リアリティショックとは?起こる原因と影響・対策を解説

d’s JOURNAL編集部

入社間もないタイミングは、慣れない環境や業務などの影響で、何かと精神的な負担を感じてしまいやすいものです。新入社員や環境の変化があった従業員に起こりやすい心理的問題の一つに、「リアリティショック」と呼ばれる現象があります。

リアリティショックとは、理想と現実のギャップに対して、ネガティブな影響を受けてしまう状態を指します。この記事では、リアリティショックが起こる原因や具体的な影響、企業側が取り組むべき対策などについて詳しく見ていきましょう。

リアリティショックとは


新たな環境に身を置くときには、それまで抱いていた理想と実際に体験する出来事との間に、多少なりともギャップを感じてしまうものです。仕事において直面する理想と現実の隔たりによって、精神的な負担を感じることを「リアリティショック」といい、特に新しく入社した時期に起こりやすい問題として注目されています。

ここではまず、リアリティショックの基本的な意味や現況について見ていきましょう。

リアリティショックの基本的な意味

リアリティショックとは、新入社員や新たな環境に置かれた従業員が、理想と現実のギャップに衝撃を受けてしまう状態を指します。入社前に抱いた理想と実際に直面する現実との間でギャップを感じてしまい、モチベーションの低下や将来への不安などが生じる現象です。

もともとはアメリカの組織心理学者E.C.ヒューズによって1958年に提唱された概念であり、決して新しい用語ではありません。時代や国を問わず、希望を抱いて入社する新入社員に起こり得る普遍的な課題ともいえるでしょう。

新入社員の場合は、4月に入社してから1カ月程度でリアリティショックが起こりやすいことから、いわゆる五月病と同じ意味で捉えられるケースも多いです。ただし、リアリティショックそのものは、新入社員だけでなく社歴の長い従業員でも起こり得ることが指摘されています。

例えば、管理職に昇進したことがきっかけで、それまでイメージしていた仕事内容と現実にギャップを感じ、リアリティショックを起こしてしまう可能性もあります。また、育休などでしばらく職場を離れていた従業員が、その間の環境変化などによって、復職後にリアリティショックを受けてしまうケースも少なくありません。

リアリティショックの現状

リアリティショックは程度の差こそあれ、誰にでも起こり得る心理的な反応です。パーソル総合研究所が2019年に実施した「就職活動と入社後の実態に関する定量調査 」によれば、入社後に何らかのリアリティショックを感じたと回答した人の割合は、全体の76.6%とされています。

新社会人としての希望や仕事に対する理想が大きいほど、実際に任された業務や役割に納得がいかず、不満を感じてしまう可能性も高くなると考えられます。

リアリティショックが従業員にもたらす影響


リアリティショックが起こると、場合によっては仕事に大きな影響を及ぼすリスクもあります。ここでは、リアリティショックが従業員にもたらすデメリットについて見ていきましょう。

働くことへのモチベーションの低下

リアリティショックは、仕事に対するモチベーションの低下を招きます。理想と現実のギャップによって、目の前の業務や与えられた役割に対して不満が生まれ、意欲ややりがいを見出せなくなってしまうのです。

特に入社間もない時期は、慣れない業務や社内の人間関係になじむまでに、何かと負担を感じてしまいやすいものです。リアリティショックと不慣れな環境への不安や焦りが重なれば、本来のパフォーマンスを発揮するのは難しくなってしまいます。

(参考:『【1分で解説】モチベーションアップには何が必要?従業員のモチベーションを上げる5つの方法 』)

メンタルヘルスにおける不調

リアリティショックの度合いがあまりにも大きい場合、従業員のメンタルヘルスにも悪影響が及ぶ可能性があります。「こんなはずではなかった」という悩みを抱えるうちに、現状に対して否定的になり、自己評価が著しく低下してしまうのです。

精神的なストレスが蓄積されれば、不安やイライラを感じやすくなったり、集中力が低下したりするなどの要因により、業務に大きな支障をきたしてしまうでしょう。また、食欲不振や不眠などの身体的な症状が表れれば、遅刻などにつながる可能性もあり、本人の評価や信頼が損なわれてしまいます。

