採用マーケティングとは|得られるメリット・実践のためのステップを紹介
d’s JOURNAL編集部
近年の採用市場では、少子高齢化にともなう労働力不足によって、人材の獲得競争が激化している状態です。売り手市場が長く続く環境にあって、従来のように求職者からの応募を待つだけの採用方法は通用しないケースが増えてきました。
そこで注目を集めているのが、採用活動にマーケティングの概念を取り入れた「採用マーケティング」という考え方です。この記事では採用マーケティングの特徴やメリット、実践方法について解説します。
採用マーケティングとは
採用マーケティングとは、採用活動に「マーケティングの考え方」を取り入れた新しい概念のことです。マーケティングの考え方とは、一言でいえばゴールまでのプロセスをファネル(ろうと)として捉え、対象を目的まで導いていく思考を指します。
一般的なマーケティングでは、顧客を購入や利用申し込みといったゴールに導くまでに、さまざまなプロセスを段階分けして最適なアプローチを探ります。商品・サービスの認知から始まり、競合との比較検討などを経て購入に至るまで、顧客のニーズを探りながら各プロセスにおける施策を考えていくのです。
それと同じように、採用マーケティングでは、入社前から入社後までのプロセスをファネルとして捉えます。つまり、マーケティングにおける商品・サービスを企業に、顧客を求職者にそれぞれ置き換えて、段階分けしながら最適なアプローチを探っていくということです。
企業認知度と志望度の向上、自社のファンづくりなどを丁寧に行いながら、最終的には入社をしてもらうのが採用マーケティングの目的です。
これまでの採用方法との違い
これまでの採用方法は、どちらかといえば実際に転職を考えている顕在層のみにフォーカスして、主に応募を受けてから採用に至るまでのプロセスに注力していたのが特徴です。これは、現在と比べて比較的に求職者の数が多く、企業が「待ちの姿勢」でいても十分に候補者を獲得できていたためといえます。
一方、売り手市場に傾いている現在では、多くの企業が人手不足を抱えており、従来の方法では十分な母集団を形成することが難しくなりました。そこで、重要視され始めたのが、採用マーケティングの考え方です。
採用マーケティングは転職顕在層だけでなく、今すぐには転職を考えていない「転職潜在層」にも目を向け、積極的に自社の認知や魅力の訴求を行うのが特徴です。さらには、自社の従業員にもアプローチを行い、従業員エンゲージメントの向上にも力を入れます。
採用ブランディングとの違い
採用マーケティングに関連する用語として、「採用ブランディング」があります。採用ブランディングとは、企業の認知度や求職者の入社意欲を高めるため、戦略的に企業のイメージアップを図る取り組みのことです。
具体的には、採用に特化したホームページを運営したり、SNSを活用したりしながら、自社の魅力を幅広く発信していくのが主な施策です。採用活動においては、採用マーケティングの一部と考えておいてよいでしょう。
採用マーケティングは認知から入社・自社での活躍までを含めた幅広いプロセスを対象としますが、採用ブランディングはそのなかでも、スタート段階にあたる「認知の拡大」「興味の獲得」を目的とします。採用ブランディングについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
(参考:『採用ブランディングとは?目的や方法、メリット、進める際のポイントなどを紹介』)
採用マーケティングが注目される背景
採用マーケティングが注目を集めているのは、人材採用を取り巻く環境に大きな変化が生まれているためです。ここでは、特に影響が大きな要因を3つピックアップして解説します。
労働人口の減少
日本では、少子高齢化にともなう労働人口の減少が続いており、どの業界でも人材不足が深刻化している状態です。求職者数よりも求人数が多いため、限りある優秀な人材を各企業で取り合わなければならない状況が続いているのです。
パーソル総合研究所の「労働市場の未来統計2030」によれば、2030年には労働需要7,073万人に対し、労働供給は6,429万人と「644万人の人手不足」が生じることが推計されています。出生率の低下を考えると、こうした状況は今後もなかなか改善されず、日本企業が抱える課題となっていくと予想されます。
