離職率とは?離職率の平均や計算方法、改善策と事例を解説

離職率とは?離職率の平均や計算方法、改善策と事例を解説

d's JOURNAL
編集部

離職率は、企業の実態を判断する際に重視される指標の一つです。離職率が高いからといって一概に問題とは限りませんが、業界平均や自社の過去データと比べて数値が高い場合は注意が必要です。

離職率を抑え、従業員を定着させるためには、離職率が高くなっている原因を把握することが大切です。この記事では、離職率の基本的な捉え方や従業員を定着させるためのポイントなどを解説します。

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離職率とは

離職率とは、一定期間内に離職した従業員の割合を示す指標のことです。「従業員がどれだけ企業に定着しているか」が明らかになるため、従業員エンゲージメントの向上を目指す際の目安としても活用できます。

ここからは、離職率への理解を深められるよう、似た言葉である「退職率」と「定着率」を例に挙げて次の内容を解説します。

●退職率との違い
●定着率との違い

退職率との違い

退職率と離職率は、いずれも企業を辞めた従業員の割合を表していますが、両者には以下のような違いがあります。

退職率 離職率
意味 自己都合や定年退職などの理由で労働契約を解消し、仕事を退いた従業員の割合 自己都合や会社都合などの理由を問わず、特定の期間内に離職した全ての従業員の割合
必要となるケース 自己都合による退職を防ぐための施策を考える場合 企業全体の従業員の流動性を把握したい場合

上記の内容から、「退職率は、離職率を構成する要素の一つである」と解釈できます。

企業運営の改善を目指すに当たり、退職率や離職率を目安とする際は、目的を明確にしましょう。自己都合による退職を防ぎたい場合は退職率を、企業全体の従業員の動きを把握したいのであれば離職率を確認するという判断基準で使い分けます。

定着率との違い

定着率と離職率の違いは、以下の表の通りです。

定着率 離職率
意味 一定期間の経過後も自社に在籍している従業員の割合 自己都合や会社都合などの理由を問わず、特定の期間内に離職した全ての従業員の割合
必要となるケース 第三者に企業のはたらきやすさをアピールしたい場合 第三者に企業のはたらきやすさをアピールしたい場合

上記のように、定着率と離職率は着目する部分が異なりますが、企業のはたらきやすさを客観的に示す指標である点は共通しています。そのため、特に採用活動の際に用いると効果を発揮するでしょう。定着率と離職率を併せて公表することで、企業のはたらきやすさをアピールできます。

定着率について理解を深めたい場合は、以下の記事もぜひ参考にしてください。

(参考:『定着率とは?計算方法や低い企業の特徴・向上させるための方法』)

日本の離職率の現状

お伝えしたように、離職率を指標にすると、自社のはたらきやすさを数値として可視化できます。その数値を日本企業の平均離職率と比較することで、自社の改善点も見えてくるでしょう。

●近年の平均離職率
●新卒の3年以内の平均離職率
●直近の産業別の離職率

そこで本項では、日本の離職率の現状を把握できるよう、以下の内容を解説します。

近年の平均離職率

厚生労働省が2025年8月に発表した「令和6年雇用動向調査結果の概況」によると、日本国内の2024年の離職率は11.5%でした。

就業形態別入職率・離職率の推移データ

(引用:厚生労働省『令和6年雇用動向調査結果の概況』)

過去10年間の離職率の推移を見ても、10~12%の範囲にとどまっていることがわかります。

このような結果を踏まえて、自社の離職率を客観的に評価する際は「離職率10~12%」を一つの目安にすると良いでしょう。

新卒の3年以内の平均離職率

厚生労働省が2024年10月に発表した「新規学卒就職者の離職状況」の結果では、2021年の就職後3年以内の離職状況は以下の通りです。

新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率データ

(引用:厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します』)

