「何のために、はたらいているんだろう…」と考えたことがある社会人は75%!本音調査から見えた離職リスクと防止策
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「やりがい喪失」への対策では、1on1より日常の声かけが有効なケースもある。上司は高度な会話を意識するよりも、わからないことを素直に聞いて若手の気持ちを理解すべき
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「評価・給与の不満」への対策では、評価の仕組みを部下と共有し納得感を高めることが重要。日常的に成果を言語化し記録し続けることで、公平性を実感してもらえる
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「なんとなくの疲れ」への対策では、コーピング試験でストレス要因を数値化し個別に把握することが有効。若手だけでなくメンターも守るため、育成の最終責任は上司だと明確にする
人材不足が深刻化する中、マネジメントが機能しない職場では、部下が意欲を失い、最低限の業務だけをこなす「静かな退職」状態に陥ることがあります。さらに、上司が気づかないまま「退職代行」を利用して突然辞めるケースや、何事もなく働いていた従業員が急に退職する「びっくり退職」も増えています。
なぜ部下はこうした状態に陥ってしまうのかーー。部下の本音を知り、日々のコミュニケーションに活かしていくには何が必要なのでしょうか。はたらく人の気持ちを探った「doda」によるアンケート結果と、専門家の視点を交えてお伝えします。
「はたらく理由がわからなくなる」3大要因とは
「doda」では2025年3月、はたらく個人への調査に基づいた記事『「なんのために働くのか?」15,000人アンケート 働く理由が分からなくなった際の対処法を解説』を公開しました。
上記調査において社会人15,000人を対象に「『いったい自分はなんのために働いているのだろう?』と感じたことがあるか?」と聞いたところ、75.2%の人が「感じたことがある」と回答。男女別、年代別で見てもこの割合にほとんど違いはありませんでした。
では、どんなときに「いったい自分はなんのために働いているのだろう?」と感じるのでしょうか。
この設問に対する回答を集計したところ、1位は「仕事にやりがい・充実感がない」(30.9%)、2位は「仕事を頑張っても給与や昇進に反映されない」(28.4%)、3位は「何となく仕事に疲れてきた」(27.8%)という結果でした。

上位を占めたこれらの回答は、従業員が「はたらく理由を見失ってしまう原因」だといえます。このまま放置すれば、部下が「静かな退職」の状態になったり、突然の離職につながったりしてしまいかねません。
はたらく理由を見失ってしまいそうな部下へ、どのように接していけばいいのでしょうか。ここからは、人事のプロフェッショナルとして数多くの企業を支援する松下直子氏に、実際のケースを交えながら語っていただきます。
はたらく理由を見失う原因1位:「仕事にやりがい・充実感がない」への対策
松下氏:部下が仕事にやりがいや充実感を見出せていないとき、上司の接し方によっては、結果として上司自身が「転職の背中を押してしまう」ことがあります。
ある大企業グループではたらいていた20代後半の人事の例を紹介しましょう。彼は業務に活かすため、社会保険労務士の資格取得に向けて勉強していました。ある日の昼休み、休憩室で問題集を読んでいたところ、上司から「何を読んでいるんだ?」と聞かれ、社労士試験に挑戦することを伝えたそうです。すると上司は、「そんな勉強をして、転職でもするつもり?」と軽い冗談のつもりで言ってしまいました。
彼はもともと職場に閉塞感を抱えており、その一言が決定打となって即日スカウトサービスに登録。あっという間に転職を決めてしまいました。上司の何気ない言葉が“最後の一押し”になってしまったわけです。
では、管理職はどう接するべきだったのでしょうか。
最近では会社全体でコーチングを導入するケースも増え、月1回程度のペースで1on1を実施する職場もあります。しかし、若手側からすると、こうした取り組みを「タイパ(タイムパフォーマンス)が悪い」と感じてしまうこともあるようです。部下の頑張りを褒めたり課題を伝えたりすることは大切ですが、日常の中で気づいたその瞬間に声をかけるほうがよほど効果的だと考えています。
また、上司が無理をして高度な会話をしようとする必要はありません。若手の考えがわからなければ、素直に「教えて」と聞けばいいのです。今やZ世代が世界の人口の3分の1を占めるとも言われる時代で、若手の感覚がわからなくなるのは自然なこと。若手がどんな言葉を求めているのか、彼らにどんな言葉が響くのかを知れば、やりがいを削ぐのではなく、高めていく声がけができるようになるはずです。