そのため、企業にとっては採用競争に負けない魅力を備えるとともに、積極的に発信していくマーケティングの概念が欠かせなくなっていくでしょう。
採用手法の多様化
従来の採用方法は、紙媒体や転職サイト、就活サイトなどで広告を打ち出し、求職者からの応募を待つのが一般的でした。企業から積極的に動くとすれば、人材紹介サービスなどを利用して、他の企業に仲介してもらう必要がありました。
しかし、近年ではダイレクト・ソーシングや、社員や取引先を通じたリファラル採用など、企業側から行動を起こせる選択肢が増えています。単なる「待ち」の採用ではなく、自ら優秀な人材にアプローチをかける「攻め」の採用が可能となったことで、企業には採用に対する新たな戦略の考え方が求められるようになりました。
こうした点も、採用マーケティングが重要性を増している理由の一つといえます。
求職者の価値観の変化
仕事に対する価値観の変化も、採用戦略に大きな影響を与えています。従来の採用市場においては、どちらかといえば給与水準や待遇といった定量的な条件が重視されやすい傾向にあり、十分な報酬を用意できていれば比較的に優位な状態で採用活動を進めることが可能でした。
一方、現在では働きがいやカルチャーマッチ、社会貢献、ワークライフバランスといった定性的な条件に求職者の関心が集まりやすい傾向にあります。また、転職に対する考え方も積極的になっており、人材と企業の間にミスマッチが起これば、せっかく採用しても離職されてしまうリスクが高まりました。
こうした状況においては、求職者とじっくり向き合い、自社の方針や業務内容についても適切に理解してもらえるような仕組みづくりが求められます。採用マーケティングの考え方を取り入れることで、マッチ度の高い人材と出会える可能性が広がるため、重要度が高まっている側面もあるでしょう。
採用マーケティングにおける採用対象者
採用マーケティングでは、採用対象者を明確にして適切な施策を検討する必要があります。ここでは、採用マーケティングの対象を具体的に分けて見ていきましょう。
転職希望者
採用マーケティングの主な対象となるのは転職希望者です。そのうえで、従来の採用手法のように「転職顕在層」のみを対象とするのではなく、「転職潜在層」まで広げて考えるのが大きなポイントです。
採用マーケティングでは、「具体的には転職先を決めていないもののよい条件であれば考えてみたい」「自身の能力やスキルをもっと活かせる場を見つけ始めている」など、まだ転職行動を起こしていない層にも目を向け、情報発信を行います。そのため、転職潜在層の「隠れたニーズ」を分析し、適切に刺激することが重要な施策となります。
自社の従業員
採用マーケティングの大きな特徴は、自社の従業員にも対象を広げる点にあります。それは、自社の理念やビジョンに共感した従業員を増やすことで、自然とマーケティングにつながる動きが生み出されていくためです。
具体的には、SNSやWeb・口コミでの好意的な情報発信や社外のファン創出などがあげられます。また、より直接的な効果としては、従業員の知人を紹介してもらえるリファラル採用の活性化なども考えられます。
こうした効果を期待するためには、労働環境の向上や社内広報の充実、キャリア形成へのサポートといった施策を通じて、従業員エンゲージメントを十分に高めることが重要です。そのため、広義の採用マーケティングには、社内環境の改善・向上も含まれているといえるでしょう。
退職者(アルムナイ)
アルムナイ(alumni)とは、卒業生・同窓生・校友といった意味を持つ言葉です。定年ではない理由で離職・退職をした従業員を指し、たとえば育児や介護によって離職した従業員などが該当します。
アルムナイと一般的な求職者との大きな違いは、「すでに自社の理念や業務をある程度理解している」「自社での経験に加えて外部のノウハウや知識も身につけている」といった点にあります。即戦力としての活躍を期待しやすいことから、アルムナイとの関係づくりも採用マーケティングでは重要な施策となるのです。