上記の通り、学歴によって差はあるものの、日本企業全体の離職率より高い数値を記録していることがわかります。

新卒の3年以内の平均離職率が高くなる理由は、厚生労働省の「令和5年若年者雇用実態調査の概況」から推察できます。同調査では、初めて勤務した企業を辞めた主な理由として、回答者の多くが労働条件や人間関係などに対する不満を挙げました。

この結果から、新卒の離職を防ぐには、労働条件の見直しや社内コミュニケーションの活性化が不可欠だといえます。

(参照:厚生労働省『令和5年若年者雇用実態調査の概況』)

直近の産業別の離職率

産業別に見た場合でも、離職率には差が生じます。厚生労働省の「令和6年雇用動向調査結果の概況」によると、産業別に見た2024年の離職率は以下の通りです。

令和6年(2024年)一般労働者による産業別入職率・離職率データ

(引用:厚生労働省『令和6年雇用動向調査結果の概況』)

上記の結果から、サービス業や宿泊業、飲食サービス業は離職率が高い傾向にあることがわかります。

これらの離職率が高くなる理由には、給与水準が大きく関係していると考えられます。

以下では、具体的な月間現金給与額を比較できるよう、厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和6年分結果確報」を基にリストにまとめました。

【月間現金給与額の比較】
●労働者全体の平均:347,994円
●生活関連サービス等:231,148円
●その他のサービス業:285,945円
●飲食サービス業等:140,437円

(参照:厚生労働省『毎月勤労統計調査 令和6年分結果確報』)

このように、サービス業や宿泊業、飲食サービス業などの給与は、労働者全体の平均よりも低い水準となっています。従って、給与面への不満も多いことがうかがえるでしょう。

離職率が高い企業の原因と特徴

離職率が高くなる背景には複数の理由があると考えられますが、主な原因としては以下が挙げられます。それぞれの原因について、詳細を見ていきましょう。

離職率が高くなる原因 内容
給与への不満 単に給与が低いというだけでなく、「業務内容や業界水準に見合わない」「労働条件とのバランスが取れていない」といった点も離職に至る原因となる
労働条件への不満 過度な長時間労働や休日出勤などが挙げられ、プライベートを重視したい従業員にとっては、たとえはたらきが給与に反映されていたとしても不満を感じる可能性が高い
人間関係のストレス 社内の苦手な人との関わりにストレスを感じて辞めてしまうというケースは決して少なくない
やりたいことと実際の業務のギャップ 本人の希望と実際の業務にギャップが生じている場合、仕事にやりがいや面白みを感じられず、離職に至ってしまう
手本になる上司や先輩がいない 信頼できると感じる目上の人がいなければ、離職を踏みとどまることは難しくなる
過剰なプレッシャー 納期や達成目標などに関する過剰なプレッシャーが、離職の引き金となる場合がある
キャリア形成が見込めない 前向きなキャリア形成が見込めないと感じれば、早い段階で異なる環境に移ろうと考える可能性が高い
社風になじめない 企業の方向性や経営陣の考えに納得できないことが離職の原因となる場合がある

離職率が高くなる原因について、さらに詳しく知りたい人事・採用担当者は、以下の記事も参考にしてください。

(参考:『離職の主な原因8種類をまとめて紹介!企業が取るべき対策もあわせて解説』)

離職率が高まることによる影響

離職率が高いにもかかわらず適切に対処しなかった場合、以下のような悪影響が生じる恐れがあります。

●長時間労働の常態化
●企業イメージの低下
●人材育成の停滞
●採用・教育コストの増加

長時間労働の常態化

離職率が高くなると人材不足に陥るため、既存の従業員への業務負担が大きくなります。結果として長時間労働が常態化し、さらに離職者が増えてしまうでしょう。

企業イメージの低下

転職活動の際、離職率が低い企業を選ぶ転職希望者は少なくありません。離職率が高いと、企業のイメージダウンにつながり、転職希望者からの応募が集まらなくなる恐れがあります。

