【よくわかる】労働契約法の何条に注意すればいい?条文を使ってしっかり解説/弁護士監修

弁護士法人 第一法律事務所(東京事務所)

弁護士 藥師寺 正典

プロフィール

労使間で結ばれる労働契約についての基本ルールを定めた、労働契約法。「どのような内容が規定されているのか」「企業として、何に注意する必要があるのか」など知りたい方もいるでしょう。

この記事では、弁護士監修の下、労働契約法の概要や特に知っておきたい条文についてご紹介します。

労働契約法とは?わかりやすく解説

「労働契約法」とは、企業と労働者の間で締結する労働契約についての基本的なルールを規定した法律のこと。私人間の契約について規定した「私法」に該当します。

英語では「Labor Contracts Act」と表記されます。英語版の「労働契約法」は、厚生労働省所管の独立行政法人である「独立行政法人労働政策研究・研修機構(英語表記:The Japan Institute for Labour Policy and Training)」の英語版HPで確認できます。
(参考:The Japan Institute for Labour Policy and Training『Labor Laws of Japan』)

労働契約法の目的・背景

労働契約法は、「就業形態の多様化」により増加している「個別労働関係紛争」に対応するために作られた法律です。2008年3月に施行されました。労働契約についての基本的なルールを明記することで、個別労働紛争を未然に防止し、労働者の保護を図りながら、個別の労働関係を安定したものにすることを目的としています。

労働基準法 ・労働安全衛生法との違い

労働契約法と混同されやすいのが、同じく「労働」について規定している「労働基準法」や「労働安全衛生法」です。「法律の目的」や「法律によって規制される対象」などが異なります。

労働基準法 ・労働安全衛生法との違い

「労働基準法」は、企業として「最低限満たすべき労働条件」について、国が規定している法律です。労働基準法も労働契約法も、「労働条件」に関する法律という点では共通していますが、「「公法」か「私法」か」という大きな違いがあります。「労働契約法」が使用者・労働者間について規定した「私法」であるのに対し、「労働基準法」は国・使用者間について規定する「公法」に該当します。

「労働安全衛生法」は、職場における労働者の安全と健康の確保や、快適な職場環境の形成を目的とした法律です。労働安全衛生法と労働契約法には、後ほどご紹介する「安全配慮義務」に関する規定があるという共通点はあるものの、それ以外の規定内容に関連性は特段ありません。また、労働安全衛生法は、国・使用者間について規定する「公法」とされているため、その点でも労働契約法とは異なります。
(参考:『【よくわかる】労働安全衛生法とは?違反しないために企業は何をするべき?重要点を解説』)

第3条に記載された「労働契約の5原則」

労働契約法第3条には、労働契約の基本原則や共通原則(労働契約の5原則)が規定されています。

労働契約法第3条

第三条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。(労使対等の原則)
2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。(均衡考慮の原則)
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。(仕事と生活の調和への配慮の原則)
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。(労働契約遵守・信義誠実の原則)
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない(権利濫用禁止の原則)

労使対等の原則

「労使対等の原則」に基づき、労使は対等な立場で合意し、労働契約を締結・変更する必要があります。企業側が、一方的に契約内容を変更することは認められません。

均衡考慮の原則

「均衡考慮の原則」とは、労働契約を締結・変更する際、「正社員」「契約社員」「パート」といった就業形態ではなく、就業の実態を総合的に考慮する必要があるという原則のことです。就業の実態に即した労働条件・処遇を用意する必要があります。

仕事と生活の調和への配慮の原則

「仕事と生活の調和への配慮の原則」に従い、「ワークライフバランス」への配慮も必要です。「育児」や「介護」といった労働者の事情に配慮した上で、労働契約を締結・変更しなければいけません。

労働契約遵守・信義誠実の原則

「労働契約遵守・信義誠実の原則」は、労使双方が守るべき原則です。労使ともに、労働契約を遵守し、信義に従い忠実に、権利を行使または義務を履行する必要があります。

権利濫用禁止の原則

「権利濫用禁止の原則」も、「労働契約遵守・信義誠実の原則」と同じく、労使双方が守るべき原則です。労使ともに、労働契約に基づく権利行使の濫用は認められていません。

第6条に記載された「合意の原則」

労働契約法第6条には、労働契約の成立に関する基本原則である「合意の原則」が規定されています。

労働契約法第6条

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

労働契約は、労働者・使用者間の合意により成立します。合意の要素としては、「労働者が使用者に使用されて労働すること」および「使用者がこれ(労働)に対して賃金を支払うこと」の2つがあります。

