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【弁護士監修】固定残業代とは?人事がおさえるべき考え方や算出方法・注意点について

PROFILE

弁護士法人西村綜合法律事務所 東京事務所

高畑 富大(たかはた とみひろ)弁護士【寄稿・監修】

一橋大学法科大学院(既習)修了。現在の法律は、企業にとってビジネス戦略上最も重要なものであり、企業防衛のために必須のもの。次々と生まれる新しい法律や判例を踏まえたビジネス戦略としての法務を提供することをモットーとし、従来の手法にとらわれることなく常に新しい発想で、裁判法務、特に紛争予防法務の提供に注力。ハラスメントから労働条件まで幅広い労働分野の法務をカバーする。

固定残業代とは、一定時間分の時間外労働、休日労働や深夜労働に対する割増賃金として定額で支払われる賃金のこと。今では導入企業も増え、企業にも労働者にもメリットになる制度です。
固定残業代とは

しかし、導入する企業の大半が適法な運用ができていないと言われており、裁判で争いになるケースも多くなっています。では、固定残業代の導入を検討する場合、どのような点に注意すればいいのでしょうか。裁判事例など交えて紹介します。

固定残業代とは、一定時間分の労働に対して支払われる賃金のこと

固定残業代の定義

固定残業代とは「残業代が固定で支給される制度」だと認識されている方も多いのではないのでしょうか。実は、これは正しい理解ではありません。平成29年(2017年)7月31日付で出された厚生労働省の通達によると、固定残業代は、「一定時間分までの時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金として定額で支払われる賃金」とされています。

例えば、営業職など社内にいない時間が多い職種の労働者に対しては、会社が実際の労働時間を管理することは難しくなります。そこで、一定の時間を働いたこととみなし、〇〇時間分などの残業については○○円の残業代を支払うことができるようにしたのです。

しかし注意すべき点は、“一定時間分”という表記です。つまり、20時間分、30時間分などと「一定時間分」についての残業代が定額である必要があります。例えば、”月の残業代は5万円とする”という定め方は、何時間分の残業代かが明記されていないため、固定残業代とは認められません。〇〇時間分の残業代を○○円という形で定める必要があります。

みなし労働と固定残業代の違い

「固定残業代」のほかにも、「みなし労働」「みなし残業代」「定額残業代」などの言葉を聞いたことがあるとおもいます。これらは基本的に同じ制度を指しています。

固定残業代の算出方法 

固定残業代の支払い金額(月額)の決定方法

固定残業代も残業代であることには変わりませんので、固定残業代は労働基準法で定められているルールに従って算出する必要があります。固定残業代も通常の残業代と計算方法は変わりません。計算式は、以下の通りとなります(休日出勤や深夜残業を考慮しない場合)。基本給は、各種手当や固定残業代を除いた額になります。残業代を計算するにあたり営業手当など一定の手当が基本給に加算される場合もあります。各企業で個別に規定しているケースが多いため、規定を再度確認する必要があるでしょう。
固定残業代の支払い金額(月額)の決定方法

※月あたりの平均所定労働時間は【1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12】で算出します。
※1.25は割増賃金率になります。労働基準法の最低基準率となっています。

 

固定残業代に含むみなし残業時間の上限は無限?

残業時間を定める際は、労働基準法に則っている必要があります。逆にいうと、固定残業代が労働基準法に則って計算されていれば、残業時間の上限は特段定められていません。しかし、時間外労働を行うには「労働基準法36条で定められている協定(通称:36(サブロク)協定)」を締結することが必要です。この36協定では、原則、月45時間が時間外労働の限度とされておりますので、結論としては、固定残業代においてもみなし残業時間が45時間を超えるべきではないとしています。

なお、大きな取引が決まった場合や、経理部のように特定の時期に非常に忙しくなる部署で働く場合に対して、「特別条項付き36協定」という制度があります。正しい範囲の中で一定の手続きを踏めば、臨時的に時間外労働の上限を年に6回まで延長することができるという制度です。しかし、これはあくまでも繁忙期など臨時的に残業時間が45時間を超えても仕方がないということで認められているもの。固定残業代という制度上、1年を通して月に45時間を超えるみなし残業時間を定めることは避けるべきです。

社会保険料の算定に固定残業代は含まれる?