人材育成の停滞

離職者の増加は、人材育成が滞るという事態も招きます。育成を担当できるほどの人材が企業を去ると、業務のノウハウを社内で継承できなくなるためです。

また、人材が不足すれば、新たに入社した従業員の育成も十分に行えなくなります。その結果、入社したばかりの従業員が業務や職場環境になじめず、すぐに辞めてしまうという事態も起こり得るでしょう。

採用・教育コストの増加

従業員が入社後すぐに離職すると、その従業員の採用や教育に費やしたリソースに対して、十分なリターンは得られません。

さらに、新たな従業員を雇う際のコストも上乗せされます。採用や教育にかかる手間を省きつつ、費用も抑えるには、従業員を定着させる対策が不可欠です。

離職率が注目されている社会的背景

離職率は、以下のような社会経済的な変化の面からも重視されつつあります。

●人材不足の深刻化
●はたらき方の多様化
●情報の拡散性の向上

本項では、これらが離職率とどう関係しているのかを解説します。

人材不足の深刻化

少子化が加速している近年では、労働人口の減少も深刻化しており、新たに人材を採用する難易度が上昇しています。こうした状況下で企業が十分な人員を配置するには、既存の従業員に長くはたらいてもらうことが必須となるため、離職率を抑える施策が求められているのです。

はたらき方の多様化

転職という選択肢が一般的になり、多様なはたらき方を選べるようになったことも、離職率が注目されるようになった理由の一つです。

現在では、テレワークやフレックスタイム制、副業または兼業など、さまざまなはたらき方が浸透しており、自分に合った就業形態を見つけやすくなっています。

また、キャリアに対する価値観も変化しているため、スキルアップや市場価値の向上を目的として転職を選ぶケースも珍しくありません。

このような理由から、企業が人材の流出を防ぐには、「長くはたらきたい」と思えるような労働条件やキャリアパスなどを提供することが必須だといえるでしょう。従業員にとってはたらきやすい環境を整えられるよう、自社の離職率を定期的に確認・分析し、適切な対策を施す必要があります。

情報の拡散性の向上

先述した通り、離職率が高いことは第三者にネガティブな印象を与えるため、企業のイメージに悪影響を及ぼす恐れがあります。SNSや口コミが普及している現代では、一度悪評が流出してしまうと、すぐに拡散されることが予想されます。

そのような事態が起こった場合、転職希望者からの応募が集まらなくなるだけでなく、業績の悪化にもつながりかねません。

しかし、自社の離職率が低い場合は、プラスに働く可能性があります。情報の拡散性が高いことを利用して自社の離職率の低さを公表すれば、従業員を大切にしている事実を広くアピールできるのです。

その結果、転職希望者を含めた多くの人々に、ポジティブなイメージを持たれるようになるでしょう。

離職率の計算方法【エクセル付】

自社の離職率の改善を図るには、まず現状の数値を以下の計算式で算出しましょう。

離職率の計算方法

このように、離職率は「離職者数(分子)」÷「起算日に在籍していた従業員数(分母)」×100で計算できます。

一定期間に絞って離職率を算出する際の計算方法は、次のケースを例に挙げて解説しますので、参考にしてください。

●期初から期末までの1年間の離職率を出す場合
●新卒採用した従業員の3年以内の離職率を出す場合

期初から期末までの1年間の離職率を出す場合

期初から期末までの1年間の離職率を出す場合は、分子を「期末までの1年間の離職者数」、分母を「期初の時点での従業員数」として、以下の式を用いて計算します。

離職率=(期末までの1年間の離職者数 ÷ 期初時点の従業員数)×100

例えば、2018年4月時点での従業員数が120名であり、2018年4月から2019年3月までの離職者数が5名だったのであれば、離職率の計算式は以下の通りです。

・2018年4月時点での従業員数:120名
・2018年4月~2019年3月の離職者数:5名
=5÷120×100=約4.2%

新卒採用した従業員の3年以内の離職率を出す場合

新卒採用した従業員の3年以内の離職率を出す場合では、分子を「新卒採用の従業員のうち、3年以内に離職した人数」、分母を「入社日時点での新卒採用の従業員数」とします。計算式に落とし込むと、以下の通りです。

