「Noと言われない自己申告給与」や「リアルタイム評価」…常識を変えるユニークな給与・評価制度
株式会社フィードフォース/アソブロック株式会社/株式会社クラウドネイティブ/サイボウズ株式会社/株式会社カヤック
いつの時代も人事・採用担当者の頭を悩ませる給与制度や評価制度。特にこの時期は夏の賞与をもらって退職する人が増えるタイミングでもあります。
doda(デューダ)が2022年3月に発表した「転職理由ランキング」でも、転職理由は上位から「給与が低い・昇給が見込めない」(35.0%)、「昇進・キャリアアップが望めない」(29.4%)、「会社の評価方法に不満があった」(26.8%)と並びました。
多くの社員に納得してもらえる給与・評価制度を模索している人事・採用担当者も多いはず。この記事ではそのヒントとして、ユニークな給与・評価制度を運用している5社の事例を紹介します。
出典:コロナ禍での転職理由のトップは?転職理由ランキング【最新版】 みんなの本音を調査!
事例①:毎月昇給できる「リアルタイム評価」(株式会社フィードフォース)
最初に紹介するのは、企業のマーケティング支援サービスを展開する株式会社フィードフォース。同社では自薦または他薦で毎月昇給できる「リアルタイム評価」を実施しています。
もともとは半期ごとに人事評価を行い、企業として定める8つのバリューが体現されているかをチームメンバー同士の360度評価で測っていました。しかしこの方法では、仕事において成果が出るタイミングと、評価のタイミングがずれてしまうという問題があったといいます。
フィードフォースが提供するIT関連サービスは、市場における移り変わりが非常に早いという特徴があります。そのため、半年前に決めた目標設定が、半年後には現実感を持たないものになってしまうことも。社員としては半年前の目標設定を基にした評価やフィードバックに納得感を持ちづらいという現実もあるでしょう。また、仮に7月に大きな成果を出した社員がいても、評価のタイミングが6月と12月にしかなければ、評価や昇給は次の12月まで待たなければなりません。
こうした状況を改善するために導入されたのがリアルタイム評価でした。同社の年収は4つの等級(ジュニア・メンバー・シニア・エキスパート)とA・Bの2段階評価で決まります。この基準にのっとり、自薦または他薦で毎月昇級できるようにしたのです。リアルタイム評価は、ユニークな制度にしようという意図はなく、社員にとって納得感のある評価制度はどんなものか?を突き詰めて考えた結果、好きなタイミングで昇給に挑戦できる制度になったといいます。
加えて同社では、マネージャーとメンバーの1on1ミーティングを2週間に1度行い、目標をチューニングする「リアルタイムフィードバック」も行っています。社員本人の満足度を高めるだけでなく、社会や事業の環境変化に素早く対応する意味でも、合理的な方法だと言えます。
事例②:事業や稼ぎ方も自分で考える「年俸自己申告制」(アソブロック株式会社)
アソブロック株式会社は、企業のブランディングやマーケティング、採用活動などを支援するほか、イベント企画や幼稚園支援なども担い、「ものづくり」と「プロデュース」を軸に多岐にわたる事業を展開しています。勤務時間などの社内ルールを設けず、社員には兼業を推奨するといったユニークな体制の会社でもあります。
このアソブロックで運用されている給与制度が、社員が自分で給与を決められる「年俸自己申告制」です。それだけでなく社内では、全社員の年俸が共有されているといいます。
この制度の対象となるのは「正ブロッカー」と呼ばれる同社の正規メンバー(正社員、契約社員、業務委託)。受け取る年俸の額を自分で申告し、決められます。その条件は「設定給与の1.5~3倍程度の粗利を稼ぐこと」。正ブロッカー自身がいくら稼ぎ出すのかを考え、それに見合った報酬を当然の権利として受け取れる仕組みなのです。
そのためのプロセスには、特定の事業領域を定めず「何をやっているかわからない会社」と自称するアソブロックならではの特徴も。前述の粗利を実現するために、どんな事業で、どのような方法で稼ぐのかも正ブロッカー自身が考えて決定します。
自社を「人の成長支援プラットフォーム」だと位置付けているアソブロック。年俸自己申告制の仕組みは、自律型人材を育てるための究極の方法だと言えるのかもしれません。
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事例③:最高で月給550万円を実現した「雰囲気給与制度」(株式会社クラウドネイティブ)
続いて紹介するのは、情報システムコンサルティング事業を手がける株式会社クラウドネイティブの「雰囲気給与制度」。社員が毎月、ほしい月給を自己申告できる制度です。
前述のアソブロックと似た制度ではありますが、クラウドネイティブの場合は給与支給のための条件はありません。給与決定のプロセスはとてもシンプル。月末の給与締めに合わせて、全社員が「請求書を送るような感覚で」スプレッドシート上に希望する給与額を入力するだけです。
その上で毎月全員参加のミーティングを開き、決裁者である社長が一人ひとりの金額を確認して給与が決まります。「この金額の根拠は?」などと突っ込んだ確認をされることはなく、本人の申告通りか、申告より上がることがほとんどだといいます。
