【弁護士監修】法定時間外労働は月45時間・年360時間までー正しい知識と割増賃金の算出方法を解説
労働基準法に定められた「労働時間」(法定労働時間)を超える残業を、「時間外労働」(法定時間外労働)と言います。法定時間外労働の上限は、労働基準法の改正により、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から原則「月45時間・年360時間」となりました。上限を上回る場合は罰則が科せられるため、企業にはこれまで以上に適切な労務管理が求められることになります。加えて、残業に対する考え方も変化していくことが想定されます。今回の記事では、法定時間外労働の定義や算出方法、法定時間外労働が発生する際に締結しなければならない36協定、上限を超えてしまった場合の罰則、割増賃金などについて詳しく解説します。
法定時間外労働とは?
法定時間外労働とは、法定の「労働時間」を超えて働いた残業時間のこと。労働基準法第32条では、「労働時間」の上限は、原則として「1日8時間」「1週間40時間」と定められています。
●労働基準法第32条
第1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならない。
第2項 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日ついて8時間を超えて、労働させてはならない。
●法定時間外労働の例
上の図では、以下が法定時間外労働にあたります。
①1週間で合計40時間を超えた土曜日勤務分
②9時から20時まで休憩を除いて1日10時間働いたとすると、18時から20時までの2時間分
(参考:『【弁護士監修】残業時間の上限は月45時間-36協定や働き方改革法案の変更点を解説』)
法定時間外労働と所定外労働の違い
「法定時間外労働」と混同されがちなのが、「法定時間内残業」(法内残業)です。「法内残業」とは、企業が定める「所定労働時間」を超えて法定労働時間の範囲内で働くことを言い、これに対応する労働時間を「所定外労働時間」と言うこともあります。「所定労働時間」は、法定労働時間(原則1日8時間、1週間40時間)の範囲内で、企業ごとに就業規則や雇用契約書によって定めることができます。さらに就業規則に反しない範囲で従業員ごとに設定することも可能です。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)
「法定時間外労働」も「法内残業」も残業という観点では同じですが、割増賃金の支払い義務の有無が異なります。
法内残業については、法定労働時間の範囲内であるため、割増賃金の義務は法律上定められていません。そのため企業は、割増賃金を支払うか支払わないかを、就業規則等に任意に定めることができます。自社の規則はどうなっているか、就業規則(賃金規程)や雇用契約書で確認しましょう。
一方、法定時間外労働については、「1日8時間」「1週間40時間」を超えた労働時間に対して、割増賃金の支払いが義務づけられています。
法定労働時間 | 所定労働時間 | |
---|---|---|
労働時間の定義 |
労働基準法で原則「1日8時間」「1週間40時間」と定められており、企業・個人では設定できない。 |
●法定労働時間(原則1日8時間、1週間40時間)の範囲内であれば、企業ごと、従業員ごとに定めることができる。 |
割増賃金の 支払い義務 |
「1日8時間」「1週間40時間」を超えて働いた時間に対して、割増賃金の支払いが義務づけられている。 |
所定労働時間を超えて働いたとしても、法定労働時間の範囲内であれば、割増賃金の義務は法律上定められていない。 |
●所定労働時間を、始業時間が9時、終業時間が17時、休憩時間が1時間で設定した場合
自社の(法定)時間外労働時間数の算出方法
時間外労働時間数の具体的な算出方法は、勤務形態によって異なります。ここでは、基本的な算出方法と「シフト制」「フレックスタイム制」「みなし残業」の勤務形態別に、それぞれの算出方法をご紹介します。
基本的な算出方法(定時勤務の場合)
まずは時間外労働時間数の基本的な算出方法を見ていきましょう。始業・終業時刻が決まっている「定時勤務」の場合の算出方法です。
