人材育成におけるマネジメントとは|上司に必要なスキルや育成のポイントを解説
d’s JOURNAL編集部
近年、社員の人材育成促進を目的としたマネジメントである「人材育成マネジメント」の重要度が高まっています。「どのようなマネジメントスキルが必要か」「マネジメントスキルをどう高めるか」「マネジメントでは、何を意識すべきか」など知りたいマネジメント層の方も多いでしょう。
この記事では、人材育成で必要なマネジメントスキルやスキルを高める4つの手法、マネジメントのポイントなどを解説します。
人材育成におけるマネジメントとは
人材育成におけるマネジメントとは、社員の人材育成を促進させるために行うマネジメントのこと。具体的には、研修をはじめとする人材育成施策の管理や目標設定、育成対象となる社員のマネジメントなどを指します。
人材育成は短期間では成果が出にくく、中長期的に進めていく必要があります。そして、それを成功させるには、人材育成マネジメントを適切に行うことが重要です。
また、人材育成マネジメントは、社員の人材育成だけでなく、仕事へのモチベーションや従業員エンゲージメントの向上にも寄与します。その結果、生産性の向上や他社との差別化、企業の競争力強化などにもつながるでしょう。
人材育成マネジメントの重要度が高まっている背景
人材育成の重要度が高まっている背景としては、「少子高齢化による労働人口の減少」と「専門スキルを持つ人材の需要増加」が挙げられます。
少子高齢化による労働人口減少
近年、少子高齢化による労働人口の減少が進んでおり、慢性的な人材不足に陥っている企業も少なくありません。そうした状況においても成果の出せる組織であり続けるためには、限られた人材(現在の従業員)をいかに成長させていくかが重要とされています。
そのため、自律的に行動でき、生産性の高い人材を育成するための方法として、人材育成マネジメントが注目されているのです。
専門スキルを持つ人材の需要増加
現代は、ビジネス環境や市場、組織、個人などあらゆるものを取り巻く環境が変化し、将来の予測が困難な「VUCAの時代」です。IT技術の進歩や消費者のニーズの多様化などにより、既存の価値観やビジネスモデルなどが通用しなくなってきていることに伴い、企業が求める人物像が変化してきています。
日本企業では従来、幅広い知識・経験を有する「ジェネラリスト」が必要とされる傾向がありました。しかし近年では、ITをはじめとする特定分野に関する専門知識・スキルを有する「スペシャリスト」の需要が高まっています。こうした変化に適応できる人材を養成すべく、人材育成マネジメントに注力する企業が増えてきているのです。
(参考:『【3分でわかる】VUCAの時代で何が変わる?取り残されないための4つのスキルとは』)
加えて、在宅勤務や時短勤務、副業といった「働き方の多様化」により、画一的な人材育成が難しくなってきていることも、人材育成におけるマネジメントの重要度が高まっている一因と考えられます。
人材育成で必要なマネジメントスキル
人材育成において求められるマネジメントスキルは、以下の5つです。
人材育成で必要なマネジメントスキル
●コミュニケーション能力
●コーチング能力
●目標管理能力
●スケジュール管理能力
●フィードバック能力
具体的にどのようなスキルが必要なのか、見ていきましょう。
コミュニケーション能力
人材育成を成功させるには、部下との良好な人間関係・信頼関係を築くことが不可欠です。人間関係・信頼関係のベースとなるのは日々のやり取りであるため、コミュニケーション能力はとても重要なスキルといえます。「自分から情報を伝える」ことに加え、「相手から情報を得る」ことも必要であるため、部下が話しやすい雰囲気づくりを心がけるとよいでしょう。
また、コミュニケーション能力は、現場の声を経営陣に伝えたり、会社が求める人物像を経営陣から聞き出したりする際にも必要とされます。
コーチング能力
コーチング能力とは、相手の潜在的な能力を引き出し、自発的な行動を後押しする能力のこと。コーチングでは対話を通じて相手の気づきを促すため、「人」を対象としたスキルともいえます。
具体的には、部下の話を傾聴した上で問いを投げかけ、部下自身がその問いへの答えを考えるという一連の流れを繰り返します。それにより、部下は問題の本質に気づき、「いかに改善すべきか」を自問自答できるようになります。なお、部下自身が答えを導き出すことが大切であるため、上司からは直接的な答え・アドバイスを与えないよう注意が必要です。
部下一人ひとりが自ら答えを導き出せるようになれば、チームとして成果の最大化も図れるため、コーチング能力はとても重要なスキルといえます。
目標管理能力
目標管理能力とは、組織やチームの進むべき道筋を明示し、そこに向かって進展するための戦略を練る能力のこと。人材育成や部署・チームの成長、ひいては組織の成長のために、不可欠なスキルです。
