人手不足が課題になる日本の現状|原因と企業が取り組むべき対策を解説

d’s JOURNAL編集部

少子高齢化などの影響で、日本企業では人手不足が大きな課題になっています。企業における人手不足とは、「業務を行う上で必要な人材が集まらず、業務に支障が出ているような状態」を指しますが、既に人手不足が深刻化している業種・職種もあるでしょう。

この記事では、日本企業における人手不足の現状や企業に及ぼす影響、人手不足解消のために必要な対策について解説します。人材確保や定着に成功している企業事例も紹介しているので、参考にしてください。

日本企業の人手不足の現状

株式会社帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」によると、2023年10月時点における全業種の従業員の過不足状況について、正社員の人手不足を感じている企業の割合は「52.1%」でした。過去最高値である2018年11月の「53.9%」に迫る高い水準で推移していることがわかります。

一方、非正社員の人手不足を感じている企業の割合は「30.9%」でした。こちらも過去最高値である2018年12月の「34.9%」に近い高水準で推移しています。

正社員・非正社員ともに、コロナ禍で人手不足は一時的に緩和しました。しかし、コロナ禍がある程度収束し、経済活動が回復すると、再び右肩上がりの傾向となっています。

日本企業の人手不足の現状

(参考:株式会社帝国データバンク『人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)』)

人手不足は業種別で偏りが見られる

株式会社帝国データバンクの調査結果によると、業種によって、正社員の人手不足の割合に偏りがあるようです。2023年10月時点では、「旅館・ホテル」が75.6%で最も高く、次いで「情報サービス」が72.9%でした。

特に「旅館・ホテル」については、新型コロナウイルスの5類移行による行動制限の緩和やインバウンド需要の高まりなどが影響し、人材確保が必要になっていると考えられます。

また、「情報サービス」においては、過去2年間の推移を見ても増加率が高く、人手不足の深刻さがうかがえます。これは、近年のDX推進によるシステム関連需要の高まりを受けて、DX推進を担える人材が不足しているためです。

この他、「建設」の69.5%や「メンテナンス・警備・検査」の68.4%など、8業種で6割を超える結果に。業種別で偏りはあるものの、「運輸・倉庫」「飲食店」以外の8業種で前年同月を上回っていることから、今後も高い水準で推移していくと予想されるでしょう。

正社員の人手不足割合

(参考:株式会社帝国データバンク『人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)』)

地方の企業は特に人手不足が深刻

厚生労働省の資料によると、近年は「三大都市圏」よりも、「地方圏」において人手不足の傾向が強くみられます。「三大都市圏」とは、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県の11都府県、「地方圏」とは、三大都市圏以外の道県のことです。

下図の通り、正社員をめぐる状況において、「大企業」では2016年以降、「中小企業」と「中小企業のうち小規模企業」では2014年以降、「地方圏」の人手不足感が「三大都市圏」より高水準で推移している傾向にあることが確認されました。

この結果から、地方の中小企業を中心に、正社員の人手不足の傾向が顕著であると指摘できます。

地域別・企業規模別で見た「正社員」の人手不足感D.I.の動向

(参考:厚生労働省『第1章 我が国を取り巻く人手不足等の現状』から一部抜粋して作成)

日本企業が人手不足に陥っている原因

日本企業が人手不足に陥っている原因とされるのが、「少子高齢化の進行」と「職種別の需要のギャップ」の2つです。それぞれの原因について解説します。

少子高齢化の進行

少子高齢化による労働人口の減少が、日本企業における人手不足の一因になっています。パーソル総合研究所と中央大学が共同研究した「労働市場の未来推計2030」によると、日本の生産年齢人口は減少し続けており、2017年から2030年にかけて767万人減少すると試算されています。

将来推計人口

(引用:パーソル総合研究所×中央大学『労働市場の未来推計2030』)

また、「2030年にどのくらいの人手不足となるのか」という試算においては、「2030年の労働需要7,073万人に対し、労働供給は6,429万人」と予測。すなわち、2030年には644万人の労働者が不足する見込みです。

一方、厚生労働省が公表している「将来推計人口(令和5年推計)の概要」では、日本の人口減少につながる要因として、「合計特殊出生率」の低迷を挙げています。合計特殊出生率とは、15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したものです。

合計特殊出生率の「実績」と「仮定値」

(参考:厚生労働省『将来推計人口(令和5年推計)の概要』)

近年の推移を見ると、2017年度の実績「1.43%」以降も徐々に低下し、2021年度の実績は「1.30%」という結果に。仮定値については、2024年度が「1.12%〜1.43%(中位推計:1.27%)」、2070年度が「1.13%〜1.64%(中位推計:1.36%)」となっています。

2070年度の仮定値(中位推計)は、前回推計(2017年推計)の「1.44%」から0.08%低下しました。これらの値からも、少子高齢化に拍車がかかっていることがうかがえます。

職種別の需要のギャップ

もう一つの原因として挙げられるのが、職種別の需要のギャップです。働き方が多様化した現代では、職場条件や賃金、労働条件、仕事内容などの要素で職種の需要に偏りがあります。この偏りによって、人手が過剰な職種もあれば不足している職種もあるといった状況が発生しているのです。