離職率=新卒採用の従業員のうち、3年以内に離職した人数÷入社日時点での新卒採用の従業員数×100

仮に、2017年4月時点での新卒採用の従業員数が50名、2017年4月から2020年3月までに離職した新卒採用の従業員数が5名だったとすると、以下のように計算できます。

・2017年4月時点での新卒採用の従業員数:50名
・2017年4月~2020年3月に離職した2017年度新卒採用の従業員数:5名
=5÷50×100=10.0%

自社の離職率をすぐに算出したい人事・採用担当者は、下記から無料でダウンロードできる資料をぜひ活用してください。

離職率を計算する際に気を付けたい3つのポイント

離職率を正しく算出するには、以下の3つのポイントを押さえておくことも大切です。

1.短期で離職した従業員は計算に含まれないケースがある
2.計算に含める離職者の範囲を決める
3.他社と比較する場合は条件をそろえる

1.短期で離職した従業員は計算に含まれないケースがある

離職率を計算する際は、一定期間内に入退社した従業員は含まれないことを念頭に置いておきましょう。

例えば、計測期間を2024年4月1日から2025年3月31日までとした場合、2024年6月1日に入社して2025年1月31日に離職した従業員は計算に含まれません。

短期で離職した従業員の人数を明らかにしたいのであれば、期間の範囲を短く設定するという工夫が求められます。

2.計算に含める離職者の範囲を決める

自社の課題改善に向けて離職率を指標とする場合は、計算に含める離職者の範囲を明確にしておくことで、精度を高められます。離職者の範囲は、離職理由や雇用形態を基に設定すると良いでしょう。

具体的には、「定年退職による離職は含まない」「正社員の離職を防ぐ施策に活かすため、ほかの雇用形態の従業員は含まない」などの制限を設けることが挙げられます。

3.他社と比較する場合は条件をそろえる

離職率を計算する際の期間や離職者の範囲は、企業が自由に設定可能です。

そのため、日本企業の平均や他社の離職率と比較する場合は、条件をそろえた上で自社の離職率を算出することが求められます。

また、転職希望者に向けて離職率を示す際も、他社と同様の条件で計算することをお勧めします。条件が異なることで他社よりも離職率が高くなってしまうと、「職場環境に問題があるのかもしれない」と思われる可能性があるためです。

他社ではどのような条件で算出しているのかを、事前に調べておくと良いでしょう。

離職率を改善するための11個の対策

従業員を定着させるためには、現場の意見も取り入れた上で、適した施策を実行する必要があります。具体的な対策としては、以下の11項目が挙げられます。

1.離職理由をヒアリングする
2.給与や労働条件を改善する
3.人事評価制度の見直しを行う
4.はたらきやすい職場環境を整える
5.教育環境を充実させる
6.社内のコミュニケーションの活性化を図る
7.休暇が取りやすい雰囲気をつくる
8.定期的な面談を実施する
9.企業のビジョンを伝える
10.サポートを充実させる
11.採用時のミスマッチを防ぐ

本項で、それぞれの詳細を見ていきましょう。

1.離職理由をヒアリングする

離職率の改善には、自社の実態の把握が不可欠であり、そのためには離職する従業員に退職理由をヒアリングして問題を可視化することが重要です。

話を聞く時期によっては、「引き留められたくない」「トラブルを避けたい」といった理由から、離職する従業員が本音で話してくれないケースも考えられます。

正確な退職理由を確認するためには、ヒアリングを「退職手続きが終わった際」に行う方法が有効です。ヒアリングの結果を基に自社の問題点を洗い出し、実態に応じた対策につなげましょう。

(参考:『会社側が行う退職手続きは?期間や順番・方法を解説<チェックリスト付>』)

