【フォーマット付】従業員代表の役割は?選出方法や任期・メリットを解説

【フォーマット付】従業員代表の役割は?選出方法や任期・メリットを解説
社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】

プロフィール

「従業員の過半数を代表する者」を意味する「従業員代表」。従業員の団体意思を取りまとめて、企業側に提言する役割を担います。

労務管理を遂行する上で重要な役割を果たす従業員代表は、どのように選出すればよいのでしょうか。今回の記事では、従業員代表の定義や役割、選出方法などについて解説します。

選出手順と届出の両方を一度に整備できる便利なテンプレートセットをご用意しました。「従業員代表選出内規」と「従業員代表選任届」を下記より無料でダウンロードして、スムーズに社内ルールを整えましょう。

従業員代表とは「従業員の過半数を代表する者」

従業員代表とは、「従業員の過半数を代表する者」を意味し、英語では「Employee representative」または「Employee representation」と表記します。主な役割は、従業員の団体意思を取りまとめ、企業側に提言することです。

労働基準法により、従業員の過半数で組織する労働組合がない事業所では、従業員代表による労使協定の締結が義務付けられています。

例えば大企業では、労働組合が組織されていることが多く、労使協定を締結する際は経営者と労働組合が行うため、従業員代表の選出は必要ありません。

しかし、日本企業の9割以上を占める中小企業では労働組合がないことから、従業員代表の選出が必要となるのです。

従業員代表の選出は労働基準法に定められている

従業員代表の選出方法は、労働基準法施行規則第6条の2第1項第2号にて以下のように定められています。

(第六条の二)
法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。
(引用:e-GOV法令検索『労働基準法第6条の2』)

企業は、上記に基づいて適切に従業員代表を選出しなければなりません。選出手続きに伴う違反に罰則規程はありませんが、選出手続きに違反して選出された従業員代表が締結した労使協定は、無効とされる点には注意してください。

また、使用者は従業員代表者が法に規定する協定等に関する事務を円滑に遂行できるような配慮も必要です。

労使協定は事業所ごとに締結されるため、原則として事業所ごとに従業員代表を1人選出する必要があります。

従業員代表と労働組合との違い

従業員代表と労働組合との権限の違いを、下の表にまとめました。

従業員代表 労働組合
明確な法的地位 認められていない 認められている
適用範囲 非組合員・管理職も含めた全ての従業員 組合員のみ

従業員代表には、労働組合のような明確な法的地位が認められていません。企業と従業員代表、労働組合が結んだ協約・協定の適用範囲も異なります。

企業と労働組合で締結した労働協約は、組合員のみに適用されますが、企業と従業員代表との間で締結された労使協定は、一部を除き、組合・非組合員の区別に関係なく適用されます。

従業員代表の4つの役割

労務協定として代表的な「36協定」や、就業規則の届け出などに関する従業員代表の主な4つの役割について解説します。

1.就業規則に関する意見書の作成
2.36協定(時間外労働・休日労働に関する協定書)の締結
3.派遣労働者の同一労働同一賃金の労使協定の締結
4.安全衛生委員会のメンバー推薦

1.就業規則に関する意見書の作成

就業規則とは、企業と従業員との約束事を明文化した、職場でのルールブックです。常時10人以上の従業員を雇用する企業は、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が義務付けられています。

就業規則の届け出には、添付資料として従業員代表による意見書が必要です。従業員代表は、企業側から求められる就業規則に関する意見を書面に書き、提出します。特に意見がない場合でも、「特に意見はありません」などと記入します。

(参考:『【無料テンプレート付】就業規則とは?変更&新規制定時に必要な基礎知識』)
(参照:東京労働局 労働基準法関係 様式集

変形労働時間制・賃金・懲戒・不利益変更に関わる就業規則変更なども含まれる

従業員代表の役割には、変形労働時間制に関する企業との労使協定の締結や、就業規則に定められた賃金や懲戒などの規程の制定・改定時に行う意見陳述なども含まれます。

不利益変更に当たらないか従業員代表として意見を求められた際には、「ほかの従業員からの意見聴取」や「資料作成」などを行うこともあるでしょう。

(参考:『就業規則の不利益変更とは?実施する方法とこんな時どうする?15の事例 』、『【無料テンプレ付き】賃金規程の作成・変更手順と注意点まとめ』、『【弁護士監修】懲戒処分とは?種類と基準―どんなときに、どんな処分をすればいいのか―』)

