採用コストの平均相場は?コスト削減の施策や計算方法を解説

d’s JOURNAL編集部

企業が人材の採用にかける費用を「採用コスト」と言います。採用活動には一定のコストが発生しますが、「不要なコストを削減しつつ、企業の求める人材をいかに確保するか」が重要です。

採用予算や採用計画を立てる上で、「採用コストの平均相場を知りたい」「採用コストの削減に取り組みたい」という人も多いのではないでしょうか。

この記事では、採用コストの平均相場や計算方法、コストの削減につながる施策や採用手法などについて解説します。

採用コストの平均相場

厚生労働省が発表した資料によると、「民間職業紹介事業者(紹介会社)」を利用する場合の採用コストの平均相場は、正社員で85.1万円、非正規社員で19.2万円と、その差は65.9万円に上ります。比較的採用コストが低い「求人情報誌・チラシ」で見ても、正社員の平均相場は11.3万円、非正規社員は平均7.7万円で、3.6万円の差がありました。

正社員の採用コストについて採用手法別に見ると、高い方から順に、「スカウトサービス」が平均91.4万円、次いで先述した「民間職業紹介事業者(紹介会社)」、「インターネットの求人情報サイト」が平均28.5万円となっています。いずれも、人材紹介サービス会社など外部に支払う費用が膨らむのが原因と考えられます。

一方、採用コストの平均相場が低いのは、「SNS」の平均0.9万円、「自社HP等からの直接応募」の平均2.8万円、「知り合い・社員等からの紹介(縁故)」の平均4.4万円です。これらの採用手法は、人件費など社内で発生する費用がメインとなるため、採用コストを抑えやすいのでしょう。

求める人材や採用手法によって採用コストは大きく異なることを念頭に置き、採用予算や計画を立てることが必要です。

1件あたりの平均採用コスト(正社員)

(参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社『令和3年度厚生労働省委託調査 採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 報告書』)

採用コストは2つの費用に分類される

採用コストは、「外部コスト」と「内部コスト」という2種類の費用を合算したものです。それぞれどのような費用を指すのか解説します。

外部コスト

外部コストとは、外部に支払うコストのこと。広告やPR動画の制作費など、専門的な知識や技術が必要とされるものに対して支払うことが多く、高額になる傾向にあります。

外部コストの具体例

●求人サイトへの求人広告掲載費用
●人材紹介サービス会社への成果報酬金
●オンライン面接ツールの利用費用
●会社案内やパンフレットなどの制作費用
●会社説明会や懇談会などの会場費
●応募者の交通費や宿泊費 など

自社の認知度を高めるために必須の外部コストですが、「必要以上にコストがかかっていないか」「コストに相当する効果を得られているか」などを、定期的に見直すことが重要です。しかし、コストを削減しすぎると求職者の目にとまる機会が減り、応募数の減少につながるリスクもあります。自社にとってバランスのよいコストを設定しましょう。

現在は、SNSでの情報拡散が一般的になっているため、SNS関連のPRコストを削減しすぎるのは望ましくないとの見方もあります。

内部コスト

内部コストとは、面接対応や選考対応など、社内で発生する費用のこと。人件費がメインとなるため、数値化するのが難しいと考えられています。内部コストを把握しやすくするため、各採用プロセスに費やした時間を時給換算できるようにしておくとよいでしょう。

内部コストの具体例

●人事・採用担当者の人件費(交通費・宿泊費を含む採用活動全般)
●面接対応などによる配属部門の責任者や役員の人件費
●リファラル採用における社員へのインセンティブ
●候補者への交通費支給
●内定者フォローのための会食費 など

内部コストの削減に向け、人事・採用担当者の数を減らすことを検討する組織もあるかもしれません。しかしながら、必要以上に減らしてしまうと1人あたりの負担が増加し、採用業務の質が低下する恐れがあるため、人事・採用担当者を減らしすぎないよう注意が必要です。

採用コストの計算方法

採用コストの総額は、「外部コスト+内部コスト」で算出します。ただし、採用コストの総額は採用人数によって左右されるため、総額だけを見ていては、本当の意味で採用コストを見直すことはできません。代わりに把握すべきなのが、1人当たりの採用コストである「採用単価」です。採用単価は以下の計算式で算出できます。

