ノーレイティングとは?従来の評価制度との違いやメリットを解説

ノーレイティングとは?従来の評価制度との違いやメリットを解説

doda人事ジャーナル編集部

「ノーレイティング」とは、一般的な評価制度とは異なり、従業員をランク付けせずにより柔軟な尺度で評価する制度を指します。近年では多様な人材を活躍させる仕組みとして、ノーレイティングやそれに類似する制度を導入する企業も増えています。

今回は、ノーレイティングと従来の評価制度との違いについて、さまざまな観点から詳しく見ていきましょう。また、自社に導入するメリットや導入のためのプロセスも併せてご紹介します。

ノーレイティングの考え方を理解した上で、自社の評価運用も整理したい場合は、以下の人事評価シートテンプレートをご活用ください。記事で制度の全体像をつかみながら、評価項目や目標管理の整理にお役立ていただけます。

ノーレイティングとは

「ノーレイティング」とは、従業員一人ひとりに対し、半期~四半期ごとのA・B・Cなどのランク付け(レイティング)を行わない人事評価制度のことです。

ランクを付けない代わりに、定期的な頻度(週に1回~月に2回程度)のフィードバック面談を実施し、対話を通じて成果や行動を評価します。短いスパンで評価やフィードバックを行うため、従業員一人ひとりに合わせた細かなフォローを行える点が強みです。

レイティング(年次評価)との違い

ランク付けを基に人事評価を行う、従来の評価方法が「レイティング(年次評価)」です。レイティングとノーレイティングの具体的な違いについては、以下の表をご覧ください。

【レイティングとノーレイティングの違い】

レイティング ノーレイティング
評価や目標設定の頻度 半年に1回~年に1回 週に1回~月に2回
評価基準 ●営業成績などの結果のみが対象
●相対的なランク付けを行う
●結果だけでなく、仕事の過程も含めて評価する
●相対的なランク付けを行わない

上記の通り、レイティングとノーレイティングは、ランク付けの有無だけでなく、評価や目標設定の頻度のほか、評価基準の対象も異なります。

ノーレイティングの基本的な仕組み

ノーレイティングでは、定期的なフィードバック面談で、そのときの状況に応じて、目標を都度設定します。面談の場では、評価者である上司と被評価者である部下のコミュニケーションを深めながら、目標の達成状況の確認やフィードバック、相談などを行います。

フィードバック面談を通じて、部下のリアルなはたらきを把握できるため、レイティングを行わずに評価が可能なのです。

ノーレイティングに関する誤解

ノーレイティングに対するよくある誤解として「人事評価を行わずに、従業員の待遇を決める制度だ」といったものが挙げられます。

しかし、ノーレイティングはあくまでも「従業員をランク付けしない」人事評価制度であり、評価そのものは行います。ランク付けを行わずに、一人ひとりのはたらきを多角的に見て、待遇を決める際の判断材料として用いる仕組みです。

ノーレイティングでランク付けを行わない理由は、序列化による従業員間の不公平感やモチベーションの低下を防ぐためです。フィードバック面談の内容を基にした評価を行うため、「人事評価をせずに待遇を決める制度」ではないことを念頭に置きましょう。

人事評価の基本的な考え方や目的を改めて整理したい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『人事評価とは?意味や目的、課題と対応策を解説』)

ノーレイティングの給与(報酬)の決め方


ノーレイティングでは序列や点数を用いず、目標達成や貢献度、責任範囲などを総合評価して給与を決定します。一例としては、部門ごとに昇給予算を割り当て、マネジャーが個々のメンバーの成果・役割・市場水準との乖離(かいり)を踏まえて配分するという方法があります。

評価者の意思で従業員の給与が決められるため、評価者には大きな責任が発生します。しかし、対話に基づく評価根拠の明確化をして、総合的な判断を行った上で給与が決められるため納得感が得られやすいというメリットがあります。

従来の人事評価制度の課題点

ノーレイティングが生まれる前の、従来の人事評価制度であるレイティングには、以下の問題点が挙げられます。

【従来の人事評価制度の課題点】
●個性のある従業員の業績が評価されづらい
●従業員のモチベーションが高まりにくい
●従業員の成長が阻害されるケースがある
●評価にタイムラグが生じる

