パワハラとコンプライアンスの関係性とは?企業が対応すべきポイント

d’s JOURNAL編集部

パワハラとコンプライアンスには、関係性があると言われています。「コンプライアンスの観点から、パワハラ防止に向けて対応を進めたい」「どのような言動がパワハラに該当するのかを知りたい」といった企業も多いでしょう。

この記事では、パワハラとコンプライアンスの関係性やパワハラの種類・具体例、パワハラ防止に向けた企業の取り組みのポイントなどを解説します。

パワハラとコンプライアンスの関係性とは

パワハラとコンプライアンスの関係性について解説する前に、まずは両者の定義をご紹介します。

一般的に、パワハラとコンプライアンスはそれぞれ以下のように定義されています。

一般的な定義

パワハラ:職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景とした嫌がらせ
コンプライアンス:企業活動における法令順守

なお、コンプライアンスにおいて順守すべきものとしては、労働基準法、労働契約法といった「法令」の他に、業務規定や社内ルールなどの「社内規範」、社会常識や良識などの「社会規範」、企業理念やCSRなどの「企業倫理」も含まれます。

パワハラとコンプライアンスは、完全にイコールではないものの、関係性が強いものとされています。両者がどのような関係性にあるのか、見ていきましょう。

企業コンプライアンスの重要性

近年、企業活動におけるコンプライアンスの重要性が高まっています。その理由として、「法律違反や不祥事などのリスク回避」や「企業価値の向上」の他に、「パワハラやモンスター社員への対応」も挙げられます。

また、コンプライアンスの違反事案としては、「粉飾決算、脱税などの不正会計」「情報漏洩」「法令違反となる不適切な労務管理」などと並んで、「就業環境や社内風土を悪化させる行為」もあります。「就業環境や社内風土を悪化させる行為」の代表例は、パワハラ・セクハラをはじめとするハラスメントです。

こうした背景から、企業にとってパワハラ問題は、コンプライアンスの観点からも対応が必要なものであると考えられます。

【参考】『【弁護士監修】コンプライアンスの意味と違反事例。企業が取り組むべきことを簡単解説

パワハラ防止法の施行

パワハラ防止法とは、2019年5月に改正、2020年6月に施行された「労働施策総合推進法」の通称です。法改正により、「職場におけるパワーハラスメント対策」が事業主の義務となったことから、この通称で呼ばれています。

パワハラ防止法の対象は、全企業です。2020年6月の施行当時は大企業のみが義務化の対象で、中小企業は「努力義務」にとどまっていました。しかし、2022年からは中小企業も義務化の対象となっています。

先述の通り、コンプライアンスとは企業活動における法令順守を意味する言葉です。パワハラ防止法の施行によりパワハラ防止措置を講じることが全企業に義務化された以上、企業としてはコンプライアンスの観点からもパワハラ問題に取り組むべきであると考えられます。

【参考】厚生労働省『中小企業の事業主の皆さま 令和4年4月1日より労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されます!
【参考】『労働施策総合推進法の改正でパワハラ防止が義務化に。企業が取るべき4つの対応

コンプライアンス違反となり得るパワハラの種類と具体例

具体的にどのような言動がパワハラに該当するのでしょうか。

厚生労働省の『パワーハラスメント対策導入マニュアル』では、パワハラは以下の6種類に分けられるとしています。

パワーハラスメントの種類

1.身体的な攻撃
2.精神的な攻撃
3.人間関係からの切り離し
4.過大な要求
5.過小な要求
6.個の侵害

それぞれの具体例について、見ていきましょう。

【参考】厚生労働省『パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)
【参考】『【弁護士監修】パワハラ防止法成立。パワハラ問題へ企業はどう対応する?対策法を紹介

身体的な攻撃

「身体的な攻撃」とは、暴行や傷害といった暴力のことです。目で見て分かる攻撃であることから、周囲も認識しやすいパワハラであるとされています。

具体例

・殴る、蹴る、物で叩く
・胸ぐらを掴む
・髪を引っ張る
・物を蹴って威嚇する など

精神的な攻撃

「精神的な攻撃」とは、侮辱や暴言、脅迫といった心の暴力のことです。名誉毀損に該当する可能性もある言動と言い換えることもできるでしょう。

具体例

・罵声を浴びせる
・しつこく繰り返し怒鳴る
・他の従業員がいる前で、叱責する
・「仕事が終わるまで帰るな」と脅す など

人間関係からの切り離し

「人間関係からの切り離し」とは、無視や仲間はずれ、隔離などのように、相手に疎外感を与えるような行為のことです。

具体例

・あいさつや報告を無視するまたは反応しない
・連絡事項を伝えない
・社内イベントに一人だけ参加させない
・一人だけ、別の部屋に隔離して仕事をさせる など

過大な要求

「過大な要求」とは、一人では遂行不可能な量・質の業務や業務上明らかに不要なことを押し付けるというように、相手に無理難題を与える行為のことです。

具体例

・物理的または時間的に一人では到底できないようなノルマを与える
・ベテラン社員でないとできないような業務を、新入社員に丸投げする
・業務とは無関係の私用な買い物や送迎を無理やりさせる など

