【社労士監修】配慮のつもりが傷付けているかも…。面接・職場で起こりがちなセクシャルマイノリティの方へのNG対応
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LGBT層に該当する人は8.9%となっているが、公表したくない・できない層がいることを踏まえると、実際はさらに多いと考えられる
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面接・採用編:カミングアウトされた内容を本人の同意なく第三者に伝えることは「アウティング」とみなされ、パワハラに該当する
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職場編:「くん」「ちゃん」という呼称はセクシュアルハラスメントの観点においてもふさわしくないとして、昨今は男女分け隔てなく「さん」の呼称を原則としている企業も増えてきている
2019年に成立した改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、企業にはパワハラを防止するための措置を講じることが義務付けられました。パワハラには、性のあり方を決めつけで話したり、うわさしたりすること、また、性的指向・性自認を本人の了解なく他者に暴露することなども該当します。
電通ダイバーシティ・ラボが開示した『LGBTQ調査2018』によると、LGBT層に該当する人は8.9%となっており、公表したくない・できない層もいることを踏まえると、実際の「セクシャルマイノリティ(性的少数者)」の数はさらに多いと考えられます。
求職者や従業員が安心感を持って働くには、一人ひとりがセクシャルマイノリティについての理解を深めておくことが大切です。一方で、「どのような言動が当事者を傷付けてしまうのか」「カミングアウトされた際にどのような対応を取るべきか」を知りたい方もいるでしょう。今回は気付かないうちにしてしまいがちなNG対応を、【面接・採用編】【職場編】に分けて紹介します。
■関連記事:LGBTフレンドリーな企業が行っている取り組みとは。LGBTQやAlly(アライ)の意味も解説
性のあり方に関する基礎知識
性のあり方(セクシュアリティ)は、主に以下の4つの要素の組み合わせで形作られていると考えられています。ただし、この組み合わせは多様であり、はっきりと区切れるとは限らないため、「性はグラデーション」であるとも言われています。
●身体的な性:身体の性。生まれたときの身体のつくり、生物学的特徴など
●性的指向:好きになる性。恋愛感情がどの性別に向く・向かないか
●性自認:自認している性。自分の性をどのように捉えているか
●性表現:表現する性。言葉遣いやしぐさ、服装で性別をどう表現するか
性のあり方に関するハラスメント
性のあり方について「それを理由として入社承認の取り消しや異動、解雇をしたりすること」や「差別的な言動をすること」は、パワハラやセクハラ、SOGIハラなどのハラスメントに該当する可能性があるため、注意が必要です。
一般的にも、以下の言動はハラスメントに該当する可能性があるとして、注意喚起されています。
<ハラスメントに該当し得る言動例>
●差別的・侮辱的な発言をする(「ホモ」「レズ」「おかま」「両刀使い」など)
●女装・男装をして笑いを取ろうとする
●異性愛者を前提とした会話をする(女性に対し「どんな男性と付き合っている」、男性に「どんな女性がタイプ」と聞くなど)
●セクシャルマイノリティの存在を否定する発言をする(「この職場にあっち系はいない」など)
●人間関係の切り離しを行う(「バイで狙われるから気を付けて」「一緒にいるとホモだと思われる」と言うなど)
●身体的な性が女性、性自認が男性である従業員に対し「男だったらできるだろう」ときつい肉体労働に従事させる
●固定観念による発言をする(「男のくせに根性がない」「女なのに化粧もしないのはおかしい」など)
●カミングアウト後、顧客とトラブルが生じていないにもかかわらず営業職から外す
●個を侵害するうわさを流す(「ゲイだから結婚しないのでは」「どうやらレズらしい」「しぐさがおかまっぽい」)
●望まない性別での生活などを強要する(制服、トイレ、更衣室など)
上記の言動例以外にも、実は自身が気付かぬうちに当事者を傷付けてしまっていることがあるかもしれません。この後、詳しく紹介します。