2.給与や労働条件を改善する

給与や勤務時間などの労働条件は、従業員のモチベーションや離職理由に直結する要因です。同業他社の給与や従業員の勤務状況を考慮した上で、仕事量に見合った給与設定になっていない場合には、適切な報酬制度への変更が重要といえるでしょう。

また、給与や賞与といった待遇改善に加え、福利厚生や手当を充実させることも一つの方法です。企業が従業員を大切にする姿勢を見せれば、自社に対する愛着心や満足度を高め、離職率を抑えることにつながります。

社会情勢に合わせた、公平で魅力的な報酬制度や福利厚生を通じて、従業員の定着を図る対策を検討しましょう。

従業員の定着率向上に向け、福利厚生の見直しについてさらに詳しく知りたい人事・採用担当者は、以下の記事も参考にしてください。

(参考:『福利厚生は従業員定着につながるのか?20代・30代が本当に求める制度を調査』)

3.人事評価制度の見直しを行う

日本では、勤続年数が長い人材のほうが良い待遇を受けられる年功序列型の人事評価制度を採用している企業が多いでしょう。年功序列型の場合、実績とは関係がない部分で昇給・昇格などを決められる傾向があるといえます。

そのため、どれほど高い実績を上げても、勤続年数が少ない若手の従業員は評価が低く、モチベーションが下がってしまう恐れがあります。仕事に対する意欲を高めてもらうためにも、企業への貢献度や成果を評価し、インセンティブを与えるといった成果主義の考え方を導入することも検討しましょう。

全ての評価に成果主義を取り入れることが難しい場合は、例えば毎月の給与は年功序列型で評価し、賞与については成果主義を取り入れるといった柔軟な運用も可能です。自社の状況や職種などに応じて、柔軟な人事評価制度を再構築しましょう。

従業員を定着させる方法については、以下の記事でも解説しています。

(参考:『人事評価制度とは?導入の5つのステップと注意点を解説』)

4.はたらきやすい職場環境を整える

業務内容や待遇などに不満がなかったとしても、多様なはたらき方ができないために離職を考えてしまうケースもあります。出産や育児、介護などといったライフステージの変化によって、フルタイムでの勤務が難しい従業員も出てくるでしょう。

そうしたときに、時短勤務やリモートワークなどに対応していない職場であれば、仕方なく離職せざるを得ない場合もあります。従業員がやむを得ず離職することを防ぐために、現場の意見も取り入れながら、複数のはたらき方を提示することが大切です。

また、多様なはたらき方を認めることで、一律の人事評価の基準ではうまく対応できなくなることもあります。職種や勤務形態に応じて、評価基準の見直しも併せて行うようにしましょう。

5.教育環境を充実させる

新しく入社した従業員の定着や、既存の従業員のスキルアップを目的とした教育環境の充実も、離職率の改善には効果的です。教育支援の制度には、具体的に以下のようなものが挙げられます。

【新しく入社した従業員向け】
●集合研修
●OJT(実際にはたらく職場で、上司や先輩が直接若手や後輩に指導する育成手法)
●メンター制度(経験や知識が豊富な社内の先輩が、後輩を支援する制度)

【既存の従業員向け】
●階層別研修(階層ごとに必要なスキルを強化する研修)
●手挙げ式研修(希望者を募って行う研修)
●職種別研修(職種ごとに強化したい内容に特化した研修)
●社外研修

研修によって、専門スキルの向上やキャリア形成などのサポート体制を整えることで、従業員の「企業に貢献したい」という意欲を高める効果が期待できます。

また、研修以外に資格取得支援や自己啓発補助制度を導入することでも、従業員のモチベーションの向上を図れるため、人材の定着につながるでしょう。

(参考:『OJTとは?目的・メリット・デメリット・OFF-JTの違い』、『メンター制度とは?導入する目的やメリット・デメリットと流れを解説』)