採用単価の算出方法

「採用コスト総額」÷「採用人数」=「採用単価」

また、採用単価のうち、求人広告費にかかる経費を「求人広告単価」といいます。求人広告単価は、外注する求人広告や出稿するメディアの成否を判断する際の指標となります。

1人当たりの求人広告費の算出方法

「求人広告費総額」÷「採用人数」=「求人広告単価」

採用コストを抑える4つのポイント

採用コストを抑えるためにはどのような点に注意すればよいのでしょうか。押さえておきたいポイントは次の4つです。

●ミスマッチによる離職対策をする
●採用ターゲットを明確にする
●採用プロセスを最適化する
●内部コストの見直しをする

それぞれについて見ていきましょう。

ミスマッチによる離職対策をする

時間やコストをかけて採用した人材が早期離職してしまうと、採用コストや研修コストという点で企業にとって大きな痛手となります。早期離職の主な原因とされているのが、入社後のミスマッチです。「実際の業務内容が入社前に聞いていた話と違う」「社風や職場の雰囲気が合わない」などのギャップが大きくなるほど、離職の意思は強くなってしまうでしょう。

ミスマッチによる早期離職への対策として有効なのが、企業と応募者がお互いをよく知るために、気軽に対等な立場で話し合う「カジュアル面談」です。面談では「企業の良い部分だけではなく、デメリットなどの詳細を提示する」「社風・職場の雰囲気をできるだけリアルに伝える」など、応募者とざっくばらんな情報交換を行い、お互いの認識をすり合わせることが望ましいです。

採用した人材が定着すれば、新たに求人を出し直す必要がなくなるため、採用コストの削減につながります。

(参考:『カジュアル面談とは|導入メリットや面談の流れを解説【質問集付き】』『せっかくのチャンス逃してるかも…。やってはいけないカジュアル面談NG項』)

採用ターゲットを明確にする

自社に合った人材を採用するためには、採用ターゲットを明確にすることも重要です。その上で、「ターゲット層が多く利用しているチャネルに絞って採用広報活動を強化する」「ターゲット層にだけアプローチする」など、より効果の高い施策を打つようにしましょう。また、採用ターゲットに合わせて最適な採用手法に見直すことで、採用コストの削減も期待できます。

採用ターゲットは、以下の流れで設定します。

採用ターゲットを明確にする方法

(1)採用の目的を明確にする
(2)求める人材像(ペルソナ)を書き出す
(3)人材像で書き出した条件(スキル、将来ビジョン、経験など)に優先順位をつける
(4)現場と連携しながら、採用市場に合わせて条件を絞る

現場社員に確認しながら採用ターゲットを設定することで、現場との乖離が発生しにくくなるでしょう。

採用プロセスを最適化する

採用活動に費やす時間が長くなるほど人件費などの内部コストが膨らむため、採用プロセスの最適化も、採用コストの削減には欠かせません。採用コストを抑える方法としては、「選考の一部をWeb面接にする」「適性検査のボーダーラインを上げて、応募者を絞り込む」などが有効です。

このように、状況によっては採用活動を簡略化することで、面接や選考にかかる時間を短縮でき、採用コストの削減が期待できるでしょう。

内部コストの見直しをする

内部コストは人件費がメインとなるため、コスト状況が見えにくいのが特徴です。しかしながら、無駄な作業や非効率な方法はないか、業務効率を見直すことで採用コスト削減につながる可能性があります。

内部コストを見直す際は、業務に時間的工数がかかっている部分や歩留まりがある部分を見つけて、改善に取り組みます。ただし、単に人件費を削るだけなどの対策を行うと、採用活動を鈍化させてしまう恐れがあるため注意しましょう。

採用コストの削減につながる採用手段

採用コストの削減につながりやすいとされる4つの採用手法をご紹介します。

ダイレクト・ソーシング

ダイレクト・ソーシングとは、企業の人事・採用担当者が自ら採用候補者を探し、直接スカウトメールを送って採用成功につなげる採用手法です。採用候補者に自社や求人の魅力を伝えることで興味を持ってもらうことを目的とします。できるだけ少ない数のスカウトメールで、自社が求める人材の採用に成功できれば、求人サイトに求人広告を掲載する費用よりも採用コストを抑えられます。その結果、外部コストの削減が期待できるでしょう。

しかし、人事・採用担当者がダイレクト・ソーシングに不慣れな場合、採用候補者の選定やスカウトメールの作成に時間がかかってしまうことが考えられます。そのため、場合によっては、ダイレクト・ソーシング以外の採用手法を検討した方がよいこともあるでしょう。

(参考:『自社に最適な人材採用を。ダイレクト・ソーシングの活用方法』)

