人生100年時代の“あたらしいはたらく”は「キャリアオーナーシップ」で創る【by Leading HR online 2023/Day1】

法政大学キャリアデザイン学部/一般社団法人プロティアン・キャリア協会/株式会社キャリアナレッジなど

法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/株式会社キャリアナレッジ代表取締役社長 UC. Berkeley元客員研究員 University of Melbourne元客員研究員 日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学 /博士:社会学
田中 研之輔(たなか・けんのすけ)

プロフィール
株式会社丸井グループ

人事部 人材開発課 課長
原田 信也(はらだ・しんや)

プロフィール
パナソニック インダストリー株式会社

常務執行役員 CHR
梅村 俊哉(うめむら・としや)

プロフィール
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  • 「人的資本の最大化」に向けた戦略連携を考える
  • 「人の成長=企業の成長」を実現する企業理念を浸透させていく
  • “人”中心の人財戦略を展開する上で必要となる要素は「人財資産」

「人生100年時代の“あたらしいはたらく”を創る」とのテーマを掲げた、人事・採用担当者向けのオンラインカンファレンス、「Leading HR online 2023」が開催されました。

9月26日~9月28日の3日間にわたり、大学教授から企業で人事に携わるエキスパート、恋愛リアリティ番組「バチェラー・ジャパン」の出演者まで、総勢10名以上がご登壇。先進企業の事例、HRにおける注目テーマなどを紹介していただきました。

初日のテーマは「キャリアオーナーシップ」です。はじめにキャリアオーナーシップの推進を目指し、「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」で顧問もされている、タナケンさんの愛称で親しまれる法政大学の田中研之輔教授。

企業からは丸井グループで人材開発に従事する原田信也氏、パナソニックインダストリーからはCHROの梅村俊哉氏にご登壇いただき、講演やパネルディスカッションを通して、キャリアオーナーシップについて語っていただきました。

個人のキャリア形成を企業成長につなげるために企業がすべきこと /法政大学キャリアデザイン学部教授 田中研之輔

キャリア形成やキャリア開発は個人に限ったことではなく、企業の成長につながる――。このことを今回のセッションで伝えたいと思っています。

キャリア形成において大事なことは、環境の変化に応じて柔軟に自分を変化・成長させていく「プロティアン・キャリア」という考え方を用いることです。具体的には、副業や手挙げ制度など、さまざまなチャレンジをし続けていくことにあります。

私は、アカデミックな立場としてさまざまな知見を活用しながらキャリアのサポートをしていますが、その中においてはできるだけ現場に入っていく姿勢を大切にしています。月に一度開催している、キャリアオーナーシップについて議論し、そして推進していく「はたらく未来コンソーシアム」はまさにそのような場で、私は顧問・ファシリテーターとして参加しています。

大手企業のキャリアオーナーシップ・シナジー

参照:https://co-consortium.persol-career.co.jp/

3期目を迎えた本コンソーシアムには38の企業や団体が参加し、所属する社員数は約168万人にも上り、かなりのインパクトになっています。

私がこのような企業を集めコンソーシアムを開催しているのには理由があります。そう、皆さんが抱えている課題というものは業界を超えて、本質的には似ているからです。ですからみんなで議論し合うことで共通解を見いだすことができるのではないか、あるいはみんなで力を出し合って“あたらしいはたらく”を創ることができるのではないか――。このように考えているというわけです。

最終的な着地点としては、一人でも多くのキャリアオーナーシップを実現できる、「自律人材」を増やすことに尽きます。冒頭で述べたように、結果として組織の生産性・競争力向上に寄与するからです。さらに、キャリア開発を充実させていくと、個人と企業の関係性が良くなります。その結果、採用や定着にも良い影響を与えることがわかってきました。

【政府の動向】 キャリア自律=プロティアンキャリアの時代へ

参照:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai19/shiryou1.pdf

政府の動向を見ても、発表された文言は的確ですし、補正予算も2000億円に倍増するなど、本気でキャリアオーナーシップ人材を育成していくことが肝要であることが見て取れます。

ベテラン社員の中には「自分には関係がない」と考える人もいますが、そんなことはありません。社員一人一人のチャレンジを、強制ではなく自主的に促すこと。それが結果として全ての社員のポテンシャルを伸ばしていくことにつながるからです。