社会保険料の算定に固定残業代も含まれます。通常の残業代と変わりありません。社会保険料の算定は、4月から6月までの平均報酬額を基準にして算定されますので、その期間に固定残業代を支給していればその年の社会保険料の算定に含まれます。

休日出勤の場合の対応(割増賃金の考え方)

固定残業代制度を採用していたとしても、休日出勤をした場合は割増賃金を支払う必要があります。法律では毎週少なくとも1回の休日を要求していますが、この法定休日に休日出勤をした場合の手当は、基本給に35%を割増して計算することになります。計算式は、以下の通りです。

休日出勤の場合の対応(割増賃金の考え方)

会社によっては週休2日制度を採用していることもあるでしょう。その場合、日曜日を法定休日と定めていたケースで土曜日に出勤をした場合は、休日出勤の手当は、基本給に25%を割増して計算することになります。

いずれの場合においても、休日出勤分の手当を考慮しないで固定残業代を計算している場合には、休日出勤分の手当は固定残業代とは別に支給されることになります。

時短勤務者の対応

時短勤務者については、固定残業代を定める必要はないと考えることが多いでしょう。その理由として、時短勤務者は通常、残業を想定していないからです。この場合、固定残業代を支給しないとして就業規則で定めることができます。なお、育児休業明けで時短勤務となる場合、固定残業代の支払いがなくなることからトラブルの原因となることがあります。条件変更になる場合、本人と認識をあわせる必要があります。一方、時短勤務者であっても業務の都合により、一定時間の時間外労働に相当する定額残業代を支給することも可能です。なお、時短勤務者の対応については、就業規則等に明記し、労働者に周知する必要があります。

業務手当や役職手当はどうなる?

残業代とは別に業務手当や役職手当を認めることができます。また、反対に固定残業代と業務手当や役職手当を一緒にすることは望ましくありません。これらは、全く別の制度であるためです。業務手当や役職手当の支給に残業代の意味合いを含めて支給をしてしまうと、後々の問題につながってしまうケースがあります。

フレックスタイム制度を導入している場合の対応

フレックスタイム制度を導入している企業も固定残業代を導入することは可能です。フレックスタイム制度は、1カ月以内の清算期間内の総労働時間を定めて、労働者が各自で労働時間を清算していく制度です。そして、この総労働時間を超える部分を固定残業代として支給することができます。
なお、通常勤務同様、仮に総労働時間に満たない場合であっても、固定残業代を減額することはできません(フレックスタイム制の所定労働時間に満たない分がある場合は基本給から控除することになります)。

裁量労働制の場合の対応

裁量労働制とは、業務の性質上、実施する方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある場合にとられる制度で、実労働時間にかかわらず労働時間を一定とみなす制度を指します。業務を実施する方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、ある日は6時間働き、その翌日には9時間働いたという場合であっても、両日ともに8時間働いたものとみなされるという制度です。

しかし、裁量労働制は定額で働かせ放題という制度ではありません。裁量労働制を導入していても、みなし時間が、労働基準法の法定労働時間を超える場合には残業代が発生します。例えば、みなし時間を10時間とした場合は、2時間分は法定労働時間を超えていますので、残業代(固定残業代)を支給することになります。また、休日や深夜に働かざるを得ない場合には、休日出勤手当や深夜残業手当も支給することが必要になります。

早退や深夜残業、想定よりも残業時間が下回った場合…、固定残業代はどのように支払う必要があるか?

早退した、欠勤した場合の対応について

早退や欠勤があった場合でも、固定残業代は満額支払う必要があります。早退・欠勤した場合はその分勤務時間が少なく、残業もできないことになりますが、固定残業代はみなし労働時間に対する残業代として定額で支給する手当ですので、早退・欠勤しても固定残業代を減額することはできません。早退・欠勤に関する部分は、基本給から減額するということになります。

深夜残業した場合の対応について

固定残業代を導入している場合でも、深夜残業が発生すれば、深夜残業手当を別途支給する必要があります。通常、深夜残業は、午後10時以降から翌5時の間に働く深夜労働と、規定の1日の労働時間(8時間)を超えて働く時間外労働の組み合わせのことを指します。つまり、深夜残業の割増率は、通常の残業の割増率より25%高く、みなし労働時間以内であっても、深夜残業手当の上乗せ部分は支給する必要があります。上乗せ部分の計算式は以下の通りです。

深夜残業代

<注意>朝から夜にかけての勤務のケースで考えると、多くのケースでは、通常の残業時間に関する割増賃金1.25倍に加え、深夜勤務の割増賃金1.25倍が加算されるため、1.5倍の計算になります。

残業しない場合、払わないことは可能?

