人事部とは?主な役割や業務内容、年間スケジュールなどを解説

d’s JOURNAL編集部

企業の経営資源である「ヒト、モノ、カネ、情報」のうち、人事はもっとも大切な資源とされる「ヒト」を管理する部署です。組織に必要な人材を適切な方法で確保し、育成・管理を行う人事部は、企業活動を根底から支える存在といえるでしょう。

それだけに、人事部の業務は広範囲に及び、仕事をするうえではさまざまなスキルや資質が求められます。この記事では、人事部とは何か、主な役割や業務内容、人事担当者に求められる能力などをまとめてご紹介します。

人事部とは


人事部はもっとも重要な経営資源とされる「ヒト」の管理を行う部署であり、総務部などと並んで企業の心臓部と表現されることもあります。ここではまず、人事部の基本的な役割について見ていきましょう。

人事部の目的

人事部は従業員の採用や育成、人事評価制度の設計・運用などを通じて、「ヒト」の管理を行う部門です。明確なビジョンに基づいた組織づくりを行うことが求められるため、単に人員の管理を行うだけでなく、経営戦略と連動して計画を立てる必要があります。

どのような人材を採用すべきなのか、どのようにキャリアを築いていってもらうべきなのかは、企業の価値観や方向性、社会的な存在意義と密接に紐づくテーマです。それだけに、人事部は人事業務のスペシャリストとしてはもちろん、経営戦略の深い理解や経営層との綿密な関係性構築が求められるポジションといえるでしょう。

人事部の役割

人事部の役割は、主に「人材と組織面での計画の立案と実行」「人事労務の制度設計とオペレーション」「人材育成と組織の構築」の3つに分けられます。ここでは、それぞれの内容について解説します。

人材と組織面での計画の立案と実行

人事部には、人材確保や組織構築などを通じて、経営戦略を大きく後押しする役割が求められます。経営戦略や事業計画を達成するために、人材や組織の面からサポートしていくのが、人事部の基本的な仕事といえます。

そのため、経営から独立した人事計画を立てるのではなく、経営層や事業責任者などの戦略的パートナーとして、経営計画に寄り添ったプランニングを行わなければなりません。そのうえで、人材確保や組織構築における広範なプロセスについては、スペシャリストとしての働きが求められます。

人事労務の制度設計とオペレーション

人事部の具体的な役割としては、従業員の労務管理も重要な機能として挙げられます。組織が健全に運営されていくためには、賃金制度や昇給・昇格制度、人材配置、福利厚生制度といった適切な人事労務の制度設計が欠かせません。

経営戦略に基づいた制度の立案を行うとともに、日常的には労務制度のオペレーションも担いながら、組織運営を円滑に進めていく必要があります。また、定期的に制度の見直しを行い、企業が置かれる経営環境や社会的な要請の変化にともなって改善を続けていくことも重要です。

さらに、絶えず変化し続ける「ヒト」という経営資源に向き合ううえでは、従業員とのコミュニケーションを図ることも必要不可欠です。このように、人事労務に関する職務も広範囲にわたり、特に企業規模が大きくなるほど仕組みは複雑化していきます。

人材育成と組織の構築

人材育成と組織の構築・開発も人事部の重要な職務です。個別の育成業務は現場の担当者が担うこととなりますが、人事部は評価制度の構築や教育・研修システムの導入などによって、育成の方向性を指し示す必要があります。

また、長期的な人材不足が続く国内企業においては、従業員のモチベーションを高め、離職を防ぐ組織づくりを行っていくことも重要となっています。これらの役割を果たすためには、現場とのコミュニケーションも丁寧に図り、状況や要望をヒアリングしていくことも大切です。

人事部の主な業務内容


人事部のおおまかな役割を把握したところで、ここからはより具体的な業務内容について見ていきましょう。

採用関連業務

人材採用に関する業務は、組織の土台を支える重要な役割の一つです。基本的な業務としては、経営戦略や事業計画に沿った「年間採用計画の策定」が挙げられます。

企業の実情を踏まえて、新卒採用・中途採用・パート、アルバイトの採用などを行い、質・量ともに適切な形で人材を確保するのが主な目的です。そのためには、経営層の意見と現場の意見をすり合わせ、最適な答えを見つけていかなければならないため、コミュニケーションや折衝も業務内容に含まれます。

また、その他の採用関連業務としては「企業説明会・イベントの実施」「面接の実施」「面接官の育成」「内定者フォロー・入社手続き」などもあります。採用業務について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『採用業務とは?基本的な流れから効率化するためのポイントまで解説 』)