「人的資本の最大化」に向けた戦略連携

つまり企業は「人的資本の最大化」に力点を置くこと。そうして経営戦略と人事戦略をつなぐことが重要であり、そのことが結果として組織の生産性や競争力を高める戦略と行動につながっていくのです。

持続可能な環境とキャリア

人的資本経営の見取り図

キャリア開発において覚えておいてもらいたいキーワードがあります。それは「SDCs(Sustainable Development Careers)」です。キャリア開発は短期決戦ではありません。中期経営計画に見取り図などを作成し展望する。そしてその考え方や進め方を盛り込むなどして、持続させていくことが最も重要なのです。

そしてそのような中期経営計画を基に、社員はDXならぬCX(Career Transformation)として社内のセミナーに参加したり、副業に取り組んだりしてアクションを実行していくのです。

人的資本の最大化を実現するキャリアオーナーシップ人事の設計

しかし例えば、実践フェーズにおいては各企業により背景が異なるため、他社の取り組みをそのまま導入することはできません。そこで、スライドのようにフェーズごとのジャーニーを設計していきます。こちらははたらく未来コンソーシアムで取り組んでいる内容でもあります。

自律型キャリアに転換し、人的資本を最大化するためのポイント

企業や組織が自律型キャリアに転換し、人的資本を最大化するためのポイントがいくつかあります。先ほどもご紹介したとおり、中期経営計画などにビジョンとして盛り込むこと。実際、「自分の会社はどうなのか」という観点で、ぜひとも読者にも中期経営計画はもちろん統合報告書などもチェックしていただき、キャリアオーナーシップに関する文言が記載されているかどうか、確認してもらえればと思います。

一方で、今日からできることに取り組むことも大事です。例えば、3年を1サイクルとして持続的に取り組むことなどです。中でも、キャリアオーナーシップに関する良い取り組みや制度を「社員の生の声」として記事や動画としてコンテンツ化し、週に一度くらいのペースで人事がメディアなどを使って発信することも良いと思います。

キャリア1on1と評価面談の違い

参照:https://co-consortium.persol-career.co.jp/report/hakusyo20230330/index.html

社員との向き合い方も注目です。従来の評価面談も大事ですが、「これから何をしたいのか」「どのようなキャリアを歩みたいのか」という観点を忘れてはいけません。そこで自分のキャリアを軸とした「キャリア1on1」を行うことで、先述したCXが起きていきます。管理職の中には自分が「キャリア1on1」を受けていないため、実践することが難しいと話される方もいますが、まずはやってみることが大事です。

キャリアは多様に考えることが重要です。例えば私は、大学教授をしながらもさまざまなことに取り組んでいます。キャリアの考え方は専業である必要はありません。まずは自社、現場でできることを柔軟な発想で始めてみてください。

個人のキャリア形成を企業成長につなげる実践論

個人のキャリア形成を企業の成長につなげるためには、自立型キャリアを促す人事制度を、まずはできるところから変えていくというお話しをしました。ポイントは、企業と社員との間でエンゲージメントを向上させること、そしてその上でキャリア開発支援を行うことです。こうした取り組みを堅実に進めることで企業も社員個人も成長機会が生まれていくというわけです。

また成果のスコアデータをチェックして、データドリブンで社員と伴走しながら進めていくことで、イノベーティブな動きや改革も生まれていきます。まずは実践されてみてはいかがでしょうか。

「人の成長=企業の成長」、理念の浸透で企業文化の変革を推進 /丸井グループ 原田信也

企業理念「人の成長=企業の成長」

丸井グループでは「人の成長=企業の成長」を企業理念に掲げています。企業理念というベースがあり、そこに企業文化ならびに人の成長が一体となることで、企業の価値を向上していく、という考え方です。

企業理念の浸透には、長期間にわたるコミットメントが必要だと考えています。そのため丸井グループでは現社長の青井浩が、2005年に代表に就任した際、現在の企業理念に刷新して以降、一貫してこの理念浸透にまい進してきました。