気付かずにやってしまいがちなNG対応【面接・採用編】
本人からの言及がないにもかかわらず、「もしかして…」と聞く
「履歴書の性別欄は男性だが、学歴では女子高出身」というように、履歴書の内容や服装などによって情報の相違が見受けられる場合もあるでしょう。しかし、カミングアウトをするかしないか、また、誰にするかは本人の自由です。
実際に、厚生労働省が2021年に作成した「厚生労働省履歴書様式例」では性別記載欄を任意記載としており、「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の欄も設けられていません。近年は性別欄を「男・女・その他」と選択項目を増やす企業や、写真の添付を求めない企業も増えています。
<対応ポイント>
当事者からの言及がない限りは、履歴書に記載されている通りに対応するのが望ましいと言えます。業務の性質や職種の特性などの理由で明確に性別を確認する必要がある場合は、その必要性を説明した上で質問をしましょう。
結婚の予定やパートナー、家族構成などを踏み込んで聞く/戸籍や見た目と異なる性で生活することを理由に選考を打ち切る・入社承認を取り消す
厚生労働省では「公正な採用選考の基本」において、「出自、障害、難病の有無及び性的マイノリティなど特定の人を排除しないことが必要です」と明記しています。本人の適性や能力と関係のない性的指向や性自認、結婚の予定やパートナー、家族構成などを質問することは、就職差別につながるおそれがあるため、注意が必要です。また、セクシュアリティを理由として選考を打ち切ったり、入社承認を取り消したりすることもできません。
<対応ポイント>
面接の際は、「応募者の基本的人権を尊重すること」「応募者の適性・能力に基づいた基準により行うこと」が重要です。採用基準とするつもりがなく場を和ませるための質問であっても、回答を把握したことで採否に影響する可能性はあるため、面接の質問内容には十分に配慮しましょう。もし応募者から性のあり方についてカミングアウトや質問があった場合には、選考資格や採否の判断において性のあり方は影響しない旨を伝えましょう。
本人の同意なく次の面接官にセクシュアリティを伝える
「大切な情報なので事前に人事から面接官に伝えておこう」「当事者が同じことを言わなくても済むように次の面接官に申し送りをしておこう」といった善意から来る行動であったとしても、カミングアウトされた内容を本人の同意なく第三者に伝えることは「アウティング」とみなされ、パワハラに該当します。
<対応ポイント>
当事者が望まない形で情報が漏れることのないよう、他の面接官や、上司、チームメンバー、人事・研修担当者など、どの範囲までであれば情報を公開してよいかを事前に本人と確認しておきましょう。情報の共有・管理が必要な場合には理由を伝え、本人の同意を得た上で関係各所と共有します。また、配慮してもらいたいことは個人によってさまざまであり、配慮不要という人もいます。本人の意向をヒアリングするとともに、選考とは別に面談の機会を設けるなど、候補者の希望に沿った対応をしましょう。
「顧客やほかの社員の理解が得られない」と今後のカミングアウトを拒む
「顧客やほかの社員の理解が得られない」などの理由をつけて、面接や入社時にカミングアウトをさせないことも、当事者を傷付ける行為です。当事者がカミングアウトをする理由には、福利厚生の利用申請や働き方に関するものだけでなく、「隠しごとをしたくない」「本当の自分で働きたい」 という希望によるものもあります。カミングアウトを阻む言動は、性的指向や性自認を本人が任意選択するものではないことを理解できておらず、精神的な負荷を与える行為です。
<対応ポイント>
個人の性的指向や性自認と業務遂行能力は無関係であるため、カミングアウトの背景や本人の困り事に耳を傾け、本人の意向を踏まえて一緒に対応策を考えることが重要です。
気付かずにやってしまいがちなNG対応【職場編】
性自認が女性、戸籍上の性や見た目が男性の部下を「●●くん」と呼ぶ
同僚などでも親しい仲である場合、男性に「くん付け」、女性に「ちゃん付け」をするなど、性別に応じて呼び方を使い分けることもあるかもしれません。しかし、トランスジェンダーを公表していたり、本人が性自認に応じた呼び方を求めていたりする場合、意図的に異なる呼称を使用するのは個人の意思を尊重できていないと言えます。