ここでは、従来の評価制度にどのような課題があるのか、具体的に見ていきましょう。

個性のある従業員の業績が評価されづらい

従来の人事評価制度であるレイティングでは、画一的な基準に基づいて相対的な評価が行われるため、個性のある従業員の業績が正しく評価されにくいという課題がありました。

そのため、いくら突出しているスキルがあったとしても、全体で見ると評価が低くなってしまう可能性があります。

現代のビジネス環境では、企業を取り巻く状況が目まぐるしく移り変わっており、過度に画一的な組織では変化に対応できなくなるリスクが高まります。新規事業を立ち上げたり、サービスの転換をしたりするためにも、既成概念にとらわれない独自の視点を持った「尖った」人材は欠かせません。

しかし、こうした人材は従来の評価制度では正当に評価されず、結果的に離職につながる恐れがある点が大きな課題となっています。

従業員のモチベーションが高まりにくい

従来の人事評価制度では、従業員のモチベーションが高まりにくいという課題もありました。レイティングでは、「どのランクに何人の従業員がいる」「それぞれのランクに何人の従業員がいるべき」といった前提で評価をします。

仮に5段階のレイティングを行った場合、そうした大多数の従業員の評価は「B評価」や「C評価」といった中間的なものに集中します。中間的な評価では、企業から自分がどのように期待されているのかを実感することが難しいため、従業員のモチベーションも高まりにくくなってしまうでしょう。

(参考:『モチベーションマネジメントとは?従業員の意欲を引き出すポイントを紹介』、『定着率とは?計算方法や低い企業の特徴・向上させるための方法』)

従業員の成長が阻害されるケースがある

従来の人事評価制度では、従業員の成長が阻害される場合もあるという課題があります。同志社大学商学部の鈴木良始教授の研究では、レイティングを行うことで従業員の心理的安全性を低下させる可能性があると指摘されています。

例えば、業績に基づいた厳格な評価制度の下では、従業員は常に上司からの評価を気にしたり、仲間に対して過剰な競争意識を抱いてしまったりする弊害が起こるでしょう。

その結果、「失敗を恐れて挑戦しない」「他者の成功を脅威に感じる」といったマイナスの思考パターンが形成され、パフォーマンスの低下につながる恐れがあります。

また、過度に競争意識が働けば、同僚へのねたみや批判によって、組織運営に支障を来す可能性もあるでしょう。

(参考:鈴木良始氏『アメリカ企業における業績評価制度の変革運動(ノーレイティング)とその背景』)

評価にタイムラグが生じる

従来の評価制度の大きな課題として、評価のタイムラグが挙げられます。レイティングは通常、期末や年度末といったタイミングで、過去の出来事を振り返りながら行われます。

そのため、評価結果は「今の自分」への評価ではなく「少し前の自分」への評価となる点が特徴です。評価がワンテンポ遅れてしまうことで、リアルタイムなフィードバックが行われず、評価に納得感が得られにくいといった弊害が生まれる可能性もあるでしょう。

ノーレイティングが注目される背景


ノーレイティングが注目される背景には、従来の人事評価制度のさまざまな弊害を解消できることが挙げられます。具体的な弊害の例として、以下のものが挙げられます。

【従来の人事評価制度の主な弊害】
●相対的評価であるという弊害:評価が相対的なものであるため、従業員の間で不公平感を抱きやすい。
●リアルタイムで評価できない弊害:従来の年次評価の仕組みでは、従業員の取り組みや姿勢を評価するまでに時間がかかり、モチベーションの低下を招く恐れがある。
●競争力の低下を招く弊害:ビジネス環境の変化と評価のスピードに差が生じ、人材育成などが遅れることから、結果として競争力の低下を引き起こしてしまう。

このように、従来の評価制度には現代の環境に合わない側面が出てきたことから、ノーレイティングへの注目度が高まっていると考えられます。

ノーレイティングを導入する4つのメリット

人事評価にノーレイティングを導入することで、組織運営には4つのメリットが生まれます。

【ノーレイティングを導入する4つのメリット】
1.外部環境の変化にうまく対応できる
2.人材育成を促進できる
3.従業員のモチベーションや定着率を向上させられる
4.柔軟なはたらき方に対応しやすくなる

1.外部環境の変化にうまく対応できる

ノーレイティングを取り入れる大きなメリットは、外部環境の変化に柔軟かつスピーディに対応できる点にあります。ノーレイティングでは、月に数回の頻度でフィードバック面談を行うことが基本です。

