【弁護士監修】入社直後の無断欠勤!連絡が取れなくなった社員の対処法

竹村総合法律事務所(第一東京弁護士会所属)

松下翔(まつした しょう)弁護士
【監修・寄稿】

プロフィール

会社の成長のために、時間をかけてようやく採用・入社となった新入社員。しかし、しばらくすると会社に来なくなってしまった…。残念なことですが、このような経験をされている人事・採用担当者もいるのではないでしょうか。会社に連絡もなく出社しないことに、激しい怒りを覚え、相手が悪いのだから放っておこうという気持ちになってしまうかもしれません。しかし、状態を放置するのは決して正しい対応とは言えず、場合によって会社が何かしらの法的責任を負ってしまう可能性さえあるため、注意が必要です。今回は入社直後、会社に出社せず、連絡が一切とれなくなってしまった社員への、正しい対処法をご紹介します。

会社に来なくなった場合でも、まずはできる限り連絡を取ってみる

一般的に無断欠勤は、容認される行為ではありません。そして、入社直後から無断欠勤があるようでは先が思いやられ、このような社員を放っておきたいと考えてしまう気持ちも十分に理解できます。しかし、「もしも何らかの病に倒れていたら?」「意図せず犯罪行為などトラブルに巻き込まれていたら?」など、万が一の可能性を100%否定はできません。

また、会社は社員に対して、安全に働く環境を提供する法的義務を負っています(安全配慮義務 労働契約法第5条 ※)。例えば、社員に無断欠勤があった場合に何の連絡も取らないでいると、仮にその社員が病に倒れて亡くなってしまった場合、会社は安全配慮義務違反を理由に、責任を負うことになるケースも出てくるのです。以上のことから、会社は無断欠勤の社員本人に対し、連絡を取る必要があるのです。

(※)労働契約法第5条「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」

数日、電話をしても連絡が取れない場合

電話しても…

先ほど説明した通り、会社は社員に対して「安全配慮義務」を負っています。そのため電話連絡を行う必要がありますが、病などに倒れどうしても電話に出ることができないケースや、本人があえて電話を拒否しているケースなど、さまざまな状況が考えられます。最悪のケースに備えて、連絡先は複数(携帯電話だけではなく、自宅など)確認しておく。親族などの関係のある人物の連絡先を“緊急連絡先”として控えておくことが大切になります。これらは、入社契約時に書類として提出している企業も多いのではないでしょうか。業務内で何かトラブルが合った際に連絡する先を確認しておくことは、無断欠勤に関わらず重要な方策となります。

それでも連絡が取れない場合、本人へメールや手紙を送る、本人の自宅を訪れるなど、企業からの積極的な働きかけが必要となります。その際に重要となるのは、連絡を取った・訪問したなど、「企業から接触したという事実を、証拠として残しておく」ことです(証拠を残す必要性については、後述します)。

連絡を取り続ける以外に、企業側がやるべきこと

本人への積極的な連絡のほか、雇用保険、健康保険、労災、厚生年金等に関する手続きの準備もしておくとよいでしょう。まず、連絡がとれなくなった初日~2日目までは、本人や関係者への電話での連絡を行う。2日以上連絡を取ることができない場合には、手紙の送付(内容証明郵便を推奨)や、自宅への訪問を行い、最終的な方針が確定した段階で各種手続きを実施していくことになります。

もちろん、無断欠勤をする社員が現れたときに初めて対応を検討するのではなく、会社のリスクマネジメントの一環として事前に対応策を検討しておくことが望ましいと言えます。また、無断欠勤をする社員に対して適切に対応し、会社を守るためには就業規則などの社内規程を整備しておく必要があります。就業規則に、試用期間に関する定めや、無断欠勤、遅刻、早退に関する定め(例えば、自然退職や解雇事由に関する規定)を整備しておくことで、採用した社員が、会社が求める人材ではなかった場合の対策を講じることが可能になります。意外ではありますが、就業規則を定めていると思い込んでいたものの、漏れがあったケースも多いため、いま一度確認することをお勧めします。

