「無理ゲー」にしない!キッズライン経沢氏に聞く“女性の管理職への昇進意欲を後押しする”上司の働きかけ
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昇進した女性のロールモデルが社内に少ない場合、上司はネガティブな思い込みを打破し、ポジティブに目標を追いかけられる関わり方をする
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上司に求められるのは、先入観を持たずに部下のキャリア意向を聞き、強みを言語化して伝える「プロデュース能力」
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地道に女性管理職を増やすだけでは「多様性がない企業」のまま。本当に大切なのは、女性の考えが組織の意思決定に反映されること
多様性が重視されるようになった世の中で、持続的に成長していくためには女性活躍推進が不可欠。そう認識している企業は多いと思いますが、現実はどうでしょうか。
厚生労働省がまとめた「令和5年度雇用均等基本調査」によると、課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は12.7%で前年度と変わらず横ばいの状況。女性管理職比率はなかなか高まっていません。女性の採用数を拡大しても、入社後のキャリアを支援する上司の働きかけやサポートが適切に行われなければ、昇進意欲の低下や離職につながってしまう恐れもあります。
女性管理職比率を高めるためにはどのようなアクションが必要なのでしょうか。管理職の大半を女性が占める株式会社キッズライン代表の経沢氏は「産育休や子育てをサポートする社会的な環境は整備されつつある。ここからは“いかに抜てきしていくか”が問われる」と指摘します。
女性のキャリアアップを後押しするために上司が取るべきアプローチとは?経沢氏の実体験やキッズラインでの実践ノウハウを通じて、そのヒントを聞きました。
多くの女性にとって、昇進が「無理ゲー」になってしまう理由
——キッズラインでは現場の管理職である「執行責任者・チームリーダー」のほとんどが女性で占められています。なぜこの体制が実現しているのでしょうか。
経沢氏:当社は、テクノロジーを基盤としたベビーシッター・家事代行サービスで働く女性をサポートしています。社内でも性別にかかわらず働きやすい環境を整えており、私たちの事業やビジョンに共感する人が多く集まってくれるようになりました。
その結果、当社では自然と女性リーダーばかりになっていきました。意図的に女性ばかりを登用しているわけではなく、現在はむしろ男性リーダーを増やしたくて悩んでいるくらいです。
でも、世の中の多くの企業では女性管理職がなかなか増えていませんよね。女性の場合は妊娠・出産・授乳という1年がかりのプロジェクトが起こることがあり、従来の企業は戦力ダウンを危惧して男性優先の人事構成になってしまっていました。しかしこれでは多様性に欠け、今後は投資家からも選ばれなくなっていくでしょう。企業は短期的なメリットだけでなく、長期的なメリットを考えて女性のキャリアと向き合っていかなければいけません。
——そうした中で女性採用を拡大する企業が増えていますが、一方で「女性従業員の昇進意欲が低い」ことを悩みに挙げる企業も少なくないように感じます。女性の昇進意欲を低下させてしまう要因としては何が考えられますか。
経沢氏:多くの女性にとって、企業組織はまだまだ「男性社会」であり、仕事と子育てを両立しながら昇進することが「無理ゲー」になっているのではないでしょうか。頑張っている女性はたくさんいるけれど、それでも昇進が阻まれてしまっているように思います。
私自身は若手のころ、早くステップアップするために「子どもがいないうちにできるだけ昇進し、周囲との信頼関係を作っておきたい」と考えていました。社会人になって最初の5年間に勝負をかけたんです。
今でも同じように、早い段階からキャリアプランを明確に持つ女性は多いでしょう。ですが今は長時間労働が規制されていたり、リモートワークが求められたりして、「初速をなかなか上げられない」のかもしれませんね。そのまま出産・育児のタイミングを迎えると、日本ではまだまだ子育ての中心的な役割を母親が担っているため、仕事に全力を傾けることが難しくなってしまう。
大前提として企業は組織全体の生産性を高め、従業員が時短勤務でもパフォーマンスを発揮できるようにするべきでしょう。その上で、管理職の関わり方次第で、女性の活躍を後押しできると考えます。
女性の昇進を後押しする「適切な声かけ」と「明らかにNGな関わり方」
——女性の昇進意欲を低下させないために、上司はどのような働きかけをすべきでしょうか。
経沢氏:上司の役割は、部下の性別にかかわらず、相手がどんなキャリアプランを考えているのかを聞き、その目標を理解して実現をサポートしていくことでしょう。女性で昇進意欲がある人に対しては、「リーダーや役員を目指していこう」と伝え、ポジティブに目標を追いかけられるように後押ししていただきたいですね。
——具体的に求められる言葉がけや関わり方とは。
経沢氏:女性管理職が少ないということは、女性は男性と比べて、昇進後のロールモデルが少ないということです。もともと昇進意欲を持っていた人でも、周囲にバリバリ活躍している人が少ないと「私はどうせこの程度」「役員になるなんて想像もできない」などと思ってしまいがち。上司にはその思い込みを打破してあげてほしいです。
