【社労士監修・テンプレート付】賃金規程の書き方・変更方法と注意すべきポイント

社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】

プロフィール

給与や賃金に関する、さまざまな取り決めをまとめた「賃金規程」。賃金の計算方法や支払い方法など記載する項目が多いため、就業規則とは別に作成することが一般的です。

この記事では、賃金規程の書き方や作成・変更のフロー、作成する際に押さえておきたいポイント、活用できる助成金などをご紹介します。

サンプルもダウンロード可能ですので、ぜひご活用ください。

賃金規程とは?

賃金規程とは、賃金・給与に関する取り決めを記した書類のこと。賃金の構成や支払日、支払方法、手当の金額や時間外労働の割増率など、細かい規程を記します。「給与規程」とも言い、英語では「Salary Regulations」と表記します。

記載内容に関する基本的なルールはあるものの、項目や作成方法は企業によってさまざまです。賃金は労働者にとって関心の高い事項の一つであるため、賃金規程の作成と周知は大変重要な意味を持ちます。

賃金規程の作成は義務?作成しない場合の罰則は?

常時使用する労働者が10人以上の企業では、就業規則を作成し、所管の労働基準監督署に届け出をしなければなりません。賃金に関する項目は、就業規則への記載が義務づけられている「絶対的必要記載事項」に該当するため、賃金規程の作成・届出は義務となります。

●労働基準法第89条第2項

常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

2.賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

賃金規程の作成義務があるにもかかわらず作成していない場合は、労働基準法違反となり、30万円以下の罰金刑の対象となります。就業規則とは別紙で作成する場合も同様です。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

賃金規程と就業規則を分けて作成すべき理由

賃金規程を作成する際には、まず就業規則に賃金に関する主要な規程のみを記載し、詳細な内容については別紙の「賃金規程」に記載するのが一般的です。賃金規程と就業規則を分けて作成すべき理由を、2つご紹介します。

就業規則本体の内容が膨大になるため

賃金規程には、賃金の支払いに関するルールや手当の計算方法など詳細な内容を記載しなければなりません。それらを全て就業規則に記載すると、情報量が膨大になり、非常に読みづらいものになってしまいます。賃金規程を分けて作成することで、知りたい項目を見つけやすくなります。

賃金規程は変更が多く発生するため

賃金に関するルールは、法改正や自社の状況により変更が発生しやすいものです。変更があるたびに項目の追加や改変を行わなければなりません。就業規則と賃金規程が分かれていない場合、賃金規程の改変によって就業規則全体の条文番号を変えなければならず、非常に手間がかかります。別紙であれば、変更の工数を最小限に抑えられるでしょう。

賃金規程を定める前に押さえておきたい注意点

賃金規程を定めるには、いくつかの注意があります。下記にまとめた3つの注意点を参考に作成しましょう。

注意点①:賃金規程は雇用形態別につくる

雇用形態に応じて賃金条件が異なる場合、「アルバイト・パートタイマー用」「契約社員用」というように雇用形態別に賃金規程を作成する方がよいでしょう。賃金規程の対象が正社員のみの場合、雇用形態の異なる労働者が「正社員と同じ待遇である」と解釈してしまう可能性があるためです。個別の雇用契約書や労働条件通知書で詳しく定めるケースもありますが、誤解やトラブルを回避するためにも、必ず雇用形態別に賃金規程を作成するようにしましょう。

注意点②:休業手当を設定する

休業手当とは、使用者の責任となる理由によって労働者が休業した場合に、使用者が支払わなければならない手当のこと。労働基準法第26条で、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と定められています。「使用者の責に帰すべき事由」とは、機械の検査や故障、経営悪化による業務量の減少などが当たります。台風や地震になどの天災で休業する場合は該当しません。
(参考:『【弁護士監修】休業手当はいくら、誰に支払う?計算方法と対象者、活用できる助成金を解説』)

注意点③:賃金支払いの5原則を守る

労働基準法第24条では、賃金支払いに関して「5つの原則」が定められています。「①通貨払いの原則」「②直接払いの原則」「③全額払いの原則」「④毎月1回以上払いの原則」「⑤一定期日払いの原則」です。それぞれの原則の例外と違反例を表にまとめました。