驚かされるのは、そうしたプロセスで決まる実際の給与額。これまでにはなんと「月給550万円」を受け取った社員もいるのです。
なぜクラウドネイティブでは破格とも言える給与を実現する制度を運用しているのでしょうか。背景には、「組織の礎にあるのは一人ひとりの個人の生活」という同社の考え方があります。また、固定のオフィスを持たないなど会社としての経費を最低限に抑え、内部留保を蓄えるのではなく社員へ還元し続けているのも同社の特徴です。
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事例④:本人が希望を伝えられる「100人100通りの給与制度」(サイボウズ株式会社)
「100人100通りの働き方」を実現していることで知られるサイボウズ株式会社。働く場所も時間も条件も人によって異なる同社では、一律の基準を設けて全員を当てはめるのではなく、「本人の希望」と「会社からのオファー」のバランスで給与を決定する独自の制度を運用しています。
給与改定時期が訪れると、社員は「チームに貢献できること」や、「給与に対する希望やその理由」「希望する働き方(働く時間や場所)」などの希望条件をマネージャーに伝えることができます。こうした本人の希望に対して、マネージャーはチームが必要とする条件や本人の貢献度、社外の給与相場などを参考にして実際のオファー金額を決定するのです。
なお、一連のやりとりは全て同社が開発・提供する「kintone」上に作成された「条件コミュニケーションアプリ」で行われます。面倒なプロセスを廃している点もサイボウズらしい進め方だと言えます。
ところで、社員本人が希望を出すところまでは理解できるとしても、「チームから見た貢献度を判定するのは難しいのではないか」と感じる人もいるかもしれません。
同社ではチームへの貢献度を「信頼度」と「働き方」の二つで評価しているといいます。信頼度はサイボウズの行動指針である「Action5+1」に基づいて年度ごとにミッションや目標の設定を行い、マネージャーや周囲から達成具合についてのフィードバックを受けます。さらに選択した働き方がチームに与える影響も加味して、貢献度を決定します。
サイボウズではまた、社員本人の保有するスキルが、社外の人材市場でどの程度評価されるのかも加味して評価を行います。背景には「メンバーを社内の価値だけで縛るのではなく、サイボウズ以外でも評価されるスキルを増やし、自立の意識を持ってもらいたい」という想いがあります。
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事例⑤:他人の評価を気にせず働くための「サイコロ給」(株式会社カヤック)
社外へ革新的な価値を提供し続けている面白法人カヤック。社内の給与制度も一風変わった、工夫を凝らした運用が行われています。
その一つが「サイコロ給」と呼ばれる制度。毎月「月給×(サイコロの出目)%」が+αの金額として支給されます。たとえば月給30万円の人がサイコロを振って6を出したら、「30万円×6%=1万8000円」が賞与に+αで支給されるという具合です。決して給料が減ることはなく、思いもよらない形のボーナスとして増えていく仕組みです。
なぜこのような制度を導入したのでしょうか。同社ではその意図を「人が人を評価しない評価制度」と説明しています。人間が人間を評価すること自体、そもそもいい加減なもの。上司の感情次第で評価が変わってしまうこともあります。一方で、社員は他人の評価ばかり気にしてしまいがち。この制度には、「人の評価なんて気にせずに面白く働いてほしい」というメッセージが込められているのです。
さらに同社では、某ハンバーガーチェーンのメニューからヒントを得たという「スマイル給」という制度も運用しています。この場合の支給額は0円。お金だけでは測れない報酬を給与として表現しました。
社員は毎月、ランダムに別の社員1人を評価。その評価は相手の長所に限られており、仲間を褒めることに主眼が置かれています。評価内容はスマイル給として毎月メールが届きます。「即戦力給0円」「作業スピード超特給0円」など、項目は人それぞれだといいます。
スマイル給の大きなメリットは、その内容を見ることで人の新たな側面を発見できること。本人としては、誰かが自分の良さを認めてくれているという大きな充実感につながるのではないでしょうか。カヤックはスマイル給の意義を「0円だけど、0円以上のお金に換えられない価値がある」と表現しています。
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編集後記
給与・評価制度といえば、従来は経営の意思に基づいて会社が決定することが常識でした。しかし今回紹介した5社の取り組みは、それぞれの制度に独自性がある一方で、社員本人の意思や自律性を重視している点で共通していると感じました。給与・評価は誰のためにあるものなのか。その原点に立ち返って仕組みをつくることこそ、多くの社員に納得してもらえる給与・評価制度には欠かせないのではないでしょうか。
企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、文/多田慎介