2.36協定(時間外労働・休日労働に関する協定書)の締結

36協定とは、労働者に法定時間を超えてはたらいてもらう場合や休日出勤を依頼する場合に必要な協定のこと。従業員代表には、36協定に記載された内容について企業と協議し、必要があれば内容の変更を求め、最終的に締結するか否かを決定する権限があります。

36協定の内容を変更する際も、従業員代表は同様の役割を担います。

(参考:『【弁護士監修】36協定は違反すると罰則も。時間外労働の上限や特別条項を正しく理解』)

2021年4月1日から押印廃止。引き続き電子申請が可能に

テレワークの普及や業務効率化の推進のため、厚生労働省は、2021年4月1日から残業時間に関する労使間の36協定など約40の企業の労働関係書類について、押印・署名を廃止。36協定の適正な締結に向けて、従業員代表に関するチェックボックスが新設されました。

電子申請による届け出は、継続して行われています。

(参照:厚生労働省『36協定届が新しくなります』)

3.派遣労働者の同一労働同一賃金の労使協定の締結

派遣労働者の同一労働同一賃金の労使協定の締結でも、従業員代表は派遣元事業主と労使協議を行い、労務協定の事項を定める必要があります。

派遣労働者の従業員の意思を反映するために協定の内容を確認したり、必要に応じて意見を交換したり、双方の合意に向けた活動を行います。

(参照:厚生労働省『派遣労働者の同一労働同一賃金 過半数代表者に選ばれた皆さまへ』)

4.安全衛生委員会のメンバー推薦

安全衛生委員会とは、安全に関する事項を協議する「安全委員会」と、衛生に関する事項を協議する「衛生委員会」の両方の役割を兼ねた組織です。従業員代表は、労働安全衛生法に基づき、安全衛生委員会の統括管理者以外の委員を推薦する役割などを担います。

(参照:厚生労働省『安全衛生委員会を設置しましょう』)
(参考:『【よくわかる】労働安全衛生法とは?違反しないために企業は何をするべき?重要点を解説』)

従業員代表になれる・なれない人

従業員代表に選ばれる従業員の範囲は、労働基準法上の、管理職を含む「労働者全員」です。
ただし、「管理監督者でない」そして「使用者の意向に基づき選出された者でない」という2つの選出要件を満たす必要があります。

なお、派遣社員や業務委託社員は雇用元が異なり、自社が雇用(使用)している従業員ではないため、従業員代表には該当しません。

以下で、従業員代表になれる人となれない人のそれぞれの条件について解説します。

従業員代表はアルバイト・契約社員でもなれる

従業員代表に選ばれる範囲は、労働基準法上の「労働者全員」が対象です。そのため、正社員に限らず、パートタイマーやアルバイト、契約社員、出向者なども、従業員代表の選出要件を満たせば代表になることができます。

重要なのは「労働者であること」と「民主的な手続きで選ばれること」です。非正規雇用の従業員であっても、職場全体の意見を代表する立場として選ばれることに問題はありません。

管理監督者はなれない

従業員代表は、労働基準法施行規則第6条の2により管理監督者あるいは管理の地位にない者でなければならないとされているため、選出範囲に管理監督者は含まれません。

ここで言及する「管理監督者」とは、労働時間の決定やその他の労務管理について、経営者と一体的な立場にある従業員のことです。管理監督者かどうかは、役職の名前ではなく「職務内容」や「責任と権限」などによって判断されます。

【管理監督者に該当する要件】
●労働時間、休憩、休日などに関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
●労働時間、休憩、休日などに関する規制の枠を超えて、活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
●現実の勤務態様も、労働時間などの規制になじまないようなものであること
●賃金などについて、その地位にふさわしい待遇がなされていること

例えば、代表的な労使協定である「36協定」を締結する際、企業と従業員が対等な立場で交渉しなければなりません。

しかし、経営者に近い立場である管理監督者が従業員代表となると、公正な交渉がなされず、締結された協定自体が無効となる恐れがあるのです。

(参照:厚生労働省『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』)
(参考:『管理監督者とは?残業、休日についてや就業規則の定め方を解説 』)

使用者の意向に基づき選出された者はなれない

管理監督者でないことに加えて、使用者の意向に基づいて選出された人物でないことも、要件の一つです。これも、先述のように労働基準法施行規則で定められているためです。

従業員代表は、労働者側の従業員を代表して意見を述べる存在であるため、民主的な方法によって選出されなければならないのです。企業側が代表者を指名して、使用者の意向によって選出された場合、手続きが不適正であるとされ、締結された労働協定が無効になる可能性があります。