例として、始業時刻が9時、終業時刻が17時、休憩時間が1時間の会社の場合、所定労働時間は1日7時間で、法定労働時間(1日8時間)の範囲内になっています。20時まで残業を行う場合、17時から18時の1時間は割増賃金の支払いが義務づけられていない「法内残業」となりますが、18時から20時の2時間は割増賃金の支払いが義務づけられている「法定時間外労働」に当たります。
(参考:『【社労士監修】残業手当の正しい計算方法とは?企業が注意したいポイントを簡単に解説』)
シフト制(変形労働時間制)の場合
シフト制とは、ホテルや病院など24時間の接客が求められる職場で、2交替や3交替などで運用される勤務形態を指します。法律上「シフト制」という用語はありませんが、「1年単位の変形労働時間制」「1カ月単位の変形労働時間制」「1週間単位の非定型的変形労働時間制」と併用されることが多く、その場合はこれらの労働時間制に応じて時間外労働時間数を算出することになります。
具体的には、「変形労働時間制」の単位に応じて、以下のように算出していきます。
1年単位の変形労働時間制 |
①日ごとで考える(原則として、8時間を超え、かつ1日の所定労働時間を超えて働いた日) ②週ごとで考える(原則として、40時間を超え、かつ週の所定労働時間を超えて働いた週) ③対象期間全体(1カ月を超え1年以内の期間)で考える ※「対象期間が3カ月を超える場合の年間の労働日数の上限は280日以内」「1日の労働時間の上限は原則10時間」「1週間単位での労働時間の上限は原則52時間」など、細かな規定がありますので、法律違反にならないよう、厚生労働省の資料等も参考にしながら基準を定めましょう。 |
---|---|
1カ月単位の変形労働時間制 |
①日ごとの基準(原則として、8時間を超え、かつ1日の所定労働時間を超えて働いた日) ②週ごとの基準(原則として、40時間を超え、かつ週の所定労働時間を超えて働いた週) ③対象期間全体(1カ月以内の期間)で考える |
1週間単位の非定型的変形労働時間制 | ①日ごとの基準(原則として、8時間を超え、かつ1日の所定労働時間を超えて働いた日) ②週ごとの基準(原則として40時間を超えて働いた時間) ③対象期間全体(1週間)で考える |
フレックスタイム制の場合
フレックスタイム制とは、一定の期間における総労働時間をあらかじめ決めた上で、労働者がその範囲内で日々の出勤・退勤時刻や働く長さを選択できる制度です。フレックスタイム制では、労働者が日々の労働時間を自ら決定するため、「1日8時間・週40時間」という法定労働時間を超えて労働しても、ただちに「法定時間外労働」とはなりません。以下のいずれかの場合に、法定時間外労働となります。
①1カ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えた時間(清算期間が1カ月を超える場合のみ)
②清算期間における実際の労働時間のうち、法定労働時間の総枠を超えた時間
●法定労働時間の総枠(清算期間の総枠)
●清算期間を3カ月とした場合の時間外労働イメージ
(参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署『フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き』)
(参考:『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介』)
みなし残業の場合
みなし残業とは、実際に残業をしたかどうかにかかわらず、毎月一定時間分の時間外労働をしたものとみなすことを言い、このみなし残業に対して支払う賃金をみなし残業代(固定残業代)と言います。みなし残業の時間は、企業ごとに「月〇時間分の残業代を〇円」という形で、就業規則や雇用契約書等に記載します。定めたみなし残業時間の範囲内であれば、追加の残業代を払う必要はありませんが、定めたみなし残業時間を超える場合は、固定残業代に加えて残業代を支払う必要があります。
<例:みなし残業代5万円(月30時間相当分)と定めているケース>
・月の残業が30時間未満の場合:一律5万円
・月の残業が30時間以上の場合:別途追加分の支給
また、みなし残業の場合でも法定時間外労働の考え方が適用されるため、「何時間でも残業していい」というわけではありません。法定時間外労働の上限については、このあと説明します。
(参考:『【弁護士監修】固定残業代とは?人事がおさえるべき考え方や算出方法・注意点について』)
法定時間外労働の上限は何時間?