はたらく理由を見失う原因2位:「頑張っても給与や昇進に反映されない」への対策
松下氏:中堅・中小企業では、すぐに給与を大きく変えることは現実的に難しいケースも多いでしょう。大切なのは、部下が評価の意味を正しく理解し、受け止められるように支援することです。
ある企業では評価者研修だけでなく、被評価者研修も同時に行っています。これは「上司が評価の際に何をしているのか」を部下側にも知ってもらう取り組みで、いわば評価を得るための立ち回り方を共有していると言えます。評価では、どうしても上司と部下の情報が非対称になりがちですが、同じ情報を提供するだけでも納得感は大きく変わります。
上司側の視点だけをそろえても部下の納得度は上がりません。「何ができれば評価が上がるのか」を上司と部下が合意できていることが大切で、その共通理解を基に評価をつけていくべきなのです。
コスパやタイパを重視する若手の多くは「努力が報われない」ことを非常に嫌います。「この上司の下ではたらけば、評価を得られる期待行動が理解できる、早く仕事ができるようになる」と感じられるかが重要。そのためにも、部下の“できているところ”、そして“何をどう改善するとよいのか”を上司が言語化し、日常的に伝える必要があります。半年に一度のフィードバックで突然伝えるのではなく、普段から言葉にして記録しておくことがポイントです。
はたらく理由を見失う原因3位:「何となく仕事に疲れてきた」への対策
松下氏:仕事を取り巻く環境の変化が激しく、さまざまな職種で業務内容が高度化している現在。知らず知らずのうちにストレスを抱えてしまう人も増えています。
こうしたなかで私がおすすめしたいのは「ストレスコーピング試験」の活用です。自分がどんなストレスに弱いのかを数値で把握する機会を持つことは、対策としてとても有効です。
上司や人事にとっても、部下のストレス傾向を把握することには大きな意義があります。採用時にストレス耐性を測る企業もありますが、実際のストレスは、業務内容や人間関係など職場固有の環境に左右される面が大きいでしょう。だからこそ「個人」と「会社の環境」に応じて把握し、「今どきの若手」といった大きなくくりで語るのではなく、一人ひとりのストレス傾向をつかむ必要があるのです。
さらに、若手を支える先輩社員への配慮も欠かせません。多くの企業では若手にメンターがつきますが、本来の業務に追われる中で担当することも多く、メンター側が先に疲れてしまうこともあります。最悪のケースでは新人が辞めたときにメンターが責められ、モチベーションが低下することにもつながります。
こうした事態を防ぐため、配属前の研修などでは「上司・メンター・新人がセット」で参加し、「最終責任は上司が担う」ことを明確に示すべきです。新人ごとに特性を見極めて育成方針を個別に立て、人事と現場で共通認識を持つことが理想だと考えています。
それでも退職を切り出されたときのコミュニケーションは?
松下氏:率直に言って私自身は、部下が退職を口にした段階で「8割方はもう止められない」ものだと思っています。人が一度言葉にした意思を変えるのは難しいもの。上司や人事としては、辞めることを決意した人の話を聞き、改善点を教えてもらって、今後の組織づくりに活かすほかにないでしょう。
そうした場面で大切にしたいのは「円満に退職してもらう」という姿勢です。別れ方が悪いと遺恨が残り、お客さまに迷惑がかかる場面すらあります。最近では“きれいな退職”を重視する会社が増えており、OB・OGネットワークを活かしたアルムナイ採用などにもつながっています。
やむを得ず退職という決断に至った場合でも、人と人として向き合い、本音で話す。その努力が次の採用成功や人材定着につながるのではないでしょうか。

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【取材後記】
松下さんは取材の中で「心理的安全性が本当に必要なのは上司側」だと指摘していました。何気ない一言が部下のキャリアを大きく左右しかねないからこそ、上司には部下の感情に寄り添うだけでなく、自分の感情に気づくことも求められるのでしょう。はたらく人の本音を理解しあえる組織になるために、人事はまず、管理職が自分の感情を理解できるような場を支援すべきなのかもしれません。
企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介
撮影場所:WeWork Namba Sky O共用エリア
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