理不尽な状況からは、逃げてもいいが、腐ってはいけない ~髙田延彦が伝える 立ち直れるヒト・逆境に強い組織づくりのヒント~

髙田延彦

髙田道場主宰・元プロレスラー/総合格闘家

プロフィール

もし、自分に不利な状況や危機的状況に陥ったら――。時代は、逆境やトラブル、あるいは強いストレスに直面したとき、それに対応する力「レジリエンス」を求めています。

日本の格闘シーンの一時代を築き上げてきた元プロレスラー・総合格闘家の髙田延彦氏。「平成の格闘王」などの異名を持ち、日本の総合格闘技ブームの火付け役ともなった人物です。

少年時代は長嶋茂雄に憧れ野球に熱中、1980年に新日本プロレスへ入団して以降、UWFインターナショナル立ち上げを経て、現在は「髙田道場」を主宰する実業家でもあります。

しかし、数々のビッグイベントでの対戦や会社経営をした経験により、幾度も困難にぶつかってきたと言います。それゆえに「しなやかに適応して生き延びること」を熟知している人物でもあるのです。今、経営や育成などに必要な「レジリエンス」。髙田氏とともに学んでいきましょう。

髙田氏が歩んできたキャリアが紹介されている前回のコラムはこちらから。

自分が納得できない環境に追いやられたり、処遇に対して不満を持ったりしてしまったらどうするか

皆さん、こんにちは。髙田延彦です。

今回も「プレッシャーやストレスに負けない力」「はね退ける力」など、これまで私が経験してきたこと、思ったことを皆様に精一杯お伝えできればと思い、”出て”参りました。どうぞよろしくお願いします。

例えば皆さんには、こんなことを経験されたことはありませんか。

経営者や管理職ポジションに就かれている方であれば、従業員同士や会社と従業員の間に信頼関係がなく、プロジェクト推進力や離職の面での不安に悩まされている。あるいは、企業文化や風土の熟成ができていない、組織の目指すビジョンに従業員の理解や浸透が追いついていかない――、など。

一方、ビジネスパーソン個人ではどうでしょう。時に、組織の中で評価されなかったり、自分の納得できない環境へ配置転換をされたり、頑張るモチベーションが失われてしまった――、など。本当はこんなことをしたくない、こんな環境にいたくない…。そのような経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

もちろん見切りをつけてその職場や会社を辞めてしまう。それも人生の選択肢です。ですが、考え方によってはその評価や辞令、与えられた環境は、何か期待するところがあって判断されたものと捉えることもできるのではないでしょうか。

かつて私は、大晦日の総合格闘技特別興行「PRIDE男祭り」(2003~2006年)というイベントのオープニングセレモニーで、「男の中の男たち、出てこいやっ!」と叫んだことがあります。プロレスラー・格闘家としての現役の髙田延彦のことは知らないが、このセリフを知っているという方は多いのではないでしょうか。

もともと、この「出てこいやっ!」は、当時の主催者側から「選手の呼び込みをお願いします」とだけ、オファーを受けたに過ぎませんでした。そうは言われても、会場を沸かすようなキャッチコピーなど簡単につくれるわけではありません。

イベントが直前に迫ってもクリティカルな案は浮かんでこず、「考えずに行動してみよう」精神で、ぶっつけ本番で、その場に立った瞬間に心が動いた言葉を発してみようと思ったのです。それが、あの言葉でした。

さて、もうひとつの私の顔、プロレスイベント「ハッスル(2007年~)」では、悪役レスラー軍団「髙田モンスター軍」の髙田総統として大会に参戦していました。

特にこの役、初めは本当にしたくなかった(笑)。ストイックにトレーニングに打ち込み、数々のファイターと戦ってきた私が、仮面ライダーの悪役で有名なブラック将軍(*1)のような衣装を着て、ケレン味たっぷりに会場中を暴れ回るわけですから。

当時周囲からは、「なぜ髙田はこんなオファーを引き受けたのだろう」と懐疑的な目で見られましたね。ですが、どんな役割や環境であろうと、自らが一度足を踏み入れたなら、そこにお客さんが見に来てくれた以上、皆さんを喜ばせたい楽しませることが我々のミッションです。

「こんなの自分がイメージする役割じゃない」、「こんなカッコ悪いことはしたくない」と考えるのが人間の常かと思います。しかしながら、誰か一人でも、そんな役割を期待してくれているとするならば…。その小さな期待に応えることも素敵なことではないでしょうか。

たしかに髙田総統に扮しているとき恥ずかしさが無かったと言えば噓になります。しかし、どの大会も仲間や観客の皆さんとの一体感を感じられていました。「会場にいるお客さんに楽しんでもらおう!」という想いは皆同じ。共通の目的・目標を持ってまい進することで、見えなかったものが見えてくることもあります。