少し、私自身の体験をお話しさせてください。
私はリクルートに勤務していたころ、上司から「経沢に『頑張れ』と言ったら倒れるまで頑張ってしまいそうなので、むしろ仕事を振らないようにしたい」と言われたことがあります。当時の私は「勝手に“過保護なお父さん”のように言ってほしくない!」と反発心を抱き、上司を振り切ってバリバリ働いていました(笑)。
上司がそんなふうに私に言ったのは、前述のように最初の5年に勝負をかけ、できるだけ早くステップアップしたいと私が考えていることを知っていたからです。一時は反発もしましたが、部下のキャリアプランを真剣に受け止めてくれる上司がいたことで、私はポジティブに働けました。
その後に転職した楽天では、三木谷浩史さんの下で働くという貴重な経験を積むことができました。ただ転職当初は思いが空回りしてうまくいかないことも多く、辞めようと考えたタイミングもあったんです。
そんなときに三木谷さんが話を聞いてくれて、私なりに考えていた会社を良くするためのアイデアが採用されました。トップの考えをくみ取り、研修などの形にする仕事に没頭して、「経沢さんはエグゼキューション能力(戦略の実行・実施力の意)が高いね」と評価してもらったこともあります。この言葉は後々まで、私の大きな支えとなりました。
——いずれの場面でも、上司は経沢さんのキャリア意向を丁寧に聞いた上で、活躍の場を整えてくれたのですね。
経沢氏:はい。やる気や意欲をそがないようにするためには、本人の希望を理解することがまず必要だと思います。「思い切り仕事に取り組みたいのか、セーブしたいのか」「厳しく接してほしいのか、優しく接してほしいのか」など、部下が望んでいる対応はその時々で違うはず。だからこそ上司は先入観を持たず、部下の話に耳を傾けるべきでしょう。
また、私が「エグゼキューション能力が高い」と評価されてモチベーションを高めたように、上司には部下の良いところを認め、適切に言語化して伝える力が求められると思います。上司は部下の成長を演出するプロデューサー。部下の強みを適切に言語化して伝えてあげられれば、部下の成功体験につながるはずです。
——逆に、女性の部下に対する「明らかにNGな関わり方」もあるのでしょうか。
経沢氏:外見について触れるのは、明らかにNGだと思います。顔や体型については言わずもがな、「そのファッションは変えたほうがいい」などとアドバイスするのもやめたほうがいいでしょう。言われた側は「外見と仕事になんの関係があるのか?」と不快感を持ち、モチベーションが大きく下がってしまうかもしれません。
私の場合は、相手の性別にかかわらず、「顔色が悪いね」とか「疲れてるの?」といった言葉もかけないようにしています。ジェンダーの観点でも、上司は仕事以外の部分で部下を評価しないようにすべきではないでしょうか。
本当に大切なのは、女性の考えが組織の意思決定に反映されること
——制度設計についてのご意見もお聞かせください。現在では女性管理職比率を高めるため、アファーマティブ・アクション、ポジティブ・アクション(※)に取り組む企業も出てきています。こうした手法も有効なのでしょうか。
(※)積極的格差是正措置。女性管理職比率を高める文脈では、あらかじめ役員や管理職に占める女性の数を規定し、その数に従って女性を登用する方法がある。
経沢氏:あらかじめ下駄を履かせるような発想に対して、否定的に考える人が一定数いることは承知しています。ただ私は、1人ずつ地道に管理職へ登用するよりも、ダイナミックに複数人を登用したほうが企業経営にインパクトをもたらせるのではないかと考えています。
たとえば中堅・中小企業で10人の管理職枠があるなら、そのうち1人ではなく、3人や5人といった単位で一気に女性管理職を任命するのも有効ではないでしょうか。複数の女性管理職がいれば互いに相談や協力がしやすくなり、新しい潮流をつくっていくスピードも高まるでしょう。
そもそも、女性管理職が少ないままでは、女性視点の考えが意思決定につながりません。私自身の経験でいうと、社外取締役を拝命している企業で「女性の取締役は私だけ」ということも過去にありました。これだと、女性視点の意見が出ることはあってもマジョリティにならず、組織の意思決定には反映されません。外部から見れば「多様性がない企業」「女性の価値観を取り入れていない企業」のままです。
女性管理職比率を高める取り組みで真に意識すべきなのは、数を増やすことではなく、女性の考えが組織の意思決定に反映されていること。これこそ多様性を増していくことの意義だと思いますし、当社も多様な人の意見が反映される組織であり続けたいと考えています。
写真提供:株式会社キッズライン
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取材後記
昇進のロールモデルが少ない傾向にある女性。加えて経沢さんは「SNSなどを通じて安易な他者比較をしてしまう傾向もあるのでは」と指摘していました。誰かと比べて自分は昇進が遅い、誰かと比べて自分は輝けていない…。社内にロールモデルが少ないからこそ、社外の目立つ人と自分を比較し、無用な焦りや不安を覚えてしまうこともあるのかもしれません。上司はそうした部下の思いも理解した上で、「部下自身のキャリアプラン」を描けるようにサポートしていく必要があるのだと感じました。
企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介
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