法定時間外労働に対する割増賃金を支払えば、従業員にどれだけ残業させてもよいというわけではありません。2019年4月に労働基準法が改正され、「時間外労働の上限」が罰則付きで法律に規定されました。大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から法定時間外労働の上限が、原則「月45時間・年360時間(1年単位の変形労働時間制を導入している場合は月42時間・年320時間)」となり、臨時的に特別な事情がなければこれを超えることができないと定められました。また、原則である「月45時間」を超えることができるのは、年6カ月までと定められました。
1カ月の上限 | 1年間の上限 | |
---|---|---|
通常 |
45時間 |
360時間 |
1年単位の変形労働時間制を導入している場合 |
42時間 |
320時間 |
(参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』)
(参考:『【弁護士監修】残業時間の上限は月45時間-36協定や働き方改革法案の変更点を解説』)
法定時間外労働をしてもらう場合は36協定の締結が必要
従業員に時間外労働や休日労働をしてもらう場合は、労働基準法第36条に基づく協定「36協定(サブロク協定)」が必要です。ここでは、36協定の内容について詳しく解説します。
36協定とは
36協定とは、企業が従業員に法定労働時間を超えた時間外労働や休日労働をしてもらう場合に、労使の合意の下で締結・届け出なければならない協定です。正式名称は、「時間外労働・休日労働に関する協定」。対象となる従業員が1人のみでも、36協定を締結する必要があります。届け出ずに時間外労働をしてもらうことは違法であり、罰則の対象となりますので、注意しましょう。
36協定で時間外労働の限度を定める
36協定が締結されると、企業は従業員に「1日8時間、週40時間を超える労働/週1日の法定休日の労働」をしてもらうことが可能となります。ただし、36協定を締結したからといって何時間でも残業してよいというわけではなく、上述した上限(月45時間・年360時間)を超えての残業は原則禁じられています。労使の合意の下で時間外労働の上限を設定し、36協定に明記しましょう。
時間外労働と休日労働の合計
36協定では、時間外労働と休日労働の合計は「月100時間未満」「2~6カ月平均80時間以内」で協定しなければなりません。36協定による「時間外労働の上限規制」では、「1日」「1カ月」「1年」の時間外労働の上限時間を定めますが、この上限時間内で労働させた場合であっても、実際の時間外労働と休日労働の合計が、月100時間以上、または2~6カ月平均80時間超となった場合には、法律違反となります。
●36協定による時間外労働の上限規制
特別条項付き36協定
繁忙期などに、36協定の時間外労働の上限を超えてしまう場合があります。その際は「特別条項付き36協定」を結ぶことで、時間外労働の上限を任意で設定できるようになります。
●特別条項付き36協定の要件
①原則としての延長時間
②「特別の事情」の内容(予算・決算業務、ボーナス商戦に伴う業務の繁忙、納期のひっ迫、大規模なクレームへの対応、機械トラブルへの対応 など)
③一定時間の途中で特別の事情が生じ、原則としての延長時間を延長する場合に労使が取る手続き
④限度時間を超えることのできる回数
⑤限度時間を超える一定の時間
36協定届の記載例
36協定で締結した内容を「36協定届」に記載して労働基準監督署に届け出ます。「36協定届」の書式は、特別条項がある場合とない場合で異なります。特別条項なし「様式第9号」は1枚、特別条項あり「様式第9号の2」は2枚になっており、1枚目は様式第9号と同様です。36協定届の記載方法について下記にポイントをまとめました。
●特別条項なし「様式第9号」の記載例
- 労働保険番号・法人番号
- 協定の有効期間:有効期間の長さに制限はありませんが、最長で1年間が望ましいとされています。
- 起算日:「1年720時間以内」のように1年間の上限規制のカウントを始める日を記載します。労働時間管理が煩雑になることを避けるため、②の36協定有効期間の起算日・1年の上限規制の起算日・賃金計算の起算日は合わせておいた方がよいでしょう。
- 時間外労働をさせる必要のある具体的な事由:「業務上やむを得ないとき」「緊急対応が必要な場合」など抽象的な理由ではなく、「突発的な仕様変更」「製品トラブル・大規模なクレームへの対応」など、具体的な業務内容を記載する必要があります。
- 時間外労働の上限規制の確認チェック:チェックボックスにチェックがないと「36協定」は無効になってしまいます。
●特別条項あり「様式第9号の2」2枚目の記載例(1枚目は「様式第9号」と同様)
2枚目は「様式第9号の2」に特別条項に関する内容を記載する必要があります。
- 限度時間を超えた労働に係る割増賃金率:法定の割増率(25%)を超える割増率とすることが努力義務となっています。
- 限度時間を超えた労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置:特別条項を結ぶ際には、従業員の健康や福祉を確保する措置を定める必要があります。
- 時間外労働の上限規制の確認チェック:チェックボックスにチェックがないと「36協定」は無効となります。
記載方法の詳細については、厚生労働省のホームページも参考にして、記載漏れがないように作成しましょう。
