退職の引き止め方マニュアル|上司が実践すべき4つの対応策


d’s JOURNAL編集部
新たな人材の確保が難しい昨今、企業力を維持するためには、退職希望者が現れた際に、どのように引き止めを行うかが重要です。しかしその方法を誤ると、社員にとどまることを検討してもらえないばかりか、悪印象が社内外に広まり、企業のイメージダウンを招くかもしれません。
本記事では、退職希望者を引き止めるための具体的な手順とポイントを詳しく解説します。安定した企業運営を図るために参考にしてください。
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退職を引き止めるのは難しいが『条件』次第
結論として、退職の意思を一度表明した社員を引き止めることは、難しいといえます。退職希望者としては熟慮の末に退職を申し出ているため、その答えが簡単に覆ることはないと考えたほうが良いでしょう。
しかし、引き止めが必ずしも成功しないわけではありません。交渉により、退職希望者にとって魅力的な条件を提示できれば、考え直してくれることもあります。
(参考:『仕事を辞める人の前兆とは?退職を考える5つの理由や対処方法について解説』)
退職希望者の引き止め方|上司が取るべき具体的な4つの手順
ここでは、退職希望者を引き止める手順を紹介します。
退職希望者を引き止める手順
●退職理由をヒアリングする
●貢献に対する感謝を伝える
●会社側の改善策を提示する
●最終的な気持ちを聞く
詳細を順に確認していきましょう。
退職理由をヒアリングする
翻意を促すためには、まずは退職希望者から本音を聞き出すことが重要です。退職を希望した経緯などを聞くことで、説得を試みる際に、より効果的な改善策を提示できるようになります。
本人が話しづらそうな様子であれば、「ゆっくりで大丈夫ですので、話を聞かせてください」といった声かけで安心感を与えましょう。この段階ではこちらから意見や助言は挟まず、適度に相づちを打って話しやすい雰囲気をつくることが大切です。
(参考:『退職面談とは?実施のためのプロセスと注意点を解説』、『退職希望者を会社は引き止めるべきか、送り出すべきか【退職理由・交渉のホンネ】』)
貢献に対する感謝を伝える
退職希望者の話を最後まで丁寧に聞いた後は、これまでの貢献に対する感謝の気持ちをしっかりと伝えましょう。このステップの目的は、退職希望者に対する会社からの評価を改めて共有し、いかに重要な存在だったかを伝えることにあります。ここで、退職希望者の心を動かせれば、自社ではたらく意思を再度持ってくれるかもしれません。
感謝を伝える際のポイントは、退職希望者の残した具体的な成果を交えることです。
「業務フローを見直してくれたおかげで作業効率が20%上昇した」のように感謝の理由を明確にすることで、会社が退職希望者を評価していたことが伝わりやすくなります。
会社側の改善策を提示する
感謝の気持ちを伝えたら、退職を慰留する交渉に移ります。退職希望者から聞いた話の中から退職理由を洗い出し、それに対する改善策を提示します。
例えば、業務量の多さが退職理由の場合には、業務量の調整やフォロー体制の構築などを提示してみましょう。また、人間関係に問題がある場合には、配置転換といったアプローチが提案できます。
こうした改善策が退職希望者の意向に沿ったものであれば、退職を思いとどまってくれる可能性があります。
最終的な気持ちを聞く
会社側で改善できる点を伝えた上で、最後に退職希望者の気持ちを聞いてみましょう。
もし、この時点で気持ちが変わらないようであれば、その思いを尊重することが大切です。ここで無理に引き止めても退職希望者との関係性が悪化するのみであり、それが表に出ることがあれば企業のイメージダウンにつながる恐れがあります。
退職を引き止めるために上司が意識すべき4つのポイント
上記の流れで退職希望者の引き止めを図る際には、以下の4つのポイントを意識したいところです。
退職を引き止める4つのポイント
●会社側の都合で引き止めない
●引き止める側も本音で向き合う
●第三者に情報が漏れないように配慮する
●次の退職者が出ないように組織を改善する
詳細を解説します。