具体的な方法としては、「アルムナイ専用の情報交換システムをつくる」「戻ってきやすい雇用体制を確立する」といったものがあげられます。そのうえで、仮に復職してもらえなかったとしても、アルムナイと良好な関係を築くことには大きな価値があります。
自社のファンであり続けてくれる限り、「良質な顧客になる可能性がある」「転職先で自社の好意的な評判を広げてくれる」など、二次的なメリットも生み出すのです。
(参考:『アルムナイとは?注目される理由とメリット・デメリットを解説』)
内定辞退者
採用マーケティングでは、内定辞退者や最終選考まで残った候補者なども対象とします。これらの人材は、一般的な求職者と比べるとマッチング度が高い傾向にあり、時期が変わったり人材の状況が変化したりすれば、有力な候補者となり得るためです。
また、不採用者に対するフォローが不十分であれば、SNSや口コミサイトなどでネガティブな情報を発信されてしまうリスクもあります。無用なリスクを避けるためには、内定者以外にも目を向け、丁寧にマーケティング施策を実行していく必要があります。
採用マーケティングの実践で得られるメリット
企業が採用マーケティングに取り組むことで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは3つのポイントから解説します。
応募者数の向上
採用マーケティングでは、従来の採用よりも対象を広く設定するため、応募者数の増加を見込めるのがメリットです。すぐに転職を考えていない潜在層や、従来であれば対象外とされていた退職者や選考参加者に向けても発信を行い、母集団を大きく広げることができるのです。
自社に合った人材の採用につながる
マーケティングの施策においては、採用したい理想のペルソナを設定し、それに合わせて戦略を立てることとなります。採用ペルソナを明確にすることで、全体としてのロードマップが最適化され、自社にマッチする人材が見つけやすくなるのも大きな利点といえるでしょう。
また、採用マーケティングの過程では、自社の魅力を求職者にわかりやすい形で発信する必要があります。その結果、求職者側も企業が自分に合うかどうかを事前に見極めやすくなるため、採用後のミスマッチを未然に防ぐことも可能です。
採用コストの削減
採用マーケティングの施策がきちんと機能すれば、一つずつの取り組みの費用対効果が高まるとともに、効果の薄いプロセスをあぶり出すことも可能です。たとえば、分析によってこれまで何となく利用していた広告媒体の効果が薄いことがわかれば、使用を打ち切ってコスト削減を実現できます。
その分、効果的な施策にきちんと費用をかけることができるため、トータルとしてのコストパフォーマンスは大きく向上します。また、前述のように、採用マーケティングは採用時のミスマッチの予防につながるのもメリットです。
自社にピッタリとフィットする人材を見極め、採用した従業員の定着率が向上すれば、長期的な採用コスト・育成コストの削減も見込めるでしょう。
(参考:『採用コストの平均相場は?コスト削減の施策や計算方法を解説』)
採用マーケティングの実践ステップ
採用マーケティングは、ある程度の中長期的な時間を必要とする取り組みです。そのため、実行するうえではしっかりと全体像を把握し、綿密なスケジュールに基づいた戦略を立てる必要があります。
ここでは、採用マーケティングを実践するためのステップを6つに分けて見ていきましょう。
自社の現状を把握する
マーケティングの基本は、自社が置かれている状況を正確に分析し、正しく現状把握をすることにあります。採用マーケティングにおいては、自社の強みと弱みを客観的に分析することが第一歩となります。
経営理念・経営戦略・事業計画などを参照して、自社の状況を正確に捉え、採用戦略の立案に活かしましょう。分析の代表的な手法としては、「3C分析」や「SWOT分析」があります。
3C分析とは、以下のように「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの視点で現状を整理する方法です。
・Customer:市場規模、顧客のニーズ、顧客の消費行動
・Competitor:競合各社の特徴、シェア率、参入や代替の脅威、業界におけるポジション
・Company:自社の理念やビジョン、資本力、現有ビジネスの特徴、事情の現状