さらに、集中力の低下によるミスや、イライラによる人間関係の悪化などが起これば、チーム全体にも悪影響が及んでしまいます。その結果、本人の評価がますます下がり、なお一層メンタルヘルスを悪化させてしまうという悪循環に陥るのです。

早期離職の検討

メンタルヘルスのバランスが崩れたままになれば、最悪の場合は離職に至るケースも考えられます。特に新入社員は、その企業に対する思い入れや企業における自分の存在価値を見出しにくいことから、早期離職のリスクが高いのが問題です。

厚生労働省のデータによれば、就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者で37.0%、新規大卒就職者で32.3%とされており、毎年平均して3割を超えています。その原因には、「入社前とのイメージのギャップ」も大きく関係しており、リアリティショックの影響は決して小さくありません。

早期離職が起これば、企業にとっては貴重な人材が流出してしまうとともに、採用にかかった費用やそれまでの育成にかかった労力を損失することとなります。また、周囲の従業員のモチベーション低下や連鎖離職を招くなど、二次的な影響も懸念されます。

そのため、人材採用においては、特に新入社員にリアリティショックが起こる原因を把握し、事前に対処することが重要です。

(参考:『早期離職が起こる理由とは|離職率の傾向や対策・改善事例を解説 』)

リアリティショックの主な原因


リアリティショックの原因を大きくまとめれば、「理想と現実のギャップ」にあると考えられます。しかし、どのようなポイントにギャップを感じるのかは人それぞれであるため、具体的な要因を細かく見ていく必要があります。

ここでは、リアリティショックの主な原因を5つに分けて見ていきましょう。

業務内容に対するギャップ

業務内容や仕事そのものに関するギャップは、リアリティショックを引き起こす代表的な原因です。例えば、入社前には華やかに活躍する姿を思い描いていたものの、実際には目立たない業務ばかりを任され、不満を感じてしまうといったケースが挙げられます。

社会貢献ができると期待して入社したものの、入ってみると自身の業務がどのような影響を与えているかを実感できず、手ごたえを感じられないといった場合も少なくありません。このように、業務内容に対する食い違いは、特に社会経験の浅い新卒者が抱きやすいギャップといえます。

また、「自身の理想と現実のギャップ」がリアリティショックにつながることも少なくありません。学生時代の経験や資格を活かして、すぐに戦力として活躍できると考えて入社したものの、実際にはなかなか思うような働きができないといった具合です。

この場合は、時間の経過や経験の蓄積によって、ある程度は解消の可能性が見込めます。しかし、何かと負担がかかりやすい入社間もないタイミングでは、離職の引き金となる恐れもあるので注意が必要です。

それ以外のギャップとしては、「想像していた以上に業務の負荷が大きい」「これまでの知識やスキルが通用しない」といったものが考えられます。これらは新卒社員だけに限らず、中途採用で入社した人や配置転換で異動した人、昇進・昇格を果たした人など、さまざまな立場の人材に起こり得るギャップです。

人間関係における悩み

職場における人間関係の悩みは、代表的な離職原因の一つです。入社前には社内の同僚や先輩ともうまく付き合っていけると感じていても、実際に入ってみると社内の気風やしきたりに合わず、孤独を感じてしまうといったケースは多いものです。

特に、中小規模の企業では「年齢の近い従業員が少ない」「関わる上司や先輩が固定化されやすい」などの要因から、人間関係の構築につまずいてしまうことも少なくありません。直属の上司や先輩との相性に恵まれなければ、たとえ業務内容や待遇に不満がなかったとしても、職場に残りづらくなってしまうでしょう。

評価や待遇への不満

評価や待遇に対する不満も、リアリティショックを引き起こす主要な原因の一つです。企業で働く以上は、努力をしてスキルや経験を積み、確かな実績を上げれば自身の評価も上がると期待するのが一般的です。