(参考:厚生労働省『36協定届の記載例(様式第9号)』『36協定届の記載例(特別条項)』)
(参考:『【弁護士監修】36協定は違反すると罰則も。時間外労働の上限や特別条項を正しく理解』)
法定時間外労働をさせた場合、割増賃金の算出方法
従業員に法定時間外労働をさせた場合、通常の労働賃金に比べて割り増しした賃金の支払い義務が発生します。ここでは、法定時間外労働で発生した割増賃金の算出方法を、計算式の例とともに解説します。
●計算式
時間外労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.25(※)
※ただし、大企業で1カ月の時間外労働が60時間を超えた場合、60時間を超えた時間数×1時間あたりの賃金(円)×1.5で計算します。
●1時間当たりの賃金の算出方法
月給(円)÷1カ月あたりの平均所定労働時間(時間)
※月給には、「家族手当・扶養手当・子女教育手当」「通勤手当」「別居手当・単身赴任手当」「住宅手当」「結婚手当・出産手当」などの臨時の手当は含みません。
●1カ月あたりの平均所定労働時間
(365〈日〉-年間所定休日〈日〉 )×1日の所定労働時間(時間)÷12(カ月)
※うるう年の場合は、366日で計算します。
なお、所定外労働時間の賃金については、所定外労働時間の時間数(時間)×就業規則などで定める1時間あたりの単価(円)という計算式で求めます。
ここからは、例を基に上記の計算式にならって割増賃金を算出してみましょう。
●1日の所定労働時間7時間・月給30万円・年間休日122日のAさんの例
<日単位>
【火曜日】1時間の「所定外労働時間」(割増賃金は発生なし)
【木曜日】1時間の「所定外労働時間」(割増賃金は発生なし)、2時間の「法定時間外労働」(割増賃金が発生)
<週単位>
【月曜日~金曜日】
所定労働時間(35時間)+所定外労働時間(2時間)=37時間の「法定労働時間」
【土曜日】
40時間ー37時間=3時間の「所定外労働時間」
3時間の「法定時間外労働」
<Aさんの勤務時間に対する割増賃金>
※1日の所定労働時間7時間・月給30万円・年間休日122日
※1年間における1カ月の平均所定労働時間が142時間
※1時間あたりの賃金は2,112円
⇒5時間(時間外労働の時間数)×2,112円(1時間あたりの賃金)×1.25=13,200円
続いて、「休日出勤」「深夜労働」「フレックスタイム制」の3タイプでの割増賃金の算出方法を見ていきましょう。
休日出勤の場合
労働基準法により、休日は「少なくとも週に1回」付与するものとし、これを「法定休日」と定めています。法定休日以外に、就業規則や労働契約で定められた週休日を「法定外休日」と言いますが、この労働については特に法律上の規制はありません。
法定休日に働いた労働時間を「休日労働」と言い、35%以上の割増率での割増賃金の支払いが義務づけられています。また、法定休日かつ深夜労働を行った場合は、追加で「深夜労働の割増賃金」が発生し、60%以上の割増率での割増賃金を支払う必要があります。割増賃金の支払いについては、自社の賃金規程等に従い労働契約に基づいて決定します。
なお、休日の労働は労働時間すべてが特殊な時間外労働として考えられるため、通常の時間外労働である「8時間を超える労働」は割増賃金の対象になりません。
(参考:『【社労士監修】休日出勤手当の正しい計算方法と法律違反にならない運用方法』)
割増賃金の種類 | 割増率 | 計算式 | 解説 |
---|---|---|---|
法定休日労働 |
35%以上 |
法定休日労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.35 |
法定休日に労働した場合(会社カレンダーで勤務日が決まっている場合は、別途就業規則に従う) |
法定休日かつ 深夜労働 |
60%以上 |
時間外労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.6 |
割増率は「休日の割増(35%)+深夜労働の割増(25%)=60%」のため「1.6」となる |
例として、法定休日に18時から24時まで働く場合、その全ての勤務時間が休日労働としての残業に当たり、割増賃金が発生します。また、休日労働の割増率は35%ですが、休日労働であっても夜22時以降は深夜割増が発生し、22時から24時までの2時間は合計で60%の割増率となります。時給を1,000円とすると次のように計算できます。
18時~22時:4時間(法定休日労働の時間数)×1,000円(1時間あたりの賃金)×1.35=5,400円
22時~24時:2時間(法定休日かつ深夜労働の時間数)×1,000円(1時間あたりの賃金)×1.6=3,200円
合計:8,600円
深夜労働の場合
労働基準法では「22時から翌朝5時」の間の労働を深夜労働と定め、深夜割増賃金の対象としています。深夜労働の場合の計算式を下記の表にまとめました。
割増賃金の種類 | 割増率 | 計算式 | 解説 |
---|---|---|---|
深夜労働 |
25%以上 |
深夜労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.25 |
深夜時間帯は22時~翌日5時まで(深夜勤務など交代制勤務の場合は就業規則に従う) |
法定時間外労働 かつ深夜労働 |
50%以上 |