実際、私は1999年に入社しましたが、当時と比べると会社の文化はまったく異なっている、と感じています。

企業文化の変革(OSの更新)

企業文化はコンピュータにおけるOSのようなものだと捉えています。そのため古いOSを更新することが結果として新しい経営に移行する、とも考えています。

目指すべき企業文化

丸井グループの企業文化

私たちが目指すべき企業文化は、「自主性」「楽しさ」「支援」「本業を通じた社会課題の解決」「価値向上」などであり、8つの施策を同時進行することで実現や変革を目指しています。

今回はその中からいくつかの施策をご紹介します。

まずは「企業理念」です。先述したとおり「人の成長=企業の成長」を掲げることで、人的資本経営の根本としました。また「お客さまのお役に立つために進化し続ける」という理念も掲げています。

企業理念とは、個人と会社のパーパスのすり合わせだと考えています。そこで、「なぜ、丸井グループで働いているのか?」「何をしたくて会社に入ったのか?」といったテーマについて社員と膝を突き合わせながら、深いレベルでの本質的な対話を繰り返してきました。

対話したのは全社員である約4,500名でした。全ての対話が終了するのに10年の歳月が掛かりました。そしてこの取り組みを行った結果、一時的に退職率が上がったのです。

「選び選ばれる関係」の基盤

しかし、その後は低い数字で推移することになります。それは対話の中で共感の輪を広げ、会社と社員のエンゲージメントを向上させていったからです。また新入社員においても入社前からこのようなすり合わせの対話と取り組みを行ったことで、入社3年以内の離職率の低減にもつながりました。「選び選ばれる関係性」を築くことが大事だったのです。

続いて「対話の文化」です。

「そもそも対話とは?」といった学びから愚直に取り組み、7つのルールを策定しました。ルール1はGoogleが提唱している心理的安全性に近い考えです。具体的には、全ての会議において一方通行の会話でなく、双方向の対話による2WAYコミュニケーションを心掛け、変革していったことです。「ダイアローグ理論」とも近しい、と言えると思います。

今ではこのようなルールに準じた対話の習慣が定着していて、会議やミーティングなどでは必ず対話を交えて行われるようになっています。

次は当社で行われている中期経営会議開催において実践している「手挙げ文化」です。社内で公募して選抜審査を通過した社員が当会議に参加できるという制度です。

以前から中期経営会議においては以下のような課題が持ち上がっていました。「中期経営推進会議の場において居眠りをする人がいる」「毎回、参加する方の属性が似ている」など――。そこで会議に興味のある人だけ参加すれば会議は活性化するだろうとの考えから、手挙げ文化の取り組みがスタートします。

現在は参加者の顔ぶれが大きく変わっています。参加者の中には女性や若手社員も多く、会議に興味のある人だけ参加しているので熱心にメモを取ったり、新入社員が経営陣に質問したりして活気ある状況に改善されています。

手挙げの文化:中期経営推進会議

会議は月に一度のペースで開催されており、毎回1,000名ほどが手挙げで参加を希望するため、論文審査を行い300名ほどに絞って参加いただいています。かなりの活況です。

手挙げの文化

現在では会議だけにとどまることなく、新規事業への参加、昇進試験、異動などでも手挙げ制度を導入しており、手挙げによる参加率は85%にまで達しています。

例えば、パートナー企業と共創を行い、デジタルを駆使し、新たなビジネスを創出する人材を発掘・育成するDX研修。以前は役員が対象でしたが手挙げ制度を導入したことで新社員のアイデアが採用され、事業化が実現するなど良い効果が生まれています。

グループ間職種変更異動

丸井グループは、さまざまな事業を手がけており、手挙げ制度による異動を導入したことで、一人の社員がさまざまな知識や経験を積み成長が促進される――。多様でイノベーティブな組織を構築するという観点でも、効果が生まれていると感じています。

最後は「評価制度」です。先の異動にも関連しますが、以前はグループ会社ごとで評価制度が異なっていたため、異動をためらう要因となっていました。そこで成果だけでなく、もう一つ「企業理念が実践できているか」という、パフォーマンスとバリューの2つの評価軸を設けてグループ全体の評価制度に組み込みました。