固定残業代は一定時間の残業を想定した上で、あらかじめ残業代を固定で支給するという制度です。したがって、残業が想定時間よりも下回った場合でも、固定残業代を導入しているのであれば、固定残業代として定めた分の支給は必要です。固定残業代で支給するとした金額は必ず支給することになりますので、残業時間が少ないからといって、払わないとすることはできません。

有休休暇を取得した場合は支払う必要がある?

労働者が有給休暇を取得した場合でも固定残業代には影響はありません。早退や欠勤の場合と同様に固定残業代の全額の支給が必要です。

固定残業代のメリットとデメリット

固定残業代を導入した場合の、企業にとってのメリット・デメリットは次の通りです。

固定残業代のメリット

メリット①:労働者の残業がみなし労働時間内であれば、残業代の算出をする必要がない(※)
メリット②:労働者の残業時間が少なくても一定額が支給されるため、労働者は効率的に業務をしようと考える
メリット③:仕事が早い人も遅い人も一定の残業代が支給されるため、会社内の不公平感がなくなる
メリット④:残業代を支給していない会社は、固定残業代を導入することで法律に合致した労働内容にできる

※固定残業代制度を導入しても、固定残業時間を超える残業があった場合には、超過した残業時間分の残業代を支払う必要があり、使用者は、従業員の労働時間を把握する必要があります。

 

固定残業代のデメリット

デメリット①:固定残業にしてたくさん働かせるのでは?と偏ったイメージを持たれる可能性
デメリット②:残業代が含まれていることから、社風として定時退社しづらい場合がある
デメリット③:雇用者も労働者も固定残業代の理解が曖昧だとトラブルになりやすい
デメリット④:みなし労働時間に達していなくても、固定残業代を減額できない

求人票・求人広告等での「固定残業代」に関する表記方法について

固定残業代はトラブルの原因となりやすいといえますので、トラブルを回避するために求人広告等の表記方法にも気をつけなければなりません。
2015年に施行された若者雇用促進法による指針より、以下3点は必ず表記すべきとされています。

①固定残業代の金額  

  
「固定残業代 ▲▲▲▲▲円」「固定残業として▲万円支給」と明記する必要があります。

②みなし労働時間数

固定残業代の金額とあわせて、「みなし労働時間数20時間相当を含む」など該当する時間を記載しなければなりません。

③みなし労働時間を超えた際、別途残業代を支給する旨

一定の固定残業時間を超えた場合は、「20時間を超える時間外労働については、別途支給」など、記載が必要です。

<表記例>
【給与】月給25万円以上※固定残業代(5万円:30時間相当分)含む。30時間超過分は別途支給

また、この他にも、みなし労働時間分の残業を強制しない旨や、労働者の実際の平均残業時間がみなし労働時間より少ない旨など、通常と違う場合にはきちんと明記をしておくと応募者とのトラブル回避につながるでしょう。
(参照:『週休2日制?完全週休2日制?知らなかったでは済まされない求人票・求人広告の作り方』)

固定残業代が違法になる、3つのパターン(裁判事例)

固定残業代が違法となってしまうと、固定残業代として支払った金額も残業代とみなされず、追加で残業代の全額を支払わないといけなくなることもあります。
固定残業代が違法になるケースとは?

パターン①:賃金規定等で固定残業代とそれ以外の部分がはっきりしない場合

求人広告や賃金規定、雇用契約書には「残業代を含む」として基本給の金額が記載してあるのみであり、残業代の金額や残業時間が明示されていない場合は、違法と判断されるケース多くなると思われます。上記でも述べましたが、定額の残業制度が有効となるには、①労働契約上の根拠があることに加え、②定額の部分とそれ以外の賃金が明確に分けられていることと、③実際の残業時間が、定額残業時間を超過した場合には超過部分の追加の支払いをする旨の規定が必要とされています。
固定残業代とそれ以外の部分が、個別の労働契約や就業規則で明確にされないまま給与の総額のみで労働契約が締結された場合は、固定残業代とは認められないと判断した裁判例があり、この場合、固定残業代として支払った分は、基本給のように扱われることになり、残業代は全額を支払うことになります。