時間外労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.5 |
割増率は「時間外の割増(25%)+深夜の割増(25%)=50%」のため「1.5」となる |
法定休日かつ 深夜労働 |
60%以上 |
時間外労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.6 |
割増率は「休日の割増(35%)+深夜の割増(25%)=60%」のため「1.6」となる |
例として、所定労働時間が「9時から18時(1時間休憩)」の人が「24時まで勤務」した場合、1日8時間の法定労働時間を超える18時以降は残業に当たります。さらに、22時から24時は深夜労働です。この場合は「18時から22時は基礎賃金の25%増し以上」「22時から24時は50%増し以上」の割増賃金が発生します。時給を1,000円とすると、次のように計算できます。
18時~22時:4時間(深夜労働の時間数)×1,000円(1時間あたりの賃金)×1.25=5,000円
22時~24時:2時間(時間外労働の時間数)×1,000円(1時間あたりの賃金)×1.5=3,000円
合計:8,000円
フレックスタイム制の場合
フレックスタイム制における法定時間外労働は、前述の通り以下の時間となります。
①1カ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えた時間(清算期間が1カ月を超える場合のみ)
②清算期間における実際の労働時間のうち、法定労働時間の総枠を超えた時間
例として、以下の場合の計算方法を見ていきましょう。
・清算期間:4月1日~6月30日の3カ月間(歴日数91日、法定労働時間総枠520時間)
・実働時間:4月220時間、5月180時間、6月140時間 ⇒合計540時間
まずは「①1カ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えた時間」を確認します。
月 | 月の暦日数 | 週平均50時間となる 月間の労働時間数 |
実働時間 |
週平均50時間を 超える労働時間 |
---|---|---|---|---|
4月 | 30日 | 214.2時間 | 220時間 | 5.8時間 |
5月 | 31日 | 221.4時間 | 180時間 | 0時間 |
6月 | 30日 | 214.2時間 | 140時間 | 0時間 |
合計 | 91日 | ー | 540時間 | 5.8時間 |
※週平均50時間となる月間の労働時間数=50時間×各月の暦日数/7日
今回のケースでは、4月に週平均50時間を超えており、超過分の5.8時間を「時間外労働」としてカウントします。
次に「②清算期間における実際の労働時間のうち、法定労働時間の総枠を超えた時間」を確認します。
今回のケースでは、実労働時間の合計(540時間)から4月の時間外労働としてカウントした時間(5.8時間)を除いた時間(534.2時間)のうち、法定労働時間の総枠(520時間)を超えた時間(14.2時間)を6月の時間外労働としてカウントし、6月の賃金支払日に割増賃金を支払います。
20時間(時間外労働の合計時間数)×1,000円(1時間あたりの賃金)×1.25=25,000円
※今回のケースでは発生していませんが、法定時間外労働が月60時間を超えた場合には、超えた時間について50%以上の割増賃金率で計算する必要があります(中小企業は2023年3月末までは25%以上、2023年4月以降は50%以上)。
(参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署『フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き』)
(参考:『【社労士監修】残業手当の正しい計算方法とは?企業が注意したいポイントを簡単に解説』)
法定時間外労働の上限に達してしまうと罰則も
労働基準法において「時間外労働の上限」が罰則付きで規定されています。従業員に法定時間外労働をしてもらうには、労使の「36協定」を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。この届け出をもって従業員の時間外労働が可能となりますが、残業時間には「月45時間・年360時間(1年単位の変形労働時間制を導入している場合は月42時間・年320時間)」という上限が設定されています。
法律違反の有無は、この「時間外労働の上限」に対する超過時間で判断されます。企業の業種やサービス内容によっては、残業が増える繁忙期や、緊急で対応しなければならない事情が発生する場合もあるでしょう。このような臨時的な特別の事情がある場合には「特別条項」を利用して、月45時間の上限を超えることができます。ただし、特別条項の有無にかかわらず、月100時間以上の時間外労働をしてもらうことはできません。また、特別条項でも次の4点に違反した場合には、「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科される恐れがあります。知らずに法律違反とならないよう、しっかり内容を把握しておきましょう。
① 時間外労働が月45時間を超えることができる特別条項を設ける場合は、1年のうち6カ月を限度とする。
②月の時間外労働と休日労働の合計が100時間未満であること。
③特別条項を利用した場合の時間外労働は、1年720時間を限度とする。