通常よりも細かな頻度で行われる面談を通じて、速やかに現状を把握・分析し、必要があれば軌道修正を行うことも可能です。

例えば、事前に策定されたKPI(最終的なゴールを達成するために設定する中間的な目標)が現状に合わなくなってしまった場合でも、年次評価と比べてすぐに目標の見直しを行えるため、より最適なゴールを設定できるようになります。

このように、急激な環境の変化にも後れをとらず、臨機応変に乗り越えていける点がノーレイティングの重要な利点です。

2.人材育成を促進できる

ノーレイティングには、効果的な人材育成を促進するという側面もあります。なぜなら、従来のレイティングによる評価よりも高い頻度で面談を実施し、目標設定とフィードバックの機会を設けられるためです。

短いスパンでフィードバック面談を実施することにより、従業員が今取り組んでいることに対してリアルタイムで評価を行えます。結果、被評価者となる従業員は「自身の成長に必要なことは何か」を都度意識できるようになるため、成長へとつながるのです。

また、現在の状況に合わせて目標を設定するため、従業員自身が納得感を抱いて業務に取り組むことができるでしょう。

3.従業員のモチベーションや定着率を向上させられる

ノーレイティングでは、従業員一人ひとりの実情に合わせて、納得感を得やすい評価を行えるため、評価を受けた従業員のモチベーションが向上や自社に定着してくれることなどが期待できます。

従来のレイティングによる評価では、他者と比較されることへの心理的ストレスや不公平感が生じ、意欲を削ぐ要因になるケースが少なくありませんでした。その点、ノーレイティングは個々人の具体的な取り組みや成長プロセスが評価されるため、従業員は自身の待遇に対して高い納得感を得やすくなります。

このように評価への納得感が醸成されると、仕事に対する自発的なモチベーションが引き出され、組織へのエンゲージメント(帰属意識)も深まります。その結果として離職のリスクが低減され、中長期的に活躍し続ける人材の定着率向上へとつながることが期待できます。

評価制度の見直しと併せて、従業員エンゲージメント向上の施策を検討したい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『従業員エンゲージメントとは|効果的な取り組みと事例・向上のメリットを解説』)

4.柔軟なはたらき方に対応しやすくなる

近年は、リモートワークや時短勤務など、はたらき方が多様化しつつあります。ノーレイティングを導入していれば、多様なはたらき方にも柔軟に対応し、基準を大きく見直すことなく評価できます。

従来のレイティングは、同じ条件下にいる社員同士を相対的に評価することを前提として設定されることが多いです。そのため、はたらく場所や時間が異なる従業員が混在すると評価基準の調整が難しく、その都度ルールを見直す必要がありました。

対して、ノーレイティングは個別の目標達成度やプロセスにフォーカスするため、本人が置かれた状況に即した評価軸をその都度設定できます。たとえ、はたらく環境が変化しても、制度の根幹を揺るがすことなく公平性を維持できるのです。

また、日頃から定期的なフィードバック面談を行うことで、個々のライフステージやスキルの変化をリアルタイムに把握することにつながります。個別の事情に寄り添いながら期待値を擦り合わせることで、どのようなはたらき方を選択していても、納得感のある評価を実現しやすくなります。

ノーレイティングを導入する3つのデメリット


ノーレイティングにはさまざまなメリットがある一方で、いくつか注意しなければならないデメリットもあります。

【ノーレイティングを導入する3つのデメリット】
1.管理職に高いマネジメント力が求められる
2.定期的な面談の時間を確保する必要がある
3.新しい制度に戸惑う場合がある

ここでは、次の3つのポイントに分けて、ノーレイティングのデメリットについて解説していきます。

1.管理職に高いマネジメント力が求められる

ノーレイティングを導入する上では、上司には通常よりも高度なマネジメント能力が求められる点を意識しておく必要があります。部下の個性や特性を正しく理解し、適切に評価していくためには、業務に関する幅広い知識と経験が求められます。

例えば、「これまで評価されていなくても、この先に必要性となるスキル」を見極めるためには、事業全体を見通せる視野も必要です。さらに、自分にとって都合のよいメンバーや性格の似ている部下ばかりをひいきしないためには、客観的な判断能力や謙虚さといった人間力も求められるでしょう。

このように、評価する側に高いマネジメント能力が求められるため、業務負担の軽減や研修の実施、適性の見極めが必須のプロセスとなります。

また、「給与に関する責任を負う」という精神的な負担も発生するため、場合によっては上司側の精神的なケアも必要となるため、産業医などの外部サポートを受けられる体制を構築しておくと良いでしょう。