労働者・使用者の定義

法律の適用対象となる労働者・使用者については、労働契約法第2条で定義されています。

労働契約法第2条

第二条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

労働の対価として賃金を受け取っている人が「労働者」、労働者を雇用して賃金を支払っているのが「使用者」と理解するとよいでしょう。

適用除外の対象

適用除外の対象者については、労働契約法第21条で規定されています。

労働契約法第21条

第二十一条 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない
2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない

「国家公務員」や「地方公務員」は、労働契約法の適用から除外されます。また。「同居の親族のみを使用する」場合にも、適用除外となります。

労働契約法第5条「労働者の安全配慮義務」:使用者の義務

労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者が供給する設備、器具などを用いて労働に従事します。そのため労働契約法の制定以前から、判例では、使用者は労働者を危険から保護するよう配慮すべき「安全配慮義務」を負っているとされてきました。

労働契約法第5条では、それを改めて法定化。労働者の事故防止・健康確保のために企業が講じるべき措置である「労働者の安全配慮義務」について、規定しています。

労働契約法第5条

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

「労働契約に伴い」とは、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約に付随する義務として、使用者は当然、安全配慮義務を負うという意味です。「生命、身体等の安全」には、体だけでなく、心の健康も含まれます。「必要な配慮」については、一律に定まっておらず、労働者の「職種」「労務内容」「労務提供場所」など個別の状況に応じた配慮が必要です。

労働安全衛生法との関係

「労働者の安全配慮義務」は、労働安全衛生法と関係が深いものです。労働安全衛生法では、企業が果たすべき具体的な「安全配慮義務」が細かく規定されています。安全配慮義務の詳細については、労働安全衛生法を確認しましょう。
(参考:厚生労働省『労働契約法のあらまし』)
(参考:『【よくわかる】労働安全衛生法とは?違反しないために企業は何をするべき?重要点を解説』)

改正労働契約法により「無期転換ルール」が適用されることに

「無期転換ルール」とは、「同一の使用者との間で、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申し込みによって無期労働契約に転換される」というルールのこと。有期労働契約で働く労働者の「雇止めの不安解消」や「処遇の改善」を目的に作られました。

労働契約法には罰則規定がないため、「無期転換ルール」に従わなかった場合でも、労働契約法で罰則の対象となることはありません。しかし、労働者から労働契約上の地位があることを争われた場合は、無期転換ルールに従って雇用契約を継続しなければならない義務が生じたり、その間の未払賃金等を支払わなければならないこともあったりするため、注意が必要です。
(参考:厚生労働省『有期契約労働者の無期転換ポータルサイト』)
(参考:『【弁護士監修】有期雇用契約はどう結ぶべき?雇止めや契約解除などの注意すべきルール』)

労働契約法第18条「有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換」

労働契約法第18条では、「有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換」について定めています。

労働契約法第18条

第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。

労働契約法第18条第1項は、「無期転換ルール」について確認するものです。同上第2項では、次にご紹介する「通算契約期間(クーリング期間)」について規定しています。

労働契約法第18条に記載されている「通算契約期間」とは

労働契約法第18条第2項に記載の「通算契約期間」とは、同じ使用者との間で、有期労働契約が繰り返し更新されている期間のこと。有期労働契約と、その後で結んだ有期労働契約の間に「契約のない期間(空白期間)」がある場合、空白期間の前に結んだ有期労働契約については、通算契約期間に含まれないことがあります。これを「クーリング」と呼びます。

【カウントの対象となる契約期間が1年以上の場合】

空白期間 クーリングされるかどうか
6カ月以上 クーリングされる(空白期間の前に結んだ有期労働契約は、通算契約期間に含まれない)
6カ月未満 クーリングされない(空白期間の前に結んだ有期労働契約は、通算契約期間に含まれる)