人事評価業務

従業員の成長や活躍を促すためには、適切な人事評価制度を構築して、正しく働きぶりを評価できる仕組みを整えることが重要です。転職が一般化している現代にあって、高品質な評価制度の実現は、優秀な人材を自社に定着させるためにも欠かせないポイントとなってきています。

具体的な業務としては、「給与・賞与の設定」「昇給・昇格の基準づくり」「適切な人材配置」「企業に合った評価システムの検討・導入」などが挙げられます。人事評価制度について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】 』)

人材育成業務

人材育成業務では、「内定者研修」や「新入社員へのOJT計画の立案」「管理職研修」などが主な業務となります。また、部署の実情に合わせて「eラーニングの手配」や「資格取得のサポート」などもプランニングしながら、育成システムのブラッシュアップを図ることが大切です。

さらに、「従業員のキャリア開発」も人事部の重要な役割となります。このように、人材育成については短期から中長期のものまで幅広い視点を持ち、さまざまな角度からプランニングしていくことが求められます。

人材育成について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『人材育成におけるマネジメントとは|上司に必要なスキルや育成のポイントを解説 』)

労務管理業務

健全な組織運営を行うためには、徹底した労務管理がキーポイントとなります。具体的には「職場環境の整備」や「就業規則の周知」「社会保険の手続き」「雇用契約書の締結」「給与計算」などがあります。

企業の規模や組織のあり方によって、どの範囲までの業務を人事部が担当するかは異なりますが、いずれも正確性が求められる重要な仕事です。また、これらの基本業務に加えて、人事部が主導して仕組みの改善を推進していくことも求められます。

例えば、「残業時間の削減」や「リモートワーク、フレックスタイム制などの導入支援」「独自の休暇制度のプランニング」などを通じて、より快適な職場環境を目指すことも重要な業務となります。労務管理について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『【すぐに役立つ】労務管理とは?これだけは知っておきたい業務内容と効率化の手法を解説 』)

ダイバーシティの推進

現代の企業経営では、多様な背景や価値観を持った人材を活用し、さらなる生産性の向上やイノベーションの創出を目指すことも重要なテーマとなっています。人事部にはその中心的な役割を担い、組織のダイバーシティを推進していくことも求められます。

例えば、「女性活躍の推進」や「シニア雇用・障害者雇用の実現」、「多様な働き方を実現できる労務システムの企画」などは人事部の業務となる場合が多いです。ダイバーシティについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『ダイバーシティーとは何をすること?意味と推進方法-企業の取り組み事例を交えて解説- 』)

人事部の年間スケジュール

続いて、人事部の主な業務を年単位のスケジュールで見ていきましょう。

採用に関するスケジュール

採用に関するスケジュールは、新卒採用と中途採用のそれぞれに分けて解説します。

新卒採用

学生の採用選考活動は、入社する年の4月を目標にして逆算しながらスケジュールが決められていきます。基本的には前年の3月1日以降に会社説明会などの受付を開始し、面接などの具体的な採用選考活動は、6月1日以降にスタートさせるものとされています。

しかし、大学生の新卒一括採用では、インターンシップなどを通じて、大学3年生の時点から対象者と接触するケースが多いです。一般的な採用スケジュールは次の通りです。

一般的な新卒採用スケジュール

時期 業務内容
3月まで 採用活動の戦略策定、企業イベントの開催、インターンシップの実施
3月 広報活動の開始
6月 選考活動の開始
10月 正式内定(内定式)
9月~11月 秋季採用の実施
翌年3月まで 内定者研修
翌年4月 入社

なお、インターンシップのあり方については、2025年卒の新卒採用から基本的なルールが大きく変化します。インターンシップには具体的な業務体系を組み込む必要があるため、従来とはスケジューリングにも違いが生まれる点に注意しましょう。

新卒採用について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『新卒採用とは?メリットやデメリット、中途採用との違いを解説 』)

中途採用

新卒採用とは異なり、中途採用のあり方は企業によって異なるため、スケジュールについても柔軟な対応が求められます。しかし、転職活動が活発化しやすいとされるタイミングには一定の傾向性があります。

一般的には、4月入社を見据えた「1~2月」、前職での賞与支給のタイミングを踏まえて8月入社を目指す「6~7月」、下半期のスタートにあたる「10~11月」が多いです。また、企業側としても、「4月入社であれば新卒採用と手続きをまとめやすい」「10~11月は年末の退職希望者の欠員補充を検討しやすい」といったメリットがあります。

なお、中途採用にはさまざまな手法があり、どの方法を導入するかによって採用活動のスタート時期も変わってきます。

(参考:『中途採用とは?目的やメリット・デメリット、成功のポイントを解説 』)