派遣社員や業務委託社員は従業員代表になれない

業務委託社員や派遣社員は、自社との間に直接の雇用契約がありません。

つまり、自社が雇用する「労働者」には該当しないため、従業員代表の選出対象には含まれません。

たとえ、業務委託社員や派遣社員が職場内で一緒に働いていても、従業員代表を選出する際には、労働者数のカウントに含めません。

例えば、派遣先企業で従業員代表を決める場合、派遣社員に投票権はなく、従業員代表の候補になることもできません。

万が一、業務委託社員や派遣社員を誤って従業員代表に選出してしまうと、その労使協定は不適切な選出手続きによるものとして無効と見なされる可能性があります。従業員代表は必ず自社で雇用している従業員の中から選ぶようにしましょう。

(参考:『請負とは?業務委託・委任・準委任・派遣との違いなどを簡単に解説【図解付】』 )

従業員代表の任期は1年が多い

従業員代表の任期は、法律上では特に定められていません。実際には、「36協定の有効期間は1年間」「事業所における人事異動や退職、入社などは1年度をサイクルとしてなされることが多い」ことなどを考慮して、任期は1年程度と設定している企業が多いようです。

従業員代表の選出方法は主に2つ

従業員代表は、候補者の信任を問い、過半数の信任を得ることにより選出されます。
選出に当たり、「労使協定の締結などを行うための代表を選出すること」を明確にした上で、期日を指定して候補者を募りましょう。

候補者の募り方は大きく分けて、「立候補」と「推薦」の2つです。

立候補の場合は、告知期間を設けて立候補者を募り、立候補した人の中から信任投票などで代表を決定します。もし立候補者がいない場合は、他の従業員からの推薦を受け付けることも可能です。

推薦を行う際も、立候補と同様に期日を明確にし、「従業員代表として適任と思う従業員」を推薦してもらいます。

なお、候補者を集めることが難しい場合は、企業側から「立候補してもらえないか」「代表者としてふさわしい人物を推薦してもらえないか」と打診したとしても、その先に、民主的な手続きを経て過半数の信任を得ていれば、有効な従業員代表の選出として認められます。

また、従業員代表の主な選出方法は、「メール」「選挙による投票」の2つです。

それぞれについて詳しく解説します。

1.メール

「従業員代表を選出する目的」や「立候補者名」を明らかにした上で、信任か不信任かの旨を返信するように記載したメールを、投票権を持つ従業員に送付します。

また、メールの代わりに、同様の内容を社内ネットワークに掲示することも可能です。

(記載例)

【従業員代表の選出についてのお知らせ】

◯◯年◯月◯日付で通知した当社5事業所の従業員代表立候補者の募集に対し、下記の方が立候補されていますのでご通知いたします。

立候補者:本社   ◯◯◯◯
◯◯支店 ◯◯◯◯
◯◯支店 ◯◯◯◯

つきましては、上記の候補者について信任投票を実施します。◯◯年◯月◯日から◯月◯日◯時までの間に、会社へ登録しているメールアドレスよりメール本文へ氏名、スタッフNO.を記載の上、「信任」とする方は「信任」と明記、「不信任」とする方は「不信任」と明記して送信願います。送信された回答より「信任」が従業員総数の過半数以上の場合、従業員代表として信任されたことになります。

●信任投票の送付先
(メールアドレス)

2.選挙による投票

複数の立候補者がいる場合には、その場での多数決や投票などによって代表者を決定します。法律では、どのような手続きを行ったのかについての記録を残す義務までは求められていません。

しかし、労務トラブルを防止するためにも、同意書やメールなどで記録を残し、保管しておくと良いでしょう。

従業員代表の選出方法の流れ

従業員代表は、候補者の募集から信任、そして社内周知まで、いくつかのステップを踏んで選出します。手続きの透明性を確保し、労働基準監督署からの確認にも対応できるよう、以下の流れに沿って進めましょう。

まず、立候補や推薦により候補者を募り、過半数の従業員の信任を得て代表を決定します。
選出が済んだら、過半数の同意を記録として残すために「同意書」を回覧しましょう。