①会社側の都合で引き止めない
退職希望者を引き止める際は、会社側の都合を押し付けるような言動は避けるべきです。
「今退職されたら困る」「ほかの社員の負担が大きくなってしまう」といった、会社の都合を理由として持ち出すことは逆効果です。「会社のことしか考えていない」と退職希望者の中に不信感が募り、かえって気持ちが離れていってしまうでしょう。
引き止める際には、このように会社の都合は出さず、退職希望者が自社にとってどれほど重要な存在であったかを真剣に伝えることが大切です。
②引き止める側も本音で向き合う
退職希望者から話を聞き出すときは、こちらから自己開示、つまりありのままの気持ちや思いを伝えることをお勧めします。
退職希望者を引き止めるために話し合いの場を設けても、本音を打ち明けてくれるとは限りません。その場合に「実は私も退職を考えたことがあって…」「あの業務が最近大変で…、○○さんは大丈夫でしたか?」といったように、こちらから寄り添う姿勢を見せましょう。
先にこちらの経験を正直に伝えることで、退職希望者も本音で話しやすくなります。また、「自分以外にも同じ悩みを抱えている人がいるなら、もう少し頑張ってみよう」と考え直してくれることもあるかもしれません。
③第三者に情報が漏れないように配慮する
退職希望者が退職の意思表示を伝えたことを、ほかの社員に知られないための配慮も必要です。交渉中に情報が外部に漏れると、退職希望者としては退職の申し入れの撤回が難しくなってしまうからです。
そのため、退職の意思表示を受けたあとは、声をかけるタイミングや業務の割り振りに気を配り、退職希望者には普段通り過ごしてもらいましょう。周囲に退職の意向を悟られないように配慮することで、退職希望者に落ち着いて今後を考えてもらえるようになります。
④次の退職者が出ないように組織を改善する
退職希望者の引き止めがかなわなかった場合は、次の退職者が出ないように組織の改善を図ることが大切です。
退職者が出てしまった際の損失は、単に一人分の労働力を失うことにとどまらない可能性があります。退職に至った原因が改善されないと、在籍中の社員にも同様の不満がたまり、立て続けに退職者が出てくることが考えられます。
そのため、退職者の退職理由を把握し、課題の改善を図ることが重要なのです。引き止められなかったら終わりではなく、同じことが再び起こらないための行動が企業には求められます。
(参考:『退職連鎖とは?発生する5つの原因・離職への対応策を解説』)
退職を引き止める際のNG
ここでは、退職希望者を引き止める際に必ず避けたい3つの行動を紹介します。
退職希望者を引き止める際のNG行動
●感情をあおる言葉は使わない
●その場しのぎの約束はしない
●ほかの社員が不公平と感じる対応はしない
以下で必ず避けたほうが良い理由を説明します。
感情をあおる言葉は使わない
退職希望者を引き止める際に、感情をあおるような言葉は使用してはなりません。
「この先苦労するよ」「今のあなたではどこに行っても同じだよ」といったネガティブな発言は相手からの敵対心を生むことにつながり、引き止めはまず成功しないでしょう。
退職を思いとどまってもらうためには、冷静に、かつ誠実に話し合うことが大切です。
その場しのぎの約束はしない
面談で社員が退職理由を打ち明けてくれた際に、その場しのぎの改善策を口にして引き止めることは避けたいところです。
たとえ思いとどまってくれたとしても、実際に改善されなければ、結局そのうちに退職してしまうでしょう。それだけでなく、約束を裏切られたと感じた退職希望者から、企業の評判サイトで悪い口コミを書かれることにつながるかもしれません。
ほかの社員が不公平と感じる対応はしない
退職希望者との交渉では、在籍中の社員の不信感を招かないための配慮も欠かせません。
退職希望者に何とか残ってもらおうと、待遇面の改善を提案することがあります。しかし、それが周囲と比べて公平性を欠いたものであったら、ほかの社員からの反発は避けられません。また、待遇面の改善を目的に、退職を引き合いに出して交渉する社員が出てくることも懸念されます。
待遇面の改善により引き止めを図る場合は、ほかの社員と不公平とならないような配慮が必要です。