●賃金支払いの5原則と例外、違反例

例外 違反例
通貨払いの原則
(現金かつ日本円での支払い)
労働者の同意の上で金融機関への振り込み・小切手での支払いは可能
●労働組合と労働契約の締結の上で、定期回数券など現物支給は可能
●外国通貨による支払い(日本で働く外国人に対しても違反)
●商品券や自社製品など、正確な通貨の価値を持ち得ないものでの支払いは違反
直接払いの原則
(労働者本人に直接支払う)
●配偶者など「使者」に支払うことは可能 ●労働者が消費者金融などから借金をしている場合でも、債権者に返済として支払うことは違反
●法定代理人や任意代理人への支払いは違反
全額払いの原則 ●源泉所得税や社会保険料など、法律で定められているものの天引きは可能
●労働者の過半数で組織する労働組合などと労使協定を締結した場合は、賃金の一部天引き(社内貯金など)が可能
●法令で定められておらず労使協定の締結もない天引き(社内預金や親睦会費、罰金など)は違反
●労働者に賃金を貸し付けている場合でも、貸付金との相殺は違反
●振込手数料の天引きは違反
毎月1回以上払いの原則 ●臨時で支払う賃金(結婚手当など)や賞与は例外 ●年俸制の一括払いは違反
●まとめ払い(当月分を翌月分とまとめて払うなど)は不可
一定期日払いの原則
(支払日を決め定期的に支払う)
●毎月末日払いは可能
●支払日が休日の場合は、別日に支払うことが可能
●支払日の曜日指定(「毎月第3金曜日」など)は、期日が変動するため不可
●条件による支払日指定(ノルマ達成後など)は違反

(参考:厚生労働省『労働基準行政全般に関するQ&A』)

賃金規程の作成フロー

賃金規程を新たに作成する場合、労働基準監督署に届け出を行います。届け出までの流れについてご紹介します。

賃金規程の作成フロー

フロー①:記載事項を決定し、賃金規程を作成

賃金規程を作成するにあたって、総務部などの担当部署を中心に記載する内容を確認し、草案をまとめましょう。賃金規程には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、社内に任意の制度がある場合に記載する「相対的必要記載事項」があります。記載漏れがないように、自社の規程を洗い出し、項目別に分類してまとめていきます。(「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」の詳細は後ほど説明します。)

また、就業規則と賃金規程を分けて作成するかどうかも、慎重に検討しましょう。作成後は、法律に抵触する部分がないか法務担当者などによる確認を行い、問題がなければ経営陣の合意を得て完成させます。

フロー②:労働者から意見書をもらう

賃金規程を労働基準監督署へ届け出る場合、労働者代表から意見を聴取した証明となる「意見書」の提出が必要です。労働者の過半数で組織する労働組合、もしくは組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴くことが定められています。様式に決まりはありませんが、労働者代表に賃金規程に対する意見を記載し、署名・捺印してもらいます。意見がない場合でも、「特に意見はありません」などと記入してもらいましょう。

フロー③:就業規則届を作成し、企業の代表者の捺印をする

賃金規程を労働基準監督署に届け出る際には、「就業規則届」の作成が必要です。意見書と同様に決まった様式はなく、「企業の名称」「企業の所在地」「企業の代表者の役職・氏名」などが記載されていれば、書式は自由とされています。作成後は代表者印を捺印します。

フロー④:労働基準監督署へ届け出る

「意見書」と「就業規則届」を添付した就業規則(別紙の場合は賃金規程もあわせて)を2部用意して、管轄の労働基準監督署へ届け出ましょう。1部は労働基準監督署に提出します。もう1部は労働基準監督署で受付印が押されたものを返却されるので、社内で保管します。

フロー⑤:労働者へ周知を図る

企業は、就業規則や賃金規程を作成した場合、労働者に周知する義務があります。労働基準法第106条では、「使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付すること、その他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」と定められています。周知義務を怠ると、労働基準監督署の指導を受ける可能性や、罰金刑につながる可能性もあるので注意しましょう。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

賃金規程を変更する場合のフロー

「経営状況などで賃金の規程を変更しなければならない場合」など、一度作成した賃金規程を変更しなければならないケースがあります。変更する場合の手順についてご紹介します。