同意書には、「私は、◯◯年◯月◯日から1年間で、以下の労使協定の締結等を行う従業員の代表として、◯◯◯◯(代表者の氏名)を選出することに同意します」といった一文とともに、「時間外労働、休日労働に関する労使協定(36協定)」「賃金の控除に関する労使協定」などの労使協定の内容を記載します。

最後に、同意の意思を表す「自筆の氏名」を設けましょう。

(記載例)

◯◯◯◯年◯◯月日
株式会社◯◯◯◯

従業員代表選出の同意書

私は、◯◯◯◯年◯◯月◯◯日から1年間で、以下の労使協定の締結等を行う従業員の代表として、◯◯◯◯を選出することに同意します。

(1)時間外労働、休日労働に関する労使協定(36協定)
(2)賃金の控除に関する労使協定
(3)賃金の口座振込に関する労使協定
(4)年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定
(5)育児休業、介護休業等の適用除外に関する労使協定
(6)1年単位の変形労働時間制に関する労使協定
(7)一斉休憩の適用除外に関する労使協定
(8)フレックスタイム制に関する労使協定
(9)就業規則の作成及び変更に際しての意見聴取

氏名(自筆) (印)     氏名(自筆) (印)
1             11
2             12
3             13
4             14
5             15
6             16
7             17
8             18
9             19
10             20

従業員代表を選出する際は、勤続年数や役職で指名するのではなく、従業員の過半数による選出であることを明確にしておく必要があります。選出手順が不明確だと、労働基準監督署の確認で「選出方法に問題あり」と判断される恐れがあります。

あらかじめ社内規程で手順・方法を定めて運用してください。選任方法の規程例は「従業員代表選出内規フォーマット」をご利用ください。

選出後は、社内への周知と記録を行います。掲示用の「従業員代表選任届」を作成し、労務協定の内容・選任年月日・代表者氏名等を記載して保管・掲示してください。書式は「従業員代表選任届フォーマット」をダウンロードの上、ご活用ください。

従業員代表の選出後の企業側の義務

企業側は適切な方法で従業員代表を選出した後、順守するべき義務があります。

●従業員代表であることを理由に不利益な取り扱いはしない
●従業員代表としての事務を円滑に進められるよう配慮する

従業員代表であることを理由に不利益な取り扱いはしない

使用者は、従業員代表であるからといって、当該従業員に対して不利益な取り扱いをしてはなりません。

具体的には、解雇や降格、減給、出勤停止などです。これらの扱いは、従業員代表になろうとする人が職務上の重圧や責任を感じることにつながり、最悪の場合は離職してしまう恐れがあります。

企業側は従業員代表が安心して意見を述べられる環境を整備し、不利益が生じないような適切な管理や配慮が欠かせません。

従業員代表としての事務を円滑に進められるよう配慮する

使用者は、従業員代表が事務作業を円滑に遂行できるように、適切に配慮する必要もあります。例えば、意見をまとめられる情報共有のシステムを取り入れたり、ミーティングや事務作業が実施できるスペースを確保したりすることが挙げられます。

また、代表者からサポートを求められた場合には柔軟に対応し、支援を行うことも必須です。適切なサポートを徹底することが、代表者の効率的な業務遂行となる上、円滑なコミュニケーションの確保にもつながります。

従業員代表を選出する際の5つの注意点

企業の従業員代表を新たに選出する場合には、5つの注意点を押さえておきましょう。

1.従業員代表は事業場ごとに選出する
2.従業員代表は労働者側主導で選ばせる
3.従業員代表を選出した際の記録を残す
4.労働者代表が決まったら労働者代表選任届を提出する
5.従業員代表の選出が不適切だと無効になる可能性がある

1.従業員代表は事業場ごとに選出する

従業員代表は企業ごとではなく、事業場ごとに選出する必要があります。事業場とは、1つの事業を行っている場所のことで、複数の事業場が同一の場所にある場合は、独立した事業でなければ1つの事業場と見なされます。

例えば全国各地に事業所を展開している企業が、会社全体に適用される労使協定を締結する場合、事業場ごとに従業員代表を選出した上で、個別に締結しなければなりません。

就業規則の作成・変更を行う際には、常時10人以上の労働者を使用する事業場に限って、各事業場の従業員代表の意見を聴取することが法律で義務付けられています。

従って、10人以上と9人以下の事業場が混在している場合は、10人以上の事業場のみで従業員代表を選出すれば問題ありません。

2.従業員代表は労働者側主導で選ばせる

既出ですが、使用者の意向に基づいて選出された人物は従業員代表として認められないため、あくまでも労働者側主導で選出させることが重要です。

不適切な流れで選出された従業員代表によって締結された労使協定は、無効扱いとなるだけでなく、無効な労働条件として労働基準監督署からの行政指導を受ける恐れがあります。悪質な場合は、刑事罰が科されることも考えられます。