(参考:『人材育成マネジメントとは?必要なスキルや効果的な手法、導入事例も解説』)

2.定期的な面談の時間を確保する必要がある

ノーレイティングを実施するにあたっては、定期的な面談を実施する必要があります。しかし、それに伴い評価者となる上司の負担が増える点はデメリットといえます。

具体的には、部下が3人いるチームで1人30分の面談を週1回行う場合、月間で計6時間程度の対話時間を要することになります。

特に、評価対象の部下が多いほど、上司の時間的な負担は増えるため、チームの実情に合わせて導入の可否や面談の頻度などを検討する必要があります。

3.新しい制度に戸惑う場合がある

ノーレイティングを導入する際には、新しい評価制度が組織に与える影響や混乱なども想定しておく必要があります。従来の人事評価制度と比べて、面談の目的や頻度、評価と給与・待遇の関係性が大きく変わってしまうため、一時的に組織へ混乱を招く可能性は否定できません。

導入する際には、丁寧に仕組みの周知徹底を図り、組織としてのミッションを明確に伝えておく必要があります。また、負担が増えてしまうメンバーや変化についていけないメンバーについては、それぞれの意見を拾い上げながら調整していくことも大切です。

ノーレイティングが向いている企業・向かない企業

ノーレイティングは組織にさまざまなメリットをもたらす評価方法ですが、企業によって向き不向きがあります。以下では、ここまで解説した内容を基に、ノーレイティングに向いている企業と向いていない企業の特徴をそれぞれ解説します。

ノーレイティングが向いている企業

既存のレイティングに限界や課題を感じている企業は、ノーレイティングの導入を検討する価値があるでしょう。一律の基準で従業員同士を比較するのではなく、短いスパンでのフィードバック面談を通じて個々人のはたらき方を細かく評価し、一人ひとりの状況に沿った目標を設定するため、従業員に効率的な成長を促せます。

また、ノーレイティングではそのときの状況に応じて目標を設定できるため、ビジネス環境や市場の変化が速い企業にもお勧めです。その都度、状況に即した目標を設定し、直近のパフォーマンスをリアルタイムで評価できるため、年に1~2回の評価よりも、より従業員の納得感を得られる可能性が高まります。

ノーレイティングが向かない企業

評価者となる上司が多忙で、定期的なフィードバック面談の時間を設けることが難しい企業は、ノーレイティングの導入に向かないことが考えられます。

ノーレイティングでは、レイティングよりも高い頻度でフィードバック面談を実施し、その都度評価や目標設定を行う必要があるため、フィードバック面談の実施が難しい場合はなかなか成立しない可能性があります。

また、現在のレイティング制度において組織的な課題が特になく、評価制度が安定して運用できている企業も無理にノーレイティングに移行する必要はないでしょう。既に完成された評価制度を大幅に変更することで、かえって従業員の間に不要な混乱を招く可能性があるからです。

自社の評価制度や従業員の満足度を冷静に見極めた上で、導入の是非を判断することが重要です。

ノーレイティングの導入方法と手順


ここでは、ノーレイティングの導入方法を紹介します。以下の手順に沿って、準備を進めましょう。

【ノーレイティング導入の全体像】
STEP1.課題の分析・整理
STEP2.導入目的を明確にする
STEP3.信頼関係の構築
STEP4.管理職の意識改革
STEP5.運用設計を決める
STEP6.制度設計を決める
STEP7.従業員への周知
STEP8.ノーレイティングの導入
STEP9.決定権の委譲

STEP1:課題の分析・整理

まずは現状の人事評価制度の課題点を洗い出し、「そもそも自社はノーレイティングを導入すべきか」を判断します。

なぜなら、上述したように、「レイティングに課題を感じている」「環境や市場の変化が速い」などといったノーレイティングが向いている企業と「管理職が面談の時間を確保できないほど多忙」「レイティングを安定運用できている」などの向いていない企業があり、ノーレイティングの導入によって解決できる課題は限られているためです。

現状分析を行った結果、例えば「レイティングによって、従業員間で不公平感が出ており、不満につながっている」「評価内容に対する納得感が薄い」といった課題が浮き彫りになった場合は、ノーレイティングの導入に向けて次のステップに進みましょう。