賃金規程を変更する場合のフロー

フロー①:変更箇所を経営陣で承認

賃金規程の変更にあたっては、まず担当部署で変更案の草案をまとめます。変更される条項が、正社員やアルバイト・パートタイマーなど、どこまでの範囲で適用されるのかを明確にし、間違いのないよう変更しましょう。法律に抵触する部分がないかを確認し、問題がなければ経営陣の合意を得ます。

フロー②:労働者から意見書をもらう

賃金規程を変更する際にも「意見書」の添付が義務づけられていますが、手続きは新規作成の場合と同様です。労働者の過半数の代表者に意見がないかを確認し、ない場合でも「特に意見はありません」と記載します。しかし、賃金規程の変更によって労働者に不利益となる場合は注意が必要です。労働組合と協議したり個別に説明したりするなど、不利益変更に該当しないよう慎重に対応しましょう。

フロー③:賃金規程変更届を作成し、企業の代表者の捺印をする

賃金規程を変更した場合は、届け出る際の表紙となる書類「就業規則変更届」を作成し、添付します。「就業規則届」と同様、「企業の名称」「企業の所在地」「企業代表者の役職・氏名」などが記載されていれば、書式は自由です。

フロー④:労働基準監督署へ届け出る

賃金規程の変更を届け出る際には、新旧対照表を作成し、変更した部分を添付すれば、全文を添付しなくてもかまわないとされています。「変更した箇所が確認できる書類」「意見書」「就業規則変更届」を2部ずつ用意し、労働基準監督署へ提出します。1部は労働基準監督署に提出し、もう1部は労働基準監督署で受付印を押されたものが返却されるため、社内で保管しましょう。

フロー⑤:労働者へ変更の周知を図る

賃金規程の変更が終わったら、変更した旨を労働者に周知しましょう。その際、どの条項をどのように変更したのか、内容についても伝えるようにします。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

賃金規程の項目別書き方(サンプルダウンロード付)

賃金規程の項目別の書き方を詳しくご紹介します。

絶対的必要記載事項(必須記載事項)と相対的必要記載事項

上で説明したように、賃金規程には必須項目である「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」があります。具体的な内容を表にまとめました。この表を参考に、賃金規程に盛り込む項目を検討し、作成しましょう。

●絶対的必要記載事項(必須記載事項)

①賃金構成 基本給・手当など項目の定義に関する事項
②賃金の支払い 計算期間や、支払日、支払い方法などに関する事項
③賃金の計算基準 欠勤等の賃金計算、中途入社・退職者・復職者・休職者の賃金計算、端数処理などに関する事項
④基本給 給与額の決定方法に関する事項
⑤手当 時間外手当、休日勤務手当、深夜勤務手当、年次有給休暇中に支払う賃金、営業手当、職務手当、役付手当、家族手当、住宅手当、通勤手当、精皆勤手当、別居手当などに関する事項
⑥昇給 昇給の時期や評価項目に関する事項

●相対的必要記載事項の例

①賞与 賞与など臨時の賃金の支給に関する事項や、最低賃金に関して取り決める場合には記載
②退職金 退職金の支給対象となる労働者の範囲をはじめ、退職金の決定や計算方法、支払い方法や支払い時期を記載
③労働者の負担に関する事項 労働者が食費や作業用品代などを負担する場合は記載
④制裁 減給の制裁を行う場合に記載

(参考:厚生労働省『就業規則を作成しましょう』)

賃金の構成

賃金の構成とは、企業が定める賃金の種類及び体系を指すものです。基本給や家族手当、役職手当などの諸手当、割増賃金など、賃金を構成する全ての要素を記載します。構成で掲げられた賃金項目については、それぞれ条文を設けて定義する必要があります。

