つらい時間は必ず終わりが来る、その時間をどう過ごせるかが、しなやかに生きる力になる ~髙田延彦が伝える 立ち直れるヒト・逆境に強い組織づくりのヒント~

髙田延彦

髙田道場主宰・元プロレスラー/総合格闘家

プロフィール

幼いころに野球漬けの日々を送っていた一人の少年は、やがてプロレスの世界に飛び込み、日本中の誰もが知るプロレスラーとなり、数々の名勝負を繰り広げました。その名は髙田延彦。現在は、俳優・タレント活動のほか、子ども向けボランティア体育イベントの開催、セミナー講演などマルチに活躍されています。

そんな髙田氏は、過去「UWFインターナショナル」という会社を設立するなど会社運営にも携わっていました。自身もレスラーとしてプレーヤーとして活躍しつつも、会社や組織を運営していくという難しい局面を経験されています。「失敗や挫折は誰よりも多く経験してきた」という髙田氏は、これまでの経験から「「しなやかに適応して生き延びる対処術(すべ)」を身に付けてきたと言います。

いま、VUCA(ブーカ)(*1)と呼ばれる、あらゆるものを取り巻く環境が複雑化して、予測困難な時代を迎えています。特に、会社や組織、人との関わり方では、適応力やさまざまなストレスや困難からでも立ち直れる力「レジリエンス」が必要とされています。

レジリエンスについて、髙田氏の経験談やアドバイスから、さまざまな観点で学んできた本コラム。最終回は、会社や組織に必要なレジリエンス、「レジリエンス経営」について学んでいきましょう。また、直下のダウンロードページからは、さらにレジリエンス経営について学べるガイドブック資料が無料で手に入ります。ぜひご活用ください。

これまでの髙田氏のコラムはこちらから
■ 第1回:「失敗しても、負けても、いいじゃないか
■ 第2回:「理不尽な状況からは、逃げてもいいが、腐ってはいけない

(*1)VUCA:V(Volatility/変動性)、U(Uncertainty/不確実性)、C(Complexity/複雑性)、A(Ambiguity/曖昧性)の頭文字をとった言葉。もともとは軍事用語だったが、変化が激しく先行き不透明な社会情勢を表す言葉として、2010年代以降ビジネスにおいても用いられるようになった

日本全体に広がる「失敗したくない」はレジリエンスを育くまない

こんにちは。髙田延彦です。

私は過去、「UWFインターナショナル」という団体の会社を設立して、社長として運営に携わっていました。人生初の会社経営です。

企業や組織はよく生きているものに例えられるほど、変化していく存在だと思います。グローバリゼーション、競合の台頭、DX、SDGs、戦略、採用、マネジメント――。会社や組織を率いていく方にはさまざまな悩みや課題が付きものでしょう。

いちプレーヤーとしてビジネスを行っていく分には、必要最低限自分のことだけに集中していればよかった。ところが会社や組織のリーダーになってくると、全体の流れやお金の流れ、組織されたメンバーのコンディションなど把握しなければなりません。

成長や拡大していく会社や組織というのは、当たり前ですが活気があります。いわゆる場の空気感が爽やかで良い。雰囲気が明るいわけです。そのような環境をつくることが組織のリーダーには求められるものです。良いパフォーマンスを発揮しているメンバーが多い組織は、リーダーの質も良いのです。

ここで組織のリーダー論を語ってしまうと、誌面(字数)の多くを割くのでここでは割愛します。本コラムのテーマである、「レジリエンス」について絞ると、レジリエンス経営というキーワードが浮かび上がってきます。そこに絞ってお話ししましょう。

ここで唐突に皆さんに問いますが、この日本社会の構造は変化や成長に乏しく、少々固定的だとは思いませんか?よく言えば思慮深く保守的でありますが、この変化の激しい社会情勢においてはその慎重さにもどかしさを感じる方も少なくありません。皆さんの所属されている会社や組織はどうですか?

私は会社経営の経験から、この原因は日本人が持つ独特の性質によるものだと思っています。例えば、すでにあるレールから外れないように慎重に進もうとする経路依存性の強さ、「失敗したくない気持ち」とも言えますね。

あるいは、同質性に基づく組織マネジメント。思い切った発想の下推進していこうということではなく、同じような先例やケースモデルから自分たちのやり方に当てはめていこうとする志向性です。ほかにも、過去の成功例や現状の積み上げに基づく計画しか立てられず、例えばOODALoopなど新しいフレームワークの活用や、これまで試したことがなかったビジネスモデルへはなかなかチャレンジできない風潮なども考えられます。