その結果、企業への信頼を失った従業員が相次いで離職する事態にもつながりかねないので、選出手続きに企業は関与しないように注意しましょう。

3.従業員代表を選出した際の記録を残す

従業員代表が適切な方法で選出されたことを明示するために、選出時の記録を残しておくことも大切です。代表者を選出する際の会議の議事録や締結した文書などを、企業に提出する場合もあります。

これらを作成する際は、従業員代表の労働条件を明記する必要がありますが、特に管理監督者でないことを証明するために当日以前の職務内容を含めることが重要です。選出に至る過程を記録するだけでなく、労働基準法や関連法令を踏まえた対応が欠かせません。

4.労働者代表が決まったら労働者代表選任届を提出する

従業員代表の選出後は「労働者代表選任届」を作成し、企業に提出します。従業員代表の氏名や選任年月日、労務協定の内容などを記載した上で適切に社内に提示する、または従業員へ配布することが望ましいといえます。

労働者代表選任届の提出は義務ではありませんが、トラブルを防ぐためにも従業員に周知しておくことが肝要です。従業員代表に関する書面を作成・周知することで、どの人材が代表者として選出されたかを明確にできます。

5.従業員代表の選出が不適切だと無効になる可能性がある

適正な方法で従業員代表が選出されていないこと自体に対する罰則はありませんが、労使協定が無効となり企業側は何らかの罰則を受けることになります。

例えば、36協定が無効になると労働基準法違反となり、6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金の罰則が科せられる可能性があります。

第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
一 (前略)第三十六条第六項、第三十七条、第三十九条(第七項を除く。)、第六十一条、第六十二条、第六十四条の三から第六十七条まで、第七十二条、第七十五条から第七十七条まで、第七十九条、第八十条、第九十四条第二項、第九十六条又は第百四条第二項の規定に違反した者
(引用:労働基準法第百十九条|労働基準法

適正な方法で選出された従業員代表と36協定を締結した場合、法定労働時間を超過した労働でも罰則の適用が免除されます。

しかし、36協定の締結時の従業員代表が不適切に選出されている場合や、限度時間を超えた36協定は締結が無効となり、上記の罰則が適用されることになるのです。

誤った選出方法では、36協定そのものが無効となるリスクが生じるため、新たに選出する場合も変更する場合も、慎重に手続きを進めることが重要です。

従業員代表者を適正に選出しなかったことによる送検および裁判例

実際に従業員代表を適切な方法で選出しなかった際に起こった、過去の送検および裁判例を紹介します。

送検事例としては、労働者2人に違法な時間外労働を行わせたとして、青果仲卸業者と同社の工場長が書類送検された事例が挙げられます。こちらは労働基準法32条違反の疑いで、愛媛県松山労働基準監督署が松山地検に書類送検したものです。

長時間労働に関する捜査を行う中で、36協定を締結する際の従業員代表を民主的な手続きを踏まずに選出していたことが判明し、協定が無効であるとも判断されています。

裁判例として挙げられる事例は、通称「トーコロ事件」です。こちらでは、会社の親睦団体の代表者が自動的に従業員代表となったことで、会社と締結した36協定が無効とされました。

(参照:全国労働基準関係団体連合会『労働基準判例検索-全情報』)

従業員代表と締結した労使協定の効力

従業員代表との労使協定の効力は、法令違反があっても罰則を適用しない「免罰効果」にとどまります。

ただし、免罰効果を得るだけでは、従業員に行動を命じることはできません。

例えば、36協定を締結したとしても、残業命令を行えるわけではないということです。実際に残業命令を含めた行動を命じるには、個別契約書で同意を得る、あるいは就業規則を定める必要があります。

従業員代表に関するよくある疑問

ここでは、従業員代表に関して、よくある疑問をまとめました。

●Q.「過半数労働組合がない場合、過半数を代表する者との間で締結する」にある「過半数」の定義は?
●Q.従業員代表に指名された従業員は拒否できる?
●Q.従業員代表の給与はどうなる?手当はつく?
●Q.従業員代表として行った業務は労働時間扱いになる?
●Q.従業員代表の変更は可能ですか?
●Q.従業員代表が途中で退職や休職をして不在になった場合はどうなる?
●Q.従業員代表になるメリット・デメリットはありますか?
●Q.従業員が1人の場合はどうすればいいですか?