【カウントの対象となる契約期間が1年未満の場合】

カウントの対象となる有期労働契約の契約期間 「空白期間」がどれだけあるとクーリングされるか
2カ月以下 1カ月以上、「空白期間」があるとクーリングされる
2カ月超~4カ月以下 2カ月以上、「空白期間」があるとクーリングされる
4ヶ月超~6カ月以下 3カ月以上、「空白期間」があるとクーリングされる
6カ月超~8カ月以下 4カ月以上、「空白期間」があるとクーリングされる
8カ月超~10カ月以下 5カ月以上、「空白期間」があるとクーリングされる
10カ月超 6カ月以上、「空白期間」があるとクーリングされる

(厚生労働省:『通算契約期間の計算について(クーリングとは)』)

カウントの対象となる契約期間が「1年超」か「1年未満」かで、クーリングの基準が異なるため、注意しましょう。

労働契約法第19条「有期労働契約の更新等」

労働契約法第19条では、「有期労働契約の更新等」について定めています。

労働契約法第19条

第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
1 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
2 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

労働契約法第19条は、契約期間の満了による雇用契約の終了である「雇止め」について、「労働者保護の観点から、過去の最高裁判所の判例により一定の場合にこれ(雇止め)を無効とする」という「雇止め法理」を法定化したものです。以下のいずれかに該当する有期労働契約については、雇止めは無効となります。

①過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
②労働者において、有期労働契約の期間満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの

(参考:厚生労働省『「雇止め法理」の法定化(第19条)』)

ルールが適用される対象

ルールの適用対象となるのは、「1年単位」「6カ月単位」といった有期労働契約を締結・更新している労働者です。一般的に「契約社員」「パートタイマー」「アルバイト」と呼ばれる労働者が、これに該当します。「準社員」「パートナー社員」といった企業独自の雇用形態についても、契約期間に定めがある場合には対象となります。なお、派遣社員の場合には「派遣元(派遣会社)」が無期転換ルールに対応する必要があります。

主な「有期契約労働者」の例

「不合理な待遇差」は禁止されている

雇用形態の違いを理由に、労働条件について不合理に待遇に差を付けることは禁止されています。

2020年4月1日からパートタイム・有期雇用労働法へ労働契約法第20条を統合

2020年4月1日からパートタイム・有期雇用労働法へ労働契約法第20条を統合

旧労働契約法第20条には、「有期労働契約の労働者」と「無期労働契約の労働者」の間での「不合理な労働条件の禁止」についての規定がありました。その内容をさらに具体化・厳格化するためにできたのが、2020年4月施行の「パートタイム・有期雇用労働法」です。旧労働契約法第20条の内容は、「パートタイム・有期雇用労働法」第8条および第9条に統合されました。

「パートタイム・有期雇用労働法」は、パートタイム労働者・有期雇用労働者の「公正な待遇の実現」を目的とした法律で、2020年までは「パートタイム労働法」という名称でした。「パートタイム・有期雇用労働法」は、「パートタイム労働者」および「有期雇用労働者」を対象としています。2020年4月の施行時には「大企業」のみに適用されていましたが、2021年4月からは「中小企業」にも適用されることになりました。第8条では「不合理な待遇の禁止」について、第9条では「通常の労働者と同視すべきパートタイム・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止」について、規定しています。
(参考:厚生労働省『パートタイム・有期雇用労働法のあらまし』『パートタイム・有期雇用労働法の概要』)

企業はここに注意!「不合理な待遇差」になりかねない主な例

「パートタイム・有期雇用労働法」では、正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差を禁止しています。「不合理な待遇差」とならないよう、企業として注意したい項目をいくつかご紹介します。
(参考:厚生労働省『パートタイム・有期雇用労働法のあらまし』『パートタイム・有期雇用労働法の概要』)
(参考:『【弁護士監修】有期雇用契約はどう結ぶべき?雇止めや契約解除などの注意すべきルール』)

賃金や賞与・退職金

「賃金(基本給)」については、労働者の「職務の内容や異動の範囲」「能⼒または経験に応じて」「業績または成果に応じて」「勤続年数」に応じて⽀給する場合、これらが正社員と同一であれば、同一の支給が必要です。一定の違いがあった場合には、その相違に応じて「不合理な待遇差」か否かが判断されることになります。
賞与や退職金のように多様な性質(=趣旨)が含まれ得る労働条件は、制度設計等において使用者の裁量をより尊重すべきと考えられており、制度の「目的」を考慮し、かつ重視される傾向にあります。