6.社内のコミュニケーションの活性化を図る

職場のメンバーとは毎日のように顔を合わせる関係であるため、人間関係がうまくいっていなければ、ストレスを感じてしまう部分もあるでしょう。中には、周囲に相談できずにストレスを抱え込んでしまった結果、離職に至るといったケースもあります。

人間関係が原因で離職してしまわないように、1on1ミーティングを定期的に実施して悩みを把握したり、部署単位で交流会や社内イベントを企画したりするなどして、日ごろから話しやすい雰囲気をつくるようにしましょう。

コミュニケーションが円滑でなければ、業務のパフォーマンスが低下するなど、さまざまな部分で支障が出てきます。早期に問題を発見して、適切な対応を実施していくことが大切です。

(参考:『1on1ミーティングとは|目的や得られる効果と導入・実施方法を解説』)

7.休暇が取りやすい雰囲気をつくる

休みたいときに休めない職場環境だと、日々の疲れが蓄積し、メンタル面の不調を招いてしまうことがあるでしょう。リフレッシュをしたり、キャリアアップを目指すために勉強したりする時間を従業員に確保してもらうために、有給休暇を取得しやすい環境を整えてください。

ただし、企業風土にもよりますが、企業として有給休暇の取得を奨励しても、従業員のほうがなかなか申請してこないといったケースも少なくありません。

そのような場合に、例えば、年間で5営業日以上の連続した有給休暇を1回取得した従業員に対して、手当を支給するといったユニークな取り組みを行っている企業もあります。

有給休暇の取得状況を踏まえた上で、自社に合った形で休暇の取得を奨励しましょう。

8.定期的な面談を実施する

離職防止につながる施策を実施した後、実際にどの程度の効果があったのかを測定することには時間がかかります。データの集計が完了する前に離職者が増加しては、対応が後手に回ってしまうため注意が必要です。

離職の予兆をきちんとつかむために、従業員との定期的な面談を行って、日ごろから様子を把握しておくことが大切です。仕事に対してどのような悩みを抱えているかは人それぞれであるため、きめ細かな対応が必要な部分でもあります。

例えば、現在の業務について負担を感じているのであれば、業務量を調整したり別の業務を担当してもらったりすることが考えられるでしょう。

また、キャリアについて悩んでいる場合は、社内でどのようなキャリアプランを描けるのかを一緒に考えていくことが大切です。

継続的にアプローチをかけることによって、離職防止につなげられるでしょう。日ごろから従業員とのコミュニケーションを大切にして、ちょっとした変化にも気付ける体制を整えましょう。

9.企業のビジョンを伝える

業界の先行きや企業の業績に悲観的な気持ちを抱いてしまうと、離職につながりやすくなります。そのため、代表者自らが従業員に対して自社のビジョンや方針を直接伝えていくことが大切だといえるでしょう。

経営層と現場の従業員の認識に大きな差が生じれば、企業に対する愛着などは薄れてしまいがちです。一度離職が起こってしまうと連鎖的に離職者が出る恐れもあるため、経営層と従業員が意見を交換できるような場を設けることが大切です。

すぐに効果が見られなかったとしても、継続的にコミュニケーションを取っていく姿勢が重要になります。「企業側が真剣に向き合ってくれている」という実感を従業員が抱くようになれば、離職率の低下につながっていくはずです。

10.サポートを充実させる

従業員が安心してはたらき続けられるよう、企業から手厚いサポート制度を提供することも離職率の改善には欠かせません。

例えば、仕事と家庭を両立できるよう育児支援の一環で社内託児所の設置や育児休業の整備を行うなど、家族の介護支援を充実させる取り組みが考えられます。

また、従業員の心身の健康を守るために、定期健康診断の徹底や社内相談窓口の設置などの制度を設けることも有効でしょう。

こうしたサポートによって従業員の不安や負担が軽減され、「企業が自分たちを大切にしてくれている」という安心感や愛着心が生まれれば、結果的に離職防止につながります。

実際、経済産業省の分析によれば、従業員の健康に配慮した健康経営に取り組む企業は離職率が低い傾向になっており、従業員へのサポート体制を強化する意義は大きいといえるでしょう。