これら全ては、変化に対応できない、あるいはしたくない人たちによって固定化されてしまった、日本独自の風土によるところかもしれません。1本の木を思い浮かべてみてください。たとえ太くて固い幹の木に見えていたとしても、ある方向から力をかけると簡単に倒れてしまうこともあります。しかし柳のようなしなやかな枝や幹をした木であれば、いろいろな方向から力を加えてもなかなか倒れづらかったりするものです。

かつてUWFインターナショナルという会社で、多くの仲間とともに苦難を経験し、挫折し、そして乗り越えてきました。残念ながら会社は解散してしまいましたが、ここで培った経験に「はね退ける力」「立ち上がる力」があったことは言うまでもありません。あらゆる負荷やストレスにしなやかに対応できること、これもまたレジリエンスであり、こうした力は個人だけでなく、会社や組織も身に付けていけるものです。


レジリエンス経営に向けリーダーが果たすべき4つの役割

それでは変化に強い組織を目指すために、リーダーが果たすべき役割にはどのようなことが考えられるでしょうか。

■ 1:組織のビジョンや目的を明確化する

まず1つは、会社や組織に必要な目的やミッション、ビジョンをしっかりと明確化して、関わる全メンバーと共有・浸透させることです。よく会社は乗り物に例えられることが多いですが、さまざまな人を乗せた乗り物の行先や存在意義をしっかりさせなければ乗組員は不安になります。だからこそ、ちまたで言われているようなビジョンやミッション、その価値などをしっかり定める必要があるのです。

■ 2:「個人」の力を有効活用する

そして次に、個の活用が大事です。いわゆる人材の活用です。昨今では、ダイバーシティー&インクルージョンと言われ、性別、年齢や、ライフスタイル、価値観などにとらわれず「多様性」を重んじていこうという考え方が浸透しつつあります。アンコンシャスバイアスによる人を決め付けで人を判断してもダメですね。多様性の解釈を間違うと、小さな分断が生まれてしまいます。こうした小さなすれ違いから”働かないおじさん”が生まれたり、女性の活躍推進の妨げになったりするのです。

ですから、多様性を重視つつも、これまでの固定概念を取り払ってくれるような考え方を持った人物、会社や組織の風土に合わないだろうと思うような人物こそ、登用したり、採用したりするべきです。それが組織に成長する力を生み出すのです。

ちなみにこうした人物を採用しようとした場合、私なりの見極めのポイントがあるので、皆さんにもお伝えしましょう。1番のポイントは、本番に強い人を探すことです。かつて私はヒクソン・グレイシーという格闘家と戦い、敗退しています。先のコラムでも伝えましたが、相手に飲まれてしまった以上に自分のペースを確立できなかったことで、終始イニシアチブを相手に奪われてしまったことが敗因です。

本番に強い人というのは、最初から最後まで自分のペースを崩しません。自分のペースを守れる人は、普段から準備や自分のコンディションを整えている人です。ですから、商談の件数をこなしている、普段のルーティン活動がある、という場数を踏んでいる人は強いのです。

また、いくら準備をしていても面接の場で緊張してしまう人も少なくありません。そうした方は自己アプローチ不足で選考から外れてしまう可能性が高いと思います。私自身も大舞台であれば、多少なりとも緊張はします。しかしながら、極度の緊張は自らのパフォーマンスを下げることにもつながってしまいます。上記でも述べたように、そうした方にも多様性を秘めている方はいるかもしれません。

自社で「多様性」を重視して採用したいのなら、そうした方々もしっかり見極める必要があります。格闘技の試合でも、明らかに実力差がある選手に対して、当初の予想を覆し番狂わせのような結果で勝ち上がる選手がいます。それは、本番の中で1点突破の何かを見極めた人です。

スキルや経験が不足していると感じても1つでもきらりと光るアプローチを見せたときは、それがたとえ面接官の勘であっても、組織のレジリエンスを高めてくれるような人材なのかもしれません。

話が面接に逸れてしまいましたが、リーダーが果たす役割のうち残りの2つにも言及しておきます。

■ 3:新しいテクノロジーや試みで変化に強くなる

まず新しいテクノロジーなどを活用したビジネスの変革、つまりDXです。これはデジタルに限った話ではなく、新しい試みを行って常にビジネスシーンに変革を起こすことです。UWFインターナショナル経営時代は、ここまでの大胆な施策は取れなかったと思います。

それでも当時、地上波のテレビ放送権料ありきのビジネスモデルだったプロレス団体において、この会社はそのモデルを踏襲しなかった。集客力の高いマッチメイクを企画・提供して、その興行収入で売上を上げていこうというのがUWFインターナショナルの主なビジネスモデルでした。

このとき「集客につながることは積極的に、まずアクション」を経営ビジョンに掲げていましたので、メンバー一丸となって、当時のプロレス団体では唯一無二の会社になっていったことは確かです。こうした中で次世代のエースもUWFインターナショナルから生まれていきました。