●賃金の構成 記載例
賃金の構成 記載例

賃金の支払い

賃金の支払いに関しては、計算期間や支払日、支払方法などを具体的にルール化します。上で紹介した「賃金支払いの5原則」に注意しながら、記載するようにしましょう。

●賃金の計算期間 記載例

第〇条(賃金の計算期間)
賃金の計算期間は、当月の〇日から末日までを1カ月として締め切って計算する。

●賃金の支払日 記載例

第〇条(賃金の支払日)
賃金は、毎月末日に締切り、翌月〇日に支払う。ただし、支払日が休日に当たるときは、その前日に繰り上げて支払う。

●賃金の支払い方法

第○条(賃金の支払い方法)
賃金は、従業員に対して通貨で直接その全額を支払う。ただし、従業員の代表との書面協定により、従業員が希望した場合は、その指定する金融機関等の口座(本人名義)に振り込むものとする。

賃金の計算基準

賃金を計算するための基準を定めます。1カ月の賃金計算と端数処理、控除対象、中途入社などの賃金計算、欠勤した場合の計算方法などを記載しましょう。

●賃金の控除 記載例

第○条(賃金の控除)
次にあげるものは、賃金から控除する。
(1)源泉所得税
(2)住民税(市町村民税及び都道府県民税)
(3)健康保険料(介護保険料を含む)及び厚生年金保険料の被保険者負担分
(4)雇用保険の保険料の被保険者負担分
(5)労使協定の締結により賃金から控除することとしたもの

●中途入社者、退職者、休職者の賃金計算 記載例

第〇条(中途入社者、退職者、休職者の賃金計算)
賃金計算の中途において入社、退職及び復職、休職した者の賃金の計算は、日割り計算とし、賃金計算期間中の実働日数相当額を支給する。

労働者が欠勤、遅刻、早退などで労働しなかった場合、その分の賃金を支払う必要はありません。労働しなかったその日数や時間数に応じて賃金を減額することを明記します。

●欠勤等の扱い 記載例

第〇条(欠勤等の扱い)
1.欠勤、遅刻、早退及び私用外出については、基本給から当該日数または時間分の賃金を控除する。
2.前項の場合、控除すべき賃金の1時間あたりの金額の計算は以下のとおりとする。
a.月給の場合 基本給÷1カ月平均所定労働時間数
b.日給の場合 基本給÷1日の所定労働時間数

基本給

基本給には年俸、月給、日給、時間給があります。雇用形態によって基本給が異なる場合は、実際に運用しているものを全て明記しましょう。また、基本給をどのような要素で決定しているのか明記します。職務内容や職務遂行能力、勤続年数、年齢、資格、学歴などで決定することが一般的です。


●基本給(月給制の場合) 記載例

第〇条(基本給)
基本給は、本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する。

●基本給(時給制の場合) 記載例

第〇条(基本給)
基本給は時給制とし、本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する。

手当

手当には「法律上必ず支給しなければならない手当」と「会社が任意で決める手当」があります。それぞれの詳しい書き方について解説します。

●手当の種類

法律上必ず支給しなければならない手当 会社が任意で決める手当
①時間外労働割増賃金(残業手当)
②深夜労働割増賃金(深夜残業手当)
③休日労働割増賃金
営業手当、職務手当、役付手当、家族手当、住宅手当、通勤手当、精皆勤手当、別居手当、有給休暇中に支払う賃金など

法律上必ず支給しなければならない手当

法律上支給しなければならない手当には①時間外労働割増賃金(残業手当)②深夜労働割増賃金(深夜残業手当)③休日労働割増賃金があり、それらの割増賃金率は絶対的必要記載事項ではないものの、必ず記載した方がよい項目です。時間外労働と深夜労働、休日労働は残業した時間数や時間帯などで割増率が異なるので、間違いのないよう確認して記載しましょう。

●時間外労働・深夜労働・休日労働の割増賃金(月給制の場合) 記載例

第〇条(割増賃金)
時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。

時間外労働・深夜労働・休日労働の割増賃金(月給制の場合) 記載例

フレックスタイム制や変形労働時間制、固定残業(みなし残業)制を導入している企業では、残業の取り扱いをどうするのか明記しましょう。フレックスタイム制の場合、1日単位で残業時間の判断はせず、あらかじめ定めた清算期間においての総労働時間を超えた時間に対して、残業手当の支払いが義務づけられています。変形労働制と固定残業制に関する記載例は下記のとおりです。