オウンドメディアリクルーティング

オウンドメディアリクルーティングとは、自社で保有しているメディアを活用した採用のことです。WebサイトやSNSなどを通じて企業情報を発信することで、求人サイトや人材紹介サービスに頼らずに、採用活動を実施できます。

社内でメディアの構築や運用ができれば、求人サイトや人材紹介サービスなどのように外部に発注する必要がなくなるため、外部コストがかかりません。作業にあたる社内担当者の内部コストはかかるものの、他の採用手法で生じる外部コストほどの金額は必要ないでしょう。

また、求人サイトよりも自社の企業理念や社風などを自由に発信できるため、自社の価値観に共感した人材の採用にも適しています。

リファラル採用

リファラル採用とは、自社の社員から友人や知人などを紹介してもらう採用手法です。人材紹介サービスや求人サイトへの広告費などの外部コストが不要となるのがメリットです。採用につながった場合は、紹介者に「謝礼金」を手当として付与することが多いですが、採用単価の相場に比べると、採用コストを大幅に削減できます。

採用候補者は現役社員から職場のリアルな話を聞けるため、通常の採用よりもミスマッチを減らす効果も期待できるでしょう。とは言え、既存社員が紹介できる人材には限りがあり、採用したいタイミングで候補者が現れるとも限りません。メインの採用手法と組み合わせて取り入れることをおすすめします。

(参考:『リファラル採用とは?導入のメリット・デメリット、運用のポイントを紹介』)

アルムナイ制度

一度退職した方を再雇用するアルムナイ制度は、「ミスマッチを未然に防ぎやすい」「求人募集などの外部コストが必要ない」などの理由から、コスト削減につなげやすいと考えられています。アルムナイ制度の候補者は、業務内容についても把握しているため、新入社員に必要なビジネスマナーや育成などの費用も不要です。

一方で、アルムナイとの関わりを保つためには、専用サイトを用意するなど一定のコストがかかります。専用サイトの開発費や管理維持費の他、イベントを開催する場合にはその費用や人件費などが発生する点を念頭に置く必要があるでしょう。

(参考:『アルムナイとは?注目される理由とメリット・デメリットを解説』)

採用コストを抑えた企業の採用事例

では実際に、採用コストを抑えた企業2社の採用事例をご紹介します。

株式会社ロフトワーク

中小企業のデザイン経営支援などを展開する株式会社ロフトワークでは、人材紹介サービスや求人広告に頼らず、250人超の母集団形成に成功しています。主な採用コストは、人事・採用担当者2名分の人件費くらいです。

同社では、「企業にとって最も大切な資本は人である」というデザイン経営の考え方に基づき、社員の情報を包み隠さずに発信。採用活動の選考過程では情報をフルオープンにして、採用候補者と腹を割って話すことを重視しています。250人超の母集団を形成しているのは、同社が頻繁に開催しているイベントやワークショップの参加者です。会社説明会に現場メンバーも参加することで、応募数の増加にもつながっています。

(参考:『人材紹介サービスや求人広告を一切使わず250人超の母集団を形成!ロフトワークの「デザイン経営×採用ブランディング」とは【連載 第12回 隣の気になる人事さん】』)

株式会社オルトプラス

ソーシャルゲーム事業で成長を続けている株式会社オルトプラスでは、2017年に人事、広報、総務というバックオフィス横断型のコーポレートブランディング部(CB部)を立ち上げました。その背景にあるのが、ゲーム業界の離職率の高さです。同社でも離職率が50%以上、年間数億円に達する採用コストが経営を圧迫していたと言います。

このような状況を打開するために、CB部は採用ブランディングや社員のエンゲージメント向上を目指した幅広い活動を推進。企業の価値観を社内に浸透させるとともに、社員交流会などのコミュニケーション施策を増やすことで、社員を巻き込むことにも成功しました。CB部の取り組みの成果として、離職率は52%から34%に、採用コストは180万円から50万円に低減。採用にかける工数やコストが削減された分だけ、PRに注力できるようになったと言います。

(参考:『企業文化の醸成と浸透が採用力を高める。人事・広報…バックオフィス横断型組織とは』)

まとめ

採用コストの相場は、求める人材や採用手法によって大きく異なります。相場より自社の採用コストがかかりすぎていないか、採用コストの計算方法に当てはめて算出してみましょう。

採用コストの削減を図る際は、「ミスマッチによる離職対策」「採用ターゲットの明確化」「採用プロセスの最適化」「内部コストの見直し」といったポイントを押さえて取り組むことが重要です。

今回ご紹介した採用コストの削減につながる採用手法や企業事例なども参考に、適切な採用コストとなるよう見直してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)

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