このようなビジネスの最後には「新日本プロレスVS UWFインターナショナル」(*2)という企画が生み出され、興行的に成功を収めました。会場は東京ドーム。当時のドーム観客動員数の新記録(6万7,000人/主催者発表)を打ち立てています。

既存の方法を試すことは安全な道であり、安心を得ることができますが、イノベーションを起こせるまでには到達できません。変化に強い市場や情勢には対応できない。いろいろなプレッシャーやストレスに強くなり進んでいくためには、変化を恐れずにいるしかないというわけです。そこに解があります。

(*2)新日本プロレスVS UWFインターナショナル:新日本プロレスとの合同興行により、1995年10月9日東京ドームにて開催。「激突!!新日本プロレス対UWFインターナショナル全面戦争」と題して、当時は日本プロレス史上最大の団体対抗戦と呼ばれた。メイン試合は「IWGPヘビー級選手権試合 武藤敬司 VS 高田延彦」

■ 4:将来のリスクを予測してそれに備える

最後の4つ目ですが、これは上記の3要素を含んだお話になりますが、個人も組織も多様なリスクに対して迅速に対応する備えをつくっておくことが求められます。わかりやすく分類すると、経営、災害、労務、法務、財務といったところでしょうか。運営の手段としてこれらはリスクマネジメントとして対策できますが、対人となると少し話は複雑です。

例えば、コロナ禍対策としてリモートワークの導入を進めたはいいが、コミュニケーション不足からオペレーションがうまくいかず生産性が下がってしまったなどはよく聞く話ではないでしょうか。そのためにも普段から「有事下のオペレーションをどうするか」という議論が持ち上がりますし、そうした対策とトレーニングが実践できるでしょう。個人でも、例えば思わぬ取引先とのトラブルに遭遇してしまったとしても、普段から備えておけば組織として対応ができます。

ですからレジリエンスのトレーニングを積むことは大事ですし、先ほどの「自分のペースを崩さず対応する」にもつながってくるのです。もちろん経営者やリーダーばかりがストレス耐性を高くしていてもよくありません。レジリエンスは組織、リーダー、人材の3軸でトレーニングしていくべきです。


明けない夜はない、ゴールは必ず来ると信じること

最後に皆さんにメッセージがあります。

私はこれまでヒクソン・グレイシーとの世紀の対戦で敗退したり、会社を解散させてしまったり、「出てこいや」のフレーズを世に発したりと、数々の経験をしてきました。その時その時で、悩み、苦しみ、打ちひしがれたりしました。しかしその度毎に違いはありましたが、思い切り落ち込むときは落ち込んで次に備えたり、明るいことを考え動き出したり、そしてさまざまな方向から活路を見出してきました。

人は必ず転びます。でも体は反射的に立ち上がろうとします。これは生きる本能のようなもの。

失敗したり、転んだりすると周りの視線が気になって恥ずかしい思いをするでしょう。しかし、恥ずかしいと思ってその場で転んだまままでいるのは時間がもったいない。時間は有限で、限られています。私は先のコラムで「人生は回転寿司に似ている」と伝えましたが、その場で足踏みしていると良いネタはあっという間に流れてしまいます。時間は掛かってもしっかり立ち上がってその時に流れているネタを取りに行くべきです。

また失敗を恐れてしまうばかりに、新しい挑戦にも奥手になってしまいます。私は50代でかつて対戦相手だったヒクソンの格闘技、柔術を学んでいます。そこに恥ずかしさはありません。変化しようとする心があれば年齢や組織の状態は関係がないのです。何か行動すれば何かが変化していきます。後はほんの少しの勇気だけなのです。

いまつらいとき、現実に転んで立てなくなっている人もいるでしょう。しかし転んで倒れている時間も無駄ではありません。それは次の自分や組織をつくる時間になります。すぐに起き上がっても、転んだままでいてもゴールは必ずやってきます。大事なのは、備えることです。

組織やチームを引っ張るトップやリーダーたち。周りを叱咤(しった)激励するだけではメンバーはあなたに付いてきません。たまには自分に対するご褒美を上げて、自分自身をご機嫌な状態にしてあげてください。あなたの幸せや楽しいという感情は周囲にも波及して、良い影響を与えます。高パフォーマンスを発揮する良い組織はこうして生まれるからです。

ありきたりですが、逆風や逆境は新しい自分や組織に出会えるチャンスなのです。皆さん、学ぶことを止めないで、楽しんで進んでいきましょう。


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企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、撮影/シナト・ビジュアルクリエーション、制作協力/株式会社レプロエンタテインメント

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