ピープルマネジメントとは?定義の解説と研修に使える具体的な施策を紹介

d’s JOURNAL編集部

従業員一人ひとりと向き合い、個人の可能性を引き出すことで、成果の最大化を目指すマネジメント手法を「ピープルマネジメント」といいます。価値観や働き方が多様化し、従来型のマネジメントでは機能しにくくなっていることを背景に、メンバー個々人と対話しながら共通目標を設定するピープルマネジメントへの関心が高まっています。

「実際にどのような施策に取り組めばよいのか」を知りたい人事担当者やマネジメント層の方もいるのではないでしょうか。この記事では、ピープルマネジメントの特徴やメリット、具体的な施策などについて紹介します。

ピープルマネジメントとは

ピープルマネジメントとは、従業員一人一人と向き合い、それぞれの可能性を引き出すことで、個人の成功・成長や組織の成果の最大化を図るマネジメント手法のこと。

仕事そのものや成果のみに目を向けるのではなく、対話などを通じて、部下の仕事へのモチベーションや従業員エンゲージメント(企業のために自ら貢献しようという意識の度合い)を高めていくのが特徴です。

価値観の多様化や雇用の流動化への対応として、ピープルマネジメントを重視する企業が増えています。

従来のマネジメントとの違い

ピープルマネジメントと従来のマネジメントは、どのような違いがあるのでしょうか。「マネジメント手法」や「マネージャーの役割」について、違いを見ていきましょう。

マネジメント手法の違い

ピープルマネジメントと従来のマネジメントの違いを表にまとめました。

ピープルマネジメント 従来のマネジメント
特徴 従業員に向き合い、伴走しながら個々の可能性を引き出す手法 従業員を管理・評価することにより、個々のパフォーマンスの向上や組織の成果の最大化を図る手法
重視する点 仕事の成果やパフォーマンスに加え、一人一人のエンゲージメントの向上を重視 仕事の成果やパフォーマンスの向上を重視
目標達成までの考え方 一人一人の成功に積極的に関わることで、従業員の自主性を高め、組織の成果の最大化を目指す 「ヒト・モノ・カネ」の経営資源を適切に管理することで、組織の成果の最大化を目指す
目標設定・評価の頻度 目標設定や評価・フィードバックを高頻度(隔週~毎月1回程度)で行う 目標設定や評価・フィードバックは半年〜年に1回程度

どちらも「組織の成果を最大化する」という最終目標は同じですが、重視する点や目標設定・評価の頻度などが異なります。

従来のマネジメントでは「仕事の成果やパフォーマンス」を高めることに重きを置くのに対し、ピープルマネジメントではそれらに加えて「従業員エンゲージメントの向上」も重視するのが特徴です。また、目標達成までの考え方については、従来のマネジメントでは「ヒト・モノ・カネ」の経営資源を適切に管理することで組織の成果の最大化を目指します。

一方、ピープルマネジメントでは従業員一人一人に寄り添う伴走型のマネジメントで個々の可能性を引き出し、組織の成果につなげることを目標としています。

こうした違いから、ピープルマネジメントは従来のマネジメントよりも、「ヒト」によりフォーカスしたマネジメントと言えるでしょう。

(参考:『タレントマネジメントとは?タレントマネジメントシステム導入時のポイントや期待される効果を徹底解説』)

マネージャーの役割の違い

従来のマネジメントにおけるマネージャーの主な役割は、「管理」「監督」「評価」「賞罰」などです。部署・チームとしての成果実現に対する責任を負っているため、部下を牽引するような強いリーダーシップや目標数値に向けての実数管理などが求められます。

一方、ピープルマネジメントでは従来の役割に加え、従業員の成長に焦点を当てたキャリア開発などのサポート役も担います。そのため、部下一人ひとりと向き合う伴走型のマネジメントを行い、従業員の自主性の向上を図る必要があります。

こうした違いがあるため、ピープルマネジメントでは従来のマネジメント以上に、個々の従業員と向き合うための時間と労力が要求されます。マネージャーの負担が増大する可能性はありますが、目標設定やフォローアップを適切に実施できることで得られるメリットも大きいでしょう。なお、ピープルマネジメントによって期待できるメリットについては、後ほど詳しく紹介します。

ピープルマネジメントが注目される背景

ここからは、ピープルマネジメントが注目される背景について、4つの視点で見ていきましょう。

VUCA・市場やビジネス環境の変化

現在は「VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字をとったもの)の時代」と称されるように、テクノロジーの急速な発展により市場のニーズやビジネス環境が目まぐるしく変転し、将来が予測困難な状況にあります。企業の事業内容や従業員の業務内容も変化していくことが予測されるでしょう。

そうした状況の中、企業が勝ち残っていくためには、自ら考え、主体的に行動できる人材の育成が必要です。このような理由から、人材を企業の資本と捉え、その価値を最大限に広げることに重きを置いた経営手法である「人的資本経営」が注目されています。