労務管理に関するスケジュール

労務管理については、国が定める期日を守らなければならない業務も多いため、綿密なスケジュール管理が必須となります。ここでは、関連する業務ごとにスケジュールを見ていきましょう。

新たな従業員が入社したとき

新卒の従業員を一斉に受け入れる3~4月は、特に多くの業務が発生する繁忙期となります。まずは、4月の入社式に向けて、配属先や総務部門と細かな打ち合わせを行い、新入社員の受け入れ準備を進めます。

また、新入社員への給与支払いなどに必要な情報収集、書類の作成、提出された書類のチェックといった業務が集中するタイミングです。なお、中途採用者を受け入れる場合は、その都度さまざまな事務手続きを行う必要があります。

社会保険等の手続き

社会保険は毎年4~6月の報酬月額を算定し、算定基礎届によって届け出を行うなどの手続きが必要です。また、労働保険料は毎年1回の更新手続きと各期の保険料納付が必要となります。

労働保険については、「6~7月の更新手続き」、「7月、10月、1月の保険料納付」などが主な業務です。なお、高齢者や障害者の雇用を行う場合は、毎年6月末に雇用状況報告書を提出する必要もあります。

さらに、専門的な業務について社労士に委託をしている場合は、情報の行き違いがないように細かく連携を図ることが大切です。社会保険について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『【よくわかる】社会保険料とは?実はサクッと計算できる!知っておきたい基礎知識と手続き 』)

社会保険関連の一般的なスケジュール

時期 業務内容
4月 雇用保険料率変更
6月 労働保険の年度更新開始
7月 労働保険の年度更新提出・第1期納付、社会保険算定基礎届の提出
9月 厚生年金保険料の変更
10月 社会保険料の変更、労働保険料第2期納付、健康保険被扶養者の資格確認
1月 労働保険料第3期納付

人事異動や各種面談

人事異動や人事考課のスケジュールは、企業の決算期や人事戦略によっても変わります。昇進・昇格は4月や10月のケースが多いですが、それまでに候補者の選定や面談、手続きといったさまざまなプロセスを完了させなければなりません。

また、一口に人事異動といっても、社内公募やFA制度などさまざまなパターンが考えられます。従業員の自主性を引き出すためにこれらの制度を導入する場合は、通年で受付窓口の運営や定期的なキャリア面談の実施などを行うことも大切です。

人事考課については、3月決算であれば10月ごろに中間面接、3月に期末面接を行うのが一般的です。従業員の育成にあたり、目標管理制度を取り入れている場合は、3月ごろに翌年の目標設定を行う必要もあります。

人材育成に関するスケジュール

人材育成については、中長期的な取り組みが必要となるため、具体的な施策の実施は通年で行われます。そのうえで、ここでは特に重点的な業務が必要となるタイミングを2つに分けて見ていきましょう。

新入社員に対する教育

新入社員に対する教育業務は、主に以下の4つに分けて考えることができます。

新入社員への教育業務
・内定者研修:内定~入社までの期間の研修
・新人研修(導入研修):入社直後の研修
・フォローアップ:新人研修終了から一定の期間を空けて行う研修
・OJT支援:実務を進めるなかで必要に応じて行う支援

内定者研修や新人研修では、全員を対象としたビジネスマナー研修や経営理念の学習会などを行います。そのうえで、職種に応じて営業研修などの専門的な研修も行うため、すべての研修を実施するためには相応の準備期間が必要です。

また、新入社員の育成を考えるうえでは、一定の期間を設けて定点観測できるようにプランニングすることも大切です。入社後1カ月、3カ月、半年、1年後と定期的に成長度合いを確認できる機会を設け、段階的にスケジュールを設定することで、モチベーションを引き出しやすくなります。

管理職の育成

管理職向けの研修は専門的な内容になるケースが多いので、外部講師を招いて行うこともあります。対象者全員に参加してもらうためには、早い段階での通知が必要であり、スケジュールの調整が肝心です。

外部研修を行う場合は、少なくとも実施予定日の2~3カ月前から委託先の選定を行い、研修内容のすり合わせを進めていく必要があります。また、昇格者に対しては、新たな役職に関する知識やマネジメントスキルを身につけてもらうために、別途で研修を行う必要があります。

昇格のタイミングは社内の規程で決まっているため、それに合わせて研修スケジュールを決定しましょう。管理職や昇格者はすでに多くの業務を抱えているケースが多く、スケジュールを抑えるのに難航してしまう可能性もあります。