そもそも男女を区別するような「くん」「ちゃん」という呼称はセクシュアルハラスメントの観点においてもふさわしくないとして、昨今は男女分け隔てなく「さん」の呼称を原則としている企業も増えてきています。
<対応ポイント>
本人が希望する呼び方にする、もしくは、男女問わず「さん付け」をし男女に差をつけないなどの配慮をしましょう。
「感性が豊かでおもしろいことを言ってくれそう」とセクシュアリティをネタにして話題を振る
いわゆる「オネエタレント」のような、テレビ番組に出演する芸能人のようなリアクションを求めて話題を振ることも不適切です。著名なセクシャルマイノリティの方は、トークや芸術面などにおいて何かしらのスキルにたけた人たちがたまたまそうであっただけであり、そこで表現されるイメージはテレビ用に脚色されたものでもあります。一般の方にそれを求めると、当事者は好奇の目で見られているように感じ、傷付いてしまう可能性があるでしょう。加えて、「オネエ」は差別的なニュアンスを含むため、使用しないことが重要です。
また、「男女どちらの気持ちもわかる」「違った感性を持っている」といったセクシャルマイノリティの方への固定観念などを持ち、興味本位で近づくことも、相手を傷つけてしまう行為です。
<対応ポイント>
性のあり方に関する話題は非常にセンシティブな話題であるため、周囲が騒ぎ立てることはやめましょう。セクシャルマイノリティである・ないにかかわらず、公平な態度で職場の人間関係を築くことが大切です。
性自認が男性である同僚に対し、「女性にしか見えない」「男性らしくない」などと否定する
セクシュアリティを公表している方に対する「男性(女性)にしか見えない」「男性(女性)らしくない」などの発言は、性自認を否定する行為です。同様に、悪気なく、もしくは褒める意図で発した「(性自認が男性の人に対し)女性の服が似合っている」「性別転換をする必要はないのでは」などの言葉も、当事者は「自分の気持ちを理解してくれない」「価値観を押し付けられている」と感じるかもしれません。
また、「同性への興味は一時の気の迷い」「(性自認と異なる制服に違和感があるのは)服装の好みの問題」といった誤解や理解不足による発言や「性別適合手術を受ける予定はあるのか」といった発言もデリカシーがなく配慮に欠けると言えます。
<対応ポイント>
本来、性的指向や性自認は個々人の自由であり、「男(女)らしさ」「異性愛主義」といった概念に縛られるものでもありません。不用意な発言で当事者の自尊心を傷付けることのないよう、セクシュアリティに過度に踏み込み過ぎないこともビジネスパーソンとしてのマナーです。
性自認に応じたトイレや更衣室の使用、制服の着用に関する要望に対し「特別扱いは難しい」「しばらく我慢してほしい」と対応する
従業員の希望に対し、すぐに対応することが難しい場合もあるでしょう。しかしながら、一方的に制限をしたり、要望をかなえるための検討や調整をしなかったりするのは不適切です。望まない性での生活を続けるほど、当事者には精神的な負荷がかかってしまいます。
<対応ポイント>
業務の遂行や成果に影響がないのであれば、基本的に本人の意思を尊重するようにしましょう。すぐに希望をかなえることが難しい場合は、困難な理由や対応可能な範囲・時期の目安などを誠意を持って丁寧に説明するだけでも、当事者の安心感につながります。
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まとめ
セクシュアリティは誰もが持つアイデンティティの一部であり、業務の遂行能力や人間性には関係がありません。だからこそ、「何げないやりとりに差別的な表現が含まれていた」「配慮のつもりでアウティングをしてしまった」というような悪気のない言動にこそ、意識的な対応が求められると言えるでしょう。
大切なのは、思い込みや偏見を取り払い、従業員一人ひとりの個性を大切にしながら強みを活かし合える環境をつくることです。今回紹介した内容を参考にしながら、自身の言動を振り返ってみてはいかがでしょうか。
(企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、制作協力/株式会社mojiwows)
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