STEP2:導入目的を明確にする

分析した課題が、ノーレイティングの導入によって解決が見込めると判断できたら、導入の目的を整理します。目的を明確にすることで、導入後の効果測定や内容の見直しを高い精度で行えるようになるためです。

導入の目的は、「従業員の育成」「モチベーションの向上」など、ノーレイティングのメリットと自社の課題を結び付けて考えましょう。

STEP3:信頼関係の構築

ノーレイティングを実行するには、何よりも上司と部下の信頼関係が欠かせない土台となります。部下が上司のことを信頼していなければ評価への納得感が生まれないため、うまく効果を発揮させられないばかりか、かえって不信感を招く原因にもなり得ます。

そのため、まずは上司と部下との間で信頼関係が構築できるように1on1ミーティングなどを実施しながら様子を見ることが大切です。

1on1ミーティングの進め方について詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『1on1ミーティングとは?目的や効果、導入する方法と進め方を解説』)

STEP4:管理職の意識改革

続いて、評価を担当する上司や管理職者を対象に、意識改革を進めていきます。前述のように、ノーレイティングでは高度なマネジメント能力が求められるため、個人の資質や経験に頼るだけでは不十分なケースも多いです。

意識改革の具体的な方法としては、管理職向けの研修の実施や360度評価の導入などが挙げられます。研修では同業他社の事例などをケーススタディとして取り上げ、自社にどのような課題があるかを考えてもらうと、意識改革につなげやすいでしょう。

また、360度評価の導入によって、ほかの管理職の意見や考えなどに触れる機会が生まれ、より広い視野で人事評価を行ってもらうことが期待できます。ノーレイティングの仕組みを導入することで、自社の課題解決につながることを管理職に理解してもらいましょう。

STEP5:運用設計を決める

ここまでの準備を済ませたら、いよいよノーレイティングの実施内容を本格的に決めていきます。例えば、以下の内容を決めると良いでしょう。

【ノーレイティングの運用にあたり決めたい内容】
●いつから導入するか
●導入の準備期間はどの程度設けるのか
●導入に伴い、変更しなければならない社内制度はあるか
●どの程度の頻度でフィードバック面談を実施するのか
●評価内容をどのように待遇に反映するのか
●評価者の負担増をどのように解消するのか
●効果測定はどのように行うのか

上記の内容を具体的に決めなければ、ノーレイティングを導入しても十分な効果を発揮しない可能性があります。細部まで内容をよく考え、入念な準備を行いましょう。

STEP6:制度設計を決める

ノーレイティングの運用方針が決まったら、従業員の成果や貢献を可視化する表彰制度を構築します。

なぜ表彰制度が必要なのかというと、ノーレイティングではランク付けを行わない関係上、たとえ高い評価を得ていても、従業員自身がその事実を実感しにくいことがあるためです。自身の評価を対外的に示せる表彰制度があれば、その課題を解決できます。

具体的には、以下のような例が挙げられます。

【高く評価されている従業員への表彰制度の例】
●社内報や全社会議で発表する
●特別休暇や報奨金などのインセンティブを付与する
●従業員同士で貢献に感謝する「サンクスカード」を送り合う

運用の実現性や自社の実態と照らし合わせた上で、適切な評価制度を設計しましょう。

STEP7:従業員への周知

制度の設計が完了したら、対象となる従業員に対し、ノーレイティングを導入する旨を周知します。従業員の理解を得られないまま新しい制度の運用を始めてしまうと、不安や不信感につながる恐れがあるため、事前にしっかりと説明することが大切です。

例えば、全社説明会を実施して、ノーレイティングに関してわかりやすくまとめた資料を配布し、質疑応答コーナーを設ければ、概要を十分に伝えられるでしょう。また、導入後もアンケートを実施するなどの方法で適切なフォローを行う必要があります。

従業員目線を想像し、「どのような制度であるのか」「従業員にとって、どのようなメリットがあるのか」を丁寧なフォローとともに伝えましょう。

STEP8:ノーレイティングの導入

従業員へ十分に理解が広がったら、ノーレイティングを実行します。実際に導入してみてから課題点が見えてくることも多いため、不都合が生じたときには、柔軟に制度を見直していくことも重要です。

また、各種研修の実施やコミュニケーションツールの導入を進め、制度がスムーズに機能するような環境を整えることも大切です。

STEP9:決定権の委譲

評価と処遇をひも付けるためには、上司や管理職などの担当者に報酬や昇進などに関する権限を徐々に委譲していく必要があります。

ノーレイティングは、従来のように組織全体で一律の評価基準を設けるというわけではありません。委譲する権限の範囲は、組織の状況によっても異なるため、事前に話し合っておくことが大切です。