●固定労働制の場合の残業手当 記載例

第〇条(固定残業手当)
1.従業員には時間外割増賃金の支払いに充てるものとして毎月定額の固定残業手当を支給することがある。
2.会社が固定残業手当を支給するときは、1カ月の時間外割増賃金の金額が固定残業手当の金額を超えた場合に限り、超過額を別に支給する。また、深夜割増賃金、休日割増賃金が発生したときは、固定残業手当と別にこれを支給する。

(参考:『【社労士監修】残業手当の正しい計算方法とは?企業が注意したいポイントを簡単に解説』『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介』『【かんたん図解】変形労働時間制とは?弁護士監修で正しい労働時間・休日の計算方法と導入フローを解説』)

会社が任意で決める手当

会社が任意で決めている手当も、実際に運用している制度は賃金規程に記載します。

通勤手当は、労働者の居住地や利用する交通手段によって支給額が異なるので、ルールが複雑です。特にマイカー通勤の場合は、マイカーの定義や支給額の計算方法など記載内容が多いため、別紙で規程を設ける場合もあります。

●通勤手当 記載例

第○条(通勤手当の基本要件)
1.通勤手当は、従業員の住居より勤務地までの距離が1kmを超える場合に支給する。
2.通勤手当は、所要時間及び金額等を総合的に勘案して、最も合理的な通常の経路であると会社が認めた区間について、原則として1カ月の通勤定期券の実費を支給する。なお、特別な事情のある場合を除き、特急料金などの特別料金は支給しない。
3.月の途中で入社・退職した者、及び欠勤者・休職者に対しては通勤手当を日割計算の上、実際に出社した日についてのみ支給する。通勤手当は、1カ月あたり  円を支給限度とする。

家族手当を規程する際には、家族の在り方や暮らし方が多様化していることを前提にし、ルールを明確にする必要があります。労働者のニーズを把握し、柔軟に対応することが望まれます。

●家族手当 記載例

第〇条(家族手当)
家族手当は、次の家族を扶養している労働者に対し支給する。
1) 18歳未満の子1人につき月額    円
2) 65歳以上の父母1人につき月額    円

有給休暇中に支払う賃金は、「平均賃金」「所定労働時間働いたときに支払われる通常の賃金」「健康保険法第40条第1項に定める標準報酬月額の30分の1に相当する額」のいずれかの方法で支払わなければなりません。労働基準法では、どの方法で支払うのかを賃金規程に記載しなければならないと定められています。

●年次有給休暇中の賃金 記載例

第〇条(休暇等の賃金)
年次有給休暇の期間は、所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金を支給する。

(参考:『【社労士監修】家族手当の支給条件・相場。廃止が進む理由と時代に合う新たな手当とは』『【図解】通勤手当の非課税・課税ルールと計算方法-通勤手当を設定・変更する時の注意点-』)

昇給・降給

昇給に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項に当たるため、昇給の期間や条件などを必ず明記しましょう。また、「降給」の可能性がある場合、賃金規程に記載されていないと労働者との間でトラブルになる可能性がありますので、記載漏れがないように注意します。

●昇給・降給 記載例

第〇条(昇給・降給)
1.基本給は、原則として会社の業績及び個人の勤務成績(能力・成果・勤務態度等)を評価し、昇給または降給する。
2.会社の事業の業績によっては、昇給の額を縮小し、または見送ることがある。
3.原則として、昇給・降給の時期は、4月または10月とする。

賞与

賞与は、法律によって義務づけられているものではありません。しかし、賞与を支給する場合は、就業規則に支給対象時期、賞与の算定基準、査定期間、支払い方法等を明確にしておくようにします。

●賞与 記載例

第〇条(賞与)
1.会社は、各期の会社業績を勘案して、原則として年2 回、夏季〇月と冬季〇月に勤続〇年以上の正社員に賞与を支給する。ただし、会社業績の著しい低下その他やむを得ない 事由がある場合には、支給時期を変更する、または支給しないことがある。
2.賞与の額は、支給対象者本人の能力、勤務成績、勤務態度、出勤状況を評価した結果と会社業績を考慮してその都度決定する。
3.賞与の評価対象期間は、夏季については〇月〇日から〇月〇日、冬季については〇月〇日から〇月〇日とし、支給日当日に会社に在籍していた者に限り支払うこととする。