④特別条項があっても、複数月(2〜6カ月)の平均を全て80時間以内に収めること。
※時間外労働と休日労働の合計について、「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」が全て1月当たり80時間を超えないこと。
上限規制の適用が猶予・除外となる事業・業務
事業・業務によっては、「月100時間未満」「2~6カ月平均80時間以内」とする上限規制の適用が猶予・除外されます。猶予される事業・業務には、「①建設事業」「②自動車運転の業務」「③医師」「④鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業」があります。また「⑤新技術・新商品などの研究開発業務」は、特殊な業務となるため、適用が除外されています。
①建設事業
災害の復旧・復興など人命や生活に深く関わるケースもあるため、一部の業務は例外として規制が適用されません。時間外労働の上限規制には5年の猶予が設けられており、2024年4月からの適用となります。
②自動車運転の業務
建設事業と同様に残業の上限規制には5年の猶予が設けられており、2024年4月からの適用となります。自動車運転業では例外は認められていません。
③医師
5年の猶予後、2024年4月より適用となる見通しです。ただし、救急病院などでは1分1秒が患者の命にかかわる場面もあり得るため、医師の時間外労働の上限については、医療業界の有識者によって引き続き検討される予定です。
④鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業
季節の影響を大きく受けるため、上限規制の適用には5年の猶予が設けられています。2024年4月からは、一般の業界と同様の上限規制が設けられる予定です。
⑤新技術・新商品などの研究開発業務
唯一適用除外の指定を受けている業種です。ただし、労働安全衛生法により、1週間当たり40時間を超えて働いた時間が月100時間を超えた従業員に対しては、医師の面接指導が罰則付きで義務づけられています。企業は、面接指導を行った医師の意見を考慮し、就業場所や職務内容の変更、有給休暇の付与などの措置を講じなければならない場合があります。
(参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』)
(参考:『【社労士監修】残業手当の正しい計算方法とは?企業が注意したいポイントを簡単に解説』)
法定時間外労働の上限を超えないために
働き方改革を推進するために、残業を減らすこと、長時間労働を改善することは、日本の企業にとって重要な課題となっています。法定時間外労働の上限を超えないためには、どのような対策が取れるのでしょうか。効果的な対策を3つご紹介します。
対策①:生産性向上・業務効率化
長時間労働を解消するためには、少ない労働量でも成果を生み出せるよう、生産性を上げることが重要です。生産性向上のためには、「業務やタイムマネジメントの可視化」「スキルアップ」「業務の平準化」などがカギになります。また、業務効率を上げるための「システム化」や「自動化」なども検討してみましょう。
(参考:『【5つの施策例付】生産性向上に取り組むには、何からどう始めればいいのか?』『業務効率化を検討したい!企業がすぐに取り組めるアイデア18選【チェックリスト付】』)
対策②:アウトソーシングをする
アウトソーシングとは、業務の一部を切り出して、社外の人材や専門企業に仕事をしてもらう方法です。毎月の給与計算などのルーティン化できる業務や、カスタマーサポートサービスの運営など、内製するよりも専門業者に委託するほうがコストを抑えられる業務が適しています。アウトソーシングを活用することで、従業員は本業や重要な業務に専念できるようになるでしょう。
(参考:『本気でRPO(採用代行)を検討する時期にきた -RPOの活用法とは-』)
対策③:人員を増やす
企業によっては、深刻な人手不足により一人一人の業務量が増え、長時間労働に拍車を掛けているケースがあります。法定時間外労働の上限を超える勤務が日常となっている職場環境を改善するためには、採用活動を強化して人員を増やす必要があるでしょう。とは言え、労働力不足が課題となっている現在では、自社に合った人材を確保するのは容易ではありません。そのため、採用活動の質を上げるとともに、退職者ネットワークである「アルムナイ」の活用など、できる施策を検討してみましょう。
(参考:『面接官を初めてやる人が知っておきたい質問例7つと面接ノウハウ【面接評価シート付】』『アルムナイとは?退職者ネットワークを活用し、工数をかけずに優秀人材の採用へ』)
まとめ
働き方改革の一環として労働基準法が改正され、法定時間外労働の上限が罰則付きで規定されました。企業にとってはこれまで以上に、勤務状況の把握や不要な残業時間の削減が求められています。今回の記事を参考に、まずは自社の法定時間外労働を把握することから始めましょう。働き方によって違う算出方法や、上限を超えてしまった場合の罰則など注意点を確認し、法定時間外労働の削減に取り組んでみてはいかかでしょうか。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/弁護士 藥師寺正典、編集/d’s JOURNAL編集部)
【働き方改革】残業時間上限規制でやるべきこと(36協定確認チャート付)
資料をダウンロード