわず、適切な対処行動や問題解決行動を取れると考えられています。

具体的な質問項目について知りたい方は、調査実施機関のホームページをご確認ください。

(参考:こころネット株式会社「GSES 一般性セルフ・エフィカシー(自己効力感)尺度」)

エンゲージメントサーベイを活かすための方法

エンゲージメントサーベイを活かすための方法を、フローに沿って紹介します。各フローで押さえておきたいポイントについても見ていきましょう。

エンゲージメントサーベイを活かすための方法

仮説を持ってサーベイ結果を確認する

まずは、エンゲージメントサーベイの結果を読み解くことから始めます。その際に重要なのが、結果からどのような仮説が立てられるのかを考えることです。例えば、ある従業員のエンゲージメントが著しく低下していた場合、エンゲージメントを著しく低下させた背景や原因はどこにあるのかという点に着目します。サーベイで収集したデータの分析結果を基に、あらゆる仮説を立てるつもりで結果を確認しましょう。

エンゲージメントに影響を与える要素を特定する

次に、あらゆる仮説の中からエンゲージメントに影響を与える要素を特定していきます。エンゲージメントが低下している状態について、問題を洗い出していくイメージです。例えば、「上司との関係が悪化しているのかもしれない」「業務過多で疲弊しているのかもしれない」など想定される問題があるかについて、事実確認を行います。対象の従業員の所属先へのヒアリングに加え、残業時間などの勤怠情報も確認しましょう。

なお、エンゲージメントの低下は多くの要因が関係しているケースもあるため、異なる手法の調査結果を組み合わせて分析するのも一つの方法です。

特定した要素に対してアプローチする施策を検討する

エンゲージメントに影響を与える要素を特定したら、それに対してアプローチする施策を検討します。例として、上司との関係が悪化しているのであれば、双方の話を個別に聞き、必要に応じて対話の場を設ける必要があるでしょう。また、業務過多で疲弊している場合は、「業務量を調整する」「健康状態に応じて、従業員を休ませる」といった対応が求められます。

その場限りの対応にとどめるのではなく、全従業員にとって働きやすい職場となるような施策であることが望ましいです。

従業員へのフィードバックを行う

エンゲージメントサーベイの実施後は、従業員へのフィードバックを行います。調査結果が何に活用されているのかが分かれば、その後の調査にも協力を得やすくなるでしょう。従業員に分析結果を共有し、改善に取り組む姿勢を見せることが大切です。

とは言え、問題によってはすぐに解決策を打ち出すことが難しいケースもあるでしょう。そのような場合でも、現時点での会社としての意向を発信することが重要です。フィードバックを十分に行わなければ、調査を実施すること自体が従業員のモチベーション低下につながる恐れがあるため、注意しましょう。

一度で終わらせず定期的に実施する

エンゲージメントサーベイは、一度で終わらせず、定期的に実施することが重要です。従業員エンゲージメントは常に一定ではなく、時間とともに変動し、別の課題が発生する可能性があります。そのため、定期的にサーベイを実施し、従業員の状況を把握しましょう。その上で、分析結果に応じた施策を繰り返し行い、エンゲージメントの改善を図る必要があります。

数カ月に1回から年1回の一定期間で実施することで、問題が深刻化する前に対策を講じることができます。また、エンゲージメントの変化を追跡することで組織の傾向をつかみやすくなり、優先度の高い課題から改善に取り組めるようになるでしょう。

まとめ

エンゲージメントサーベイは、企業の組織課題や従業員が企業に求めている期待を把握するために実施します。サーベイの結果を基に人事施策の検討や見直しを行うことで、「従業員エンゲージメントや生産性の向上」「離職防止による定着率の向上」「ハラスメントなどのトラブルの未然防止」が期待できます。

エンゲージメントサーベイを活かすためには、従業員へのフィードバックをしっかり行ったり、一度きりではなく定期的に実施したりすることが重要です。エンゲージメントサーベイを効果的に活用し、従業員エンゲージメントの改善や向上を図りましょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)

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