ソフトバンク、2022年度採用の展望は?「女性活躍推進」「アンコンシャスバイアス」で変わり始めた社内の眼差し

ソフトバンク株式会社

コーポレート統括 人事本部 本部長
源田泰之(げんだ・やすゆき)

プロフィール

「情報革命で人々を幸せに」という共通の経営理念を掲げるソフトバンクのグループでは、イノベーティブな事業が次々と創出されている。
また、採用や人材開発を事業戦略の重要な領域と位置づけ、積極的な施策が打ち出されていることも有名だ。

2022年のソフトバンクは、どのような採用戦略をとるのだろうか。今回お話を伺うのは、コーポレート統括 人事本部長の源田泰之氏。源田氏は、人事のポータルサイト「日本の人事部」が主催する「HR アワード 2019」で、「企業人事部門の個人の部」で最優秀賞を受賞した経歴を持つ。

2022年度の採用・人材開発計画などを伺った。

(聞き手:パーソルキャリア株式会社 取締役執行役員/取締役・監査役組織 瀬野尾 裕)

ソフトバンクにおける2022年度の採用計画について

――ソフトバンク株式会社の2022年度事業展望についてお聞かせください。

源田泰之氏(以下、源田氏):携帯電話関連ビジネスについては、料金値下げなど、2021年はさまざまな変化がありました。「携帯電話事業の生産性」という点では、これまでに比べて厳しい状況と言わざるを得ません。

しかし、当社が手掛けているのは携帯電話事業だけではありません。会社として重視しているのは、あらゆる産業における「真のDX支援」。いかにして、DX支援関連の新規事業を創出していくのかということを重視しています。

そうした流れの中で、「採用」は事業戦略を叶えるために非常に大切な役割を持ちます。採用だけでなく、社員の教育も重要です。どのような体制が当社にとってベストなのかと、常に自問自答しています。

――採用環境の変化に合わせて、求職者とのコミュニケーションも変化していくのでしょうか?

源田氏:これまで日本の企業や社会では、「会社が人材を選ぶ」というスタンスが一般的でした。しかし近年は、SNSの普及などで会社の中がどんどんオープンになり、会社は「選ばれる」立場でもあります。

「この会社で成長できるのか」「次のステップにつながるのか」ということが、求職者の方にとって今まで以上に重要なポイントになってきているのです。優秀な方に当社を選んでもらうためにも、当社で活躍するイメージを、より明確に、より強く出していかなければなりません。

与えられた仕事で成長することは当然のこと。研修制度のプログラムや新規事業への参画など、入社後のキャリアアップが描けるように発信したいと考えています。

――採用活動において重要視しているのはどのようなポイントですか?

源田氏:会社が求める人物像やスキルをよりわかりやすく伝えられるかがポイントだと考えています。働いている人の声や各職種の具体的な業務内容といった「ジョブディスクリプション(*1)」を、これまで以上に明確にしていくことを心掛けており、エージェントに対してもこのジョブディスクリプションを詳しく伝え、より当社にあう人材を紹介してもらえるように工夫しています。

さまざまな取り組みを実施しても、肝心の社員に情報が行き届いていないケースがあります。社員に情報を伝えるために、あえて、社外向けの情報発信やプロモーションも重視しています。社外にしっかり伝えることで、内部の社員に伝わることもあるからです。

(*1)ジョブディスクリプション:職務内容について、詳細に記載した文書のこと。近年日本の企業でも、同一労働同一賃金の導入や成果主義にともなって注目が集まっている(参照記事:ジョブディスクリプションとは?テンプレートと記載例を使って作成、採用・評価に活用!

有識者を招いて本気で取り組むソフトバンクの「女性活躍推進」

――ソフトバンクでは「SDGs」「ESG」の取り組みが盛んな印象を受けます。2021年には「女性活躍推進委員会」が発足したというニュースもありましたが、これについて源田さんご自身の考えをお聞かせください。

源田氏:あくまでも私の個人的な見解ですが「女性活躍推進」「働き方改革」は密接につながっていると考えています。

女性の活躍推進が進まない大きな理由は2つあって、1つは「長時間労働を前提とした働き方」、もう1つが「アンコンシャスバイアス(※)」だと考えます。

日本国内全体の問題として、効率性や生産性の向上よりも、一生懸命、がむしゃらにやっていることが評価されるという価値観があります。これから少子高齢化がますます進み、労働力が不足することが想定される中、そのような旧来の価値観では、多様な人材の活躍は叶いません。

社内を見てみると、評価においては男女の差はほぼないものの、「管理職の男女比」という点では男女間で明確な差があり、課題と認識しています。「適材適所が実現できていないのではないか」という問題意識から、女性活躍推進に本気で取り組まなければならないと、課題解決に向けて取り組んでいます。

「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包括)」の重要性が叫ばれる中で、なぜ「女性活躍推進に特化して力を入れるのか」という指摘もあるでしょう。しかし、足元の状況さえ解決していないのに、LGBTや障がい者雇用といった課題を根本から解決することは難しいと考えています。

(※)アンコンシャスバイアス:無意識の偏見・思い込みを意味する。日常生活や職場など、さまざまな場面で起こるとされている(参照記事:アンコンシャスバイアスとは?職場での具体例とともにわかりやすく解説
――ダイバーシティを重視するからこそ、まずは社内の男女格差の是正から着手ということですね。具体的にどのような取り組みを行っていますか?