具体的には、「客観的なデータをもとに現状や課題を正しく認識する力」や「目標と現実のギャップがなぜ生まれているかを考える力」「ギャップを埋めるための現実的な計画を練る力」などが求められます。目標管理能力があれば、予定していた計画からズレが生じた際に計画を柔軟に修正することもできるでしょう。
スケジュール管理能力
上述の目標管理能力とともに必要とされるのが、スケジュール管理能力です。
人材育成計画を円滑に進めていくため、管理職には、計画全体で費やす時間や育成対象者の人数などを想定した上で進捗管理を行うことが求められます。そのため、なるべく最短で最大の成果を上げられるよう、スケジュールを管理できるスキルを有していることが重要です。
具体的には、「部下一人ひとりの進捗把握」や「目標達成に向けたスケジュール調整」「適切なタイミングでの指導・助言・サポート」などを行います。
フィードバック能力
部下のさらなる成長を促すためには、相手の行動に対して評価・指摘し、成長を促す「フィードバック」の実施が効果的です。そのため、人材育成マネジメントでは、フィードバック能力も求められます。部下の行動を公正に評価した上で、成長を促せるような効果的な伝え方ができるとよいでしょう。伝える内容や話し方などによっては、部下を萎縮させてしまう可能性があるため、改善すべき点を伝える際には特に注意が必要です。
なお、フィードバックには、相手の行動について「良かった点」を評価して、肯定的な言葉を伝えることで相手の成長を促す「ポジティブフィードバック」と、相手の行動について「改善すべき点」を指摘して、成長を促す「ネガティブフィードバック」があります。両者では、相手の受け止め方(感情)やフィードバックの「目的」「効果」「注意点」などに違いがあるため、伝える相手や状況によって適切に使い分けることが大切です。
(参考:『ビジネスにおけるフィードバックとは?効果的な手法とポイントを紹介』『ポジティブフィードバックとは|やり方や具体例・4つのメリットを解説』)
マネジメントスキルを高める手法
マネジメントスキルを高める手法としては、「OJTによる育成経験」「eラーニングでの学習」「メンターへの任命」「目標管理制度の実践」の4つがあります。
OJTによる育成経験
OJTとは、職場での実践を通じて、業務に必要な能力を身につけてもらう人材育成手法のこと。育成対象者(部下や新人など)の成長を促す役割を担うOJTトレーナー(育成担当者)には、目標管理能力やコミュニケーション能力などが必要とされます。そのため、OJTトレーナーとして育成経験を積むことは、マネジメントスキルの向上に効果的です。
とは言え、いきなりOJTトレーナーに任命するのは望ましくありません。「指導するのが初めてで、どう教えたらよいかわからない」というOJTトレーナーが出てくる可能性があるためです。OJTを滞りなく進めるためにも、事前にOJTトレーナー向けの研修を行うことをおすすめします。
(参考:『OJTとは?目的とメリット、取り組みの具体例を解説』)
eラーニングでの学習
マネジメントについての理解を深めるには、「リーダーシップ」や「部下育成」「ロジカルシンキング」など多岐にわたる内容を学ばなくてはなりません。こうした知識・スキルは実務経験だけでは習得が難しいため、学習の機会を設ける必要があります。
座学型の集合研修では、参加者全員の時間確保が必要であるため、日程調整に苦慮したり、業務都合により直前で参加できなくなる人が出てきたりすることが考えられます。そのため、インターネット環境さえあればいつでも・どこでも学べる「e-ラーニング」を活用し、空き時間に各自学習を進めてもらうようにすると効率的でよいでしょう。
メンターへの任命
メンターとは、後輩社員の業務やメンタル面の悩みを聞き、相談にのるサポート役のことです。メンターに任命することで、後輩社員にさまざまなアドバイスやメンタル面でのサポートをするようになるため、マネジメントスキルを実践的に学べます。メンターを務めた社員が管理職になったときには、「後輩社員のサポートをした」という経験を部下のマネジメントに活かすことが期待できるでしょう。
ただし、「メンターの業務負担が増える」「メンティ(サポートされる側)との相性によっては、メンター制度がうまく機能しない」といった課題もあります。そのため、「メンターが疲弊しないよう、協力体制を構築する」「メンターとメンティのマッチングを慎重に行う」などの配慮が必要となるでしょう。
(参考:『メンター制度導入のメリット・デメリットとは。 押さえておきたい制度運用のコツも解説』)
目標管理制度の実践
目標管理制度(MBO)とは、社員が主体的に定めた目標をもとにした人事評価制度のこと。社員自らが目標を決めることで、自分自身で行動を定めてスキルアップにつなげることを目的としています。