採用マーケティングにおいては、Customer(顧客)を「Candidate(求職者)」と置き換えて分析を行う必要があります。SWOT分析とは、自社の状況を以下のように「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4象限から分析する方法です。
プラス要因 | マイナス要因 | |
---|---|---|
内部環境 | Strength(強み) | Weakness
(弱み) |
外部環境 | Opportunity(機会) | Threat(脅威) |
これらの分析手法を用いることで、自社の状況が客観的に把握できるようになります。自社の強みや弱み、活かすべき機会や見舞われている脅威といった外部環境が明らかになれば、どのような人材をどのように採用すべきかが自然とあぶり出されていくでしょう。
ペルソナを設定する
有効なマーケティング戦略を立てるうえでは、どれだけ明確な採用ターゲットを設定できるかが重要なカギとなります。自社にどのような人材が必要かを検討し、具体的な言葉で定義することが大切です。
そして、ターゲットが明確になったら、もう一段掘り下げて採用ペルソナを作成していきます。採用ペルソナとは、「ターゲットを象徴するような具体的な人物設定やキャラクター」のことです。
具体的には、次のような項目について設定していきます。
ペルソナの主な設定項目
・年齢・性別
・現在の職種・業種
・年収
・居住地
・保有資格・スキル
・経験
・パーソナリティ
・転職理由
・情報収集の手段、よく使うツール
・行動・振る舞い など
採用ペルソナは、求職者の行動や価値観を共有するのに便利な指標となります。採用戦略を練ったり、最適なアプローチを選択したりするうえで、欠かせない基準となるのです。
また、採用担当者にとっても、採用ペルソナが固まっていれば見極めがしやすくなるので便利です。
キャンディデイトジャーニーを設計する
商品・サービスを売るためのマーケティングでは、「カスタマー(顧客)ジャーニーマップ」を設定して、情報収集から購入・利用までのストーリーを組み立てる必要があります。これは、各プロセスにおける顧客の心理的・行動的な変化を正確に捉え、順序立ててアプローチしていくことで、マーケティング施策の精度を高めるのが目的です。
採用マーケティングでもカスタマージャーニーマップの考え方を応用して、求職者を対象とした「キャンディデイト(求職者)ジャーニーマップ」を設計するとよいでしょう。求職者が情報収集を行ってから、応募・入社の意思決定を行うまでのストーリーを組み立て、各プロセスにおける行動や感情の変化を想定しておくのです。
プロセスをどこまで細分化するかは企業の考え方によっても異なりますが、基本的には次のようなフェーズに分けると考えやすくなります。
1.認知の獲得
2.競合との比較
3.応募~選考前
4.選考中
5.選考の終盤~内定のオファー
6.内定承諾~入社
ファネルに応じたチャネルを設定する
続いて、ファネルに応じた採用チャネルを設定していきます。各フェーズにおいて、求職者が求めているニーズを明確化し、どのように情報を提供するかアプローチを考えることがポイントです。
ここでは、各ファネルとそれに応じたチャネルの割り当て例として、次のパターンをご紹介します。
ファネル | 対象者 | 適したチャネル |
---|---|---|
認知の拡大 | 選考参加者 | ・求人媒体
・採用イベント ・人材紹介サービス ・SNS ・広告 |
興味の獲得 | ・オウンドメディア
・動画コンテンツ ・SNS ・リファラル ・インターンシップ ・カジュアル面談 |
|
応募・選考 | ・スカウトメール
・SNS ・リファラル ・面接 |
|
内定・内定承諾 | ・内定者イベント
・入社前研修 |
|
入社後 | 採用した人材 | ・入社後研修
・メンター制度 ・社内広報 ・適切な配属 ・福利厚生の充実 |
従業員による発信・紹介 | ・SNS向けコンテンツの拡充 |
実際には、チャネルの選択肢はさらに広いため、自社の実情に合わせて丁寧に検討する必要があります。自社の採用方針や採用ペルソナも踏まえて、最適なチャネルの組み合わせを探りましょう。
コンテンツを準備する