優秀な社員の離職を防ぐために企業がすべき8つの対策
企業として退職希望者を引き止めるためのフローを確立しておくことも大切ですが、それと同時に、退職希望者を出さないための対策を講じることも求められます。ここでは、退職希望者の発生を未然に防ぐための8つの対策を紹介します。
退職希望者の発生を未然に防ぐ方法
①はたらきやすい労働環境づくりを行う
②評価制度を見直す
③1on1やメンター制度を導入する
④ピアコーチングを導入する
⑤定期的なストレスチェックを実施する
⑥今後のキャリアについて一緒に考える機会をつくる
⑦心理的安全性のある環境を整える
⑧定期的に配置転換を行う
①はたらきやすい労働環境づくりを行う
退職希望者の頻発を招かないためには、労働環境の定期的な改善を図ることが大切です。
例えば、長時間労働や休日出勤が問題視されているのであれば、新たな業務システムの導入や業務フローの見直しを検討しましょう。また、有給休暇が十分に消化できていない場合には、取得しやすいようにシフトや体制を見直したいところです。
こうした動きを社員からの不満が発生する前に進めることで、退職を思いとどまらせることにつながります。また、社員を大切にしている姿勢を見せることによって、エンゲージメントの向上を招き、作業効率・生産性の上昇といった効果を生むことも期待されます。
(参考:『働き方改革の専門家が提言。採用・定着に悩む中小企業こそ労働環境改善で企業成長へ』)
②評価制度を見直す
労働環境と併せて、評価制度の見直しも図りたいところです。社員に「適正な評価が行われていない…」と感じさせてしまうと、それがモチベーションの低下を招き、退職へとつながりかねません。
制度を見直す際は、評価基準を明確にすることが大切です。どのようなはたらきをすれば評価につながるのか?という点が客観的にわかるように改善を進めることで、社員からの納得を得やすくなるでしょう。
③1on1やメンター制度を導入する
1on1やメンター制度の導入によって、退職を防げる可能性もあります。
社員が退職を決断する際は、急に決めるのではなく、悩んだ末にその考えに至ったというケースが多いはずです。退職希望者の増加を防ぐためには、こうした悩みを敏感に察知し、解決に向けてサポートする仕組みが求められます。
その方法として挙げられるものが、上司と部下が定期的に面談を実施する1on1や、年齢・社歴の近い先輩がサポートするメンター制度です。これらを導入して定期的なコミュニケーションを取ることで、退職の兆候を見逃さず、事前に防ぐことが期待できます。
(参考:『1on1ミーティングとは|目的や得られる効果と導入・実施方法を解説』、『上司たちの「聴いてもらう経験」で1on1や組織開発がうまくいく!? エール・篠田真貴子が伝える“聴く力”の伸ばし方【連載 第16回 隣の気になる人事さん】』『メンター制度とは?メリット・デメリットや導入するまでの流れを解説』)
④ピアコーチングを導入する
同期や同僚などの対等な関係性の社員同士でコミュニケーションを取る機会を創出する、「ピアコーチング」の導入によって、退職の少ない環境をつくり出せるかもしれません。
近年、リモートワークの実施や終身雇用制度の崩壊といったはたらき方の多様化の影響を受け、会社に対する帰属意識が低下していると指摘されています。こうした状況では、「この会社で頑張り続けよう」といった意識が社員の中になかなか生まれず、必然的に退職のハードルも下がっていってしまいます。
そこで生まれたものが、こうした課題の改善に役立つ手法として注目されているピアコーチングなのです。
ピアコーチングを実施することで、同じ悩みや目標を持った人材と定期的に話す機会が生まれます。こうした横のつながりが「あの人と頑張りたいから、会社を辞めない」「この人と一緒に困難を乗り越えたい」といった意識を醸成し、退職の起きにくい環境をつくり出します。
(参考:『“あの人がいるから辞めない”関係性をつくる!横のつながり「ピアコーチング」で実現する離職防止』)
⑤定期的なストレスチェックを実施する
ストレスチェックの適切な運用により、精神的な不調に起因する退職を防げる可能性があります。