評価項目や運用の考え方を整理したい場合は、以下の人事評価シートテンプレートもご活用ください。記事でノーレイティング導入の考え方を確認しながら、資料では評価の観点や目標管理の整理に役立てられます。

ノーレイティングの導入で失敗しないポイント


ノーレイティングを導入するにあたっては、失敗に終わらないために、以下のポイントを押さえましょう。

【ノーレイティングの導入で失敗しないポイント】
●自社に適しているか事前に判断する
●段階的に導入していくことを検討する
●管理職向けの研修を実施する

自社に適しているか事前に判断する

ノーレイティングを導入する前に、まず「そもそもノーレイティングは自社に適しているのか」をよく検討することが大切です。なぜならノーレイティングは、全ての企業に必ず合う制度ではないためです。特に、以下の3点は確認しておくことが望ましいです。

【ノーレイティングの導入にあたって確認したいポイント】
1.従来の制度のほうがなじみ深く、相性が良い可能性はないか
2.評価者のマネジメントスキルや、フィードバックの対応力は十分か
3.新しい制度を前向きかつ柔軟に受け入れられる企業風土かどうか

ノーレイティングは、評価する側にある程度の余力と経験があり、評価される側に柔軟性や前向きさが備わっている場合に、初めて成り立つ制度といえるでしょう。そのため、導入そのものが適しているのかどうか、自社の状況を把握した上で検討したいところです。

段階的に導入していくことを検討する

ノーレイティングはいきなり導入するのではなく、段階的に移行していくことを検討するといいでしょう。特に、ノーレイティングの核となるフィードバック面談は、適した頻度・内容で行えるかどうかが非常に重要なので、テスト的に実施してみて判断すると良いでしょう。

また、従業員によってはノーレイティングが適していない可能性もあるため、「本当に自社に必要な制度なのか」「従業員の理解を得られるのか」を見極める期間は重要です。

ノーレイティングを段階的に導入するためには、例えばまずはフィードバック面談の回数を増やし、上司と部下の信頼関係を深める期間を設けるという方法があります。両者の距離が縮まることで、評価に対する納得感が得られやすくなる可能性もあるでしょう。

管理職向けの研修を実施する

ノーレイティングの成功は、管理職のスキルアップが鍵を握るといっても過言ではありません。そのため、管理職に向けた研修を定期的に実施する必要があります。
研修の具体例としては、以下の内容が挙げられます。

【管理職向けの研修の内容】
●フィードバック面談をスムーズに進めるためのコーチング研修
●フィードバック面談のロールプレイ

また、複数の従業員による「360度評価」を取り入れることで、管理職への評価を通じてノーレイティングへのフィードバックが集まるでしょう。ほかにも、複数の部下のマネジメントをスムーズに行うために、データの管理を一元化するツールを導入して、負担の軽減も図りたいところです。

ノーレイティングを成功させる運用のポイント

以下のポイントを意識すると、導入したノーレイティングが適切に機能するでしょう。

【ノーレイティングを成功させる運用のポイント】
●フィードバック面談の質を高める
●継続的なフィードバックの仕組みを整える
●評価の透明性を高める

フィードバック面談の質を高める

ノーレイティングでは、基本的にフィードバック面談の内容を基に評価を決定します。そのため、運用を成功させるにはフィードバック面談の質を高めることが非常に重要です。

具体的には、従業員が安心して本音を話せる場をつくることが、フィードバック面談の質の向上につながります。過去のミスを追及するのではなく、「次はどうすれば成功するか」という未来の行動にフォーカスを当てた対話を意識しましょう。

例えば、一方的に指示を出すのではなく、「現在、業務を進める上でのハードルは何か」「サポートできることはあるか」といった問いかけをすることで、部下が安心して本音を共有できる環境が整備されるでしょう。

従業員の本音を引き出し、質の高いフィードバック面談を行うためにも、管理職向けの研修を実施して、傾聴する力や適切なフィードバックを行う力を鍛えましょう。

継続的なフィードバックの仕組みを整える

ノーレイティングを成功させるには、フィードバック面談を定期的に実施し、従業員へのフィードバックを継続することが欠かせません。しかし、従業員全体に対してフィードバック面談を行おうとすると、管理職の時間的・精神的な負担がかかってしまうことも考えられます。