人的資本経営を成功させるには人材の価値を高める必要があることから、「従業員の可能性を引き出す」ピープルマネジメントの実践が有効と考えられます。そのため、VUCAの時代に対応したマネジメント方法として、ピープルマネジメントが注目されているのです。

(参考:パーソルホールディングス『VUCAとは?予測困難な時代に求められるスキルと組織づくりのポイント』)
(参考:『【3分でわかる】VUCAの時代で何が変わる?取り残されないための4つのスキルとは』『人的資本経営とは|メリットや実践するためのポイントをくわしく解説』)

転職や独立など雇用の流動性が高まった

かつては「終身雇用」が当たり前でしたが、「人生100年時代」といわれる現在では、働き方もキャリアビジョンの描き方も多様化しています。加えて、アフターコロナで転職市場が活況を呈していることもあり、これまで以上に転職や独立など雇用の流動性が高まっている状況にあります。

そうした状況の下で必要な人材を確保するためには、採用活動のみならず、定着支援にも力を入れる必要があるでしょう。このような背景もあり、従業員の定着やエンゲージメントの向上を目的に、ピープルマネジメントを実践する機運が高まっているのです。

価値観や働き方の多様化

「ゆとり世代」や「Z世代」といった自分らしくあることを大切にする世代の活躍に合わせるように、社会では多様な価値観や働き方が認められるようになってきています。また、コロナ禍の影響により、リモートワークや地方移住など働く環境の多様化も進みました。このように価値観や働き方が多様化する中、従来のような一律のマネジメントでは対応できないケースも増えてきているでしょう。

多様な価値観や働き方に対応するには、これまで以上に「従業員の可能性」にフォーカスすることが重要です。そのため、成果やパフォーマンスだけでなく、従業員の自主性や自律性も重視するピープルマネジメントが注目されています。

(参考:『ミレニアル世代とは|Z世代との違いや価値観や仕事観など特徴を解説』『ゆとり世代とは|年齢や価値観の特徴・仕事で関わるポイントを解説』『Z世代の特徴とは|ミレニアル世代との違いや働き方や価値観をわかりやすく解説』)

テクノロジーの進化によりツールに代替できない従業員エンゲージメントなどが重視される

生成AIの登場や業務の自動化などにより、人材に求められる役割は変化しています。具体的には、これまでも重視されてきた「戦略的思考」「批判的考察力」などのスキルに加え、「指示の習熟」「言語化の能力」「対話力」など生成AIを適切に使うためのスキルも求められます。そうしたスキルを向上させるには、単に従業員を教育するだけでなく、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高め、自発的な成長を促すことが大切です。

従業員個人の成功や組織の成果の最大化を目的とするピープルマネジメントには、従業員にリスキリングを促したり、新たな価値を創出したりというような、「個々の成長をサポートできる」という強みがあります。従業員が自身の成長を感じられるようになると、仕事のやりがいや企業への愛着が増し、従業員エンゲージメントの向上につながると考えられます。こうした理由から、ピープルマネジメントへの関心が高まっているのです。

(参考:経済産業省 デジタル時代の人材政策に関する検討会『生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方(令和5年8月)』)

ピープルマネジメントを導入することで得られるメリット

では実際に、企業がピープルマネジメントを導入することでどのようなメリットが得られるのでしょうか。主な2つのメリットを紹介します。

自主性・自律性を高めることによる生産性の向上

ピープルマネジメントでは、従業員の成長を促し、一人一人が持つ可能性を引き出すために、フィードバックを頻繁に実施します。的確なフィードバックを高頻度で行うことにより、従業員は「自分の役割」と「自分が求める成果への達成度合い」を感じやすくなると考えられます。

その結果、モチベーションを高い状態に維持できるだけでなく、自身のすべきことを明確に理解した上で業務に取り組めるため、自主性や自律性の向上が期待でき、生産性の向上にもつながるでしょう。

従業員エンゲージメントの改善と向上

従業員との関わりを重視するピープルマネジメントでは、上司と部下が関わる頻度が高くなります。従業員との対話を重ね、相手の本音を引き出しながら信頼関係を構築していくことで、従業員エンゲージメントの向上が期待できるでしょう。

従業員エンゲージメントが高まり、従業員一人ひとりが事業への貢献を意識して自主的に行動できるようになれば、おのずと定着率も向上すると考えられます。

(参考:『従業員エンゲージメントとは|効果的な取り組みと事例・向上のメリットを解説』)

ピープルマネジメント導入に当たっての注意点

ピープルマネジメントには上述のメリットがある一方で、導入前に理解しておきたい注意点もあります。ピープルマネジメントを導入する際の注意点を見ていきましょう。

マネージャーの業務肥大化に気を付ける

ピープルマネジメントを導入するに当たって注意したいのが、マネージャー業務の肥大化です。部下と関わる機会を重視するため、従来のマネジメントよりも、1on1などの面談やフィードバック、研修などの頻度・量が増します。そのため、ピープルマネジメントを導入したものの、マネージャー業務の肥大化により、施策が形骸化・形式化して工数対効果が見込めなくなる可能性があります。