それにもかかわらず、昇給や昇進といった具体的な変化が見られなければ、期待と現実とのギャップにショックを受けてしまうこともあるでしょう。また、上司や先輩から業績に見合った評価を受けられていないといったことも、リアリティショックにつながります。

評価や待遇への不満は、新入社員というよりも、ある程度の勤続年数を重ねた従業員に起こりやすいギャップです。リアリティショックによって自身のキャリアを悲観し、そのまま離職へと発展すれば、企業にとっても大きな損失になってしまいます。

人事評価のあり方は、その企業がどのように従業員を育てていきたいのかを明確に示す基準となるため、方法や精度によってはモチベーションを損なってしまう恐れもあります。そのため、現状に問題が生じている場合は、速やかに改善の手を打つことが大切です。

他者と比べたときの焦り

他者と自分を比較したときの焦りも、リアリティショックにつながりやすい原因といえます。特にギャップを感じてしまいやすいのが、同期入社したメンバーと比較をしたときです。

同期や同僚は自身と同じような条件で就業しているため、どうしても能力や貢献度を比べてしまいやすく、自身が劣っていると感じれば強いコンプレックスにつながります。その状態で周囲からのフォローや励ましがなければ、仕事に対するネガティブな感情が大きくなり、離職に至ってしまうケースもあります。

組織に対するミスマッチ

企業や組織そのものに対して抱いていたイメージとのギャップも、リアリティショックにつながる要因の一つです。例えば、企業理念に共感して入社をしたものの、実際には現場まで反映されていないなどの原因でギャップを感じてしまうといったケースが該当します。

また、「希望した部署に配属されなかった」「配属先になじめない」といったミスマッチも、リアリティショックの原因となります。組織に対する不満は、個人の努力ではなかなか解消できないため、帰属意識の希薄化やモチベーションの低下を招きやすいです。

不満が募ればそのまま離職につながってしまう恐れもあるので、速やかなフォローが求められます。

リアリティショックに対する主な取り組み


これまで見てきたように、リアリティショックは事前に抱いたイメージと現実との隔たりによって起こるものであるため、度合いや影響には個人差があります。そのため、企業側のアプローチによって、必ずしも回避できるとは限りません。

企業としては、リアリティショックによる影響を最小限にとどめることを目標に、実行できる施策から丁寧に取り組んでいくことが大切です。ここでは、リアリティショックを予防するための代表的な取り組みを6つご紹介します。

インターンシップを実施する

入社後のリアリティショックを和らげるためには、自社で実際に働くことへの理解を事前に深めてもらうことが大切です。新卒採用においては、インターンシップを実施することで、入社後に働く自分の姿をイメージしてもらうのが効果的といえます。

そもそも、インターンシップの実施には、「企業風土や業務内容とのミスマッチによる早期離職を防ぐ」という目的も含まれています。普段はイメージしにくい社内での業務を体験してもらうことで、より仕事に対する解像度が高まり、志望度の高い学生を絞り込めるというのが重要な効果です。

特に、年単位にわたる長期のインターンシップであれば、入社後に即戦力として活躍してもらえる可能性も期待できます。採用される学生側にとっても、入社にあたって不透明な部分が少なくなるので、心理的な負担が大幅に軽減されるでしょう。

OB・OG訪問の機会をつくる

事前に社内の業務や状況を知ってもらうという点では、OB・OG訪問も効果的です。OB・OG訪問の大きな特徴は、立場や年齢の近い先輩従業員にリアルな意見を聞けるという点にあります。

企業説明会や人事担当者による面談などと比べると、より気軽なスタンスでコミュニケーションを図れるため、学生にとっては不安の解消につながります。例えば、入社後のキャリアについて不安がある応募者には、先輩従業員がどのようにキャリア形成しているのかを知ることが大きな財産となるはずです。

入社後にキャリアに関するリアリティショックを受けてしまったとしても、先輩従業員の姿に自身を重ねれば、少し先の見通しが立てやすくなります。そのため、心理的な影響を最小限にとどめることができるのです。