社員が会社に来なくなった場合、解雇(雇用契約終了)は可能か

結論から言えば、就業規則の定めに基づき、解雇手続きを行う旨を本人に通知をした上であれば、解雇手続きを進めることができます。
しかし、どのような理由であれ「解雇された」という事実は、社員本人としても、あまり気持ちのよいものではありませんし、会社側にもシコリを残すことにつながりかねず、リスクになってしまう可能性があります。ですので、できる限りの手段を尽くして本人と接点を持ち、今後の勤務について話し合うのがよいでしょう。無断欠勤の理由や本人の意向を踏まえ、勤務が厳しいと判断すれば、退職届へ署名押印をしてもらって手続きを進め、退職を進めることが望ましいと言えます。解雇にしろ、退職にしろ、一連のやり取りを証拠として残しておくことも必要でしょう。これは、事後トラブルを防ぐことにもつながります。
社員が会社に来なくなった場合

試用期間の社員を対象としたものではありませんが、社員の無断欠勤を理由に解雇をしたいと考えた場合に、覚えておきたい判例があります。それが、「栴檀学園事件(現東北福祉大学) 仙台地裁 平成2.9.21」と呼ばれる判例です。このケースでは、使用者が出勤しなかったことについて、特に雇用主から注意をしていなかったため、懲戒解雇が無効となっています。
つまり、会社側は、自宅を訪問したのであれば日付入りの写真を撮影しておく。手紙についても内容証明郵便を活用する。など、積極的な働きかけをした証拠を残す必要があります。また、当該社員とどのようなやり取りをしたか、履歴をまとめておくようにしてください。

【まとめ】

新しく採用した社員が、急に出社しなくなってしまうことは、実は珍しいことではありません。会社としては、そういった社員に対してどのように対処するべきか、対処するためのルールはきちんと定められているかをもう一度検討しておく。そして実際に事態に直面した場合に、どうすればよいか分からず慌てふためくことがないように準備しておくことがよいでしょう。そうすることで、会社として思わぬトラブルに巻き込まれることを防ぐことができます。

なお、会社が無断欠勤社員に対してきちんと対応しないことによって巻き込まれるトラブルは、無断欠勤をした社員との間にとどまらない場合があります。実際に今までにあった例としては、試用期間中にある社員が会社の重要な取引先情報を盗んで、その後無断欠勤を続けていました。会社は、その社員が出社しないことに怒りを感じ放置。無断欠勤が30日続いたところで解雇扱いとしました。すると、その社員は、知らぬ間に競合企業に就職して、取引先情報を流用されてしまったということがありました。
この場合、不正競争防止法等に基づく損害賠償請求が可能な場合もありますが、一旦持ち去られた取引情報を基にして競合企業が取引先と取引を始めてしまうと、後の祭りです。もし、社員と連絡を取って出社を促し、それでも来ないのであれば退職届けを提出させるなど、社員管理を徹底していれば、情報の持ち出しへの対応ができていたものと思われます。

少し話がそれましたが、会社は法律とその判断が及ぼす影響を正しく理解し、普段から準備をしておくこと。そして、トラブルの種が発生した場合、早目のアクションを心掛けることで、トラブルの予防や早期解決ができるようになります。いずれにしろ慎重な行動を心がけ、何かあった場合は顧問弁護士などへ早めの相談を行うようにしましょう。

(監修協力/unite株式会社、編集/d’s JOURNAL編集部)

【弁護士監修|法律マニュアル】
01. 試用期間の解雇は可能?本採用を見送る場合の注意点とは
02. 入社直後の無断欠勤!連絡が取れなくなった社員の対処法
03.途中で変更可能?求人票に記載した給与額を下げたい場合
04.試用期間中に残業のお願いは可能?残業代の支払いは?
05.炎上してからでは遅い!採用でSNSを使う際の注意点
06.求人票に最低限必要な項目と記載してはいけない項目
07.採用後に経歴詐称が発覚した場合の対応法。解雇は可能?
08.意図せず法律違反に…。面接で聞いてはいけないこと
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11.【チェックリスト付】選考・入社時に提出させてはいけないNG書類
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