そのため、管理職が無理なくフィードバック面談を実施できる仕組みを整えたいところです。例えば、人事評価システムなどのツールを導入すれば従業員情報を一元化することで、評価業務を効率化できる可能性があります。

評価の透明性を高める

従業員が納得できるよう、評価の透明性を高めることも大切です。評価制度に対する不満が表面化する場合、多くは「評価の低さ」よりも「評価プロセスや評価者に対する納得感・信頼性の欠如」が原因となります。

そのため、フィードバック面談では従業員の日常的な行動や成果を把握し、具体的な内容でフィードバックを行うよう、管理職に意識させましょう。特にフィードバックに関しては、「結果を報告する場」ではなく「育成の機会」として捉え、次のアクションや成長への示唆を交えることで説得力が増します。

ノーレイティングに必要な「パフォーマンスマネジメント」の5つの原則


ノーレイティングは、新しい「パフォーマンスマネジメント」の一つです。パフォーマンスマネジメントとは、「従業員の能力やモチベーション向上」と「成果を生み出すためのマネジメント」を同時に行うことを目的とした、企業と個人の持続的成長を促す人材マネジメント手法のことです。

このパフォーマンスマネジメントの考え方は、以下の5つの原則で成り立っています。

【「パフォーマンスマネジメント」の5つの原則】
1.リアルタイム
2.未来志向
3.個人起点
4.強み重視
5.コラボレーション促進

1.リアルタイム

「リアルタイム」は、行動や取り組みに対する評価の即時性のことです。

期末・年度末に行われる面談によって半期・年度単位で従業員を評価してきた従来のパフォーマンスマネジメントと異なり、新しいパフォーマンスマネジメントでは、リアルタイムで目標設定やフィードバックを行います。

決まった時間軸に縛られることなく、臨機応変かつ継続的に対話を行うことで、即時性のある評価ができるようになります。

2.未来志向

未来の成長を意識したアプローチを「未来志向」といいます。

従来のパフォーマンスマネジメントでは、面談の時間を「過去の振り返り」のために費やしていましたが、新しいパフォーマンスマネジメントでは一人ひとりの成長を促すことを目的としています。過去の評価を行うだけでなく、未来の成長を意識したフィードバックを行うことが大切なのです。

そのため、フィードバック面談では短期的な目標だけでなく、キャリアプランなど中長期的な目標についても話し合う必要があります。

3.個人起点

「個人起点」とは、個人をスタート地点として目標を設定する考え方です。

従来のパフォーマンスマネジメントでは、まず企業起点で目標を立て、それを「部門目標」「部署目標」「個人目標」に落とし込んでいました。

一方、新しいパフォーマンスマネジメントでは、個人起点で目標を立てることを原則としています。これは、企業を取り巻く環境の変化に迅速に対応するためです。

変化に合わせて、「個人起点での目標設定を繰り返しつつ、企業の目標も織り込んでいく」という柔軟な対応が求められます。

4.強み重視

個性を重視して評価を行う考えが「強み重視」です。

プロセスを重視し、画一的な目標管理を行っていた従来のパフォーマンスマネジメントと異なり、新しいパフォーマンスマネジメントでは、一人ひとりの強みを重視することを原則としています。

従業員の多様性を前提に、強み重視の考え方を取り入れることで、モチベーションの向上や自発的な行動の促進が期待できます。

5.コラボレーション促進

「コラボレーション促進」とは、従業員同士の協力を促すアプローチのことです。

新しいパフォーマンスマネジメントでは、競争ではなくコラボレーションを促すことを原則としています。「従業員間の競争を促して成果につなげる」という従来のパフォーマンスマネジメントと違い、目標の共有や強みの相互理解を前提としています。

なお、これを実現するためには上司がリーダーシップを発揮して、メンバー間のコミュニケーションの活性化を促すことが大切です。

ノーレイティングと相性の良い評価制度

ノーレイティングを導入する場合は、相性の良い評価制度と組み合わせると相乗効果を発揮する可能性があります。特に、以下の評価制度がお勧めです。

【ノーレイティングと相性の良い評価制度】
●MBO
●コンピテンシー評価
●定期フィードバック制度

MBO

「MBO」は、個人やチームで具体的な目標を設定し、達成度を評価する評価制度です。従来のランク付けを行ってMBOを実施する場合、個々人の達成度の差が競争意識につながり、チーム内での協力意識に影響してしまうというリスクがありました。