Q.「過半数労働組合がない場合、過半数を代表する者との間で締結する」にある「過半数」の定義は?

「過半数労働組合」および「過半数を代表する者」の「過半数」とは、管理職やパートタイマー、アルバイト、嘱託、契約社員、出向社員などを含めた「当該事業場の在籍者の過半数」のことです。

Q.従業員代表に指名された従業員は拒否できる?

従業員代表に指名されたとしても、本人の意思により拒否できます。従業員代表者になることを拒否された場合には、代わりに別の人を選出しましょう。

Q.従業員代表の給与はどうなる?手当はつく?

従業員代表の業務は労働契約上の業務には該当しないことから、給与(賃金)も発生しないと考えられます。手当については、従業員代表が企業の提案を無批判に承諾することを避けるため、支給は望ましくないでしょう。

Q.従業員代表として行った業務は労働時間扱いになる?

従業員代表としての活動は、使用者の指揮命令下で行われることではないため、労働時間とは言い難いでしょう。従業員代表はさまざまな役割を担っていますが、それらは労働契約上の契約行為として使用者から指示されたものではありません。

基本的には労働時間扱いにはなりませんが、協定締結などを円滑に行うために必要な活動について、賃金の控除なく所定労働時間内に行わせることは実務上有効だとの考えもあるようです。

Q.従業員代表の変更は可能ですか?

従業員代表は、選出が決まったあとでも正当な理由があれば変更可能です。代表者が辞退を申し出た場合や、不適切な選出方法が発覚した場合などが該当します。

なお、変更する際は、労働基準法に基づいた適切な手続きを取る必要がある点を押さえておきましょう。

従業員代表を変更する際は、改めて公正な方法で代表者を選出し直す必要があります。立候補や推薦などの適切な方法に基づいて選出した結果を尊重する形で、新たな従業員代表を決定しましょう。

Q.従業員代表が途中で退職や休職をして不在になった場合はどうなる?

従業員代表が退職しても、協定の効力そのものがなくなるわけではありません。

例えば、36協定は通常1年に1回届け出を行うため、次回は新しい従業員代表を選出して届け出をすると良いと考えられます。従業員代表が不在になった場合は、再度候補者を募り、適切な手続きを踏んだ上で、後任者を選出しましょう。

Q.従業員代表になるメリット・デメリットはありますか?

従業員代表を選出するメリットとして、従業員代表を選ぶ過程を通じて「従業員に企業経営への参加意識を持ってもらえる」ことが挙げられます。

加えて、「労使間の紛争やトラブルを適切に解決する」「従業員間は元より労使間の風通しをよくし、トラブルを未然に防止する」といった効果も期待できるでしょう。

従業員代表のデメリットを感じる側は、主に選ばれた従業員です。従業員代表に選出されることで、負担や責任を重く感じてしまう人もいるでしょう。

企業側には従業員代表が感じるデメリットを受け入れ、「従業員代表に対する不利益な取り扱いの禁止」を徹底するなど、誠意ある対応が求められます。

Q.従業員が1人の場合はどうすればいいですか?

社内の従業員が1人しかいない場合には、自動的に代表はその従業員となります。

しかし、従業員代表は、第三者からの指名で選出することが認められていないため、何も説明しないまま、単に書面にサインさせるような行為は避ける必要があります。従業員代表について適切に説明し、理解を得た上で立候補してもらう形を取りましょう。

選出方法の欄には、「立候補」や「従業員1人のため、選出手続きなし」などと記載すれば問題ありません。

まとめ

従業員代表には、従業員の団体意思を取りまとめて、企業側に提言する役割があります。36協定をはじめとした労務協定を適切に締結するために、従業員代表の選出は不可欠です。

「労使協定の締結などを行うための代表を選出すること」を明確にした上で、「メール」や「選挙による投票」など民主的な方法で選出することが求められます。今回の記事を参考に、従業員代表を適切に選出しましょう。

選出手順と届出の両方を一度に整備できる便利なテンプレートセットを下記にご用意しました。「従業員代表選出内規」と「従業員代表選任届」を下記より無料でダウンロードして、スムーズに社内ルールを整えましょう。

(制作協力/株式会社eclore、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)

従業員代表選任届フォーマット【Word版】

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