そのため、研修などの臨時的な機会を設ける際には、少なくとも1カ月以上前には開催する旨を通知できるのが理想です。

人事担当者に求められる能力


これまで見てきたように、人事部は多岐にわたる業務を担う部署であるため、担当者には幅広いスキルや資質が求められます。ここでは、人事担当者に必要とされる代表的な能力を4つに分けて見ていきましょう。

コミュニケーション能力

人事の仕事を進めるうえでは、さまざまな立場の人と接することとなるため、コミュニケーション能力は必須のスキルといえます。先にも述べたように、人事部門は経営層とも密接にかかわる存在であり、人事戦略などを検討する際には経営陣とコミュニケーションを図る場面もあります。

一方で、現場の担当者や従業員の声も丁寧に吸い上げる必要があるため、相手の意見をきちんとくみ取れる傾聴スキルも必要です。ときには専門外の問題に直面することもあるので、幅広い相手から情報を集め、対等に話せるような能力を磨く必要があるのです。

また、採用担当になれば、「会社の顔」として求職者と直接的にかかわる機会が増えます。さらに、労務管理においては社労士や産業医といった外部の専門家とも連携を図る可能性があります。

社内外の多くの立場の相手と接するため、基本的なビジネスマナーや、異なる立場の相手にもわかりやすく話せる論理的思考力、問題点や共通点を素早く抽出できる概念化能力など、コミュニケーションにまつわる広範な能力が求められるでしょう。

スケジュール管理能力

人事に関する業務には、短期間で完了するものから年単位の長期間で取り組むものまで、さまざまな種類があります。新人研修や求人募集などは年度を超えて行うケースもあるため、的確な「スケジュール管理能力」は必須の能力です。

特に事務作業が集中しやすい繁忙期には、余裕のないスケジュールを立ててしまうと、問題が発生したときに大きな弊害が生まれます。リスクを避けるためには、長期的な見通しを立てて逆算しながらプランを立てられる管理能力が重要となるのです。

また、人事担当者は常に複数の業務を同時に進めることとなるため、「タスク処理能力」も必要となります。特に中小企業は大企業と比べて、1人あたりの担当業務の範囲が広くなりやすいため、スケジュール通りに複数のタスクをこなせる実務能力が求められます。

リサーチ能力

情報収集能力は、人事業務のさまざまな場面で必要とされるスキルです。幅広い業務を担う人事担当者は、トラブルにいち早く対処するためにも、常日頃から社内の状態をきちんと把握しておく必要があります。

そのためには、普段から各部署の責任者や担当者と綿密にコミュニケーションを図り、確かな信頼関係を築いておくことが大切です。また、人材採用や労務管理、ダイバーシティなどに関する業務は、社会情勢や人々の価値観の変化によって、戦略の方向性も柔軟に切り替えていく必要があります。

変化の激しい現代のビジネス環境にあっては、社会の動きや時事問題にしっかりとアンテナを張り、自社に求められている動きを的確に把握することも人事の重要な役割といえるでしょう。特に労務管理においては、労働関係や社会保障関係の法令知識も求められます。

これらの法令やガイドラインは、年度ごとに細かく調整されるケースもあるため、情報の見落としがないようにリサーチしておく必要があります。

経営に関する戦略的な思考

これまで見てきたように、人事戦略を立てるうえでは、経営全体に関する的確な知識と理解も必要となります。人事戦略は経営から独立して立てられるものではないため、担当者には企業のビジョンや方向性を反映できるだけの戦略的思考が求められます。

また、独自性のある人材戦略を立案し、人事面で競合他社との差別化を図るためには、企画構想力も重要なスキルです。従来の人事業務では確実性が優先的に求められてきたことから、どうしても人事部は「守り」に入ってしまうという課題を抱えていました。

現代の人事分野では、基本的な人事機能を維持するだけでなく、「攻め」の姿勢によって競争力を確立することが重要視されてきています。そのためには、確かな経験と柔軟性に裏打ちされた企画構想力がますます求められるようになっていくでしょう。

まとめ

企業において、人事部は「ヒト」を管理する重要な部署です。人材採用や育成、人事評価、労務管理、多様性の確立といった幅広い分野にわたる業務があり、現代ではますますその役割が拡大している面もあります。

さらに、人事戦略を立てるうえでは、経営戦略も正しく理解しておく必要があります。そのため、基本的なタスクを遂行できる能力だけでなく、経営陣とも渡り合える幅広い視点やコミュニケーションスキルも必要です。

それだけに、企業の業績や将来を「根底から支えている」というやりがいも感じられるのが人事部の魅力でもあります。人事の役割や求められるスキルを正しく理解して、自社の人事業務に活かしましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)