(参照:経済産業省『これからの健康経営について』P49)

11.採用時のミスマッチを防ぐ

採用活動の段階で企業の実態を詳しく伝え、入社前後のギャップを可能な限り埋めることも、離職率を下げる対策として欠かせません。

入社後ギャップを与えないためには、面接などで会社の良いところだけではなく、ネガティブな情報も含めて転職希望者に伝えることが大切です。

ただしネガティブ情報の伝え方には注意が必要で、課題を挙げる際には、取り組みや改善状況も併せて説明するのが効果的です。

例えば、「〇〇な課題がありますが、現在△△に取り組み改善中です。」のように説明すれば、転職希望者は不安材料に対して安心感を持ちやすくなります。

また、ネガティブ要素を「成長機会がある」など前向きな表現に言い換える工夫も効果的です。残業時間などは具体的なデータで補足することで、信頼性が高まります。

「社員の負担を減らすため○○制度を導入します」などといった将来の改善計画も併せて伝えることで、誠実な姿勢が伝わり安心感につながり、結果、採用時のミスマッチ防止にも効果が期待できるでしょう。

入社前に実施できる採用ミスマッチ対策について詳しく知りたい方は下記の記事もチェックしてみてください。
(参考:『採用ミスマッチとは?原因と入社前後の具体的な対策方法を解説』)

離職率が低い企業の取り組み事例

本項では、実際に離職率を抑えることに成功した、以下の企業の取り組みを紹介します。

●GMOインターネットグループ株式会社
●サイボウズ株式会社
●オルトプラス株式会社

自社の施策を考える際の参考事例として、ぜひ活用してください。

GMOインターネットグループ株式会社:定期的に面談を実施

インターネット関連事業を展開するGMOインターネットグループ株式会社では、人事・採用担当の一人として中途採用に携わっていた橋本祐造氏(現在は株式会社RECOMOの代表取締役社長CEO)考案の新たに入社した従業員へのフォロー面談を、入社後1カ月目・3カ月目・6カ月目・12カ月目と定期的に実施しています。

面談では、実際にはたらき始めてからの思いやモチベーションの変化といった従業員の本音を定期的に確認し、一人ひとりに合った対応をすることで信頼関係を築いています。それにより、かつては入社1年以内に20名ほど出ていた離職者が、わずか1~2名にまで減ったそうです。

(参考:『中途入社=即戦力ではない。社員定着率97%の橋本氏が語る中途入社者への向き合い方』)

サイボウズ株式会社:従業員の事情や希望に合わせた柔軟なはたらき方を実現

ビジネスアプリ作成プラットフォームや、中小企業向けグループウエアのサービスを展開するサイボウズ株式会社では、2006年から2024年にかけて「100人100通りの働き方」という人事方針を掲げ、従業員一人ひとりのためのはたらき方改革を行っていました

当時、給与や評価といったはたらく際の基礎となる「制度」、場所や時間の制約なしにはたらくための「ツール」、企業の価値観としての「風土」という3つを柱に、従業員がはたらきやすくなるための改革が実施されています。

その結果、2005年には「28%」だった離職率が、10年後の2015年にはわずか「4%」にまで低下したそうです。

(参考:『離職率28%からの改革。サイボウズの働き方改革&採用戦略とは【セミナーレポート】』)

オルトプラス株式会社:社内文化の浸透で離職率を54%から34%まで低減

スキルマッチに振り切った結果、ひどい時期には離職率が50%を超えたこともあったという企業が、ソーシャルゲーム事業を展開している株式会社オルトプラスです。

同社では、「企業文化をつくることがコーポレートブランディングにつながっていく」と考え、離職率を改善するためにまずコーポレートブランディングや採用広報を進めることを徹底したそうです。その結果、2019年には「34%」まで離職率が低減しました。