過小な要求

「過小な要求」とは、明らかに本人の能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えないなどのように自尊心を傷つける行為のことです。過大な要求とは正反対の行為と言えます。

具体例

・営業職で入社した社員に社内の掃除だけをさせる
・社歴の長い社員に雑用ばかりをさせる
・責任のある仕事を一切させない など

個の侵害

「個の侵害」とは、業務と無関係のプライベートな領域に過度に立ち入るような行為のことです。その内容によっては、セクハラに該当するケースもあります。

具体例

・家族や恋人、信仰する宗教、休日の過ごし方といった、業務とは無関係のことを何度もしつこく聞く
・身内の悪口を言う
・退勤後や休日に何度も個人的な連絡をする など

パワハラ問題に企業が取り組む際のポイント

企業としては、どのようなことを意識しながらパワハラ問題に取り組めばよいのでしょうか。企業に求められる取り組みの具体例やポイントをご紹介します。

【参考】『【弁護士監修】パワハラ防止法成立。パワハラ問題へ企業はどう対応する?対策法を紹介』『労働施策総合推進法の改正でパワハラ防止が義務化に。企業が取るべき4つの対応

【未然防止】社内方針の明確化と就業規則の整備

パワハラの未然防止に向け、まず必要なのが社内方針の明確化と就業規則の整備です。

社内方針については、「パワハラの定義や具体例」「パワハラを行ってはいけない旨」「加害者の処分に関する方針」などを定めます。その上で、「就業規則への明記」や「社内報、社内HPへの記載」「パンフレットの配付」「全従業員を対象とした研修の実施」などにより、従業員に周知・啓発しましょう。

就業規則を整える際は、社内方針やパワハラ防止法の内容を反映するようにします。従業員とのトラブル回避のためにも、「パワハラが発生した際の対処方法」や「パワハラを起こした従業員への処罰」などに関する規定を就業規則に盛り込みましょう。

なお、就業規則を変更した際には、労働基準監督署長への届け出が必要です。

【未然防止】ハラスメント調査の実施方法の決定と調査実施

パワハラを未然に防ぐためには、企業として「パワハラにつながりかねない事案が発生していないか」を把握するとともに、従業員自身に「パワハラは誰にでも起こり得る問題である」と認識してもらうことが重要です。そのために、全従業員を対象としたハラスメント調査を実施する必要があります。

調査の実施に先立ち、「年に何回、調査を実施するか」「どのような質問をするか」「実施方法をどのようにするか(アンケート用紙やインターネットなど)」といったことを決めます。なお、従業員のありのままの声を集めるためには、個人が容易には特定されないような調査方法が望ましいとされています。具体的には、「無記名での回答を認める」「回答済みのアンケートは回収箱に入れてもらう」「個人が特定できない専用のアンケートアプリを活用する」などするとよいでしょう。

アンケートにより、ハラスメントが発生しているまたはその疑いがあることが分かった場合には、さらなる対応が必要となります。「全従業員に向け、『パワハラに悩む人は相談を』とハラスメント相談窓口の利用を呼びかける」「過去にも同様の事案が発生していないかを確認した上で、今後の対応を検討する」などしましょう。

【未然防止~発生時】ハラスメント相談窓口の設置と適切な運用

パワハラの未然防止や発生時の迅速な対応のために必要となるのが、ハラスメント相談窓口です。ハラスメント相談窓口を設置することで、以下のような効果が期待できます。

ハラスメント相談窓口を設置する効果

・周囲に相談できずに、悩みを一人で抱え込んでしまう従業員を減らせる
・パワハラに発展する可能性がある事案に対して、早い段階で対応できる
・発生してしまったパワハラ事案の早期解決につながる など

ハラスメント相談窓口に相談があったら、速やかに事実関係を確認しましょう。

相談員の配置に関する注意点

従業員が相談しやすくなるような配慮が必要です。「パワハラと併せて、セクハラやマタハラなども発生している」といった理由から、同性の相談員に話を聞いてもらいたい相談者もいるかもしれません。そのため、相談窓口には男性と女性の相談員を配置するのが望ましいです。