パフォーマンスとバリューの二軸評価

社員のエンゲージメント指標

すると、10年前と比べ社員のエンゲージメントは各種指標で大幅に改善されました。

人的資本投資のリターン

人的資本への投資を行った結果、創出された新規事業の限界利益は560億円、IRR(内部収益率)は12.7%となっており、資本コストを上回る見込みです。

このように人の成長を促す人的資本投資で、イノベーションを起こしやすい組織となり、当社ならではの新規事業が創出されています。今後も人的資本投資を続けていくことで永続的な成長を目指していきます。

「想いを、動かせ。」 ~ “人”中心の人財戦略最前線 ~ /パナソニック インダストリー CHRO 梅村俊哉氏

パナソニック インダストリー(以下、PID)は2022年4月1日に、パナソニックグループの組織再編に伴い、事業会社として新たなスタートを切ることになりました。このタイミングで、当社は「会社として在りたい姿」を再定義しました。

人財戦略の位置づけ ~経営戦略を実現する人財戦略~

大きくは、使命・存在意義を示す「ミッション」、2030年に在りたい姿の「ビジョン」を定め、さらにそこから「4つのコアバリュー」「経営戦略」を策定しました。特に、「人財資産」は最も大切なコアバリューとしてど真ん中に位置づけており、その価値を最大限に高める人財戦略を策定しています。

この「未来の兆しを先取り、お客さまと共に社会変革をリードする」というビジョンを達成するためには、強い競争力やしなやかな変化対応力が必要であり、そのために事業が目指すべき姿、「人財・組織・文化」のあるべき姿を、これまでの姿を振り返りながら、再定義することが大事であると考えました。

人財戦略を通じて目指す姿 ~As is-To beギャップと変革の方向性~

そこで人財戦略を通じて目指したい姿としては、事業戦略における目指す姿の変化に合わせ、「その道のプロとして自己変革し続ける人財」「多様な人財・知恵を活かしチーム成果を最大化する組織」「挑戦することが称賛され報われる文化」へ、それぞれ人財・組織・文化をバージョンアップしていくことが必要と考えました。

これらを通じて、「目的・未来志向で挑戦し続ける企業風土の実現」を目指すこととしました。

人財戦略において大切にすること ~目的・未来志向で挑戦し続ける~

人財戦略を通じて目指す姿を実現するために、当社の強み(らしさ)も棚卸ししました。その結果、「可能性を着実に実現する実装力」「事業領域の可能性の広さと深さ」が当社の強みだと改めて認識することができました。

この強みを活かして、当社における目的・未来志向や挑戦の定義を明確にした上で、人財戦略で大切にすることは、「一人ひとりの想いを実らせる。」だと結論づけました。

人財戦略において大切にすること

こうした検討を経て、私たちは「一人ひとりの想いを実らせる。」ために、社員がお客さまの想像を超える、もう一歩先の未来を想い描き、大小関係なく新しい何かに取り組むことを支え、後押ししていくということを再確認しました。

次に、どのようにその想いを実現していくのかを、「想い」が実るまでのプロセスに沿って検討していきました。

まずは、社員の想いを顕在化してもらうことからスタート。具体的には、自分のキャリアの展望やどういった人生を送りたいのか、ということです。その上でそれを実現するために必要なスキルや経験を習得してもらいながら、「想い」とともに磨き上げてもらうことを目指します。

さらに、社員個人の想いと仕事を結びつけ、組織の枠を超えて互いの想いをつなぎ合わせながら、形にしていってもらう――。そして想いが実れば、称え、評価することで、自分の自信に変えて、また新たな想いが芽生える。このように想いを繰り返し実らせることで、一人一人の貢献領域を、さらに拡げていくことができると考えました。

より良い社会に向けて、誰もが、想いを実らせられるこの価値提供の好循環を生んでいくプロセスを「想い無限サイクル」と命名し、そしてサイクルを動かしていくという意味を込めて、人財戦略のコンセプトを「想いを、動かせ。」と定め、現在社員に発信しています。

PID人財戦略の考え方

また、会社は一人一人の想いの実現を後押しすべく、「想い無限サイクル」を加速させるため、「尊重する」「機会を提供する」「称賛する」「後押しする」という4つの切り口で施策を展開しています。