役職手当や通勤手当などの各種手当

各種手当はその性質が明確であるため、その「性質(趣旨)」が考慮されます。手当の性質が、正社員だけでなくパートタイム労働者・有期雇用労働者にも当てはまるといえる場合、相違を設けることは不合理と判断されやすい傾向にあります。そのため、各手当の意味合いなどについて、点検する作業が不可欠といえます。

「役職手当」については、役職に応じて支給する趣旨といえるため、正社員と同一の役職に就くパートタイム労働者・有期雇用労働者には、基本的には同一の支給が必要です。役職の内容に一定の違いがある場合には、その相違に応じて⽀給します。

「通勤手当」については、パートタイム労働者・有期雇用労働者には正社員と同一の⽀給をしなければならないとされる傾向にあります。正社員に通勤手当を支給しているのであれば、パートタイム・有期雇用労働者にも同一の支給が必要です。

「時間外手当」については、正社員と同一の時間外、休⽇、深夜労働を⾏ったパートタイム労働者・有期雇用労働者には、同一の割増率で⽀給する必要があります。「家族手当」や「住宅手当」については明確に規定されていないため、個別の状況を踏まえながら、判断していくのが望ましいとされています。

福利厚生や教育訓練

賃金や手当だけでなく、福利厚生や教育訓練についても、「不合理な待遇差」は禁止されています。たとえば、企業が提供する福利厚生施設(食堂・休憩室・更衣室等)に関しては、原則として雇用形態により取り扱いに差を付けることはできません(パートタイム・有期雇用労働法第12条)。また、教育訓練についても、それが現在の職務に必要な技能または知識を習得するために実施するものである場合、企業は、職務の内容が同一であるパートタイム労働者・有期雇用労働者に、正社員と同一の教育訓練を実施しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法第11条)。

労働契約法第8条、第9条、第10条「労働契約の内容の変更」

「労働契約の内容の変更」については、労働契約法第8条~第10条に規定されています。

労働契約法第8条

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

労働契約法第9条

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法第10条(一部抜粋)

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

労働契約法第8条では、労働契約についての基本原則とされる「合意の原則」が示されています。労働契約の内容である労働条件を変更するためには、労働者と使用者の間での合意が必要です。

同法第9条では、「不利益変更の禁止」について規定しています。同法第10条は、「例外的に不利益変更が認められる場合」について規定したものです。

企業が一方的に、労働条件を労働者の不利益に変更はできない

労働条件を労働者にとって不利益となるように変更する「不利益変更」を、企業が一方的に行うことはできません。不利益変更を行う際は、原則として従業員との合意が必要です。ただし例外的に、諸般の事情を考慮して変更が合理的で、変更後の就業規則を周知した場合に限り、従業員との合意なしで「就業規則の変更」により労働条件の不利益変更を行うことが認められています。
(参考:『【弁護士監修】不利益変更を実施する場合の対応方法とこんな時どうする?16 の事例』)

労働契約法第7条、第12条「就業規則で定める労働条件」

労働契約法第7条および第12条では、「就業規則で定める労働条件」に関する内容を規定しています。

労働契約法第7条

労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働契約法第12条

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

労働契約法第7条は、「労働契約の成立についての合意はあるものの、労働条件は詳細に定めていない場合、就業規則で定めた労働条件によって労働契約の内容を補充することで、労働契約の内容を確定できる」ということを示したものです。

労働契約法第12条では、就業規則を下回る労働契約は、その部分について就業規則で定める基準まで引き上げる必要があることを示しています。

労働契約法第13条「法令及び労働協約と就業規則との関係」

労働契約法第13条では、「法令及び労働協約と就業規則との関係」について規定しています。

労働契約法第13条

就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。

就業規則で定める労働条件が、法令や労働協約に反する場合には、その労働契約の内容は適用されません

労働契約法第4条に従い、労働契約はなるべく書面に残す

労働契約法第4条では、使用者に対して、労働者に提示する「労働契約の内容」について、労働者の理解を促すよう規定しています。併せて、労働者・使用者の双方に「労働契約の内容」について、できるだけ書面で確認するよう定めたものでもあります。労働契約の内容に関する書面は、「雇用契約書」または「労働契約書」と呼ばれます。雇用契約書や労働契約書については作成義務がありませんが、労働者とのトラブル回避のため、なるべく書面として残すことが望ましいとされています。
(参考:『【弁護士監修・雛型付】雇用契約書を簡単作成!各項目の書き方と困ったときの対処法』)