厚生労働省が発表した2023年8月時点の職種別有効求人倍率によると、下図の通り、人手不足の状態にある職種(有効求人倍率が「1」超の職種)は、計9職種です。一方、人材余剰傾向にある職種(有効求人倍率が「1」以下の職種)は、計2職種となっています。

人手不足/人材余剰 職業 有効求人数 有効求職者数 有効求人倍率
人手不足傾向 保安職業従事者 82,479 11,931 6.91
建設・採掘従事者 117,016 21,975 5.32
サービス職業従事者 537,832 174,717 3.08
輸送・機械運転従事者 131,988 58,016 2.28
販売従事者 215,181 104,490 2.06
専門的・技術的職業従事者 480,159 267,101 1.80
生産工程従事者 217,324 127,025 1.71
農林漁業従事者 17,079 14,128 1.21
管理的職業従事者 6,892 6,557 1.05
人材余剰傾向 運搬・清掃・包装等従事者 203,320 252,619 0.80
事務従事者 209,033 485,453 0.43

(参考:参考:厚生労働省『一般職業紹介状況(令和5年8月分)について』)

人手不足が企業に及ぼす3つの影響

人手不足は企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか。想定される3つの影響を解説します。

事業縮小を余儀なくされる

人手不足が慢性化すると、企業運営に影響を与える可能性があります。企業の成長・拡大には新しい事業の展開と、既存事業の安定的な運営が欠かせません。しかし、マネージャーなどの管理職や現場で働く従業員が不足すると、新しい事業の立ち上げが困難になります。

加えて、一人当たりの業務が増えることにより既存の事業規模を維持できず、事業縮小を余儀なくされるケースも考えられるでしょう。

労働環境の悪化

人手不足は、労働環境を悪化させる要因にもなり得ます。人手不足によって一人当たりの業務負担量が増加することで、「時間外労働の増加」や「有給取得率の低下」などが発生しやすくなり、労働環境の悪化につながります。

そうした状況が慢性化すると、人間関係や従業員のメンタルヘルスの悪化、モチベーションの低下などが連鎖的に生じる可能性もあります。結果的に、離職率の増加にもつながるため、企業への影響は大きいと言えるでしょう。

従業員のパフォーマンス低下

人手不足による労働環境の悪化は、業務のパフォーマンスを下げてしまう恐れがあります。「時間外労働の増加」や「有給取得率の低下」といった状態が当たり前になると、ワークライフバランスは崩れ、従業員のモチベーションは低下します。

モチベーションの低下により、業務パフォーマンスにも悪影響が生じるでしょう。従業員のパフォーマンスが十分に発揮されない状況が続いた場合、中長期的に見ると、業績悪化につながりかねません。

人手不足の対策に必要となる5つの施策

ここからは、人手不足対策として取り組みたい5つの施策をご紹介します。

定着率を向上させる

少子高齢化によって人材確保の難易度が高まっているため、採用できた人材や既存社員の定着率を高めることが重要です。従業員に「この会社で長く働き続けたい」と思ってもらうために、「誰もが働きやすい環境づくり」に取り組みましょう。

例として、「働き方の選択肢を増やす」「有給休暇を取得しやすくする」「福利厚生を充実させる」「従業員のスキルアップを後押しする」などが考えられます。これらの取り組みを通じて定着率を高め、それを求職者にアピールすることができれば、求人への応募も集まりやすくなるでしょう。

なお、こうした制度を整えるのに多くの時間を要する企業は少なくありません。その場合は、従業員に企業のビジョンを示した上で、できる取り組みから実行していくことが望ましいです。

採用活動の選択肢を増やす

採用活動の選択肢を増やすことで、人手不足の解消につながる可能性があります。新卒採用に力を入れている企業の場合、中途採用を増やしたり、外国人や高齢者など今まで採用できていなかった人材も採用候補者にしたりと、採用の幅を広げることが必要です。

また、自社の従業員から友人や知人を紹介してもらう「リファラル採用」や、企業の経営者や役員、従業員の伝手(つて)を活かして人材を採用する「縁故採用」などの手法を実施するのもよいでしょう。転職潜在層にアプローチできるため、人材確保につながる可能性が期待できます。

(参考:『【徹底解説】外国人労働者受け入れには4つのメリットが!企業が守るべき雇用のルール』『リファラル採用とは?導入のメリット・デメリット、運用のポイントを紹介』『縁故採用とは|導入メリット・デメリットとリファラル採用との違い』)

アウトソーシングを活用する

人手不足を補うために、アウトソーシングの活用を検討するのも一つの方法です。アウトソーシングとは、社内の業務の一部を外部に委託すること。自社に不足している人材やサービスを外部から調達することで、企業の生産性向上や競争力強化が期待できます。

委託先の専門的な知識やノウハウを活用することにより、業務品質の向上にもつながるでしょう。

教育・研修を充実させる

採用活動と同時に、既存社員への教育・研修の充実にも取り組みましょう。既存社員の業務スキルを高めることで、一人ひとりの生産性が向上し、人手不足をカバーするのが狙いです。