一人のマネージャーがワークマネジメントとピープルマネジメントの両方の役割を担うことで、業務の肥大化が助長されてしまうケースもあるため、役割を分けてそれぞれのマネージャーを置くことも一つの方法です。また、マネージャーの権限の一部をリーダーに移譲することで、負担を軽減するのも一案でしょう。

成果を短期的に求めないようにする

ピープルマネジメントは、個々人の自主性やスキルについて現状を把握した上で、それぞれに合った成長を促す施策です。施策の性質上、すぐに結果が出るものではないため、成果を短期的に求めないようにしましょう。

また、ピープルマネジメントを導入してから社内に定着するまでに時間がかかることも考えられます。ピープルマネジメントの浸透を促せるよう、従業員に周知し、理解を得た上で計画的に導入しましょう。

ピープルマネジメントの具体的な施策例

ピープルマネジメントを実施する際に効果的な施策例としては、以下の4つが挙げられます。

■具体的な施策例
●管理職向けのマネジメント研修
●定期的な1on1の実施
●従業員の主体性を活かした目標設計
●従業員サーベイやITツールの活用

それぞれについて、見ていきましょう。

管理職向けのマネジメント研修

ピープルマネジメントを社内に浸透させるには、まず管理職向けのマネジメント研修を実施することが重要です。管理職層がピープルマネジメントについて理解することによって、部下に対して適切なマネジメントを行えるようになるでしょう。

具体的には、従業員と向き合い、伴走するためのスキルとして、コーチングの要素を研修に取り入れるのがおすすめです。コーチングスキルの傾聴・質問・フィードバックの実践により、従業員の本音を引き出し、本人に気づきを与え、成長を促進できるでしょう。

(参考:『人材育成におけるマネジメントとは|上司に必要なスキルや育成のポイントを解説』)

【H3】定期的な1on1の実施
ピープルマネジメントで効果を発揮するのが、定期的な1on1の実施です。上司と部下が1対1で対話することで、信頼関係を構築できるでしょう。この他、1on1を適切に実施することにより、モチベーションやエンゲージメントの向上、課題解決などの効果も期待できます。

しかしながら、1on1を定期的に実施しているものの業務の進捗確認にとどまっているケースも少なくありません。限られた時間を有効に活用するために、部下のキャリア開発やリーダーシップ、自主性、生産性についてなど、事前にいくつかテーマを用意しておくとよいでしょう。実施する頻度としては、「週に1回」「隔週に1回」など短いサイクルが望ましいです。

(参考:『1on1ミーティングとは|目的や得られる効果と導入・実施方法を解説』)

従業員の主体性を活かした目標設計

ピープルマネジメントでは、従業員の主体性を活かした目標設計を行うことも重要です。目標設定時に上司が意識すべきことは、「成功の定義」「成長視点の注入」「目標達成の支援」の3つです。これら3要素を重視しながら、従業員をサポートしましょう。

なお、事業戦略からKPIが提示できる場合には、「OKR」をはじめとした従業員の自主的な目標管理のためのフレームワークを活用するのもおすすめです。

(参考:『OKRの失敗しない導入方法~Google・Meta(旧Facebook)が採用する目標管理方法を事例で学ぶ』)

従業員サーベイやITツールの活用

「ヒト」にフォーカスするピープルマネジメントは抽象度が高い施策であるため、客観的に判断できる状態にしておくことが大切です。具体的には、従業員向けのサーベイや従業員満足度(ES)調査の実施、ピープルアナリティクスなどのITツールの活用を検討するとよいでしょう。

なお、ピープルアナリティクスとは、従業員にまつわるさまざまな情報をデータ化し、分析することによって、施策の実行や課題の解決に活かす手法のことです。ピープルアナリティクスを導入することで従業員一人ひとりの適性に基づいた精度の高い人材マネジメントを実現できるため、ピープルマネジメントとの相性がよいとされています。

(参考:『従業員満足度(ES)とは|向上させるメリット・施策や影響する要素を解説』)

企業によっては、これら4つの施策を全て同時に実施するのは難しいケースも考えられます。自社の現状を踏まえた上で、優先順位を決めて取り組むとよいでしょう。

まとめ

従業員一人一人の可能性を引き出すピープルマネジメントを適切に行うことで、従業員の自主性やエンゲージメントが高まり、生産性の向上が期待できます。導入する際は、「マネージャー業務が肥大化しないように気を配る」「成果を短期的に求めない」ということを意識するようにしましょう。

ピープルマネジメントの具体的な施策としては、「管理職向けのマネジメント研修」「定期的な1on1の実施」などが効果的です。ピープルマネジメントの実践により、従業員一人ひとりの成功・成長や組織の成果の最大化につなげましょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)

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