私の場合、UWFインターの経営やヒクソン戦、プロレスイベントへの参加など、結果がわからないことに対しても挑戦する姿勢だけは持ち続けてきました。こうした経験は、自分の「ストレス耐性の強化」「目標達成力の向上」など、レジリエンスを高めることにもつながっていきました。

要するに、自分の力量や可能性は自分で決めつけてはいけないということです。

逆に組織デザインを行うマネジメントサイドの人たちは、メンバーのそうした「何かをしようとする気概」などを見てほしいと思います。

自身の求める人事考課とは違う評価を受けた、あるいは予想していなかった会社の経営不振で苦しんでいるなど、いま今もがき苦しんでいる人は、こうした逆境に立ち向かってみてはどうでしょうか。思いもしなかった世界が開けるかもしれません。

(*1)ブラック将軍…東映テレビ特撮『仮面ライダーシリーズ』に登場した悪の大幹部。演:丹羽又三郎など。「髙田総統」のイメージが定着した後年に、映画『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』(東映、2015年)にて、髙田氏本人によって同名のキャラクターを演じることとなった。

身体を動かすことで心と体をケアできる。悩みや不安を吹き飛ばせ

レジリエンスを築くためには、以下のいくつかの方法があると言います。

□ 家族や友人と良好な関係を保つ
□ 自信を深める、あるいは高める
□ 危機やストレスに満ちた出来事を、耐え難い問題にしない
□ 変えられない状況を受容する心を持つ
□ 実現できる目標に向かってまい進する
□ 不利な状況をあきらめずに判断・行動する
□ 失敗の後には、自己実現や発見の機会を見出す
□ 希望的な見通しや出来事やイメージを視覚化する
□ 定期的に運動して心と体をケアし、自己のニーズと気持ちに向き合う

私の経験から「定期的に運動して心と体をケアし、自己のニーズと気持ちに向き合う」をお話させて頂けたらと思います。

私は今、髙田道場を運営する傍ら、全国の子どもたちをこちらから訪問し、身体を動かすことの素晴らしさや運動を通じて心身共に健康になることを伝える活動もしています。

厚生労働省が発表している「健康づくりのための身体活動基準」によると、身体活動、つまり運動をすることが、成人病の予防や将来的な疾病の予防につながるだけでなく、気分転換やストレス解消になるとされています。そのためメンタルヘルスの不調を改善するためにも有効であるようです。

またある研究機関の発表では、運動をすると脳の血流が良くなるので、脳が活性化され、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質が脳内に増えることがわかっています。中でもセロトニンは、集中力やメンタルを左右する神経伝達物質で、脳内でセロトニン量が増えていくことで、心が落ち着き、かつ爽やかな気分になると言われています。

ですから、運動に打ち込むことで、レジリエンスを鍛えていくことにもつながるということです。ランニングや筋トレ、水泳など本格的なものから、軽いストレッチなどでもOKです。それまで悩みや不安を抱えていたとしても、身体を動かすことで運動後にはすっかりその気持ちも吹き飛びます。

例えば、どうしてもやりたくない仕事や用事があったとします。「嫌だな、やりたくないな…」という気持ちや「怖い存在のあの人に業務報告しないと…」といった気持ちが生まれるでしょう。

ですが身体を動かした後は、前向きな気持ちになっている自分に気づきます。「後回しにしよう」と思っていた事柄が、いつの間にか「よし、やってやろう」「早く取り組んでみたい」といった発想に変わっていくのです。

これは緊張を解きほぐす、という意味合いでも効果を発揮しますので、翌日に大事な商談や試験、面接などがある日の夜に身体を動かせば、きっとより良いパフォーマンスが出来ると思いますので、ぜひ試してみてください。

大人になるとなかなかその機会がありませんが、ほんの少し一歩を踏み出してみるだけで驚くほど世界が変わって見えるかもしれません。まずはチャレンジです。

次回に続く。

今回のワンポイント講座 & 無料DLできる資料

【今回のワンポイント講座】
レジリエ研究所が提唱するレジリエンスの6つの要素

自分の軸…「何が自分にとって大切か」という価値観
しなやかな思考…変化に対する柔軟性、多様な考え方の受容
対応力…自身や周囲の状況を理解した上での優先順位付けや問題解決
人とのつながり…上司や同僚といった周囲の人々との関係構築
セルフコントロール…感情的になり過ぎず、冷静に自分自身をコントロールすること
ライフスタイル…食事や睡眠、運動のバランスが取れている生活

(参考:レジリエ研究所『レジリエンスとは』)
(参考:『レジリエンスとは?なぜ必要?ビジネスの場で注目される理由や測定尺度、高め方をご紹介』)

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、撮影/シナト・ビジュアルクリエーション、制作協力/株式会社レプロエンタテインメント

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