内定者と緊密にコミュニケーションを取る

入社後のギャップを抑えるには、内定者と丁寧にコミュニケーションを図ることも大切です。内定者懇談会や内定者向けのイベントなどを開催し、一人ひとりに対して丁寧にヒアリングをしながら、仕事や自社に対してどのような希望を抱いているのかを把握するのも有効な方法です。

あらかじめ仕事に対する考えを聞いておけば、入社後に体感し得るギャップについて、先回りしてフォローすることができます。一方、内定者との信頼関係が構築されれば、企業側からの期待や要望なども伝えることが可能です。

「どのような活躍を期待しているのか」「どのようにキャリアを築いていってもらいたいか」などを明確に伝えれば、理想と現実の隔たりが小さくなっていくため、入社後のリアリティショックを軽減できる効果が期待できます。

入社後のフォローを適切に行う

リアリティショックの影響を回避するためには、入社後のフォローも重要となります。万全の準備をしていたとしても、仕事を通じて何らかのギャップを感じてしまう可能性は十分にあるため、しっかりとフォロー体制を整えておくことが大切です。

具体的な施策としては、「新入社員研修の実施」が挙げられます。いきなり業務に触れさせるのではなく、しっかりと事前研修を行うことで、実務の難易度と能力とのギャップを解消することが可能です。

また、現場の責任者や上司による「1on1ミーティングの実施」も効果的です。入社間もないころは何かと不安を抱えやすいのに加えて、まだ周囲との人間関係が構築されていないため、なかなか悩みを相談することができません。

そのため、リアリティショックを受けていても、自力での解消は難しいといえます。1on1ミーティングという形で、ある程度機械的に相談できる場を設けておけば、新入社員も本音や不安を打ち明けやすくなります。

(参考:『1on1ミーティングとは|目的や得られる効果と導入・実施方法を解説 』)

部署全体でサポートする

新入社員のサポートは、基本的に直属の上司や先輩、育成担当者が中心となって行うこととなります。しかし、それぞれが自身の業務も同時並行で進めるため、ときには負荷が過剰に集中してしまうこともあります。

過度な負担の集中を避けるためにも、新入社員のサポートは、部内やチーム全体で行うという意識を持ってもらうことが大切です。例えば、チーム全体を巻き込んで歓迎会を行ったり、普段の業務で積極的に声をかけてもらったりと、協力してもらえることは数多くあります。

新入社員の孤立を避けるためにも、できるだけ多くのメンバーが目をかけておき、必要に応じてフォローをするという雰囲気づくりを行いましょう。

メンター制度の導入を検討する

新入社員をリアリティショックから守るうえでは、「メンター制度」を導入するのも一つの方法です。メンター制度とは、年齢の近い先輩従業員が担当者となり、一対一で新入社員をサポートする手法です。

どちらかといえば、業務面よりも精神面でのサポートを行うのがメインの役割であり、新入社員の定着率を高めたり、従業員同士のつながりを深めたりする効果が期待できます。特に、リアリティショックが起こりやすい入社初期のサポートをきめ細やかに行え、新入社員の孤立を予防できるのがメリットです。

メンター制度を成功させるためには、何よりもメンターの選出が重要な課題となります。詳しい仕組みやメリット・デメリット、制度運用のポイントについて以下の記事でも詳しく紹介されているので参考にしてみてください。

(参考:『メンター制度導入のメリット・デメリットとは。 押さえておきたい制度運用のコツも解説 』)

まとめ

リアリティショックとは、理想と現実のギャップによって引き起こされる心理的な衝撃のことです。特に仕事においては、新入社員に起こりやすい心理的な反応とされており、パーソル総合研究所の調査によれば8割近くの新入社員が何らかのリアリティショックを感じたというデータも出ています。

リアリティショックはモチベーションの低下を招くだけでなく、最悪の場合は早期離職を引き起こすリスクもあります。そのため、人材採用や人材育成を考えるうえでは、決して無視できない課題といえるでしょう。

まずは、リアリティショックにつながる原因と予防のための対策方法を把握することが大切です。そのうえで、現状の人員や業務量なども踏まえながら、自社に合った施策を検討してみましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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