目標管理制度において、部下の目標を管理する役割を担うことで、「進捗状況の把握」や「状況に応じた指導」「部下へのアドバイス」などさまざまな経験を積めます。こうした経験は実際に部下をマネジメントする立場になった際に活かせるため、目標管理制度の実践はマネジメントスキルの向上につながるでしょう。
(参考:『MBO(目標管理制度)とは?目標設定・振り返り方法など成果が出る運用の秘訣を紹介』)
人材育成のマネジメントにおける4つのポイント
実際に部下の育成を進める際は、以下の4つのポイントを押さえながらマネジメントすることが重要です。
人材育成のマネジメントにおける4つのポイント
●目標達成・成果にこだわる
●自分で考える機会を多く与える
●定期的にコミュニケーションを取る
●部下の成長を諦めない
目標達成・成果にこだわる
そもそも、部下の育成は、部下が仕事で「成果」をきちんと出せる人材となるよう、成長を支援することを目的としています。そのため、「指導すること自体」が目的とならないよう、注意が必要です。
「目標を達成するには何をする必要があるか」「どうすれば、成果を上げることができるのか」というように、目標達成や成果を常に意識しながら、人材育成マネジメントを進めていきましょう。
自分で考える機会を多く与える
上司が部下に対して、一方的な指導・アドバイスを常にしていると、部下が自発的に行動する機会を奪ってしまうことにもなりかねません。すぐに答えを教えるのではなく、部下自身に考えてもらう機会を多く与えることが重要です。
先ほど紹介したコーチングスキルを活用しながら部下に傾聴・質問し、「目標達成・成果のために何が必要か」を部下自身に気づいてもらうことを習慣化できるとよいでしょう。
定期的にコミュニケーションを取る
部下が悩みを抱えていたり、心身の健康状態がよくなかったりすると、人材育成は思うように進みません。そのため、日頃から可能な限りコミュニケーションをとり、部下の様子の変化に気づけるようにしましょう。
上司・部下ともに業務が忙しく、通常の業務中に十分なコミュニケーションをとるのが難しい場合は、対面またはwebによる面談の機会を定期的に設けることをおすすめします。
部下の成長を諦めない
育成が思うように進まないと、焦りや苛立ちから「●●さんの成長は難しい、やっても無駄だ」と諦めたくなることもあるかもしれません。しかし、上司が諦めてしまうと部下は育たなくなってしまうでしょう。
たとえすぐに成果が出なかったとしても、「いずれ必ず、少しずつでも成長する」と部下を信じ、根気強く指導していくことが重要です。併せて、自身のマネジメント方法に問題がないかを振り返ることも大切でしょう。
マネジメントに活かせる企業の導入事例・取材記事
実際、各企業はどのように人材育成マネジメントのマネジメントをしているのでしょうか。自社の施策を考える上で役立つ、企業の導入事例や取材記事を紹介します。
株式会社アクシア
システム開発を行う株式会社アクシアの代表取締役社長・米村 歩社長は、「残業ゼロ」の組織づくりが成功するまでの過程で、マネジメントに関する4つの教訓を得ました。
マネジメントに関する教訓
【教訓1】結果につながらない指摘は、ただの自己満足でしかない
【教訓2】上司が部下に寄り添う1on1は、必ずしも有効ではない
【教訓3】部下の仕事に口出しするのは、自分(上司)の指示があいまいだから
【教訓4】上司は組織図を意識したマネジメントを行うべき
【教訓1】では、「遠慮」と「配慮」の違いに着目。部下の間違いを指摘する際、「遠慮」があってはいけないものの、相手への敬意として「配慮」が必要と気づいたそうです。人に何かを伝えるときに一番重要なのは「結果」であることから、部下の改善を促すためにも、「内容」とともに「言い方」にも気をつけるべきとしています。
【教訓2】については、あえて1on1を実施していません。上司が部下の気持ちに寄り添ってコミュニケーションを取る1on1を採用すると、「上司と部下は友達ではない」という同社の考えとのズレが生じるためです。同社では、1on1を実施しない代わりに、「上司は全ての部下に対して公平に接するべきである」という思想のもと、部下が成果を上げることを目的にコーチングを行っています。
また、上司が部下と接する際に感情が入り込むと、「かわいい部下」「かわいくない部下」という区分けが発生しがちです。実際、同社でもかつてそうしたケースがあり、弊害が大きいと感じたといいます。そのため、現在では、「管理職が部下と個別に食事などに行くのは禁止」「チーム全体での食事会や飲み会のみ可能」というルールを設けています。
【教訓3】に関しては、部下の育成に必要といわれている「権限委譲」を本当の意味でできるよう、長期にわたる仕事については何度か途中で確認はするものの、上司は基本的に口出しせず、部下本人の裁量に任せることを徹底。これは、「権限委譲をしたはずなのに、実際には途中で上司が口出ししていた」という同社の経験を踏まえてのものです。