「パワハラ問題をよく理解している」「中立的な立場で相談に乗ることができる」「問題解決に向けて誠実に取り組める」「秘密を守れる」といった観点から、適任と思われる人を相談員に任命しましょう。

また、相談を受けた際に適切に対応できるよう、「相談員向けの対応マニュアルの作成」や「相談員を対象とした研修の実施」などに取り組むことも重要です。

相談を受け付ける際の注意点

本音で相談してもらえるよう、プライバシーの確保できる部屋を用意し、相談員には守秘義務があることを伝えます。相談を受ける際は、相談者の話を途中で遮らず、ゆっくりと時間をかけて相談者の話を傾聴することが重要です。万が一、自殺をほのめかすような言動が相談者に見られた場合は、相談員だけで何とかしようとせず、速やかに産業医などに協力を求める必要があります。

事実関係を確認する際の注意点

相談者とパワハラ行為を行ったとされる従業員との間に、認識のずれがあるケースも考えられます。そのため、相談者の了解を得た上で、まずはパワハラ行為を行ったとされる従業員に事実確認を行いましょう。どちらが悪いと決め付けず、中立的な立場で話を聞くことが重要です。

双方の認識・意見に相違が見られたら、パワハラが疑われる現場に同席した人や目撃した人など、第三者に事実確認を行います。その際、第三者に守秘義務について十分に理解してもらうことが重要です。

相談者とパワハラ行為を行ったとされる相手、第三者の意見を総合的に判断し、事実関係を見極めましょう。

【発生時】ハラスメント加害者の処分と被害者への対応

事実関係を把握したら、相談者およびパワハラ行為をしたとされる従業員の双方にその結果を伝えるとともに、企業として取るべき措置を考えて実行に移す必要があります。

パワハラと認定した場合、就業規則に基づき、加害者の処分を検討します。加害者への処分としては、「被害者へ謝罪をさせる」「被害者と関わることが少ない部署に人事異動する」「懲戒処分を下す」などがあります。また、処分内容と併せて、「どういった言動が問題だったのか」「今後、同様の問題が発生しないよう、どうすべきか」などを伝えることも重要です。

被害者に対しては、安心して働き続けてもらえるよう、真摯に向き合う必要があります。「再発防止に向け、加害者をフォローアップしていくこと」や「パワハラが起こらない職場となるよう、組織全体として環境を整備していくこと」などを伝えるようにするとよいでしょう。

懲戒処分にあたっての注意点

加害者を懲戒処分とする際には、パワハラ行為の内容・重大性と照らし合わせた上で「どの懲戒処分とするか」を慎重に検討する必要があります。重すぎる処分とした場合、不服申立てや訴訟に発展したり、訴訟により懲戒処分が無効となったりする可能性があるためです。一番軽い処分である「戒告」から、一番重い処分である「懲戒解雇」まで、どの処分とすべきか判断に迷う際は、弁護士に相談しましょう。

【参考】『【弁護士監修】懲戒処分とは?種類と基準―どんなときに、どんな処分をすればいいのか―

【解決後】再発防止のための取り組み

社内で二度とパワハラが起きないよう、再発防止策を講じることも重要です。

「どうすれば、加害者が同様の問題を起こす可能性を下げられるのか」「別の加害者が発生し得る職場環境となっていないか」といった観点から、再発防止策を検討しましょう。具体例としては、加害者へのパワハラ再発防止研修の実施や問題が起きた際の情報発信の他、職場内のコミュニケーション改善や長時間労働の是正といった職場環境改善のための取り組みの実施などが挙げられます。

パワハラをはじめとするハラスメントは、誰もが「加害者」にも「被害者」にもなり得る問題です。そのため、当事者のみならず、職場全体に対してパワハラの問題の教訓を伝えたり、再発防止のための社員教育を行ったりするのが望ましいでしょう。こうした取り組みにより、従業員の中に「パワハラは対岸の火事ではない」との意識が芽生え、組織としての再発防止につながると期待できます。

まとめ

コンプライアンスの重要性が高まっており、パワハラ防止法も施行されたことから、パワハラ対策とコンプライアンスは深い関係にあると言えます。

企業としては、どのような言動がパワハラとなるのかを理解した上で、パワハラ問題に取り組んでいくことが必要です。具体的には、「社内方針の明確化と就業規則の整備」「ハラスメント相談窓口の設置と適切な運用」「再発防止策のための取り組み」などを進めていくことが求められます。

このような取り組みを通じて、パワハラが起こらない/起こりにくい職場にしていきましょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)

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