労働者の負担に関する事項

食費や作業用品、在宅勤務での通信使用料など、労働者が費用を負担する場合には、規程を含める必要があります。どこまでが企業負担なのかを明記することで、労働者とのトラブルを回避できるでしょう。
●費用負担(在宅勤務の場合) 記載例

第〇条(在宅勤務時の費用負担)
1.会社はパソコン等の情報通信機器、ソフトウエア等を貸与する。
2.在宅勤務実施に伴い通信回線等の初期工事料や回線設置料等を支出した場合は、会社が認めた場合、会社に請求することができる。モデム等の通信機器、通信回線使用料は自己負担とする。会社に請求することができる費用の内訳は別途定める規程による。
3.在宅勤務に伴って発生する水道光熱費は在宅勤務者の負担とする。
4.業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は会社負担とする。

制裁に関する事項

減給の制裁を行う場合には、あらかじめ就業規則、あるいは賃金規程で定めておく必要があります。ただし、1回の制裁で平均賃金の1日分の半額を超えない額で、賃金支払額の10分の1を超えない額という労働基準法の規定範囲内とします。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)
(参考:厚生労働省『モデル就業規則について』)

賃金規程を作成整備しておくことで活用できる助成金:キャリアアップ助成金

「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用労働者の社内でのキャリアアップを促進する目的でつくられた助成金です。非正規雇用労働者の処遇改善のための取り組みを実施した事業主に対して支給されます。

キャリアアップ助成金には7つのコースがあります。それぞれのコースの特徴は下記のとおりです。

コース名 特徴
① 正社員化コース ●有期契約労働者などを正規雇用労働者などに転換または直接雇用した場合に対象となるコース
●転換後6カ月の賃金を、転換前6カ月と比較し5%増額させているなどの条件あり
② 賃金規定等改定コース ●有期契約労働者などの基本給の賃金規定などを改定し、昇給した場合に対象となるコース
●有期雇用労働者の基本給の賃金規定を2%以上増額改定し、昇給させた場合に助成
※令和2年度に「中小企業において賃金規定などを5%以上増額した場合の加算措置」が新設
③ 健康診断制度コース ●有期契約労働者などを対象に「法定外の健康診断制度」を新たに規定した場合に対象となるコース
●延べ4人以上の実施が条件
④ 賃金規定等共通化コース ●有期契約労働者などを対象に、正規雇用労働者と共通の職務などに応じた賃金規定などを新たに作成・適用した場合に対象となるコース
●「同一労働同一賃金」を進めたい企業に適する
⑤ 諸手当制度共通化コース ●有期契約労働者などを対象に、正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設け、適用した場合に対象となるコース
●手当の増額によって賃金を引き上げたいと考えている企業に適する
⑥ 選択的適用拡大導入時処遇改善コース ●労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置により、有期契約労働者などを新たに被保険者とし、基本給を増額した場合に対象となるコース
●社会保険の制度概要や加入メリット等の説明・相談等を行うとともに、保険加入に関する意向確認等を行う必要がある
※令和2年度に「保険加入と働き方の見直しを進めるための取り組みを行った場合の助成措置」が新設
⑦ 短時間労働者労働時間延長コース ●短時間労働者の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合に対象となるコース
●勤務時間の延長により賃金を増額させたいと考えている企業に適する

コースによって対象者や条件、受給できる金額が異なります。賃金を引き上げる際には「正社員化コース」「賃金規定等改定コース」「賃金規定等共通化コース」「短時間労働者労働時間延長コース」が適しているでしょう。詳しくは「【社労士監修】キャリアアップ助成金を徹底解説-初めてでも理解できる申請方法-」の記事を参考にしてください。
(参考:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内』)

まとめ

賃金規程は、賃金や給与に関する取り決めを明文化したものです。法改正や自社の状況により変更が発生しやすいため、作成や変更のフローを事前に把握しておくとよいでしょう。

賃金規程には、必ず記載しなければならない項目や記載方法など、基本的なルールはありますが、企業によって規程や制度が異なるため、自社に合った内容で作成することが重要です。

今回の記事を参考に、賃金規程の作成や見直しを検討してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)

賃金規程テンプレート【サンプル】

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