また、「部下が対応に迷って目標に到達できない」というリスクを回避するため、上司が部下に対し、最初に明確な指示と期待する成果の提示を行うことを徹底。「部下に的確な指示を出すスキル」を管理職の責務として身につけさせ、部下を成長させるよう求めています。
【教訓4】は、指示系統を明確にして、直属の上司以外が勝手に部下に指示をしないようにすることを意味しています。上司のさらに上の立場の人が部下に直接指示を出してしまうと、部下はどちらの言うことを聞けばいいのかわからなくなります。また、「上の人が部下の面倒を見てくれるから、任せておけばいい」という思考回路に陥り、直属の上司が責任を持たなくなってしまうという弊害もありました。そのため現在では、階層を飛び越えて指示を出すことを禁止しています。
(参考:『「こんなマネジメントは失敗する」。反面教師に学ぶ、次世代マネジメント術4選』)
株式会社サイバーエージェント
メディア事業やインターネット広告事業を展開する株式会社サイバーエージェントでは、人事施策を進める上で大事なのは、「ファクトや数字」と「受け手である社員たちの感情」の2つを意識することだと考えています。定量的なデータはもちろん大切ですが、データによって導き出された人事の施策や判断を最終的に受け取るのは、「人」だからです。そのため、社員に施策内容を伝える際や、行動してもらう際には感情に配慮しています。
また、同社では「タレントキャピタル・マネジメント」という考え方を採用。タレントキャピタルとは才能資本のことで、同社では才能がある人を発掘して、採用・育成をしていくことに力を入れています。「人事・採用担当者が入社してくれた社員に興味を持つことは、非常に良い相乗効果をもたらす」との考えから、採用と育成を「採用育成本部」という一つの部署で担うこととしました。
採用育成本部のメンバーが入社後も気にかけてくれることは、社員にとって大きな安心感につながっています。今後は、採用育成本部を通じて、社員の才能の開花を図っていくといいます。
(参考:『人事施策を成功させるための「感情マネジメント」の重要性』)
株式会社エヌグランディール
経営者・管理職向けのコーチングを提供する株式会社エヌグランディールの安保 奈緒美氏は、コーチングを受けている方の多くが「これまでの経験が通用しない、正解のない時代」に危機感を抱く一方、「自らの成長によって部下の成長に貢献したい」と考えているといいます。また、コロナ禍以降、「部下の行動が直接見えないため、進捗管理の難易度が上がる」「メールやチャットのやりとりが増える」などの新たな課題を抱えていると指摘。安保氏は、「文字だけのコミュニケーションは、ミスが起こりやすい」と懸念しています。なぜなら、言葉の定義は、人によって多少の相違があるため、相手の思考パターンによっては、意図したこととは違う意味で受け取られかねないためです。たとえば、「効率重視」の方はコミュニケーションを簡素化しがちなため、部下から「冷たい」「怒っている」と誤解される恐れがあります。
組織はマネジメント層だけで構成されるものではないため、マネジメント層だけの働きによって組織の問題を解決することは不可能であるものの、ある程度の効果は期待できると指摘。コーチングを組織づくりに応用するのであれば、まずは「自分自身」のコミュニケーションスタイルと「伝えたい相手」のコミュニケーションスタイルを知るべきだといいます。具体的には、「現在、相手とどのくらいの頻度で対話しているか」の計測から始めることを推奨。実際、対話の頻度を上げただけで、改善が見られたケースもあったそうです。
また、「感情の介在にも自覚的にならなければならない」と提言。部下を評価する際は、「自分と価値観が近いか」を抜きにして、フラットに判断する必要があるといいます。同様に、相手によってコミュニケーション量が異なるという状況についても、是正を目指すことを推奨しています。
(参考:『【自己分析チェック付】コーチングのプロに聞く。リモートワークで悩むマネジメント層に必要なこと』)
まとめ
人材育成マネジメントでは、上司に「コミュニケーション能力」「コーチング能力」「目標管理能力」「スケジュール管理能力」「フィードバック能力」が求められます。「OJTによる育成経験」や「eラーニングでの学習」などにより、マネジメントスキルを高めましょう。
部下の育成を進める際は、「目標達成・成果にこだわる」「自分で考える機会を多く与える」といったポイントを意識しながらマネジメントすることが大切です。
人材育成マネジメントを効果的に行い、部下の成長、ひいては企業の成長につなげましょう。
(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)
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