パターン②:みなし労働時間を超えて残業をしても超過分の支払いをしない場合

固定残業代の超過分の支払いがなされていない場合に、労働者が残業代の支払いを求めた事案で、固定残業代の規定を固定残業代とは認めず、みなし労働時間分も含めて全額の残業代の支払いを認めた裁判例があります。
固定残業代の規定に問題がなかったとしても、超過分の支払いをきちんと行わない場合は、固定残業代の規定そのものが違法となりますので、パターン①と同じく、残業代の全額を支払うことになり得ます。

パターン③:みなし労働時間が45時間を超えている場合

固定残業代のみなし労働時間が83時間として支給されていた事案で、みなし労働時間を83時間とする固定残業代の合意は無効であるとした裁判例があります。36協定によれば、月の残業は45時間が上限とされていますが、この45時間を超える場合のすべてが直ちに違法と評価されるわけではありません。実際に毎月80時間以上の残業をさせている等の個別具体的な事情を考慮して違法性が判断されることになります。
しかし、労働者の長時間労働が社会問題ともなっている昨今においては、裁判所では雇用主側に厳しい判断をする傾向にありますので、みなし労働時間は45時間以内とし、実際の残業時間も45時間以内になるように配慮する必要があるといえます。

なお、固定残業代をめぐる判例としては、最高裁判決があります。(最高裁第二小法廷平成29年7月7日)この事案は、年俸制での契約をしていた医師の裁判で、年俸に割増賃金がふくまれるか否かが争われた判決です。この判決では、労働基準法37条適用(時間外、休日及び深夜の割増賃金など)の要件について、①通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できること、②その上で、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額の額を下回らないかを検討して、労働基準法37条に定める割増賃金の支払いがされたといえるか否かを判断することが必用であると示されていますので、固定残業代制度を導入する場合、この点に留意する必要があります。

固定残業代導入には、就業規則を変更する必要がある

就業規則には、賃金に関する規定は必須です。固定残業代を導入するとなると、就業規則の変更が必要となります。就業規則の変更内容について労働者の過半数が加入する労働組合(労働者の過半数を代表する人)に意見を聞き、変更内容についての意見書を作成し、就業規則変更届を所轄労働基準監督署長に提出することになります。
就業規則を変更

就業規則の内容としては、下記をしっかり記載することが必要になりますので確認しておきましょう。

①割増賃金の支払いの趣旨で固定残業代を支給する旨
②固定残業代の金額(計算方法)
③みなし労働時間数
④みなし労働時間を超えた残業には別途、超過した部分の残業代を支給する旨
⑤固定残業代が深夜割増残業代や休日割増残業代にも充当されるのであればその旨

固定残業代を導入する際の雇用契約書の書き方

労働基準法上、雇用契約書においても固定残業代を明確に記載する必要があります。先述の就業規則の内容と同じ内容の記載が必要です。

<表記例>
例:固定残業代は月30時間の時間外勤務を行うとものとみなして支給する
例:時間外勤務手当…月の時間外労働時間が30時間を超えたときは、
  割増単価(基本給を月の所定労働時間で除した額に25%割増をした額)に
  その超えた時間数を乗じた割増賃金を支払う

(参照:『週休2日制?完全週休2日制?知らなかったでは済まされない求人票・求人広告の作り方』)

【まとめ】

固定残業代制度は、本来的には、使用者と労働者、双方の利益にかなう便利な制度です。しかし固定残業制度を正しく理解せずに導入すると、固定残業代をめぐるトラブルの発生につながってしまうこともあります。制度を導入する際には、よく説明をし、誤解が生じないようにすることが必用です。
仮に、裁判などで固定残業代と認められないとなると、別途全額の残業代を支払わないといけない場合もあります。
会社は、業務手当や役職手当を残業代として支払っていたつもりでも、労働者から残業代ではなかった等と主張され、訴訟にまで発展するケースは数多くあります。固定残業代を導入するには、訴訟を見据えた準備が必要不可欠と言えます。
固定残業代の導入を検討されている企業は、今回説明した内容をご理解のうえ、弁護士などの専門家のアドバイスを受けながら、労働者側と十分に協議をして導入するようにしましょう。

 
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