源田氏:社内で「女性活躍推進委員会」を立ち上げ、2035年度までに女性管理職比率を20%にすると発表しています。ずいぶん先のように思われるかもしれませんが、机上の空論ではなく、細かなシミュレーションをした上で、「絶対達成するぞ」という本気の数字です。

一緒に働く仲間の間でジェンダーギャップがある。この点をまず解消すべく、働き方改革を推し進めていきたいと思います。

――先ほど「アンコンシャスバイアス」について言及されました。この「無意識の思い込み」「無意識の偏見」を、どのように解決をされているのでしょうか。

源田氏:この点については、外部の有識者を招いてセミナーやワークショップを行っています。ダイバーシティを推進する株式会社チェンジウェーブの佐々木裕子さんや、人材開発・組織開発を専門とする立教大学の中原淳教授といった有識者の方に依頼をしています。

ワークショップでは、個々の「決めつけ」や「思い込み」をひも解くため、全社集計したアンケート一つ一つに対して皆で意見交換をするのですが、かなり踏み込んだ内容になることもあります。

ダイバーシティとは、「女性社員だから」「男性社員だから」ということではなく、1人1人に対してしっかり向かい合うということ。こうした姿勢こそが、多様な人を受け入れられる土壌につながるのではないでしょうか。

――ソフトバンクの本気度が伝わってきますね。そうした取り組みに対する社内のリアクションはいかがでしょうか。

源田氏:社内の人の言葉よりも、専門家の知見に触れるほうが「ああ、なるほど」と納得感があるのだと思います。役員の間でも、女性活躍の問題に関して当事者意識が高まってきました。

社外有識者の力を借りて、個々の「アンコンシャスバイアス」に気づく仕掛けを作ることで、社員の意識もかなり変わってきたと感じます。

社内起業を推進し「キャリアの多様性」を叶える組織へ。自治体との取り組みにも注目集まる

――「キャリアの多様性」についての取り組みを教えてください。

源田氏:新規事業のアイディアを社内外から応募できる「ソフトバンクイノベンチャー(SoftBank InnoVenture)」といった社内起業制度を設けていることもあり、ソフトバンク社内では事業が多様化しています。

ジョイントベンチャーもあちこちで立ち上がり、チャレンジングな風土が当社の特徴です。

例えば以下のような――、

「自分で起業して、こういう事業で社会課題を解決したい」
「もっと広く事業全体を見ていたい」
「意思決定をする立場になりたい」

など、ビジョンがある人にとっては選択肢が多く、自身のキャリアを追求できる会社だと思います。

――自治体と企業をつなぐような取り組みもあると聞きました。

源田氏:近年、自治体や教育現場における「DXのニーズ」が高まっています。

地方自治体に出向してITインフラ構築・運用のお手伝いをしたり、教育現場のIT推進などを担ったりするなど、公共事業を手掛ける法人様などからご要望をいただくことも多々あります。

希望者には「リスキリング(再教育)プログラム」を用意し、受講後は地元に戻り、地域のITインフラ構築に貢献するというキャリアコースも設計しています。

家庭の事情などで地元に帰ることを希望する社員にとって、このプログラムは社員のワークライフバランスにも寄与すると考えています。

――昨年の秋は「ステーションAi」立ち上げのニュースが話題になっていました。さまざまな事業をスタートさせていますが、社員の教育プログラムについてはグループ間でどのように活用しているのでしょうか。

源田氏:「デジタルの社会実装」という理念のもと、次世代に向けたさまざまなビジネス拠点や研究拠点を展開しています。

愛知県でスタートさせる「ステーションAi(エーアイ)」もその一例。優秀なスタートアップの創出や支援、世界から優秀な人材を呼び集めるという地域の活動に、これまでソフトバンクが培ってきた「新規事業を創造するプログラム」を提供します。

企業としてやるべきことは内部に留めず、ソフトバンク全体で積極的に共有していこうという流れができてきています。

離職率3%の安定運営。積極的に新しい風を取り入れて、変化を歓迎する

――現在の離職率はどのような状況でしょうか。

源田氏:当社の離職率は3%程度です。「定着率が高い」という見方がある反面、「新陳代謝が進んでない」という声があるかもしれません。

しかし、ネットワークという社会インフラに携わる事業の特性から言うと、低離職率であることは安定的な事業運営を意味し、すべてのステークホルダーに対しては安心感をもっていただける数字かと自負しています。

――最後に、源田さん個人の今後の展望と、組織としての展望を教えてください。

源田氏:ソフトバンクには「こうあるべきだ」「こうすべきだ」という決まった型がありません。他社の取り組みでよさそうなものがあったら積極的に取り入れて、人事全体で強くなっていきたいというのが、私たちの考え方です。

2021年の秋から冬にかけて、ほんの一瞬でしたが新型コロナウイルス感染者が少なくなった時期に、グループ会社の人事責任者フォーラムでワンデー合宿を実施しました。

合宿で何度も話をしたのは、「ソフトバンク株式会社の人事として、上から目線で評論し合うのでなく、より良い方向を常に模索しよう」ということ。目の前にある仕事をこなすだけではなく、いいものを柔軟に取り入れて、人事としても様々なことにチャレンジしていきたいと思っています。

――ありがとうございました。

(聞き手:パーソルキャリア株式会社 取締役執行役員/取締役・監査役組織 瀬野尾 裕)

【取材後記】

最先端の研究施設やスタートアップ支援など、「デジタルの社会実装」に向けて「種まき」をし、大切に育んでいるような印象を受けた。人材に関しても採用や育成に力を入れ、多様な人材を包括しながら、多くの人がそれぞれの形で活躍する組織作りを目指す。
変化のスピードが早い「ソフトバンク」という組織は、「ダイバーシティ&インクルージョン」に本腰を入れて取り組んでいる。

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

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