(参考:『企業文化の醸成と浸透が採用力を高める。人事・広報…バックオフィス横断型組織とは』)

離職率を捉えるときの注意点

自社の離職率を算出し、改善に向けて動く際は、次の項目に注意が必要です。

●離職率ばかりにとらわれ過ぎない
●業種によって離職率の捉え方は異なる

離職率を下げる取り組みを実施する前に、以下で内容を押さえておきましょう。

離職率ばかりにとらわれ過ぎない

基本的には離職率が低くなるように施策を実行していく必要がありますが、離職率が高い状態にあるからといって一概に良くない企業というわけではありません。例えば、特定の期間に定年退職による離職者が多く出る企業では、一時的に離職率が高くなってしまうこともあるでしょう。

また、繁忙期に短期雇用の従業員を増やす企業の場合、従業員の契約期間が終了すると離職が発生するため、おのずと離職率は高くなってしまいます。そのため、自社の実態を踏まえた上で、離職率を捉える必要がある点を押さえておきましょう。

ただし、上記のような要因がないにもかかわらず、離職率が高くなっているときは注意が必要です。自社に対して何らかの不満を抱えている従業員が増え、離職率が高くなっているケースもあります。

大切なことは離職率が高くなっている原因を日ごろから把握し、必要な対策に早急に取り組んでいく姿勢を保つことだといえます。企業が前向きに職場環境の改善や人事評価制度の見直しなどを行っていれば、自然と離職率の低下に結び付くはずです。

業種によって離職率の捉え方は異なる

ベンチャー企業やスタートアップ企業の場合、従業員の流動性が高くなり、離職率が高くなる傾向があります。こうした企業では従業員の平均年齢が若く、キャリアアップを求めて転職する従業員が増えるケースも多いといえるでしょう。

また、経営の視点から見ても、ベンチャー企業やスタートアップ企業は新たな事業やサービスを次々と展開していくため、必要な人材の定義が変わる頻度が高くなります。

そのため、長期雇用が主体というよりは、サービスの立ち上げまでに短期間はたらいてもらうといったジョブ型雇用がメインとなるケースが多いため、離職率が高くなる場合があります。

そして、自身のキャリアアップのために一時的に入社し、必要なスキルを身に付けたら別の企業に転職するといった人材が集まりやすい点も特徴です。

人材の流動性が高いことで離職率が高くなる傾向がありますが、必ずしも企業にとってマイナスの影響があるというわけではないため、冷静に捉えていく必要があるでしょう。

ただし、あまりに離職率が高い状態であれば、残った従業員の業務負担が増え、ネガティブな理由での離職も増える恐れがあります。現場の従業員とのコミュニケーションをていねいに行った上で、必要な施策を実施していくことが大切です。

まとめ

離職率は、一定期間内に従業員がどの程度退職したかを示す指標です。業種や雇用形態などによって離職率の捉え方はさまざまですが、業界平均や自社の過去のデータと比較して問題がないかどうかをチェックしていくことが大切です。

「給与や待遇に不満がある」「休暇がなかなか取れない」「企業の将来に期待できない」といったネガティブな理由で離職率が高まっているのであれば、早急な対策が必要になるでしょう。ただし、離職を選ぶ理由は人によって異なります。

そのため、組織全体として離職に対する問題を可視化し、離職率を下げる具体的な取り組みを行うと同時に、定期的に面談の機会を設けるなどして従業員と向き合っていくことが重要です。

離職率が他社と比べて高い状態が続けば、企業イメージが下がり、採用活動などに支障が出てしまうこともあるでしょう。はたらきやすい職場環境を提供することは、離職率の低下につながるだけでなく、業務のパフォーマンスを高めて生産性を向上できる可能性もあります。

自社の実態を踏まえた上で、今回紹介したような取り組みをぜひ実施してください。

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(制作協力/株式会社eclore、編集/d’s JOURNAL編集部)

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