そしてこの想い無限サイクルを循環させることで、PIDのビジョンを実現していきたい――。これが、PID人財戦略の考え方です。

ここからは具体的な取り組み事例をご紹介します。まずは「キャリアオーナーシップ支援プログラム」です。

キャリアオーナーシップ支援プログラム

プログラムは、個人としての「社員のキャリア自律」、それを支える「ミドルマネジメント支援」、実現するための「基盤となる人事制度」と、3つのパートで構成されています。昨年来、基盤となる人事制度の導入によりハード面での整備を進めてきましたが、今年から、いわゆるソフト面で、社員の意識・行動変容を促す、セミナーやワークショップ、従業員サポートサービスなどをスタートしました。

また、今後は当社の1,200名強のミドルマネージャー層に向けたマネジメント研修を実施していく予定です。

続いて「役割・人材要件定義の策定と公開」です。ポジション別の職責、求められるスキル、行動要件を定義しました。

役割・人財要件定義の策定と公開

策定にあたっては、当社は多様なビジネス領域を扱っていることもあり、それぞれのビジネス現場の強みを表現することが必要と考えました。

このため、190回にわたる部課長インタビューを経て、各現場の言葉を活かすことを重要視しました。これに加え、事業戦略や市場視点での目線も加味して作成しており、今後はこの定義をベースに、採用、育成、配置、評価などにも活用していきたいと考えています。

学びのプラットフォーム 「マナビバevery」

さらに自らのスキルを高める施策として、個人が自分のタイミングで学びを選択できる学びのプラットファーム「マナビバevery」を開設しました。

費用は全て本社の教育投資として確保し、共通ビジネススキルや専門スキルだけでなく、Udemy Businessなどの外部研修も受講することができます。開設後は、昨年1年間で想定を上回る延べ1万人以上の社員が活用しました。

公募型異動・登用への転換

異動・登用も見直し、本人発意を前提とした「公募型異動」を原則としました。ポイントは3つあります。一つはキャリアオーナーシップの形成です。従来の昇格選考や年齢制限を撤廃、自らのキャリアプランに基づき、自分のタイミングで成長の機会を選択できます。

2つ目に、組織力の向上という観点では、社内全体で公募を行うことで、モチベーションの高い多様な人財を、事業や職種を超えた適所適材で確保できるようになりました。

3つ目に、会社全体で人財育成を行うために、挑戦文化を醸成するという観点から書類選考は行わず、全員と面談し、合否関係なく全員にフィードバックを行います。こうすることで、単なる配置セレクションではなく、次の成長につながる気づきを与えることができればと思っています。

最後になりますが、本日ご紹介した取り組みを通じて、「個人の想い」「会社の目指す姿」をつなげること、これこそがPIDの人財戦略、人的資本経営だと考えています。

PID人財戦略の考え方

最終的にはグローバル4万人超のグループ全社員の想いを実らせ、見えないところから、見違える世界に変えていきたい――。また、私たちのような典型的な日本のメーカーが、日本の製造業の変革をリードしていきたい、と思っております。

パネル ディスカッション【田中氏✕原田氏✕梅村氏】/Q&A

■手挙げ制度について

田中氏:手挙げ制度を導入についてですが、社内でハレーションが起きるようなことはありませんでしたか?

原田氏:導入後すぐに手挙げする人、そうでない人に分かれました。性格、資質などが関係していると思いますが、若手の参加が多かったように思います。手挙げ率が50%を超えたあたりから、最初は疑問視していた人も手挙げするようになり、現在は85%程度までに達して活性化している印象です。

選考の論文は無記名なので、肩書きがあるからといって決して選ばれやすいわけではないことも大きいと思います。実際、店長が選ばれずに新入社員の店員が選ばれることもあります。

すると店長は内容を知りたいがために、その新入社員にポイントを聞くといった、立場を超えた関係性やコミュニケーションが生まれています。また次はぜひとも参加したいからと、同じく新入社員に文章の書き方などをレクチャーしてもらうような、チャレンジにもつながっていますね。