続いて、各チャネルにおいて必要となるコンテンツをそろえていきます。広告やメディアの企画・作成、イベントの運営などの具体的な施策に取り掛かるため、もっとも時間とコストのかかる工程となります。
記事や動画を活用する場合は、準備の工数がかかるため、内製にこだわらず外注するという選択肢も検討するとよいでしょう。また、自社にある程度のスキルや知識を持った人材がいる場合は、CMS(コンテンツ管理システム)や動画作成ツールなどを活用することで、費用を節約しながら効率的にコンテンツを作成することも可能です。
ただし、その場合でもコンテンツの更新や管理などには人手が必要となるため、十分な人的リソースを割り当てる必要はあります。
行動分析を行い、改善していく
従来の採用方式と比べて、PDCAサイクルを構築しやすいという点は、採用マーケティングの大きな強みといえます。採用マーケティングでは、明確な分析をもとに施策を組み立てていくため、効果測定によって成果の客観的な把握がしやすいのです。
単純な応募者数や内定者数はもちろんのこと、自社へのエントリー率、Webサイトのページビュー数、メールの開封率、説明会への参加率、面接の実施率、被紹介者の応募率といった幅広いデータを集積できるため、これらを管理・分析することで、改善の具体的な方向性が見えてくるようになります。
たとえば、メールの開封率をチェックすれば、「コンテンツ配信の効果が高い時間帯」や「相性のよい採用候補者」を簡単に見極めることができます。また、説明会の参加率や面接の実施率を調べれば、設定したキャンディデイトジャーニーマップの有効性を直接的に測ることが可能です。
採用マーケティングでは、こうして得られたデータをもとに施策の見直しを行い、適切な改善を加えていくことも重要なプロセスとなります。
採用マーケティングを上手に活用するポイント
採用マーケティングをより有効に活用していくためには、マーケティングそのものに対する理解を深めることも重要となります。ここでは、マーケティング力の向上に向けた2種類のアプローチについて見ていきましょう。
採用担当者がマーケティング力を養う
採用マーケティングにおいては、戦略の中心的な存在となる採用担当者自身が、しっかりとマーケティング力を磨いていくのが近道といえます。従来の採用方法における採用担当者は、どちらかといえば、多くの人と会うという意味で営業的な側面が強い役割でした。
しかし、採用マーケティングの手法を取り入れるうえでは、マーケティングの研究や分析に多くの時間を費やすことが大切です。具体的なアプローチとしては、データ志向やコンテンツの企画力の育成が重要なポイントとなります。
データ志向とは、計測するデータの対象を適切に設定し、正しい方法で取得・分析・改善を行う能力のことです。たとえば、自社の現状と照らし合わせて「認知の拡大」に改善すべき点があるなら、Webサイトのページビュー数やSNSの運用効果を調べて、改善の方向性を探る必要があります。
また、コンテンツの企画力の向上は、競合や流行の分析を行うとともに、PDCAによるブラッシュアップも重要となります。
マーケターにも参加してもらう
自社のマーケティング部門と協力して、マーケターに戦略の立案やデータ分析を手伝ってもらうのも有効な方法です。採用マーケティングでは、通常のマーケティングで求められる能力やスキルを活かせる場面も少なくないため、マーケターとしての知見は大いに役立ちます。
特に採用チームの規模が大きい場合は、マーケターの業務量も多くなるため、専属の人材を配置することを検討してみてもよいでしょう。
採用マーケティングの実践事例を紹介
採用マーケティングを効果的に導入するには、すでに一定の成果を上げているケースを参考にするのが近道です。ここでは、採用マーケティングを取り入れた実践を行っている企業の事例をご紹介します。
事例①アナグラム株式会社
アナグラム株式会社は、リスティング広告やSNS広告などの運用型広告に強みを持ったマーケティング支援会社です。同社では採用マーケティングの導入によって、毎週平均で60人もの転職応募者を抱えており、中途採用された従業員のほとんどが自社ブログの読者であるという大きな成果を上げています。