雇用契約書や労働条件通知書、就業規則に記載する事項

雇用契約書や労働条件通知書、就業規則に記載する事項について、簡単にご紹介します。

雇用契約書や労働条件通知書に記載する事項

労働条件通知書とは、企業と労働者が労働契約を結ぶ際に交付が義務付けられている書面です。雇用契約書とは異なるものですが、ほぼ同じであるため、「労働条件通知書兼雇用契約書」として取り交わされることもあります。雇用契約書や労働条件通知書には、「労働契約の期間」や「就業の場所」「従事する業務」「始業および終業の時刻」などの記載が必要です。
(参考:『【弁護士監修・雛型付】雇用契約書を簡単作成!各項目の書き方と困ったときの対処法』『【記入例・雛型付】労働条件通知書とは?雇用契約書との違いや書き方をサクッと解説』)

就業規則に記載する事項

就業規則とは、企業と従業員との約束事を明文化した、職場におけるルールブックです。就業規則の内容が合理的であり、労働者に周知されている場合は、これが労働契約の内容となります。就業規則には、「始業および終業の時刻」や「休憩時間、休日、休暇」といった労働時間に関する事項や、賃金、退職などに関する事項を記載する必要があります。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

労働契約法第14条「出向」

出向とは、出向元である企業との雇用契約を維持したまま、別の企業で働くことを指します。出向は大企業を中心に多くの企業で行われていますが、労務の提供先が変わることから労働者への影響も大きいとされています。出向命令に関連した紛争を防止する目的で、権利濫用に該当する出向命令の効力について規定したのが、労働契約法第14条です。

労働契約法第14条

使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

使用者が労働者に出向を命ずることができる場合でも、その出向命令が権利を濫用したものと認められる場合には、出向命令は無効となります。出向命令が権利濫用に該当するかどうかは、「出向命令の必要性の有無」や「対象となる労働者の選定」といった事情を考慮して判断されます。
(参考:厚生労働省『労働契約法のあらまし』)
(参考:『【疑問解決】出向とは?給与は誰が支払う?契約書はどうする?ルールを徹底解説』)

労働契約法第15条「懲戒」

懲戒とは、従業員が果たすべき義務や規律に違反したことに対する制裁として行われる、不利益措置のことです。懲戒は、使用者が企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために実施するものですが、同時に、労働者に労働契約上の不利益を生じさせるものであります。懲戒の権利濫用が訴訟で争われることも多いため、紛争防止の観点から、労働契約法第15条の懲戒に関する規定ができました。

労働契約法第15条

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

使用者が労働者を懲戒することができる場合であっても、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用と見なされ、懲戒処分は無効となります。懲戒処分が権利の濫用に該当するかどうかは、「労働者の行為の性質及び態様その他の事情」を考慮して判断されます。
(参考:厚生労働省『労働契約法のあらまし』)
(参考:『【弁護士監修】懲戒処分とは?種類と基準―どんなときに、どんな処分をすればいいのか―』)

労働契約法第16条「解雇」

解雇とは、使用者の一方的な意思表示により、労働者との労働契約を解除することを指します。解雇は、労働者に大きな影響を与えるものです。解雇に関する訴訟も多いことから、紛争防止や労働者とのトラブル解決を図るため、労働契約法第16条に解雇に関する規定が設けられました。

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」権利濫用と見なされ、解雇は無効となります。合理的な理由としては、「労働者の能力不足」や「義務違反」「経営上の必要性」などがあります。社会通念上相当であるかどうかは、「個々の労働者の事情」や「解雇の回避が不可能だったか」といった基準で判断されます。

労働契約法第17条「契約期間中の解雇等」

労働契約法第17条では、「契約期間中の解雇等」について定めています。有期労働契約の労働者の雇用を守り、「計画期間中の解雇」や「雇止めに関する紛争」などを防止する目的で、この条文が設けられました。

労働契約法第17条

第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない
2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない

第1項は、やむを得ない事由がある場合を除き、使用者は契約期間中の有期契約労働者を解雇することができないことを定めたものです。第2項では、有期労働契約の期間について規定しています。有期労働契約により労働者を使用する目的を考慮した上で、「必要以上に短い労働契約期間の設定」や「有期労働契約の反復更新」をしないよう配慮することが、使用者には求められます。
(参考:厚生労働省『労働契約法のあらまし』)