教育・研修の機会を充実させることは、従業員のモチベーション維持や従業員エンゲージメントの向上にも好影響を与えるでしょう。

(参考:『従業員エンゲージメントとは|効果的な取り組みと事例・向上のメリットを解説』)

DX推進で業務効率化を図る

DXを推進し、業務効率化を図ることも、人手不足の解消につながります。DXとは、デジタル技術によって業務やビジネスモデルを変革し、企業価値を高めること。これまで手作業で行っていた業務をパソコンなどで自動処理できるようにすることで、工数削減や業務スピード・精度の向上を実現できます。

従業員がコア業務に専念できるようになるため、顧客満足度や品質の向上も期待できるでしょう。とは言え、DX推進を担える人材は日本社会全体で不足しているため、既存社員のリスキリング(時代の変化に対応するため、業務を進める上で必要となる新たなスキルを習得すること)を支援するなどの対応が必要となります。

(参考:『リスキリングとは|DX時代に必要な理由や企業が導入するメリットを解説』)

人手不足の対策につながる企業の取り組み事例

実際、各企業は人手不足解消のため、どのような施策に取り組んでいるのでしょうか。人手不足の対策となる取り組みを行っている3社の企業事例をご紹介します。

株式会社オープンハウス・アーキテクト

施工・建築などに特化した総合建設会社の株式会社オープンハウス・アーキテクトでは、採用難度が高い建築・建設業界で人材を確保するために、「越境採用」と呼ばれるポテンシャル採用に取り組んでいます。

「越境採用」とは、応募対象者の枠を広げるために、経験や出身業界、学生時代の専攻などを問わない採用手法のこと。採用した人材が入社直後から早期に活躍できるよう、受け入れる側の教育に対する姿勢を前向きなものとしたり、社内研修の仕組みを整備したりといった工夫をしています。

また、母集団形成では採用サイトの充実を図り、オウンドメディアを活用してさまざまな切り口で情報を発信。これらの取り組みの結果、年間で約5000人の母集団形成ならびに約200人の採用に成功しました。

(参考:『「越境採用」で元高校球児やリケジョが入社。年間5,000人以上の母集団形成、約200人の採用を創出するオープンハウス・アーキテクト』)

ユーザックシステム株式会社

BtoBのパッケージソフトの開発・販売・サポートを展開しているユーザックシステム株式会社は、2017年から4年連続で「社員定着率100%」を達成しています。その背景にあるのが、若手の意見を取りまとめ、さまざまな制度として業務運営に反映させる「ヤングボード制度」の導入です。同社ではこの制度を通じて、若手社員の帰属意識を高めて成長を促し、定着につなげています。

他にも、定着率を高める取り組みとして、入社1年目の社員を対象としたメンター制度を実施。新入社員からのアラートなどを早い段階で察知し、フォローできるようになったと言います。

また、入社後のギャップをできるだけ少なくするために、採用活動の中で「嘘をつかないこと」に留意し、候補者と面談する先輩社員には「実際のところを話してほしい」と伝えているそうです。

(参考:『入社後のギャップが離職を高める1番の要因!?4年連続で社員定着率100%を達成した「ヤングボード制度」とは』)

セイコーエプソン株式会社

本社所在地を含めた主要開発拠点の大半が長野県内に集中しているセイコーエプソン株式会社では、「勤務地:長野」という条件があるものの、さまざまなポジションのキャリア人材が入社しています。「転居を伴う転職」のハードルの高さを考慮し、採用チャネルを複合的に活用して採用を進めているのが、同社の特徴です。

求人広告では、自社が「グローバルに事業展開している企業であること」「世界を相手に新たなキャリアを築ける」ことを訴求。同社の現在地や将来性を求職者に知ってもらうことで、採用候補者に新たな入社動機を創出することが狙いです。また、ダイレクト・リクルーティングにも力を入れています。求める人材の解像度を高めるため、現場の社員にも協力してもらい、現場ならではの魅力やリアルな声を伝えるようにしていると言います。

また、「転居を伴う転職」への対応として、内定前後のフォローを重視。「家族にも安心してもらえる」採用ブランディングに取り組んでいます。2021年度は数十名規模だったキャリア採用は、2022年度には200名超を達成。2023年度はそれを上回る採用目標を掲げているようです。

(参考:『移住して働くことは何も特別なことではない!「勤務地:長野」でも選ばれる、セイコーエプソンの採用戦略』)

まとめ

人手不足の企業では、事業縮小や労働環境の悪化、従業員のパフォーマンス低下といった問題が発生する可能性が高まります。また、少子高齢化の影響により、今後ますます人材確保が難しくなる見込みです。

人手不足への対策として、「定着率の向上」「採用活動の選択肢を増やす」「アウトソーシングの活用」「教育・研修の充実」「DX推進による業務効率化」に取り組む必要があります。企業事例なども参考に、自社に合った施策を検討・実施し、人材確保を図りましょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)