同社の取り組みの大きな特徴は、コストがかからずに自由な発信が行える自社ブログに力を入れていた点にあります。運用後は3年間毎日更新を行い、リスティング広告に関するノウハウやお役立ち情報を発信し続けました。
その結果、自社のファン層が広がり、取引先だけでなく転職応募者も増加していったのです。現在では従業員とともに、一体となって情報発信を継続しており、オープンな情報公開の姿勢によって求職者からの信頼を集めています。
(参考:『成功する採用マーケティングのススメ。自社の魅力を2,000%引き出すブランディングとは』)
事例②株式会社スエヒロ工業
建物の防水・塗装工事、大規模修繕などを手掛ける株式会社スエヒロ工業は、独自の採用マーケティングによって大きな成果を上げています。同社では福利厚生の充実に力を入れており、なかでもジムの開設がフックとなって、2ヶ月で40人もの求人応募を獲得しました。
人手不足が続く建築業界にあって、当初は業界に興味のなかった人材も「会社の雰囲気がよさそう」という理由で志望するケースが増えていったのです。母集団が増えることで、じっくりと人材の見極めが行えるようになり、ミスマッチの回避による離職率の低下につながっています。
(参考:『求人応募数が40倍に増加。中小企業の雇用難はジム設立で解消する』)
事例③株式会社エイチーム
さまざまなWebサービスやECサイトを展開する総合ITベンチャー企業、株式会社エイチームは、「クロスメディア戦略」による採用マーケティングの実践によって大きな成果を上げました。同社ではマネージャーを含めた5名で中途採用チームを形成しており、人的リソースの面から、採用手法の抜本的な見直しが迫られていました。
そうしたなかで取り入れられたのが、企業の目的に合ったメディアを複合的に活用するクロスメディア戦略です。自社採用ページとリアルイベント、ダイレクト・ソーシングなどを組み合わせた独自の手法を編み出し、特に「エンジニア向け勉強会」の開催は大きな効果を生み出しました。
通常の採用ページからの採用コンバージョンは1%程度が目安であったのに対し、勉強会経由の応募獲得は5~8%と高く、クロスメディア戦略の重要な構成要素となっています。
(参考:『人事こそ“マーケター”であれ。200名の中途採用に挑むエイチームの戦略』)
事例④株式会社ベーシック
Webマーケティングツール「ferret One」などを提供する株式会社ベーシックでは、SNSを用いた採用マーケティングの実践により、認知度の拡大や内定承諾率のアップに成功しています。取り組みの大きな特徴は、従業員の約3割が個人のSNSアカウントを持ち、全社的に発信を行っている点にあります。
従業員のフォロワー数を合算すると約6万人にものぼり、企業の得意分野や特徴だけでなく、プライベートに関することも自由に発信できるスタイルをとっているのも特徴です。その結果、カルチャーマッチの可能性を秘めた人材からの応募が劇的に増え、採用後の定着率向上へとつながりました。
(参考:『採用広報の決定版。社員のフォロワー数は合算6万人、内定承諾率と離職率を大幅改善するSNS活用法』)
一方、自由な発信による炎上リスクを避けるためにも、SNS運用の目的を繰り返し啓発することにも力を入れています。
まとめ
採用マーケティングは、マーケティングの手法を採用活動に取り入れ、母集団の増加を目指す考え方です。労働人口が減少する現状において、求職者から選ばれる企業になるためにも、採用マーケティングの考え方はとても重要といえるでしょう。
採用マーケティングでは転職顕在層だけでなく、転職潜在層や自社の従業員、退職していったアルムナイなども含めた幅広い人材を対象とします。それだけに、膨大なデータを効率的に収集・管理し、適切に運用するマーケターとしての役割が重要です。
まずは自社が抱える人材の状況やスキルを正確に把握し、的確な人事配置を行うことが大切となります。そのうえで、必要に応じて業務の一部を外部に委託するなど、実情に合わせた柔軟な判断を行いましょう。
(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)
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