梅村氏:当社では手挙げ制度を始めて半年ほどですので絶賛ハレーション中です(苦笑)。制度がよくわからないという人が大半のため、今はいろいろな媒体を使って制度の内容をお伝えしている段階にあります。今回はなぜこの制度に踏み切ったのか?あるいは行動に移してもらうためには丁寧な説明が大事では、と考えています。

原田氏:手挙げで参加する人は基本楽しんでいますから、その楽しみを周囲の同僚や社員に話すのです。すると口コミでポジティブな評判が広がり、自然発生的に制度が広まっていったように思います。今でもたまにですが、ある社員群に対しては強制的に参加させることもあるのですが、彼らは総じて「何の意味があるの?」と聞きます。取り組む姿勢が全然違いますね。

田中氏:キャリア講習も含め、いわゆる違反講習のような強制的な制度は一番まずいように思います。逆に手挙げ制度の場合は、自分が観たいアーティストのライブに行くような感覚ですから、それこそ席も一番良い席で真剣に参加しますしね。

原田氏:会議やミーティングが終わった後は4~5名のチームを構成して、職場への振り返り会議を実施しています。その会議のファシリテーターも手挙げで選出しています。そのため新入社員がファシリテーターで、そのメンバーが店長という場合もあります。会議ではセッションで説明した通り、目的や結論は求めない、傾聴を前提とした安全の場であることを共有しておきます。

田中氏:旧来の日本型雇用では会社側のローテーションで行っていました。手挙げ制とどちらが良いと考えていますか?

梅村氏:私は30年間、会社から言われてきたキャリアを歩んできました。ただ与えられた仕事に対して「なんかあるんちゃうかな」と思えるタイプです。自律的なキャリアは好奇心がないと進めません。中には「興味が持てない」と発言する人が一定数いますが、そんな方には、まずは自分と関係ないものでもよいので、高質なものに触れてみてください、と伝えています。

原田氏:梅村さんとまったく同じです。私も会社の事情で強制的な業務に携わったことがありますが、そこで何を学べるのかは考えたことがあります。担当者との関係づくりも行えますし、根底では自分のスキルが役立っていると感じたこともあったからです。

田中氏:大きなイベントごとにはしないで、3年ぐらいのスパンで、それぞれがポテンシャルを高めていくのだというミッションを掲げて継続してもらいたいと思います。

■「評価」制度について

原田氏:セッションで説明したパフォーマンスとバリューの二軸評価では、三角形上部のパフォーマンス評価は、チームを対象としています。そのためベテランは新人に教える、新人は自ら努力する、といったアクションが生まれています。

田中氏:チームで評価するというのはとても重要だと思います。欧米のジョブ型での評価は、個人の成果主義に走りがちだと思うからです。個人も頑張るし、みんなをまとめあげた人も評価される。まさに日本ならではの評価制度だと言えると思います。

梅村氏:「役職上位に就いている人ばかり高い評価を受けるのではないか?」と社内から懸念が生まれていることから、専門性の高い人に対してもしっかりと処遇できる新しい評価制度を考えていまして、これは来年の4月にローンチする予定です。

■ミドル・シニアのマネジメントについて

梅村氏:シニアの方々と一括りで見るのではなく、改めて個人をもっと見る必要があると考えています。実際、シニアの中にも魅力的な人財はたくさんいます。しかし、これまでの一律的な会社のルールや仕組みが、その魅力に蓋をしてしまっていたのです。ですから私たちの人財戦略最大の想いは、「ポテンシャルの解放」です。

原田氏:トップダウンなのか、それともボトムアップで行うのでしょうか?

梅村氏:ある意味両方です。根本として松下幸之助の経営観があるので、みなさん本質は理解しています。人事の新たな取り組みについては、役員会議で毎回時間を設けてもらい、必ず議論してもらっています。

また、社員とは直接対話が一番だと考えています。行間や本当の熱意は、直接会わないとなかなか伝わらないからです。ですから実際、月に2度ほど現場に足を運んでいます。小規模な懇談会を終日何回も実施し、服装もラフなスタイルで、気兼ねなくお互いの想いを伝え合う場としています。

>カンファレンス2日目「採用の新常識、企業価値を向上させる攻めの採用、タレントアクイジション戦略」のセミナーレポートはこちらから。

取材・文/杉山忠義、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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