ストレスチェックは、社員の精神的な不調を早期に発見し、悪化を予防するために実施する検査です。社員にストレスに関する質問票への回答を依頼し、結果が良くなかった場合には任意で医師による面接指導を受けてもらうことになります。
企業は、社員の精神状態を診察した医師からの意見を踏まえて、業務内容・労働時間の見直しや配置転換といった措置を検討できます。ストレスチェックの結果にきちんと向き合えば、社員の精神的な負荷を取り除き、退職のリスクを減らせるでしょう。
(参考:『ストレスチェックの義務化の概要と企業における実施手順や注意点を解説』)
⑥今後のキャリアについて一緒に考える機会をつくる
今後のキャリアについて、社員とともに考える機会をつくることも重要です。
社員が退職を検討する要因の一つに、自社でのキャリアを描けずはたらき続けるイメージが湧かない、というものがあります。将来への不安を漠然と感じ、転職してほかの企業でキャリアを積むことを選んでしまうのです。
これを未然に防ぐために、社員が将来挑戦したい業務内容や今後の展望などのヒアリングを行い、一緒にキャリアプランを考える場を設けましょう。具体的なキャリアプランを立てることで今後の目標が定まり、モチベーションの維持につながります。
⑦心理的安全性のある環境を整える
社員が自由に意見や提案を出せるよう、心理的安全性を確保することも、退職を防ぐために意識したいポイントです。社員の心理的安全性が低いと、言いたいことが言えずストレスがたまり、退職につながる恐れがあります。
社員の心理的安全性を確保するためには、社内コミュニケーションを活性化させることが大切です。そのための方法として、マネジメント側の育成や、社内イベントの開催や社内サークルの設立などが挙げられます。まずは業務を離れて親交を深めることで、社内交流が促進され、円滑なコミュニケーションが生まれるでしょう。
(参考:『成功する組織の秘策は“感情”にあった。成果を出すリーダーが実践する「感情マネジメント」と「EQの鍛え方」』)
⑧定期的に配置転換を行う
定期的な配置転換の実施も、退職希望者が増えることを防止するために必要な対策の一つです。
配置転換は、人間関係の悪化の抑制につながります。たとえ職場に性格の合わない社員がいたとしても、人員が入れ替わることがわかっていれば「いずれ関わらなくなるから」と辞めずにはたらき続けてくれるかもしれません。
また、配置転換によって新しい業務に取り組んでもらえば、それが刺激となり、モチベーションの向上も期待できます。
ただし、社員の中には部署移動や転勤に対して、あまり前向きでない人も存在します。そうした方の要望を踏まえずに配置転換を実施すると、かえって退職に追いやってしまうリスクがあるので、その点への配慮も忘れずに行いましょう。
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離職防止の効果的な対策について詳しく知りたい方は下記の記事もチェックしてみてください。
(参考:『離職防止の効果的な13の対策|離職率を下げた企業の成功事例も解説』)
退職を引き止める際は、退職理由をきちんと聞き改善案を提示することが大切
本記事では、退職希望者の引き止め方の手順をポイントとともに解説しました。
退職希望者を引き止める際は、「退職理由を聞く」「これまでの感謝を伝える」「改善策を提示する」「最終的な気持ちを聞く」の順で進めることが基本です。その際には、会社の都合を押し付けるようなことは避けたほうが良いでしょう。また、話しやすいようにこちらから自己開示することで成功する可能性を高められます。
改善策を提示しても社員の気持ちが変わらないようであれば、その思いを尊重することが大切です。退職理由から自社の課題を見つけ出し、退職希望者が続けて現れることのないように努めましょう。
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(制作協力/株式会社eclore、編集/d’s JOURNAL編集部)
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