労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」とは

労働契約法第17条第1項にある「やむを得ない事由」とは、通常の解雇が認められる「客観的に合理的な理由及び社会通念上相当」であるという事情に加え、雇用を終了させざるを得ない特段の事情があることを指すという見解が一般的です。その理由としては、契約期間は労働者・使用者双方の合意により決定したものであり、それは遵守されるべきという考え方があります。「やむを得ない事由」があるかどうかは、個別具体的な事案に応じて判断されます。

例として、以下のケースでは「やむを得ない理由」があったと認められず、解雇は無効となりました。

判例

事件の概要:4年間という期間の定めのある労働契約で、学校法人Yの塾長(校長に相当)として雇用された労働者Xは、Xの行動に問題があることを理由として、当該契約期間の満了前(初年度の終了直前)に解雇された。労働者Xは、本件解雇について労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」が存在せず、解雇権を濫用したものであると主張。労働契約上の地位確認等を求め、提訴した。

判決の概要:(労働者側の勝訴)解雇理由とされたXの行為には、関係者への配慮を欠いた発言や思慮を欠くというべき行動もあり、塾長としての見識が十分でない面があることは否定できない。しかし、「そのような行動についても極めて不適切とまではいえないこと」や「4年任期の初年度に塾長として一定の成果を出していたこと」などの諸事情を考慮すると、本件解雇には労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」があったとは認められない。よって、本件解雇は無効。

「契約期間中の解雇」については、雇止めと比較して、企業により慎重な対応が求められます。

2020年労働契約法・その他関連法の改正内容

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保のため、2020年に「労働契約法」および「労働者派遣法」が改正されました。また、先ほどご紹介した通り、2020年にはそれまでの「パートタイム労働法」に代わり、「パートタイム・有期雇用労働法」が施行されています。

これらの法改正のポイントを、下の表にまとめました。

2020年法改正のポイント

ポイント 内容
①不合理な待遇差の禁止 ●同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止に。
②労働者に対する待遇に関する説明義務の強化 ●非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」などについて、事業主に説明を求めることが可能に。
●事業主は、非正規雇用労働者から求めがあった場合は、説明をする義務を負うことに。
③行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備 ●行政による助言・指導等や行政ADRの規定を整備

(参考:厚生労働省『【リーフ】パート・有期法が施行されました』)

改正内容を正しく把握し、適切な対応を検討しましょう。

労働契約法に違反した場合、罰則はある?

労働契約法は私法であるため、それ自体に罰則はありません。しかし、労働契約法の各規定に違反した場合は、企業の労務措置が無効となることもありますし、民事上の損害賠償責任が生じることもあります。労働契約法は、労働条件に関する基本的なルールをまとめた重要な法律ですので、罰則の有無にかかわらず、法律を遵守しましょう。

第5条に違反した場合の判例

労働契約法第5条「安全配慮義務」に違反したと認定された判例について、ご紹介します。

判例

事件の概要:一人で宿直勤務中だった従業員Aが、盗賊に襲われ、殺害された。社内には高価な商品があったにもかかわらず、「のぞき窓」「インターホン」「防犯チェーン」「防犯ベル」などの設備はなかった。そのため、従業員Aの遺族は、会社が「安全配慮義務」を怠っていたと主張。損害賠償を請求した。

判決の概要:(遺族側の勝訴)会社は、宿直勤務中に盗賊が容易に侵入できないような設備や、万が一盗賊が侵入した場合に盗賊から加えられるかもしれない危害を免れる設備を設けるべきだった。また、これらの設備を十分に整備することが困難な場合には、「宿直員の増員」や「宿直員に対する安全教育の実施」などを行い、宿直員の生命、身体に危険が及ばないように配慮する義務があった。会社は、安全配慮義務に違反しており、損害賠償責任を負う。

まとめ

健全な企業経営を行い、労働者とのトラブルを防ぐためには、「労働契約の5原則」をはじめとする原則や、雇止め法理、「無期転換ルール」、「不合理な待遇差」の禁止ルールなどを正しく理解することが重要です。

2020年の法改正内容も正確に把握した上で、企業として必要な対応を確実に検討・実施していきましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/弁護士 藥師寺正典、編集/d’s JOURNAL編集部)

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