その点、ランク付けを行わないノーレイティングと併用すれば、目標の達成状況や達成までのプロセスを個別で評価できるため、個人間の比較を行わずに評価が可能です。

定期的なフィードバック面談を通じて、目標を調整したり、課題解決のためのアドバイスを行ったりすることで、目標達成度の評価と育成を両立できます。

(参考:『MBO(目標管理)とは?メリットや導入手順をシートを交えて解説』)

コンピテンシー評価

業務の成果そのものだけでなく、業務を遂行する能力や行動特性なども踏まえて評価する「コンピテンシー評価」も、ノーレイティングと相性の良い評価制度の一つです。

コンピテンシー評価だけでは、順位や点数に偏りが出やすく、特に行動特性の評価が軽視されやすいという課題がありました。しかし、ノーレイティングを組み合わせれば、フィードバック面談を通じて近況を把握することで、行動特性も十分に評価できるようになるのです。

より効果的に運用するならば、個人の成果だけでなく、チームへの貢献度やリーダーシップの発揮状況なども含めて総合的に評価すると、組織全体の能力の向上にもつながります。

(参考:『コンピテンシー評価とは?項目例と評価シートの書き方やメリット・デメリットを解説』)

定期フィードバック制度

「定期フィードバック制度」は、上司から短いサイクルで具体的な助言や指南を行うことで、従業員の成長につなげる評価制度です。根本がノーレイティングと似ているため非常に相性が良く、既に定期フィードバック制度を導入している場合はノーレイティングの導入もスムーズに進むでしょう。

ランク付けを廃止し、ノーレイティングに移行することで、従業員間の不公平感をはじめとするデメリットを解決しつつ、定期フィードバック制度のメリットを実感できます。

(参考:『フィードバックとは?意味や目的、期待できる効果と5つの手法を解説』)

ノーレイティングに関するよくある質問

最後に、ノーレイティングに関して多くの方が抱く質問に答えます。

【ノーレイティングに関するよくある質問】
● Q1:ノーレイティングのやり方は?
● Q2:ノーレイティングのデメリットは?
● Q3:ノーレイティングの評価方法は?

Q1:ノーレイティングのやり方は?

定期的なフィードバック面談を実施し、その場で都度目標の設定や評価、フィードバックを行います。従来のレイティングによる評価とは異なり、従業員のランク付けを行わず、フィードバック面談の内容に基づいて絶対評価を行う点が大きな特徴です。

Q2:ノーレイティングのデメリットは?

評価者となる上司の負担が増える可能性がある点です。ノーレイティングを行うには、高いマネジメントスキルが求められます。また、定期的なフィードバック面談を部下全員に対して行わなければならないため、時間的な負担も増えるでしょう。

さらに、ノーレイティング自体が比較的なじみの薄い制度であるため、導入にあたって従業員が戸惑う可能性もあります。

Q3:ノーレイティングの評価方法は?

定期的なフィードバック面談を通じて、その内容を基に評価します。具体的には、従業員個々人が担当する職務の難易度や責任範囲、実際の貢献度などを総合的に判断して評価を決めます。

まとめ

ノーレイティングは従来の厳格なランク付けによる評価制度とは異なり、上司と部下の綿密なコミュニケーションを軸としている点に特徴があります。従業員にとっては「積極的な姿勢や挑戦が評価される」「突出した個性を正しく見てもらえる」というメリットがあるため、意欲の向上や定着率の向上が期待できます。

また、企業側から見ても、多様な人材の強みを引き出せるため、組織力の強化につながる施策といえるでしょう。ただし、ノーレイティングは従来の評価制度と大きく異なる仕組みであるため、必ずしも全ての企業にマッチするとは限りません。

ノーレイティングの導入を検討する際は、自社の状況を客観的に振り返り、活用できるかどうかを十分に見極めることが大切です。

導入後の運用や現場展開まで見据えて準備を進めたい方は、以下の人事評価シートテンプレートをご活用ください。記事で押さえたポイントを踏まえながら、評価設計や社内共有に向けた整理にお役立ていただけます。

ノーレイティングの運用で欠かせない対話の仕組みを整えたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『1on1ミーティングとは?目的や効果、導入する方法と進め方を解説』)

(制作協力/株式会社eclore、編集/doda人事ジャーナル編集部)

人事評価シートテンプレート【Excel版】

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